発展し出したベギウスオルク
急速に発展して行くゲーム世界。それに合わせるかのように各地に様々な遺跡やダンジョンが見付かるようになった。まあ実際にはおっさんが村を発展させるよう周辺にダンジョンを設置しているのだろうが・・・・・・とにかく、新たなダンジョンが見付かると冒険者達はこぞってそこを訪れので、それを受け現地の村が発展して町へと変わったりした。
ここはゲーム世界なのでリアルの様に冒険者が寝泊まりする場所みたいなものは必要としていない。にもかかわらず発展して行くのは、NPCが集まるからだった。彼らは冒険者相手の商売を始める。消耗品を売ったり、装備の手入れをする鍛冶屋みたいなものを造ったり。後は空腹を満たす為に食事処を造ったり、露店を開いたりといった行動をする。
だが僕達とは違いこのゲーム世界に住んでいる為、家や食べ物などが必要になる。そういったNPC達の生活を支える為に村はやがて発展して行き、町へと変わって行くのだ。つまり、最初はプレイヤーの為のNPCが集まって来て、次にNPCの生活を支える為に衣食住を整えるNPCがやって来る。そうしてある程度の大きさに発展して行くみたいだね。
ちなみに、それらの家を建てるのはギルドパペッツだったりする。どこどこに家を建てて欲しいって感じで、ギルドの掲示板に依頼が乗るのだ。何もない平原に村を作って欲しいっていうような依頼もある。そこがやがて新たな町へと変わって行く時もあれば、そのまま村として続いて行くこともある。そこら辺りはおっさんの気分次第なのだろうね。
町になるかどうかは、訪れる冒険者の数で決まる。
冒険者が一杯訪れる村は発展して行くのだ。ちなみに町になったところにギルドハウスを建てることもできる。何なら食堂や宿屋などをしているNPCの家を買い取って、プレイヤーが経営することも可能だ。もしそういうプレイヤーの団体がいるのなら、必要NPC以外のNPCが存在しない町などもこの世界には作れるだろう。まあ時間制限がある為、そんなことをすればゴーストタウンが出来上がるけれどね・・・・・・
たった一年経っただけで随分と様変わりしたゲーム世界だけれど、そこに不穏分子もいたことでソロプレイヤーはめっきり数を減らしていた。それは日本側に対抗する為の要素として組み込んだ、近代兵器を模倣したモンスターの存在だった。ソロで狙撃タイプのモンスターに出会った場合、かなり危険だった為パーティーを組んで周囲を警戒することで、生存率を高める。今のところ遠距離からの攻撃がかなり怖いだけで、そこまでの威力を持っていないことが幸いして、余程の間抜けでもない限りは死亡することはあまりない。それでも単独行動がどれほど危険かということは、みんな理解できたみたいだった。
それとともに爆発物感知のスキルなどもシステムに導入された。僕としては魔法で探知系の物を開発したのだけれど、どうやらスキルとしてシステムが採用したようだね。弾薬障壁のシールドは魔法で採用されたようで、その防御能力はロケットランチャーの火力も防げるものだった。まあどっちにしても使う暇が無ければ吹き飛ばされるし、昔考えていたようなずっと展開し続けるみたいな真似はできないだろうけれどね。感知は有効範囲を広げる為に、スキルLVを上げておかないと狙撃には対応できない。
どれもただ覚えただけでは使い物にならないものばかりだ。
ちなみにこれらモンスターが使う攻撃方法を、こちら側で使う者はいない。これら近代兵器を武器として導入すると、剣がこの世界から消えかねなかったので、モンスターの特殊能力として、これらの戦闘パターンを組み込んでみたからだ。つまりライフルの狙撃の様に襲って来る攻撃はあるが、それはモンスターしか扱えないって感じだ。
おかげでプレイヤーは魔法を駆使したり、剣とかだとスキルで弾丸を弾いたるするようなものが発達してきている。後は鎧の方がちょっと発展したかな。材質も見直されたり、弾丸を跳弾させる為に曲線を多く取り入れたデザインとか、傾斜を付けたりとか。まあ、周囲の仲間が危険になる為、別の方法が検討されているけれどね。
当面の対処としては装甲を厚くする方向だ。こっちの世界で鎧を着こむのはなにも人間だけではない。モンスターが鎧を着る場合、人間に比べて筋力があるので分厚い鎧を着こんでも平気で動き回れるやつも多かった。まあなので、銃器で狙われたらそういった重装備のやつが前に出るってやり方をしているパーティーもいる。
後剣のスキルだが、よく扇風機のようにグルグル回して弾くとか漫画で見るけれど、リアルであんなことして弾けるやつはよほどの幸運の持ち主だと思う。だってちょうど剣が通過している弾に当たらなければ通り抜けて来ちゃうからね。そして見た目ほど速く回転させられないっていうのも無理な理由だ。
そもそもやろうとした者が僕くらいしかいなかったけれどね!
一度試して、即これは使えないって判断したよ。人間相手にパフォーマンスとして振り回すのなら有だが、モンスターにやっても隙だらけになるだけだった。おかげでモンスターが一斉に襲って来て怖かったよ。
まあ他にもみんな独自に対策など考えているみたいだし、ゆくゆくは実際の近代兵器にも対処できるようになるだろう。今はその途中というか、前段階だしね。
とりあえず、僕達のパーティーでは防御面ではほぼ、問題は無くなっている。攻撃面は、キロ単位で離れられていた場合はラデラが主戦力になって来るかな。それでもせいぜい五百メートルくらいが今のところ限界らしい。
範囲拡大の魔法を使っているけれど、射撃系魔法では命中精度もかなり低い。はっきりいって範囲魔法を目隠しとして使い、接近スキルを駆使してこちらの射程距離まで移動してみんなで攻撃して行った方がよほど有効な攻撃方法だった。
まだまだ互角にやり合う為には、魔法技術などの発展が必要不可欠のようだ。
僕達のパーティーはこの世界で珍しく、全員が転生クエスト達成者というトップゲーマー集団となっていた。まあ内の一人がゲームマスターとつるんでいるっていう、ずるをしているのだからちょっと申し訳なかったりするのだが・・・・・・それならば少しでもみんなの役に立つよう、銃器に対して有効な方法でも見付けておこうと銃器を使うモンスターばかりのいる大規模ダンジョンへとやって来ていた。
巻き込まれたメンバーには申し訳ないと思ったりもするのだが、実際の話ここいらで確実に有効だと思われる技術とか何か、開発しておかなければかなりきつくなってくる気がする。防御面がかなり整って来ているとはいえ、こっちから攻撃を仕掛けるまでに、マシンガンとか持ち出されたらたまったものではないからな。
今はまだこちらでマシンガンを使うモンスターは出現していない。まだ銃器の対策に慣れていないプレイヤーが多い中、あんな物を持ち出して来たら死者が続出してしまうかと考え控えていた。つまり、ある程度慣れて来たら導入予定があるということでもある。
こんなところで止まっている場合ではないのだ。
「ねえバグ、敵が多過ぎて前に行けそうにないよ!」
「こっちで引き受けよう。みんなは敵に気付かれないように気を付けて各個撃破して行ってくれ」
「任せるがいいわ!」
「了解じゃ」
みんなの準備ができたのを確認しつつ、岩場から前に出て敵を引き付けて行く。向かう方向は最も敵が多い正面で、弾薬を防ぐ障壁を常時維持しつつ移動して行く。このシールドは単体で使えば湯水の如く精神力を消費してしまうけれど、消費量を減少するスキルや、精神力の自然回復量を上げるスキルなどを駆使すれば、結構長い時間使い続けることができた。
これにより僕達パーティーでは僕が先に敵を発見する限り、みんなへのダメージを防ぐことができる。今回ももはやルーチン化されたといってもいいこの方法で、敵集団を撃破した。
「大分安定して来たね」
「まあ僕達のパーティーだけで言えば、安定しているだろうな。他所のパーティーではこうはいかないだろうけど」
レイシアにそう言う。逆を言えば別パーティーでは同じことはできないよって話だ。
「それはそうだわ。このパーティーは全員が転生者だから、他所のパーティーでは火力不足になるわ」
「まあそれもあるが、そもそも僕と同じことが他のやつにはできないって意味なのだよ」
ビゼル姫がちょっと自慢げにそう言っているのに申し訳ないが水を差させてもらう。確かにこのパーティー程強いパーティーは存在しないって自負はあるけれどね。
「何でじゃ? スキル構成を同じにして、スキルを鍛えれば同じことはできるであろう」
「申し訳ないが、僕は日常的にずるをしている状態なのだ。例えばシールドだけ見れば他のやつにもできるのだが、僕は同時に周辺の索敵やら、敵をこちらへと引き付けたりとか同時にスキルを発動させている。これはリアルスキルの複数詠唱を使っているからできる事なのだ。他のパーティーのやつなら分業しないと駄目だろうな」
「むー、ずるはよくないのじゃ」
「それを言ったら僕はこのゲームに参加する権利自体が無いからな」
かなり昔の話になるが、僕は別経由でゲームに侵入して来て、この体を使っている。そう、GMに許可をもらって侵入しているハッカーみたいなものなのだ。僕の存在自体がこのゲームにとっての異物だろう。
「まあ、この世界の管理者からちゃんと許可は貰っているから、問題はない。そこまで世界を壊すような行動はしないからな。だからみんなもあまり自慢とかはしないようにな」
『つまり父上のおかげで、僕達はトッププレイヤーになれているということか?』
「転生の時手助けしたからわかると思うが、普通ならあれはできない。そういう意味ではちょこちょこ手助けしているから他所とは違うだろうな。だがそもそもこっちはラデラがいたから、ゲームで遊べる時間に制限があった。凄いやつだと一日三回はやって来て、遊んでいるだろうな。そういう奴らはトッププレイヤーとして遊んでいるだろう」
『僕達は手伝ってもらって、それに追い付いているってことだな』
「どうなのだろうな? 追い越されていても不思議じゃないのだが・・・・・・というか、普通で考えれば大々的に不正している訳でもないから、とっくに追い越していてもいいはずだが、あまりトッププレイヤーの活躍は聞こえて来ないのだよな~」
実際こっちの三倍も遊んでいたのなら、数々のダンジョンをトップで駆け抜けていなければおかしいのだ。そしてそんなことをしている集団がいるのなら、そういう噂が町で聞こえて来なければおかしいのだが、何故かそんな話は聞いた事が無い・・・・・・薄々は不思議だなって考えていたのだが、まあこっちはのんびり遊べばいいかなって考えていたので、調べたりしていなかったのだよね~
「それなら噂っていうか、トップ集団みたいなギルドとか見たことがあるよ」
「ほう、どんなやつらなのじゃ?」
レイシアとラデラの会話にみんなが注目する。
「確か五つくらいのギルドがトップギルドとか呼ばれていたかな。その内の一つが私達も知っている生産ギルドのパペッツで、他はバリバリの戦闘集団だったかな。その四つのギルドの中でトップなのがベギラウスってギルドで、ギルドマスターが魔人のカカマって人だったよ」
「その者、転生クエストの筆記テストにも名前が出ていたのう」
魔人? そんな種族あったか? 聞いた事が無いのだが・・・・・・
『魔人なんて、選択肢にあったかな?』
僕と同じで、レビルスも疑問に感じたのかそう聞いていた。
「どうもいくつかの転生を繰り返すと出て来る種族なんだって。転生条件はギルド内だけの秘密らしくて、公開されていないそうだよ」
あー、そういえばネットゲームにそういう条件が必要な転職とか転生とかのシステムもあったな。このゲームにもそういう隠し種族ってあったのか~。まあスライムから変わる気はないから、ふーんって感じの感想しかないけれどね。
「というか、そんな奴らのいるトップギルドに、なんで生産職のパペッツの名前が挙がっているのだ?」
はっきりと言ってしまえば、生産に力を注げば注ぐだけ、戦闘方面からは遠ざかって出遅れて行くっていうのが、ネットゲームの常識だったりする。生産と戦闘を両立させたキャラでも、どっちつかずになってトップ集団に追い付いたりはできないと思うのだがな~
「あそこは装備で能力を底上げしているのではないかのう?」
「いやいや、こういうゲームはそれだけでトップには立てないぞ。そもそも他の戦闘ギルドがパペッツに装備を作ってもらったりしているだろうしな」
「ああ、じゃあ装備に関してはほとんど条件が同じなのね」
「そうなる」
ラデラとレイシアの疑問に答えながら、本当にどうしてトップでいられるのか不思議に感じたよ。
さすがにおっさんのように、ゲームを管理している訳じゃないので全てを理解している訳ではない。僕がわからない情報も一杯あるのだな~。そう思いながらダンジョン攻略を続けて行った。
射程距離を伸ばす方法か・・・・・・弓とかならクロスボウみたいな巻き上げ式の物にしたら射程は伸びるが、キロ単位に届かせてなおかつ敵に当てるというのは無理があるよな。矢自体が空気抵抗で軌道を変えちゃうだろうし・・・・・・そうなるとやっぱり魔法でしか無理そうだよな。
よくよく考えてみれば、魔法は魔法でも精霊魔法とかそっち系統でもいいのだよな。風の精霊に矢を敵にまで運んでもらえばいいような気がする。試しにアラクネを操作してスキルNPCから精霊魔法の習得をさせ、槍でもいいかな? 精霊に運んでもらおう。
試した結果、精霊魔法にも射程範囲は普通に存在していて、さすがにキロ単位の指示は無理だった。少しは射程が伸びたけれどね・・・・・・
それを見て思ったのだが、魔法をブーストさせてより遠くへ届くようにしたらどうだろうか? 威力や数の増加はあったけれど、距離はあまり見たことが無い。範囲の拡大は、本来範囲魔法の効果範囲を広くする魔法だった。魔法の射程を伸ばすことに特化した魔法陣などを用意するっていうのも、一つの手ではないかと考え付いた。
とりあえず今現在迷路っぽい感じの場所なので、近場の敵ではお試しにならない。開けた地形に出るまでにブースト用魔法の構想でも練りながら進むかな~
ダンジョンを下に降りると、ちょうど実験によさそうな広い大地と、ところどころに身を隠すのにちょうどいい岩がある地形の場所に到達した。逆に銃器を持たない僕達には不利な場所ともいえる。相手のところまで行こうとすれば、岩の陰から体を晒すことになるので撃ちたい放題。でも移動しなければいつまでたっても先へは進めない。運が良ければ岩から岩に、移動することは可能だろうが、それも敵の数次第だろうな。
まあ弾薬障壁があれば、普通に敵のところまで行けるだろうが、本来シールドを張りながらの移動となると、誰かの手助けが必要になるだろう。ここは防御方法ではなく、相手と同じ土俵で互角に戦える攻撃方法を探して行きたい。まずは実験なので、単純に二重詠唱でブーストし、魔法を相手にぶつけてみよう。
「ブースト。ファイアアロー!」
生み出された火の矢は問題なく通常の射程距離を遥かに超えて、モンスターが隠れているであろう岩にまで到達した。残念ながらかなり距離が離れている為、楽々岩の陰に隠れられてしまったけれどね。射程でいけば、大体岩のところまで八百メートル程だろうか? この距離でも相手に簡単に避けられてしまう魔法ではあまり意味はないな。本当にただ射程距離を伸ばしたに過ぎない。
銃器の怖いところはその小さな弾丸で、相手に致命傷を負わせるところや、容易に回避しようのない弾丸の速度などもあるのだろう。ならば同じ原理で込められた魔力を圧縮して小さくし、魔法の飛ぶ勢いも増幅させてみるって感じでちょっと魔法の構成をいじってみるか・・・・・・
「みんなごめんね。バグ研究好きだからのめり込んじゃったよ」
「まあ構わんぞ。これからの戦いにはどうしても技術の発展は必要なものだからのう~」
「ふむ。ならばわらわも何か考えてみるわ!」
外野が好き勝手に言っているな。しかもビゼル姫が何か対抗意識を燃やし始めた。そうだな、彼女なら僕と違う発想で違う技術を考え付くかもしれないな。
「ブースト。ファイアアロー!」
かなり複雑になった支援魔法のブースト。二回目の実験では見事離れた相手を撃ち抜くことに成功した。でも貫通力が良過ぎるのか、火属性効果がいまいちでかえってダメージは少ないかもしれないな。実際の銃弾でも、体内で止まられるより、いっそ貫通してしまった方が傷は浅いっていうからな。飛距離は九百メートルってところかな? この距離でこの威力なら幸先がいいスタートと言えるだろう。限界距離はまだ不明だが、今度は込める魔法自体に工夫をした方がいいかもしれない。
「ブースト。ファイアボム」
弾丸となる魔法は、少しだけいじってみた。本来は指定された座標で爆発する魔法なので、それを着弾したら爆発するタイプに変更してみたのだ。弾丸で例えるのなら炸裂弾にしたってイメージだろうか? 実際離れてこちらを撃とうとしていた敵に逆に撃ち返してやると、当たった魔法は貫通することなく体内で爆発したようで、モンスターが派手に吹き飛んだのを確認した。びっくりしたのか、同じ岩に隠れていた敵に、ついでとばかりに魔法を撃ち込んで、同じように倒しておく。
「ひょっとして、新魔法は完成?」
レイシアがさすがバグって感じで少しはしゃぎながら聞いて来る。
「いや、開発状況からすると、まだ半分にもいっていないかな」
「この結果でまだ半分いっていないんだ・・・・・・新魔法って作るの難しいのね」
「まあそうだな。ものとしては現状僕しか使えない魔法だしな。リアルに行けば使えるやつはいくらでも出て来そうだがな~」
「へ~」
わかったような、わからないような返事をする。レビルス辺りになると、もう最初っから理解しようとすらしていない気がするな。アルタクスは・・・・・・そもそも考えてもいないようだ。命令があれば何かするよって表情はしているけれどね。
まあいいや。今の結果から次の改良点を導き出さなければいけない。そうだな、今の一撃をほぼ完成に近いものとして考えた場合、僕だけがこのゲーム世界で発動可能になる。それはリアルスキルで魔法を二重起動しているから成功するということだ。実際の工程では、ブーストの魔法と、弾丸になるファイアボムの魔法を使っている状態だ。ブースト魔法は支援系統の呪文で、これ単体では何の役にも立たない。それに対し、ファイアボムは火属性攻撃魔法で、改良してあるとは言っても敵に当てなければやはり無意味な魔法だ。
そう考えると、ブーストの魔法に有効時間を設け、一定時間内の攻撃魔法を狙撃タイプの攻撃にするって効果にするのがいいかな? これなら同時に魔法を発動させる必要が無くなる。それと攻撃魔法の方の細工が必要なくなる。
いいかもしれない・・・・・・その線で改良を加えて行った。
こちらが魔法構成をいじっていると、ビゼル姫が騒いでいた。
「何だこれは、魔法の構成をいじれないわ!」
よくよく考えてみればそれは当たり前で、ゲームの中で魔法の仕様を変更するっていう行為は、ハッカーがシステムを不正に書き換えているようなものだった。まあ、僕はおっさんに監視されているだろうが・・・・・・一応こういう場合って、相談とかしておいた方がいいのかな? ビゼル姫が思うようにできないって愚痴っている横で、心配になったよ・・・・・・
「なあ、おっさん、聞こえているか?」
「新規魔法の開発の件だね?」
一秒のタイムラグも無しに返答されるとは思ってもいなくて、びっくりした!
「え、今バグ以外の男の人の声がしなかった?」
しかもレイシアにまで声が聞こえてしまったよ・・・・・・まあ、いってみればGMってゲーム世界の神様だし、知っていても問題はないのかな? 逆にフレンドリーなGMって、ネットゲームでは歓迎される傾向にあったし、GMサイドからもユーザーのプレイヤーと接触できる機会は、その後のゲーム作りの参考になっていい事もあるらしい。そう考えればみんなに紹介しておいてもいいのかもしれないな~
「まあ、ちょうどいいや。こんなダンジョン攻略の戦闘している最中だが紹介しておくよ。このゲーム世界、ベギウスオルクのGMって言ってもわからないか・・・・・・まあ神様のような存在と思ってもらってもいいかな。駒田亮一という僕の同郷の者だ」
「声だけで失礼するよ。バグ君の言った通り、この世界のGMでこの世界の運営をしている駒田亮一という。肉体は無くなってしまって、このベギウスオルクの世界と完全に融合しているといってもいいかな。だから君達の行動もよく知っているよ。特にバグ君の行動はいつも見ているからね」
「あ、あのよろしくお願いします。レイシアと言います」
「はいはい、確かリアルでバグ君の奥さんだったかね。よろしくです」
・・・・・・毎日見られているのか・・・・・・ってことはこっちでデートしたらそれも見られるじゃんか。これからは行動に気を付けないとだな・・・・・・
「あー、それで新魔法の開発とか、勝手にしちゃっているのだが、よかったか?」
「もちろんそのまま進めてくれて構わないよ。というかこのモンスターを配置したのがバグ君じゃないか、さすがに新魔法なりスキルなり、何かしら対処方法を考えないとまずいと思っていたからね。もっとガンガン作って欲しいくらいだよ。まずいのができちゃった場合は、システムに登録しないだけだからね」
「なるほど、じゃあ今後も何かあったら相談するぞ」
「ほいほい」
そう言ったっきり、おっさんは黙ってしまった。ひょっとして日本側の変わりようが凄くて、忙しいのかもしれないな。
「あ、支援魔法が追加された!」
「む、私も出て来たようだのう」
「ほう、先程バグが作っていたブーストの魔法だわ」
レイシア、ラデラ、ビゼル姫がそれぞれそう言って、アルタクスも頷いているところを見るとレビルス以外は、魔法が追加されたらしいな。まだ開発途中なのだが・・・・・・おっさんが気を利かせてみんなの魔法にも追加したのかもしれないな。そういえば爆薬障壁の魔法も僕が開発したけれど、いつの間にかスキルとして登場していたな。本当に毎日僕の事をチェックしているのかも・・・・・・
みんなはそれぞれに支援魔法を使うと、いろいろな魔法を使ってその効果を確認していた。ふむ、本来僕が個人でチェックするっていうのが普通だが、みんなと協力してチェックするのも悪くはないかな。一気に使った場合のデータが揃う気がする。こっちがわざわざ何か言う必要もなく、みんながさまざまな種類の魔法で、ブースト魔法を検証してくれていた。本人達は物珍しさから使っているだけなのだろうけれどね~
結果的に確認できた最大射程距離は、一キロちょっとってところだった。それ以上の敵は、目視で見ながらの攻撃自体が難しくてできない感じだね。確認できた攻撃自体も、そこまで飛んで行ったよってだけで、敵に攻撃が当たった訳ではないし・・・・・・そうなって来ると狙撃用のライフルに付いているスコープと同じような、照準を付ける魔法も必要になって来るだろうな。
調査とか爆発物感知で一キロ先のモンスターを把握しながら撃ってみるけれど、どちらかといえばこれらのスキルは上空から地図を見るように把握するものなので、いわば方角がわかるだけだった。だから撃ってもほぼ当たらない。
やはり当てようと思うのなら、望遠鏡の様なものが必要になって来るな。
射撃系のネットゲームも当然やったことがあるけれど、大抵スコープを覗き込むと周囲が黒く塗りつぶされ他が見えなくなったりしたのが不満だった。なので魔法で映像をズームする場合は、見たい視点の一部だけ拡大するような感じで魔法を構築して行くことにした。虫眼鏡で一部拡大するって感じだろうね。発想自体難しいものではないので、魔法構築は直ぐ終わり早速利用できるようになる。
「ブースト、スコープ」
うーん・・・・・・これはちょっと慣れるのに時間がいるかもしれないな。目の前が拡大できるのは成功していていいと思うのだが、そこだけ歪んで拡大されるので必要な時に拡大したり戻したりってできないと、ちょっと酔いそうな気がする。CG酔いってやつだな。変に視界が歪んで見えるので、頭が揺さぶられているように錯覚でもしてしまうのかもしれないな。一度魔法を解除すると、早速意識して通常と拡大を使い分けられるように改造を施した。
「スコープ」
拡大したり戻したりっていう動作に問題はなさそうだ。後はこれで上手く狙撃できるかどうかかな。
「アースボム」
できるだけ遠くにいそうなモンスターを見付け攻撃を仕掛けて行くと、拡大された視界内でモンスターが弾けるのを確認できた。距離にして大体二キロいかないくらいか。これくらいの射程距離があれば一方的な蹂躙は無くなるだろうな。
「あ、新しい魔法が増えた!」
「おおー」
レイシア達にさっそくスコープの魔法が追加されたみたいだな。でまたさっきと同じように使って、試し撃ちを始めている。おかげでさっきまで脅威のように感じていたモンスターが、逆にこちらの標的となって狩られて行く。
あれ? ひょっとして魔法で全て対処しちゃったら、逆に日本側が一方的にやられるだけになるのでは? ひょっとしたらやっちゃったってパターンだろうか・・・・・・そう考えて焦ってみたけれど、さらによくよく考えてみれば、何も戦争がしたい訳ではないのだ。向こうが友好的ならば普通に文化交流して一緒に遊んだりしたらいいだけなので、こっちがちょっと強くなり過ぎたとしても、別に問題はないだろう。逆にこっちが日本側に攻め込みそうなら、向こうで対策を考えればいいかもしれない。
『みんないいな~。僕も何かしたい』
物理系に特化したレビルスが、やることが無くて暇だって感じでこちらを見て来た。魔法での対処ばかりだったので、次はスキルで何かって感じか・・・・・・既にやり過ぎ感があるのだが、まあ何か考えてみてもいいのかもしれないな・・・・・・




