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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
サイド:レイシア  絆
178/240

総集編みたいな感じになるかもしれません。お嫌いの方は飛ばしてください。

基本、本編をレイシア視点で書きつつ終わりの方で少し追加の話を書いて行こうかと考えています。

  サイド:レイシア  絆


 私の名前はサーラ。ヘルムドルン国のごく平凡な家庭に生まれ、父が昔少しだけ冒険者をしていた時の冒険譚を聞いて育った。たった二・三年の冒険者生活だったらしいのだけれど、それはとても充実していて、人生を凝縮しているように輝いて見えた。そんな私が将来の夢として、冒険者になりたいと思うようになったのは不思議な事ではなかったと思う。

 私が冒険者になりたいって両親に言うと、まあ当然のように反対された。私にとっては不思議なことに、父も普通に反対して来た。

 私が冒険者になりたいと言ってから父が話すようになった冒険譚は、失敗談に変わった。何故二・三年で冒険者をやめたのか・・・・・・父は元々向いていなかったということもあるのだろうが、冒険者という職業は過酷なものなのだそうだ。

 「実力のない冒険者は、稼げるお金も少ない。そのくせ馬車に乗るのにお金は必要だし、携帯食とか消耗品とか、とにかく冒険の準備にはお金がかかる。それだけ苦労しても元が取れればまだいい方で、下手をすれば依頼料を貰ってもマイナスになる事だっていくらでもある。これで依頼に失敗でもしてみろ・・・・・・冒険者なんて一部の人間しか成功しない、最も不安定な職業だ。悪いことは言わない。冒険者なんて一部の成功者の冒険譚を聞いて満足するのが一番だ」

 「いいかサーラ、冒険者っていうのは一瞬の判断ミスが即命にかかわる危険な職業なんだ。場合によっては二・三日ずっと戦い続けなければいけないことだってある。もちろんその間、食事も出来ないし眠ることも出来ない。それはそれは過酷なものなんだぞ」

 「よくギルドで聞いた話なんだが、女性の冒険者は仲間に襲われるそうだ。戦いの興奮が収まらず、どうやらそれを性欲で満たそうとするそうだ。だから女性の冒険者なんて、大抵碌な目に合わないんだぞ」

 「俺は運が良かったんだが・・・・・・冒険をしていれば怪我をする事なんか珍しくもない。実際俺がパーティーを組んだ連中も怪我は絶えなかった。ただの怪我ならまだましなんだが、中には手や足を失ったやつまでいる。輝かしい活躍ばかりに目が行きがちだが、殆どの冒険者っていうのはそうやって傷だらけになって、冒険を続けられなくなるものだ。最悪は命を落としたりしてな。つくづく思ったよ・・・・・・冒険者っていうのは割に合わない職業だってな」

 そんな感じで私に冒険者を諦めるようにと、いろいろと言って来た。

 しかし、父の話を聞きつつ私の中では冒険者になる夢は広がるばかりだった。というか天職なんじゃないかとすら思っていた。父は上手く行かなかったんだろうけれど、なんとなく私は成功するような気がしてならなかった。

 結局私の意思を変えられないと見た父が、冒険者養成学校に入る手続きをしてくれた。どうやらこのまま駄目だと言っていたら、家出してでも冒険者になろうとするかもしれないので、せめて基礎的な知識なり実際の冒険の一端でも経験させておいた方がいいと判断したようだった。

 なんにせよ私はこうして冒険者としての、夢の一歩を踏み出せるようになった。


 冒険者養成学校に入学できる最低年齢は五歳から、その時の私は五歳だったので父が手続きをしてくれたら直ぐ参加することが出来た。私が参加した教室は最年少組の授業。まずは冒険者に付いての基礎知識を学ぶところだった。話を聞くと、何となくああ当たり前のことだなって思えるようなことばかりを説明される。

 周りの冒険者の卵達はそれをなるほどって感じで、聞いておいてよかったって感じで受け止めていた。

 冒険者が保存食を準備したり、照明用のたいまつや、火を付ける為の油、火打石などを準備するのは常識だと思えたのだ。それに油は簡易トラップとしても役に立てることが出来る。坂道に撒けば、敵を転倒させることが出来るからだ。何でこれから冒険者になろうって人達が、そんなことも知らないのかって逆に授業のランクの低さにビックリした。ちなみに油の別の使い方は説明されなかった。

 それ以外の説明だと、それぞれ目指すべき職業の説明を受けた。戦士とか狩人、盗賊や魔法使い、癒し手などね。魔法使いなどは才能があるかどうかで選べないものなので、なりたいといっても選択できる人は限られてしまう。これはどうしても仕方がない事じゃないかな。

 残念ながらこの学校では多少の剣術は教えてくれても、魔法や回復の奇跡は専門の教室が無いようだった。それでも才能がある子供ならば、初球の魔法や奇跡の手ほどきを受けることが出来るみたいね。それが実戦で役に立つかどうかは微妙なので、魔術師ギルドや教会に才能がありますよって教える為の授業じゃないかしら?

 専門的な知識はそれぞれのギルドが有しているみたいなので、そっちに行ってねってことね。ようは戦い方を少し教えてくれるだけで、専門知識は自分達で用意しろってことみたい。


 その後私は臨時で組まされた同じ最年少組の仲間達とお使いクエストを受け、稼いだお金で装備を整えて行くことになった。いきなり即実戦なんてしたら、それこそ命がいくつあっても足りない。まずは冒険者ギルドで登録を行い、ランクを上げる事から始めるという話しだった。

 私達のギルドランクは卵、まだ初心者ですらない。なので町中のお使いクエストをこなしてお小遣いを溜め、パーティーメンバーの装備を整えるところから始まる。一応これにはパーティーの団結力を高めるっていう目的もあるようね。ここで聞いていた話と違う、お話の様な華々しい活躍が出来ないとか言っている子達が去って行くこともあった。まあその後どうなったかはよく知らない。

 私達のパーティーからも、思っていたものと違うって言って去って行った人が二人もいた。

 再度残った人達が集まり、再び臨時パーティーを整えると、装備を整えて行った。仲には親に装備を買ってもらう子なんかもいたわ。私の場合は買ってくれるっていう父に断りを入れて、自分で用意することにした。何事も経験っていうしね。自分で苦労して整えた装備には、愛着も沸くと思えた。今後これらの装備には命を預けることになる。それを他人任せにする気は起きなかった。


 パーティーメンバーの装備が揃うのに、半年の時間がかかった。

 その間お手伝いクエストばかりを受けていた訳ではない。本当に軽くになるのだけれど、武器の使い方などの授業を受けることが出来た。

 どうやらお使いクエストの合間に授業を挟むことで、忍耐力の無い人達を辞めさせるって仕組みらしい。冒険者の活動には地味な仕事もあると教えつつ、それを理解出来る人だけが次の授業を受ける権利を得るって感じらしい。去って行った人はその我慢が足りなかったので、結局のところ冒険者になったとしても、途中で命を落としてしまうだろうって判断されたそうだわ。

 私にはどうやら魔法に適性があるみたい。でも魔術師ギルドで修行をするとなると、冒険者として活動するのは何年も先になりそうだという話を聞いた。確かに魔法が使えれば冒険には役に立つかもしれない。でも私はなるべく早く冒険者としてあちこちを見て回りたかった。軽く授業を受けてみて、それなりに剣を扱えるってことも、そこまで魔法に拘らなかった理由かもしれないな。だから私は戦士としてパーティーに参加することに決めた。


 それなりに戦えるかなってくらいに技術を習得すると、いよいよ実戦を経験することになった。どうも冒険者ギルドが管理する地下施設には実際に低級モンスターを飼育していて、冒険者養成学校の生徒達が実戦を体験する為の舞台として用意しているのだそうだ。そこで大人達に見守られながら、今後冒険者として活動して行けるのかどうか、試されるようだ。卒業試験だね。

 そこで問題ないって判断された子は、卵から初心者へとランクアップして、もう少し勉強を続けて行くのか冒険者として巣立っていくのか選択するみたい。

 学校に入学してから約一年。

 長かったような短かったような・・・・・・その結果がもう直ぐ出る。もっとも、私は基礎知識も実技も、驚く程の速さで単位を取得して来たので、他の生徒達よりも早く試験を受けられるみたい。単位制って便利ね~

 「よし、みんな初めての実践になるが、お互いにカバーしながら頑張ろう!」

 「・・・・・・うん、頑張るよ」

 「上手く出来るかな?」

 「緊張して来たー」

 みんな初めての実戦とあって、どの子も表情が硬くなっている。しっかりしているようでリーダーのペリジッドも、どことなく余裕が感じられなかった。

 今回私と一緒に試験を受けるメンバーは、全員私より年上だった。一番年長なのがリーダーのペリジッドで十歳。そんな彼でさえ実戦とあっては緊張せずにはいられないようだね。

 そんなにガチガチになっていたら、実力が出し切れないよー

 「・・・・・・サーラは随分とリラックスしているみたいだな」

 ペリジッドがみんなを勇気付けようとしきりに話しかけ、私にも声をかけて来た。

 「うーん。やれる事をやればいいんじゃないかな? 先生達は私達の実力なら十分通用するって言っていたしね」

 「まあ、確かに言っていたけど・・・・・・不安にならないのか?」

 リーダーなのにそんなこと聞いちゃうんだ。まあ何かしら参考になるような話でも聞きたいのかもしれないね。

 「変に緊張してたら、いつもの実力が出せないからね。今回は先生達も見ててくれるから、そんなに心配することもないんじゃないかな?」

 「そういうものか?」

 「そうよ。だってこれからはもっともっと危険な冒険をするかもしれないんだからね」

 「なるほど、そうかもしれないな・・・・・・よしみんな! 深呼吸して落ち着いて行こう。大丈夫、僕達ならやれるさ」

 ペリジッドから若干ではあるけれど、緊張が抜けた気がした。まあ他の子達はまだ緊張しているみたいだったけれどね。


 地下施設に行くと、私達以外に何組かのパーティーが来ていた。

 順番が来るまでに時間があるそうなので、前の組が戦うところを見学させてもらう。

 円形の舞台があり、その周りをすり鉢状にした大きな部屋の中、五人パーティーが相手にしているのはゴブリンと呼ばれるモンスターだった。

 ゴブリンというのは昔、どこにでも現れるような冒険者にとっては初心者向きの討伐モンスターだったらしい。一般人には凶悪なモンスターなのは変わりないのだけれど、ある程度訓練を積んだ冒険者なら、そこまで討伐が難しくはないお手軽なモンスターだったんだそうだ。

 だったというのは、今では世界中どこを探してもほとんど見ることが出来なくなった絶滅危惧種だという話しみたい。完全にいなくなる前にギルドの偉い人が保護して、こうして地下で繁殖させては初心者の相手をさせているのだそうだ。相手は人間の敵とはいえ、何ともモヤモヤする話だわ。

 これから命の奪い合いをするとわかってはいても、そんな話を聞いてしまうと何となく同情しそうになってしまう。しかし彼らが人間に対して襲い掛かって来るのは事実なので、これは仕方がない事なのかもしれない。そう割り切った方がいいよね。下手に同情して怪我をしたら馬鹿みたいだから・・・・・・


 円形の舞台の天井近くに造られた窓から舞台見学していると、そこで戦っているパーティーの様子を見ることが出来る。同じく順番を待っている幾つかのパーティーが見ている中、今戦っている人達は・・・・・・何といっていいのかへっぴり腰で、まるで素人のように見えていた。

 よくこれで冒険者になろうとしているわね。かっこ悪いな~

 横にいるペリジッドも微妙な表情を浮かべつつ、無様な戦いだけはしたくないって表情をしている。戦い自体はそれでも人間の方が優勢なようで、ゴブリンがそれ程強い種族ではないということが見て取れた。授業で習った通りだわ。

 ゴブリンの怖いところはある程度の知能を持ち、獣とは違いわずかながら人間と同じように道具を使えるというところと、集団行動をとるというところだった。獣は火を怖がるのだが、ゴブリンは火を恐れない。人間と同じように火で暖を取ったり、肉を焼いたりという行動もするそうだ。

 そして人間よりも数が多いと襲い掛かって来るという習性がある。これは相手の強さがどれくらいか判断する頭が無いせいだと言われていた。しかし、あきらかに相手が強いとわかると、直ぐに逃げ出す臆病な性格でもある。ゴブリン達にはある程度の仲間意識はあるものの、自分が一番大事という考えの持ち主で、仲間を犠牲にしてでも助かろうと考える為、一度逃げに徹すると散り散りになって逃げるのだそうだ。その為なかなか全滅させることが難しい種族でもある。繁殖力が強いので、そうして生き残ったゴブリンが集まって直ぐに増えてしまうそうだ。

 何でそんな種族が世界的に絶滅しているのか、不思議でならない・・・・・・


 私達の順番が来るまで、他のパーティーの戦いを三つ見た。二つのパーティーはそれが初めての経験だったのか、腰が引けてて実力の半分も出せていない様子が窺えた。何というか、同じ冒険者として恥ずかしい戦いだったよ。でも残りの一パーティーは未熟なりに上手く立ち回っていて、そこそこ参考に出来たと思う。おそらく一度失敗して二度目の挑戦だったんじゃないかな? ちゃんと仲間をフォローし合っていて、連携が取れていたのが参考になった。私はたぶん、個人技は何とかなりそうなんだけれど、連携は苦手な気がする。

 実際五人しかいないパーティーの中で、私の立ち回りは遊撃ポジションだった。つまり自由に動き回るってことだね。

 これはリーダーであるペリジッドの指示でもあった。

 どうも下手に連携するより、そっちの方が私には向いているって言われた。これはペリジッドだけの評価ではなく先生にも言われた事なので、たぶん間違いじゃないし自分でもそんな気がするわ。

 だからといって自分勝手っていう訳でもないので、パーティーを組む意味はある。おそらく他人の行動に合わせるのが苦手なのね。しかし、個人でみんなをフォローするのはそこそこ適性があるみたいだった。

 実戦を前にしたパーティー同士の模擬戦でも、私はそういった役割で戦果を挙げている。先生やペリジッドの評価が当たっていたって事ね。

 そんなことを考えていると、私達の順番がやって来た。

 ちょっとドキドキする半面、何故だか待ち遠しいような、懐かしいような不思議な気分になった。私ってそんなにバトル好きだったかしら? 何ともふわふわとして落ち着かないような感じがして来た。


 パーティーのみんなはちょっと前の冷静さが無くなり、また不安になったように緊張し出したようだ。気を紛らわせるように周囲を警戒してキョロキョロしているのがわかった。

 「ここはダンジョンじゃないんだから、そんなに警戒しなくても大丈夫よ」

 「・・・・・・ああ、そうだな。みんな落ち着こう」

 みんなが緊張する中私だけ浮かれてて、こっちが変みたいじゃない。思わすそう思って口を出しちゃった。まあそれで少しは緊張もほぐれたのならいいんだけれどね。

 そして連れて来られるゴブリンが六匹・・・・・・その内の一匹だけが前へと出て来て、他の五匹は舞台の淵ぎりぎりで止まったまま前には出て来なかった。何これ、どういう事?

 そして中央付近まで歩いて来た一匹・・・・・・その他のゴブリンと何一つ違いの無いこいつからは、圧倒的強者の気配が漂って来ていた。そのわりにどこか懐かしい包み込むような安心感を覚える。何でゴブリンなんかに・・・・・・?

 「行くぞ!」

 不思議な気持ちになりながらも、ペリジッドの掛け声で行動を開始した。

 まずはリーダーであり戦士として一番頼りになるペリジッドが先制攻撃を開始する。盾持ちながらキレのある片手剣の一撃が、今だ構えすらとっていないゴブリンを袈裟斬りにするように襲い掛かった。誰もが一撃で勝負が決まったと思えるその攻撃は、あまり力を入れていなさそうなゴブリンの一撃によって弾かれる。ゴブリン自体の動きはそこまで早くはなかったように見えるのに、あきらかに手遅れって状態から剣を使って攻撃を受け流したように見えた。

 周囲にいる先生達の間にも、緊張が走ったのがわかった。

 「大気に宿るマナよ、我が詠唱に答え焼き尽くせ、ファイア・・・・・・」

 学校で初歩の初歩。ファイアアローという火属性魔法を習っただけのナント君が、驚きから立ち直り魔法を詠唱し始めたんだけれど・・・・・・その途中で詠唱を中断してしまう。

 何がって思って後ろを見ると、ナント君は肩に怪我をしていた。そういえばゴブリンが何か動いたような気がする。それにやられた?


 「中止だ、このゴブリンは特殊なやつだ!」

 先生達が慌てて舞台の上に出て、私達を庇うようにゴブリンへと襲い掛かって行く。そんな先生達五人は、あまりの速さに付いて行けないうちに背中から触られて一人、また一人と倒れて行く。どうしていいかわからずに呆然としているうちに、いつの間にか出入り口にはゴブリンが立ち塞がっていた。

 みんなが泣きながら後ろへと下がって行くのに私も付いて行く。なんとなく危害を加えようといった感じには見えないけれど、それでも何が琴線に触れて暴れ出すかわからなかった。

 前方には訳のわからないゴブリンが一匹。背後にはここまで何の反応も示していなかったゴブリンが五匹、こちらを威嚇するように唸り声をあげている。つまり完全に挟まれて逃げ場がない状態ね。

 「くっ、くそ、こうなったらこいつを倒して、何とかここから出るぞ!」

 ペリジッドがみんなにそう指示を出して、出入り口を背後にする一匹のゴブリンに襲い掛かった。確かに結局はそちらに向かわなければここから脱出する手段がない。ゴブリンが出て来た方にも道はあるものの、そちらには逆にゴブリンの仲間達が一杯いる。そのうえ出口が無いのだから、前に進むしか方法はない。

 頼りの先生達はみんなやられてしまったので、生き延びるにはそれしか方法が無かった。私はこういうと卑怯かもしれないけれど、ペリジッドを盾にするように一緒に突き進み、こちらの攻撃を悟らせないようにゴブリンへ一撃を放つ。

 腰だめに構え、力の弱い私でも必殺の一撃になるよう、自身の体重も加えた攻撃だった。

 後衛であるナント君を含んだ私以外全員が剣の一振りで弾き飛ばされる中、ペリジッドの後ろから放った攻撃がゴブリンによって受け止められた。それも二本の指で・・・・・・

 正直訳がわからなかった。

 完全なる不意打ちだったはずだし、タイミング的にも剣を振り抜いた後だったので、私の攻撃は避けようがなかったはず。それなのに、目の前のゴブリンにはまるで初めからわかっていたような余裕すら感じられた。


 「逃げろ! サーラ!」

 ハッとして剣を引こうとしたものの、岩にでも挟まったかのようにびくともしない。私の剣は、攻撃を受け止められた状態のまま、押しても引いても動く気配が感じられなかった。そうこうしているうちにペリジッドが、ゴブリンの背後から斬りかかる。

 それを目の前のゴブリンは背後を見ることもなく、正確に剣を弾くことで撃退していた。視線は私に向いたまま・・・・・・。格が違い過ぎる・・・・・・

 見た目は他のゴブリンと何も違いが無いのに、このゴブリンだけは誰も勝てない気がしてならなかった。

 私はいいようのない恐怖を感じて、必死に剣を取り返そうと力を込めた。こんなでたらめな存在を前にして、武器も無しになったらどうすればいいのかわからない。しかしどれだけ力を入れても、剣はびくともしなかった。

 正直何でこんなでたらめな存在を前に、懐かしいと感じたのか訳がわからなくなっていた。

 (サーラ。話をしないか?)

 ・・・・・・心臓が止まるかと思った・・・・・・

 目の前のゴブリンが話しかけて来た?

 何で私の名前を知っているの? 何でゴブリンが人間の言葉を話せるの? 何でモンスターなのに、私達を殺そうとしないの?

 先生達は五人ともあきらかに死んでいるのに、私達パーティーメンバーは誰も死んでいなかった。これ程圧倒的な力の差があるのなら私達が今も生きていられるのは、目の前にいるこのゴブリンが手加減しているからということになる。

 何が何だかわからなくて混乱してしまった。ペリジッド達もどうしたらいいのかわからずに、この変わったゴブリンの行動を見ている事しかできない。

 そしてそんな私達の前で、ゴブリンは私の剣から手を放した。

 それだけでなく、まるで道を空けるかのように出入り口を塞がない位置に移動する。

 ペリジッドがチャンスとでも思ったのか、私の手を掴むと走り出した。

 これはチャンスでも何でもない。ゴブリンが私達を殺そうとしなかっただけで、私達は見逃してもらえただけ・・・・・・私の冒険者としての第一歩は、こうして不思議なゴブリンとの出会いから始まった。


 翌日、さすがの私も冒険者を続けて行く自信を無くしていた。両親はそんな私を慰めつつ、どこかこれでよかったんだって言っていたけれど、どちらにしてもこんな形で終わりにはしたくないと考えていた。

 何かに駆り立てられるようにじっとしていられなくて、さりとて冒険者を続けて行けるのかどうか迷っていた私は、いつの間にやら冒険者ギルドへとやって来ていた。気分転換というか気晴らしといえばいいのか、とにかく今は冒険者達のざわめきの中で,のんびりとしていたくなって中へと入って行く。

 向かった先はギルド内にある酒場。ここは冒険者達が情報交換する場でもある。なので、別にお酒を飲まなければいけないって訳でもなく、普通に休憩所みたいに利用しても文句は言われなかった。まあ何も頼まずに場所を占領していると、睨まれるけれどね・・・・・・ってことで、軽食を頼んで席に着く。

 「サーラ。もしかして君もやめるのか?」

 「え?」

 いつ来たのかわからないけれど、そこにペリジッドがいた。

 「違うのか? マイトもクレアフスもナントも冒険者はやめるそうだ。仕方ないよな、あんな化け物に襲われれば冒険者なんか続けられないよ・・・・・・」

 「化け物・・・・・・」

 「ああそうさ。だってそうだろう・・・・・・先生でさえ一瞬でやられたんだから・・・・・・」

 「そうね」

 「次にあった時は、絶対に倒せるだけの実力を付けてやる!」

 「ええそうね。私も頑張るわ」

 冒険に失敗はつきもの、だからまだ私は大丈夫。こんなところで歩みを止めたりなんかしない!


 私達はこれからも冒険者を続けて行く為に、とりあえずパーティーの補充から始めることにした。幸いといっていいのか、同じように地下施設でゴブリンの戦いを見ていた他のパーティーなどに欠員などが出たようで、臨時パーティーが編成仕直しになった。前のパーティー同様、冒険を続けて行くと危険な目に合うかもしれないって事実に、ようやく気が付いたようだった。何をいまさらとか、授業で習ったでしょう? などと思ったけれど、こういうのは人から聞く話より体験した方がよりインパクトがあり、肌で危険を感じて危険とはどういうものなのかって体感できたらしい。結局頭でわかった気になっていたって事なんだそうだ。

 まあそんな訳でしばらくは新しいパーティーの編成待ちと、新パーティーが決まってからは連携訓練などをしていた。ちなみに父と母は、冒険者を諦めなかったことにがっくりと来ていた。

 それと地下施設については・・・・・・どうやらあのゴブリンのせいなのか、捕獲していたモンスターが全て消えていて、これ以上訓練を続けることが出来なくなったんだって・・・・・・やっぱり飼い殺しにして、初心者に経験を積ませようみたいな手段はしっくりこないな。新米としては今後きつそうだけれど、胸を張って強くなっていきたい。

 ゴブリンとかがいなくたって、他のモンスターなら幾らでもいるものね!


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