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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第二十三章  別れ・・・・・・
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レイシアのいない世界

 レイシアの葬儀は、身内のみでおこなわれた。フォーレグス王国という国にとって、レイシアはただの一般人だったこともある。それとレイシアには家族と言えるような繋がりのある者は僕とレビルスくらいしかいなかったからだ。リンデグルー自治国にいる親戚とやらとの関係性より、眷属やパペットの方がよほど家族と呼べたくらいだ。

 そんな訳で知り合いだけでひっそりと葬儀を終わらせた。遺体はかつてリンデグルー自治国で拠点だった場所の、僕の前世の遺体が埋まっていた墓地へと埋められることになった。拠点を移した後でも、農民パペットが草原部分だけ稼働させて管理していてくれたようで、綺麗な花も咲いている場所なのでちょうどいいと思える。

 一応こっちの世界の墓地に関する情報など調べてみたけれど、レイシアのように正式に貴族から離れ家を出た者には、貴族達の墓地に入る資格は無くなるようで、大抵の場合は野ざらしとなるのだそうだ。それならば僕の造った拠点にお墓を作っても問題はないだろう。

 ラデラなどが何となく僕に気を使っているようだったけれど、僕は努めて普通に行動することに決める。確か僕が死んでから転生するまでに、五年くらいの空白期間があったのだったか? そう考えれば十年くらいレイシアの魂が転生しなかったとしても不思議ではないだろう。

 確証自体は無いものの、いずれは帰って来ると気長に考えて待っていよう。


 「父上、僕は今日から旅に出ようかと思う。どうかお元気で」

 「ああ、お前も気を付けろ。何かあればいつでも帰って来い」

 レイシアがいなくなってから半年くらいたったか・・・・・・レビルスは冒険者としてリアル生活を送る為、フォーレグス王国を出て行くことにしたようだ。まあ表向きはと言った方がいいのかもしれないが・・・・・・息子はレイシアが死んで、その後僕が涙一つ流さなかったことに不満があったようで、僕がレイシアの事を愛していなかったのではないかって疑っているみたいだった。僕のステータスには今なおレイシアとの絆が存在し続けている。このスキルが有る限り、僕はレイシアが転生して再び出会えると考えているのだが、レビルスにはその考えは理解できないようだった。

 そして僕の下を離れる決意をしたのだそうだ。まあレビルスはもう十分成長して、既に成人を迎えていたので大人として扱うべきだろう。日本ならまだまだ子供って認識なのだが、こちらでは十二歳を過ぎれば成人して大人の仲間入りとなるらしい。だからレビルスももう一人で考え、自由に行動してもいい年はとっくに過ぎていた。

 冒険者としての知識や技術などもレイシアと僕からしっかり叩き込まれているだろうから、一人で十分やって行けるだろう。だから独り立ちを見送ることにした。まあ初めはアルタクスを連れて行こうとか思っていたようだけれどね。

 フォーレグス王国内なら、アルタクスは付いて行ってもいいと考えていたようだが、他国へ行くのなら行かないと言ったらしい。まあ、僕の眷属だしな~

 どうやら僕の事が心配なようで、レビルスに構っていられないみたいだった。

 自己判断では、思っていた程虚無感とか、喪失感などは抱いていない気がするのだが、傍から見れば心に穴が開いた壊れた人間のように見えるのだろうか?


 「親しい者がいなくなるとは、こんな気持ちになるものなのだな」

 そう言って話しかけて来たのはビゼル姫だった。

 「魔界ではこういう経験はしたことが無いのか?」

 「ないわ。あそこは人の形をした者がいたとしても、中身は獣そのものだわ。獣などと心を通わせることなどありはしないわ」

 「そうか。人の寿命は短くて儚い。これからも人と付き合って行くのなら、こういう経験は何度もすると思うが・・・・・・関わり合いたくなくなったか?」

 「そうだな・・・・・・正直今直ぐっていうのはきついものがあるわ・・・・・・でもこれを拒否するということは、レイシアの存在も否定することになるわ」

 「さすが、わかっているのだな。またいつか、親しい人間ができるかもしれないが、まあ程々に付き合ってやってくれ」

 「お主、随分と他人事のような言い方だな。そう言うバグも、人と寿命が違うのはわらわと同じであろう? バグも同じ感情を何度も味わうのではないのか?」

 「こっちはこういう感情にはある程度慣れている。そこまでのめり込んではいないよ。さすがにレイシアとの別れは堪えるがな」

 「なるほど、レイシアとその他大勢との違いってことか」

 「まあ、そうなるな。レイシアと出会っていなければ、人間など何とも思っていなかっただろうな」

 「わらわとも、出会うことはなかったのでは?」

 「そっちはどうだろう・・・・・・出会っていたかもしれないが、今みたいな関係にはならなかったと思う」

 「やはりレイシアは、わらわにとっても掛け替えのない存在だわ」

 レイシアと出会っていなかったらか・・・・・・僕自体が魔王として破壊をもたらしていても、不思議ではないな。いや、スライムのままだったかもしれないから、そこまではいかないか。ちょっと強いスライムがいるってだけで、そんなに世界には影響しなかったかもしれないな。本当にどう変わっていたのか、予想もつかないな~


 なんとなくリアルもゲームもすることが無くなったような気がする。顔だけ出して様子見はするものの、何をすればいいのかがわからないといった感じだろう。ゲームは特にレイシアとレビルスがいなくなって、ラデラも調子が悪くなって来たらしく、あまりゲームをしなくなった。旦那とのんびり暮らしているのだろう。

 このままボーとしていたら眷属達にも心配をかけるかなって考え、いずれ転生して来るレイシアの為に、おやつや料理の新しいレシピでも増やしておこうと研究することにした。こういう時は何でもいいので、行動しておいた方がいいだろうしね。魔界がらみの騒動はあれ以来起きていないし、魔界で変なやつが出て来る気配もないので、ビゼル姫も暇そうにしている。ゲームでは固定メンバーが減ってアルタクスを含めた三人パーティーとして、適当なダンジョンに潜ったりイベントなどに参加したりしていた。

 まるでレイシアとパートナーチェンジしたみたいだな・・・・・・そう言えば、ビゼル姫と出会った時レイシアがいなくなるまで待つみたいなことを言っていたけれど、ビゼル姫は忘れたのだろうか? それか同等の強さを持つ存在に会ったことで、興奮してあんなことを言っただけで別に深い意味はなかったって可能性もありそうだな。忘れているのなら、別に蒸し返す必要もないかー

 レイシアが戻って来るまでは、のんびりと過ごしていよう。


 「うーん・・・・・・新レシピっていっても、なかなか簡単にはできないな。アイデアはほとんど出尽くしている気もするしな~」

 日本のおやつで、作れそうなものは大体作った気がする。作れないタイプの物は、素材自体何を使っているのかわからないことが多い。こっちの世界の素材で作る新おやつとか料理は、大体眷属達が独自アレンジしたレシピを誕生させているか、現地の料理人がレシピを増やしていて、何ていうか僕より遥かに美味しいものを作っていた。まあ僕は元々聞きかじり程度の知識で料理していただけなので、料理を専門で習っているような者達と比べること自体が間違いだったのだと思うけれどね。

 僕がそういう人達に勝っていた部分というのは、日本での知識があったからで、それも僕が開発したものではなかったというところが、彼らに敵わないところなのだろう。

 「主、主~。そういう時は大元から考えるといいんじゃないかな? 今あるものでアイデアが出尽くしているのなら、何かを足すのが一番ですよ」

 僕の独り言のような呟きにそう答えたのは、料理を担当していたラグマイズだった。レイシアを亡くしたことで僕が落ち込んだりしていないかちょくちょく様子を見に来てくれた眷属の一人で、いずれ転生して来るレイシアの為にレシピを研究すると言ったら真っ先に手伝ってくれた主想いの男だった。種族は魔人なのだが、完全に人間と同じ姿をしているので、町に行ってもモンスターだと気が付く者は誰もいないだろう。

 「大元というなら、食材か。昔はいろいろと栽培したり品種改良したりしていたな。満足できる味になってからは新開発みたいなことは全然していなかったから、それもありかもしれないな」

 「でしょでしょう~。デザートならフルーツを作るのがいいですよ。料理なら野菜がいいし、肉ならちょっと研究に時間が必要になりますね」

 「そうだな、パペット達にも全然仕事を与えていなかったし、いろいろと動いてもらうか」

 「ええ、どんどん命令してくださいよ!」

 思えば眷属やパペットを創ったくせに、主らしく命令を出すことってあまりなかったかもしれないな。早速眷属やパペット達を集めて、レイシアが戻って来た時の為にみんなができることをしてもらうよう命令を出すことにした。僕自身がこうしろっていうよりはある程度任せてしまって、それを見てこっちでアイデアを出すなり追加注文みたいなものを出した方が効率的だと考える。

 大まかにやって欲しいことだけ指示しておけば、眷属やパペット達は自分達の技術をどう使えばいいのか、僕より専門的に考えて判断してくれる。料理関係は新たなレシピって感じだね。農民パペットや錬金パペットなどが中心となり、さっそくどんな果物とか野菜などを作ろうか検討し始めている。頼もしいことだ。

 生産の方は、服や装飾などを作るようで、体型などの問題もあるからデザインとかだけ用意し、いつでも作れるように準備をするようだった。蜘蛛型パペットなどもいるので、肌触りの所から研究を始めているので、相当凄い服とかできそうだな~。装飾はまた王族でも手が出せない程の芸術品ができるかもしれない・・・・・・


 しばらくの間眷属やパペット達に交じって農作業を続ける。こういう生活もなんだか久しぶりの様な気がするな~。まあ実際は指示を出したりしただけで、僕自体土いじりはほぼしていないのだが、やってみるといろいろと大変で、でも毎日植物が成長して行くのを見ているのも案外楽しいものだった。そんな僕達が作業している畑に、ビゼル姫がやって来た。

 「何かトラブルでもあったのか?」

 「いや、単なる暇つぶしだわ。それよりバグよ、そんな土いじりなどして、楽しいのか?」

 「そうだな~。大変なことの方が多いかもしれないが、自分が育てているものが、美味しく育ってくれると感動するかもしれないな。コボルト達の畑を見たことがあったか? あいつらも結構楽しんでやっていたと思うのだが・・・・・・」

 「おー、確かになんだか楽しそうに働いておったわ」

 単純なのか、ビゼル姫もその感動を味わいたくなったのか、手伝おうとこちらへとやって来た。

 「服が汚れると思うから、作業しやすい服装に着替えた方がいいぞ」

 「フフ、問題ないわ! 汚れなど魔法で一発だわ!」

 魔法って便利だな! そういえば昔自分もそんな魔法を使っていたような気がするな~。レイシアと学校に行っていた時だったか? こういう何気ないところで、想い出がふっと蘇ったりするのは、なんとなく気恥ずかしいものだ。そして案外レイシアとの交流は、僕という人格に深く影響を与えていたのだと実感する。

 「まあ、仕事じゃないから無理に付き合わなくていいからな。気楽に手伝ってくれ」

 「任せるがいいわ!」

 最近はよくビゼル姫がやって来て、レイシアとの想い出話をすることが増えた。なんだかんだとレイシアと仲良くしていたので、いざいなくなって寂しくなったのかもしれないな。おそらくは僕の寿命はかなり長いと思う。今まで二千年も生きて来たビゼル姫は、こうして一緒にいられる者を探していたのかもしれない。二千年もの孤独か・・・・・・昔の僕なら気にもしなかっただろうが、今は耐えられる気がしないな・・・・・・


 眷属にパペット、そこにビゼル姫を混ぜて新たな果物や野菜の品種改良をしつつ、育ったそれらを評価し合う時間がしばらく続いた。その過程で、何種類かの食材が栽培できた。これらをどういう形に加工するのかで、最終的な味を決定するので、ここで一度加工してみることにする。

 初めは単純に焼いたり煮込んだり、蒸したりしてどう味が変化するのかをチェックして行く作業から入る。後栄養素が壊れたり、増幅するかっていうのも気になるところだな。やはりただ作るだけと違って、どうせなら健康にいいものを作って行きたい。

 そうして出来上がった料理が、パスタに炒め物にシチューの様なもの等々・・・・・・おやつでちょっといい出来だと思えたのが肉まんだった。他にもケーキや果肉入りゼリーとか、羊羹みたいなものも作ってみたけれど、なんだか感動するというよりは普通に美味しいだけの料理って感じがした。まあ、肉まんがみんなに受けているので、これは成功だと思っていいかもしれないな。今度餡まん、カレーまんとかも作ってみよう。しかし、どれも二番煎じって感じが否めないな~

 「主、ここは新しい発想が必要そうですね」

 「いっそ私達以外の手を借りた方がいいのかもしれませんね。子供とか・・・・・・」

 ラグマイズに続いてそう意見を出して来たのは、メリアスだった。

 そういえば、日本にいた時もテレビでたまにやっていたな。子供の独創性を期待した創作料理の募集とか。こっちでそういうものをやってみてもいいかもしれない。

 ちょうど試食を食べにホーラックスが来ていたので企画をお願いしてみるか・・・・・・世界を揺るがす力を持った魔王が二人、僕達が作った料理を食べながら満足そうな表情をしている。まあホーラックスの方は見た目あまり変わって見えないのだが、こっちには感情が伝わって来るので、結構楽しんでいるのがわかった。

 平和な世界だ~

 勇者もこの風景を見れば、何が何でも倒せなんて発想は思い浮かばないものを・・・・・・


 「ホーラックス、今回開発した食材を使って料理大会を企画して欲しい。部門としては大人と子供の部門を作って、料理の研究期間を一か月くらい見て開催してくれないか?」

 「承知した、我が主よ」

 直ぐに企画を進めようと考えたのか、さっそく移動しようとしたホーラックスを引き留める。

 「緊急じゃない、好きなだけ試食してから後で進めてくれ」

 「ふむ、了解だ」

 何故にちょっと残念そう? ああ、配下として張り切りたかったってところか・・・・・・ほんと、こいつらは僕にはもったいないくらい優秀で主想いのやつらだ。

 それにしても何か新しい発想か・・・・・・感動するような料理っていえば、今までにない美味しさ・・・・・・新食感っていうのもよく聞いた単語だな。食感か・・・・・・パッと見たところ揚げ物のおやつってポテトチップとかドーナツくらいだったかもしれないな。なら新開発された果物をポテトチップスのように揚げたり、ちょっと干し柿みたいに干してみたりいろいろ加工してみるかな。

 ポテトチップスみたいにした方は、甘い果物よりちょっと酸味がある果物が何だか変わっている味わいで、美味しくなった。これはありかもしれない!

 しかし干し柿の方なのだが・・・・・・時間に干渉できない・・・・・・スキルは持っているはずだが? 空間干渉のスキル、ちゃんと持っているな。ならなぜ果物の時間を進めて干し柿へと変化させられないのだろうか?

 よくよく注意して昔のことを思い返してみると・・・・・・少しだけスキル名が違った気がして来た。確かもっとこう時間的なものだったような? ・・・・・・想い出した! 確か時空干渉ってスキルだったはず。つまり時を超えて干渉する能力ってところかな? そして今回持っているものは空間干渉。このスキルのおかげで転移系の移動ができるようになったのだが、まさに空間を渡る、空間に干渉する能力だったってことだ。つまり空間には干渉できても、時間までは干渉できないってことだな・・・・・・

 まあ、今までも何とかなって来たし、なくても問題はないのか? 干し柿みたいにするのは、火属性魔法で水分を徐々に奪うことで作り上げればいいだろうしね。甘味が凝縮していて、これだけで十分美味しいな。これでパウンドケーキを作ったらおそらく女性に大人気になるだろう。

 そう考え、レイシアはいないがビゼル姫と後でラデラに持って行ってやる為に、パウンドケーキを作ることにした。

 それにしても飛行できないこと以外に、時空に干渉できないっていうところにも、魔人と魔神の差が出て来たのかと思うと、どうにか魔神化する方法を探したいところだな。やはりドラゴンから最速で魔人に進化した過程に、何かスキルの取りこぼしか、進化すべき種族を逃してしまったのだろうか?

 こればかりはデータが足りないな・・・・・・


 数日後料理大会を開始することがフォーレグス王国から各同盟国へと伝わった。僕としては自国内だけのイベントって考えていたのだが、どうやらもっと大掛かりなイベントとして開催したようだった。それとも、みんながそれだけ久しぶりの命令に舞い上がっちゃったのかな? でもってゲーム内ではギルドパペッツ主催で料理大会が開かれるという告知が、公式の掲示板に載せられていた。ネットゲームをやっていた時にもこういうユーザーイベントってあったな。そしてゲーム運営会社が、それを応援するところっていうのもそう珍しいものではなかった。どうもおっさんは結構乗り気みたいで、予選を通過した者全員に景品をプレゼントしてくれるのだそうだ。

 「バグよ、どうやらチームで参加しても構わないようだわ。出てみないか?」

 「ああ、賞品が貰えるのなら、出る価値はあるな」

 「お手伝いします!」

 みんなが乗り気だとわかり、ビゼル姫が代表するように冒険者ギルドへと向かい、参加登録をする。おそらくだが、予選とやらがどんなものか不明だが、それくらいは通過できるだろう。上手く行けば上位に食い込めて、それだけいい商品も貰えるかもしれないな。新たなレシピの研究もしたかったことだし、ちょっと頑張ってみよう。

 「じゃあ悪いが、さっそく食材を集めてみるか」

 「おお、そうだわ! これはゲームの中だから食材も手に入れて来なければいけないのだったわ」

 「だな。まあ肉の類は獣系から取れるだろう。ただ品質のいいものが欲しいから、それなりに狩回らなければいけないかもしれないな。野菜とか果物は、NPCから買い取るのがいいのか? 野生のものっていうのは、味がいまいちなことが多いからな~」

 「ふむ。では先に肉から行くか?」

 「そうするか。こういうところはゲームって感じだが、収納スキルで保持しておけば腐らないからな」

 「便利なものだわ」

 「リアルには冷蔵庫がある」

 アルタクスがリアルも意外と便利だと主張して来た。

 「ああ、でも冷蔵庫にはこっちと違って多少腐りにくいってだけの効果しかない。あくまで常温で痛むのを食い止めるってだけだからな」

 「魔族なら腐った肉でも平気で食べていたが、さすがに人間には無理だわ」

 「そう言えば、審査するのは誰だ? 人間ならそのまま進めればいいが、モンスターなら好みに合わせて作らないと予選落ちもありうるぞ」

 さっきまで余裕だって思っていたのだが、それは人間視点での話だった・・・・・・熱い料理の苦手な者に、熱くないと美味しくない料理とか出していたらあきらかに落とされる。審査員が誰なのかっていうのは、かなり重要な要素だ。

 「詳細はまだ未定らしいわ」

 「料理大会をするよって報告と、参加者がどれだけいるかっていう調査ってところかな?」

 「まあ、単純に考えればそうだわ」

 じゃあ今できることは、とりあえず万人受けしそうな料理を考えて進めるところかな。後で審査員がわかったら調整して行こう。


 あちこちにいる獣や、獣型のモンスターを討伐して、その場で携帯キッチンを取り出し、塩コショウだけで焼いて素材の味を確かめて行く。それ以外には、骨などから出汁を取ったらどうなるのかとか、蒸したり茹でたりした時の肉の変化なども調査してみる。その状況によっては作る料理の方向性が変わって来るからだ。

 詳細が発表になるまでの間、何日か獣を仕留めて比較検証すると、数を倒して素材を確保して行く。野菜は予想していた通り、NPCが販売しているみたいなのでできるだけいいと思える農家を探すことにした。こちらはビゼル姫達が落ちた後で村や町を巡って個人的に調達してみる。果物も同様にして売ってもらうと、後は卵系や魚が集まれば大体の料理は作れるのではないかと思えた。細かいことを言えば調味料が必要だけれど、これは大きな町に行けば大体どこでも売っている。

 まあ卵はソロで集められるだろう。そう考え、翌日はみんなで魚を釣りに出かけることにした。

 釣りのスキルは、アラクネの方が習得していたのだが、メインのスライムは覚えていない。だからみんなで一緒にスキルを覚えると、まずは簡単に釣れる魚から釣って行くことにする。餌は疑似餌で、匂い付けをして投げ込むと結構面白いように釣れた。

 「おおー。入れ食いだわ!」

 ビゼル姫もアルタクスも、さっきから楽しそうに釣りまくっていた。魚自体は小魚に分類され、釣り針は三つ付いているので、上手くかかった時は三匹同時に釣れたりする。それが糸を垂らして直ぐ引きがある為、さっきから忙しそうに投げ込んでは引き上げ、魚を針から外して確保するとまた投げ込むという動作を繰り返していた。

 「これはレイシアがいる時に、みんなでやりたかったわ!」

 「そうかもしれないな。みんなどちらかといえば戦闘の方が好きなのかと思ったから、誘わなかった」

 「確かに、どっちがいいかと言われれば、戦いに行きたいと言っておったわ。なるほど、今だからこそってことなのか」

 「まあ、僕は元々生産が好きだからな。こういう事も楽しみながらやりたかったけれど、みんなを突き合わせるのもどうかと思ったからな」

 「わらわも案外、生産とやらは嫌いではないようだわ」

 「そうか、ならじゃんじゃん釣ろう。この機会に料理のスキルも学ぶか?」

 「そうだな。冒険の最中に腹が減ったら、便利かもしれないわ」

 「ああ、リアルではレイシアとそんな感じで旅をしていたな~」

 「ほう。それは楽しそうな旅だわ」

 釣りを楽しみつつ、うるさくしても魚は釣れたので、そのままどんな旅をして来たかなど話しながら、釣り続けた。

 ある程度スキルが上がって来てからは、筏を出して湖の中程に移動し別の魚を釣る。生産スキルが有ると、現地で即席の船とか、簡単に作れて便利だな。そんな感じで釣りを楽しみつつ、ある程度スキルが上がるたびにいろいろな魚を確保して行く。

 結構スキルLVが低くても、魚って確保できるものなのだな~


 ビゼル姫が落ちた後、卵を集めて町へと戻って来ると、料理大会の詳細が掲載されていた。

 まず作る料理は軽食と、そこそこ満腹になるもの、そして食べると腹ペコだった者でも食べられなくなるようなボリュームがある食事の部門に分かれるのだそうだ。デザートの類は軽食扱いらしい。

 そして次に、注文が入ってから料理が出て来るまでの時間が審査対象になるそうだ。基準はもちろん早い程いいらしい。

 次は注文された料理にかかる費用。もし販売するのなら幾らになるかというもの。採算が合わないとか、人件費が含まれない類のものは失格になるようだね。

 そして最後に、見た目と味。見た目はともかく、味を最後にしちゃうのか・・・・・・僕としては味を真っ先に持って来て欲しかったよ・・・・・・まあ料理大会で、味が良いって条件は当たり前だから最後だったのかな?

 しかしこの条件だと、ファストフードってことになるな。ならば出す料理ってハンバーガー? おそらくこれは冒険者に売ること前提で考えられた条件っぽいな。大会の後、実際に露店とか冒険者の店とかで販売されだす可能性が高いな~

 僕の為だけに開かれた大会っていうのより、こっちの方が世界の発展にも役に立ちそうだし、気兼ねなく参加できるのでいいかもしれないな。


 リアルでもルールが発表されていた。こっちは見た目や味を重視するらしく、他のルールとしては指定された食材のどれかをメインとして使い料理を作ることらしい。部門としては、料理とデザートの二つに別れていた。それ以外には、調理にかかる時間は会場で一時間以内。仕込みに時間がかかるものは持ち込み可だが、そうでなければ会場で作る事ってくらいだった。

 ちなみにリアルの方だが、僕は審査員の一人として席が用意されていて、こっちは料理する側では参加しない。参加者の調理するところをじっくりと見せてもらおう。

 準備期間はどちらも今日から一か月後だそうだ。それまでにゲームの方はしっかりメニューなど決めて行かないとだな~


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