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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第二十七章  レイシア再び
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ジャイアントアント大発生

 急激な成長が悪影響へと繋がる成長促進剤を排除し、死霊系の儀式魔法での成長によりホムンクルスを育てている間、僕達はレイシアの経験値集めに力を入れていた。とはいってもほとんど見ているだけで、レイシアだけで問題なく進んで行っているのだけれどね。

 そんな中、同盟国であるドラグマイア国から支援要請が入って来た。

 その内容はジャイアントアントの異常発生などの対処らしい。蟻以外のモンスターも出て来ているようなので、自国の冒険者だけでは手が足りないのだそうだ。まあドラグマイア国は軍事力を放棄して、浮いた資金を文化の発展へと注いでいるので余計にこういう事態になった時、対処に困るのだろう。

 そんな状況だけれど、既にあちこちで対処は始まっている。何といってもドラグマイア国で何かしらの問題が発生した場合はフォーレグス王国が動くことになっているのだ。今回もその例に漏れず既に眷属達が組織した趣味の傭兵団達が対処に向かっていた。まあこうなると既にこっちはやる事が無く、対処済みですで終わりなのだが・・・・・・今回はレイシアの経験値集めの一環としてその討伐に混ぜてもらおうと考えていた。

 「えっと、ここでいいんだよね?」

 「ああ、所詮は蟻だから罠とかはない。だからただ出て来た蟻を倒すだけでいいはずだ」

 「わかった」

 「おそらく中には既に傭兵連中が入って討伐はしているはずだけれど、まあこっちが行くことを伝えてあるので全滅はしていないはずだ。どれくらいの敵が残っているかはわからないけれどな」

 「わかった。じゃあとりあえず中に入るね」

 「ああ、一応気を付けて」

 「うん」

 「大丈夫だわ。わらわとバグがいるわ」

 何と言えばいいのか、レイシアの魂がそれを覚えているといっていいのか方向音痴は今回も受け継がれているようで、マッピングシートを見つつ迷いそうならそれとなく誘導して蟻の巣を進んで行った。


 「ファイアランス!」

 目の前に現れたジャイアントアントの集団に向けて、レイシアから発射された五体分の炎の槍が飛んで行った。十体とかなら範囲魔法の方が効率いいのだけれど、少数の敵ならば魔法の数を拡大して使って行った方がSP消費効率は上がる。特に魔法を五回使うより魔法の数を拡大使用した方が、魔法一発ずつに消費されるSPの消費量にも若干影響が出て来るのだ。まあそれでもほんのわずかな差ではあるのだが・・・・・・継続して連続戦闘をしていると、その少しの積み重ねがいずれ積み重なって生死を分ける事もあるだろう。実際にはそれ程の接戦とか、見たこともないけれどね。

 まあそれはそれとして、目の前に現れたジャイアントアントは魔法の直撃を受けて死んでいった。

 「うむ。もう十分通用する冒険者になったようだわ」

 「以前に比べると全然だろうけれどね。でもこれくらいなら十分戦えそうね」

 ビゼルが自分の事のように上機嫌になっていた。友達の成長が嬉しいって感じだろうな。

 「まあ昔はドラゴンを集団で呼び出したりしていたからな~。そう思うと戦力不足に感じるのは仕方ないだろうな」

 「とっとと不老化しなかったのが駄目なのだわ」

 「ごめんね・・・・・・でも、私も譲れないものがあったのよ」

 そう言いつつも討伐部位の回収を進めて行く。ここら辺りの手際はさすがって感じだろう。実のところ今回の討伐が冒険者ギルドに登録を済ませてから、初の仕事になっていた。

 今のレイシアの両親は危険だって言って反対していたのだけれど、レイシアはどうしても反対するのなら家を出て勝手に行動すると言って強引に許可を取ってここに来ていた。まあ六歳児の子供が冒険者なんてやろうって言っていたら、親は反対して当たり前だろうな~。しかもパーティーを組んで行動するっていうのならまだわかるが、ソロだしね。

 ちなみにソロでの参加っていうのは、親に内緒になっている。親には野良パーティーで行動するから平気って言って出て来ているみたいだった。

 まあ実際の危険度でいえば、野良パーティーに入る方がどちらかといえば危険かもしれない。昔のように仲間が裏切るっていう事態は、フォーレグス王国や同盟国では起こらないと思うけれどね。あれは今でもレイシアにとっては苦い記憶となっていて、僕ら以外とパーティーを組むことには反対していた。でもまあ、生命の神と魔王が護衛に付いているパーティーって、普通に超安全だろうな~

 勇者とか魔王とかが襲って来ても、普通に生き残れる気がするぞ。何でそんなのが襲って来るのだって感じもするけれどね。だが僕らといると実際そういうのが襲って来たりしても、おかしくはない。


 「マナボルト! ・・・・・・はっ!」

 しばらく歩き回ってジャイアントアントナイトっていうちょっと強いモンスターと遭遇し、SP回復を兼ねた魔法攻撃の後日本刀で直接止めを刺して行った。一撃で気絶まで持って行けるのだが、死んだ訳ではないのできっちり止めを刺して行く。

 「うーん。SPの回復量がいまいちね」

 「まあ所詮蟻だしな~」

 「最悪バグから回復してもらえばいいわ。レイシアは気にせず、ガンガン攻めればよかろう?」

 「まあ、僕らがいる間はそれで構わないが、いない時の事を考えて行動するのも必要なことだよな~」

 「そういうものか?」

 「いつもいつも万全な状況で戦えるとは限らないからな」

 「そうだね。じゃあなるべく自分の力だけで頑張ってみるよ!」

 「だな。そう考えると、昔みたいに錬金術を覚えた方がいいかもしれないな」

 「そうね。帰ったらSP回復ポーションを作ってみようかな」

 「人間は大変そうだわ・・・・・・」

 レイシアを見て、ビゼルが脆弱な種族だなーって表情をしていた。そして死角からやって来た蟻に手をついて、SPを吸収していた。ビゼルに触られた蟻はSPだけでなくHPも同時に吸われて一瞬で崩れ落ちた。

 「脆弱だわ」

 「まあ、ジャイアントアントだしねー」

 本来僕らが手を出すようなランクの敵じゃないのだし、これは仕方がないのだろうな。それにこれはレイシアの経験値稼ぎなのだしね。


 「マナボルト!」

 なるべくSPを消耗しないようにマナボルトばかり使って、止めは日本刀で直接刺して行く。そんな感じで進んで行くと、前方から友好種のパーティーがやって来た。

 「お、ちっこいのがおるな。ひょっとしてお前さん、レイシア嬢ちゃんか?」

 「あ、はい。レイシアです」

 「そうかそうか、まあ怪我しないよう頑張んな~」

 「はい、ありがとうございます」

 特に揉めることもなく、軽く挨拶をして友好種パーティーとすれ違った。

 「うちの傭兵じゃなく、現地の冒険者みたいだな」

 「あ、普通に冒険者とかも来ているのね」

 「まあな」

 「ふむ、あの者らにしてみればジャイアントアントなど、つまらない相手じゃないのか?」

 「いや、今回は数もいるようだし、格下の相手でも参加しているのだろう。正面は今の冒険者達が討伐して行ったみたいだから左下から下層の方に降りて行こう」

 「はーい」

 蟻の巣状になって、かなり入り組んだダンジョンになっている。レイシアはもう自分の居場所がどこなのかわかっていないようなので、こっちの指示に従ってひたすら前進していた。たぶんマッピングシートだと平面だから余計に把握し辛いのだろう。慣れれば3D表示も出来るのだが、レイシアは使いっこなせていないようだ。アルタクスに変わるパートナーが欲しいところだな・・・・・・


 下に降りて少し進むと、出て来る蟻もちょっと強そうな奴が混じるようになって来た。

 「アイスボール! マナボルト」

 さすがに動きが早い敵を相手に、のんびりちまちま戦っていられなくなり、範囲魔法で一気に動きを止めて行く作戦に切り替えている。

 「アラクネが呼べたらもっと簡単に行けたのにね」

 「ああ、確かにそうだな。今召喚はどんな調子なのだ?」

 「えっと・・・・・・ストーンゴーレムが一体呼べるかな」

 「うーん、まだまだ先は長そうだな」

 「だね。このまま行っても部隊召喚が使えるようになるかわからないね」

 「だな」

 「それなら普通に一体ずつ呼べばいいだけだわ!」

 「まあそうなんだけれどね。部隊召喚で呼べればリーダーが付いて来るのよ」

 「ほー。それはなかなか使い勝手がよさそうだわ」

 「ええ、そうね。だからリーダーに命令をしたら後は部隊全体がこちらの指定した目的に沿って動いてくれたんだけれどね。個別に呼んだらまとめて指示を出すか、一体ずつに指示を出して行かないと駄目なのよ」

 「リーダーに指示を出した時は、敵を囲むように部隊を動かしたりとか、もう少し戦略的に下僕を扱えたからな。任務の成功率が変わって来るだろうな。後は生存率も高かったな」

 「そうだね」

 「なるほどだわ」

 僕らは出て来たソルジャーアントに止めを刺しながら先へと進んで行った。今のところ特に手間取ったり、危ない場面などには出会っていない。やはり昔に冒険者として活動していた経験が生きているので、普通の新人のように手間取ったり慌てたりっていうのはなさそうだな。順調そうだ。


 疲労なども特になく、SPも回復しながら戦って来たおかげで結構蟻の巣の下の方までやって来られた。他に参加している冒険者や、傭兵達は上層の殲滅戦を優先しているようだな。先行しているパーティーは一チームかな?

 「これならもっと上位のモンスター退治も出来たかもしれないな」

 「うむ。レイシアならもっと上でもよかったわ」

 「そうだね。昔に冒険者をしていた経験があったから、結構ここまでは問題なく来られたね」

 実質的に僕らはただ見ているだけで、レイシア一人でここまで来られた。これだけ出来れば初心者はおろか、中級冒険者としても十分通用するのではないかと思えた。まあレイシアには僕の加護があって基本能力が底上げされているので、完全に実力とは言えないだろうけれどそれでも、六歳にしては十分過ぎる程実力を発揮していた。

 気分的にはのんびりピクニックでもしているような気楽な気分になっていると、前方からざわざわとしたものを感じた。それとともに微かに騒ぎ声が聞こえて来る。

 「何かあったようだわ」

 数瞬だけ遅れ、ビゼルもそれを感じ取ったみたいで、前方に警戒した目を向ける。

 まず見えて来たのは冒険者かな? 必死に走ってこちらに向かって来るのが見えた。徐々に近付いて来るその冒険者に、何があったのか聞こうと思っていたのだけれど、それは彼らの後に現れた蟻を見てわざわざ聞くまでもなかったと思った。

 それは蟻の大群。

 壁や天井、通路全体を覆いつくしてこちらへと進軍して来る、蟻の群れであった。これは何体いるのか数えるのも馬鹿らしくなってくる数がこちらへと押し寄せて来ていた。

 「ライトニングボルト!」

 さすがにあの数は脅威だ、逃げるか代わりに僕達が相手にするかレイシアの意思を確認しようと考えていると、それよりも先に魔法を放っていた。ライトニングボルト・・・・・・この魔法は発動地点から一直線上の敵を攻撃する一風変わった魔法だ。まあ僕が使うレーザーや、超電磁砲などといった直線攻撃魔法と思えばいいだろう。珍しくこの世界に存在する直線攻撃手段であった。

 そのライトニングボルトは冒険者を避けて後ろの蟻達の進路場へと突き進んで、その魔法線上の蟻を薙ぎ払うことに成功した。まあ通路一杯にうじゃうじゃといる全部を吹き飛ばすには至らなかったけれどね。

 「ライトニングボルト!」

 それを見たレイシアは、冒険者が通り過ぎた後で自分も彼らを追いかけながら、再び魔法の数を拡大して発動させる。放たれた電撃は床と天井、左右の壁を進んでいた蟻達にぶつかってそれらを貫いて行った。それで全てを倒すことは出来ないものの、ある程度数を減らせているようだ。かすっただけでも放電現象でダメージを与えているので、ダメージは与えている。

 「ライトニングボルト!」

 「マナ ディヴァイドゥ」

 その後も少し走っては電撃で攻撃を行い、また走っては電撃を放って行くと、さすがのレイシアもSP不足になって来た。そこで蟻の巣ダンジョンに来てから始めてSP譲渡の魔法を発動させ、レイシアを回復させる。いくら自力で戦おうといったところで、さすがにこの連戦はきついものがある。これは手助けしてもいいだろうって判断したのと、この数を相手にガンガン攻撃して行けば、経験値もわんさか手に入ると考えられた。トレインに巻き込まれたような感じだけれど、経験値稼ぎにはちょうどいい。こちらと違って逃げて行った冒険者達は、さっさと脱出して行ったようだった。

 とどまっていても勝てないって判断したのだろう。まあいいが・・・・・・

 しばらく逃げ撃ち・・・・・・弓職などが逃げつつ攻撃する方法をそう呼ぶのだが、それによって攻撃を続けていると、さすがに損耗率が酷い事になっていることを理解したのか、蟻達の進軍が止まり戻って行ったようだった。

 「終わった?」

 思わずって感じで、レイシアがそう呟いた。

 「みたいだわ」

 「お疲れ。一度地上に行くか?」

 倒しても倒しても仲間の死体を乗り越えやって来る蟻に攻撃を続けていたので、倒された蟻の死骸は電撃に焼かれボロボロになっているのが見て取れた。さすがにあの状態になると、必要討伐部位を持ち帰ることも出来そうになさそうだ。

 「ここまで来たんだもん。奥に行くよ! でもその前にちょっと休憩したい・・・・・・」

 「そうだな。じゃあその間に取れそうな討伐部位があれば、回収して来るよ」

 「ありがとう、バグ」

 ビゼルは休憩に入ったレイシアとお喋りしながら待つことにしたみたいだ。後ろから敵が来ることも考えれば、ビゼルと一緒に待っていてもらう方が安心できるな。そんな訳で、比較的新しい市街から討伐部位を回収して行った。


 ギギギギ・・・・・・


 「まだ生き残っているのがいたのか」

 瀕死の状態でこちらに敵意を向けて来た蟻を踏ん付けて倒すと、そのまま討伐部位を回収して行く。数にして百は軽く超えていると思えるのだが、いかんせん繰り返し魔法を受けて消し炭になっている死骸が多く、まともに回収出来たのは三十あるかどうかってところだった。欲しかったのはお金ではなく経験値だったので、まあこんなものだろう。新しい親がいるので、ひょっとしたら初報酬は多い方がよかったかもしれないな。しかしそこまで気にしなくてもいいだろう。おそらくは生きて帰れれば、それだけで喜んでくれるに違いない。


 「分解」

 回収作業に一時間近くの時間がかかった。いっそうの事、全ての死骸から討伐部位が取れたのならもっと早く終わったのではないのかな? ボロボロのやつとまだ回収出来るやつと見極めながらやっていたので、余計な時間がかかってしまった。そして死骸だらけっていうのも先に進むには邪魔なので、回収が終わった後で分解の魔法を使って全て処分しておくことにした。おかげですっきりだ・・・・・・

 「お待たせ。ボロボロになった死骸が多くて、ちょっと時間がかかったよ」

 「お疲れさま。じゃあ先に行こうか」

 「うむ。進むわ!」

 一時間休憩出来て疲れは完全に取れたようで、レイシアとビゼルは張り切って進み出した。それに付いて行く。

 慎重に進んでいたのだけれど、敵との接触がなくなった。ちょっと不思議に思ってスキル調査でこの先を調べてみたところ、どうやら一番奥で戦力を集中させているようだな。先程の雪崩のような集団でも、こちらを排除することが出来なかったので、残りの兵力を集中して一気に潰そうって戦略かもしれない。虫のくせになかなか考えているようだ。

 通路の先、いくつもの部屋があったのだけれど、それらの中は空っぽになっていた。本来ならばここには卵が置かれていて、大切に育てられていただろうが今は避難されているようだ。

 これから進む先のクイーンの部屋に急遽保管部屋が造られ、そこにせっせと卵を運び込んでいるのがわかる。クイーンを倒さなければその部屋には入れないらしいが、今後の事を考えるとそれらの卵も排除しておかなければいけないだろう。

 意思疎通出来れば助けたりも出来るのだが・・・・・・こいつらには共存するって状況が理解出来ないだろうな~

 ちなみに蟻の卵は売ってお金にしたり出来なかった。こいつらは調教してペットにしたり出来ないので、価値が無いらしい。錬金合成の素材にはなるのだろうが、ぶっちゃけいい素材ではないのだろう。だから持ち帰る意味はないな。


 しばらく進み、クイーンのいる大部屋に辿り着いた。部屋はかなり広いのだが、その広い部屋の中にはこれでもかってくらいに詰め込まれた蟻達が待ち構えているのがわかる。天井まで積み上がった蟻達で、奥が見えない程であった。よく下にいる奴は潰れないものだなってちょっと思ってしまったよ。

 「うわ。なんじゃこれわ! うじゃうじゃと気持ち悪いわ!」

 「さすがにこれは酷いね・・・・・・でもこれなら範囲魔法がよく効きそうよ」

 「確かに、どこを狙っても敵に当たるわ」

 「二人とも油断はするなよ。今までで一番厄介な物量で押し潰しに来るようだぞ」

 天井近くにまで積み重なった蟻が、こちらに向けて動き出すのが見えた。二人が圧倒されたのか、目の前の蟻を見て気味が悪かったのかそれに気が付かなかったようなので、注意を促す。まあ二人といってもビゼルはこの程度の蟻に傷付けられる存在ではないので、レイシアの護衛よろしくって感じの意味で注意を促す。今ではレイシアも立派なビゼルの友達である。ライバルだった時期は終わり、今後一緒に生きて行く親友以上の仲間なのだ。僕と同じで大切に見守っていたので、まあいちいち言う事ではなかっただろう。

 「ファイアサークル!」

 一つしかないで入口の前に、炎の円陣が浮かび上がる。その円陣の中に入って来た蟻達は、瞬く間に焼かれ炭になっていった。物量で押せばなんとでもなると考えていたのか、勝手に突き進んでどんどん燃えて自滅して行く。

 「これは壮観だわー」

 「凄いな、レイシアの経験値が面白いように上がって行っているぞ」

 ちょっと気になってステータスを確認して見たのだが、経験値のパーセントがぐんぐん百に近付いたと思えばLVが上ってゼロに戻り、再び凄い勢いで百に向かってカウントを開始して行った。これだけ見たらチートで経験値稼ぎしているような光景だな。まあ実際はファイアサークルを維持するのに、集中し続けているので会話も出来ない様子なのだけれどね。

 十分くらいその状況が続いていた。


 長かったというべきなのか、どれだけの蟻がそこにいたのかって感じなのだが、目の前には灰にまでなった蟻の残骸がうず高く積み重なっているのがわかった。

 今現在蟻達は無謀な力押しをやめて、クイーンの足元に集結しているのが見える。

 「分解」

 灰が邪魔なのでちょっと積もった物を片付け、僕達はようやくボス部屋ともいえるクイーンの部屋へと入って行った。

 広々とした空間で天井の高さは五メートル以上ありそうだった。その天井に届きそうなくらいクイーンの体は大きい。

 部屋の横幅はおそらく二十メートルはあるのではないだろうか? そして奥行きもかなり広い。つまりそれだけ一杯いたはずの蟻が、消えていなくなったという事だろう。

 今残っている蟻は、今までの蟻やクイーンと違って赤い蟻達だった。ジャイアントアントと呼ばれる黒い蟻は全て無謀な特攻に使用されたようだな。赤い蟻はクリムゾン系の蟻のようだ。今まで出て来た蟻の中で強い者はソルジャー系だったのだが、それよりも種として上位の個体達だろう。

 それらが横幅一杯に展開して、こちらの様子を窺っているのがわかる。さすがに無謀な突撃を乗り越えてやって来たこちらに対して警戒しているようだ。物量では勝ち目がないと判断しているのではないかな?

 「行くよ!」

 お互いに睨み合っていてもらちがあかない。そう思ったのか、レイシアがクイーンに向かって歩き出した。

 それを受けてクリムゾンアント達もこちらへと動き始める。

 一気に襲い掛かるのではなく、こちらを囲むように展開し出した。正面からは蟻のくせに盾と槍を持った四本足で歩く蟻が五体やって来るのが見える。クリムゾンガードアントって名前らしいな。今までの蟻と違い、かなり厄介そうな相手だった。それだけではなく、羽を持っている蟻もいるようでそいつが空からこちらを包囲して来る。そいつは他の蟻より少し頭が大きいのが特徴で、クリムゾンアシッドアントって名前であった。それらが十二体こちらを遠巻きに展開しているので、遠距離でいたぶるつもりかもしれない。

 他にもクリムゾンソルジャーアントっていうちょっと小柄なやつが、ノーマルの中に隠れて十体近付いて来ていた。

 これらをレイシア一人で相手取るのはさすがに無理があるだろうな。昔なら魔法陣を出して防御しながら戦えたり、部隊召喚で死角を無くしたり出来たのだけれど・・・・・・今のレイシアにはどちらも使うことが出来なかった。

 かといって、僕達が手を出してしまえば楽勝で切り抜けることが出来る。でも、それではレイシアに経験値を稼がせることが出来ない。致命的なダメージだけ、こちらで防がせてもらおうと考えてはいるのだが・・・・・・この大群に群がって来られたら、どうやっても無敵状態って感じの手助けをするしかなくなる。

 ちょっとした手助けなら歓迎なのだが、絶対死なない状況での経験値稼ぎっていうのはレイシアの成長の妨げにならないかな? さすがにベテラン冒険者としての経験があるから、力に溺れるようなことにはならないと思うけれど・・・・・・自力で強くなった者ならそういう力に酔う者は少ないのだが、急激な力っていうものは使用者の精神に万能感を与え、人格を歪ませたりするリスクがある。

 ネットゲームでもそういう課金アイテムで一気に強くなったとか、パーティーで経験を稼いで強くなった者などが、初心者相手に威張り散らしているのをよく見かけたことがある。威張るだけならまだいいのだが、弱いと思った相手をPKして喜んでいる者までいた。PKされた経験があるのにもかかわらず、強くなったら自分がPKをして弱者をいたぶることに快感を求める者も見て来た。力は人を狂わせる。

 この場をどう切り抜けるにしろ、レイシアがそんな風に歪まないことを祈るばかりだ。


 「ファイアウォール!」

 僕達三人を囲むように六角柱が現れる。つまり炎の壁が六つ、魔法の数を拡大して攻撃と防御の両立を目指して魔法を発動させた訳だ。先程のファイアサークルの応用だろう。なかなか考えたものだ。しかし・・・・・・

 「上からも来るぞ!」

 そう、蟻は壁や天井なども使ってやって来るし、羽の生えたやつもいるので隙間があったらダメなのだ。厳密に言えば、こいつらは穴を掘るので下まで注意しなくてはいけない。幸いスキル調査で見たところ、下からは来ないようだけれどね。

 レイシアの様子を窺うと、焦ったようなしまったって感じの余裕のない表情をしていた。簡易ステータスによれば、今この六つの壁の維持だけでガンガンSPを消費していっている。それにこの壁だけで蟻を倒せるのかどうかもわからないのだ。今までの蟻ならこれで十分威力が足りていたのだけれどね・・・・・・まあ突っ込んで来てくれるのならだけれど・・・・・・

 「マナタンク ディヴァイドゥ」

 ここは少し手を貸す場面だろう。僕の持っている最大SPならば、湯水のように魔法を使用できる。そのSPを継続してレイシアに使えるよう魔法のパイプを繋げた。あくまでもどんな魔法を使用し、この局面を乗り切るのかはレイシア自体が考え、選択するのだから過剰な手助けではないだろう。と思いたい。

 「レイシア、僕のSPを好きなだけ使えるようにした。思う存分魔法を使って乗り切ってくれ」

 「うん!」

 「むー、わらわのする事が無いわ・・・・・・」

 ビゼルが拗ねていたけれど・・・・・・まあ突破して来る蟻もいるだろうし、出番はあるだろうー


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