ダンジョンの最奥にあるものは―
僕達は五階層を走り回ると、発見したトラップに自ら飛び込んで行く。というのも、このトラップはランダム転移トラップで、とにかく発見したら飛んで行かないと出口に辿り着けないのだった。
時間が限られているダンジョン攻略において、一番難関だと思われる階層といっていいだろう。
救いがあるとしたら、パーティーメンバーの中で一人でも転移トラップに辿り着ければ、全員が飛ばされるというところだろうか? おかげで戦闘中だろうが何だろうが、問答無用でトラップを目指して突き進むことができる。
役割としては僕かビゼル姫のどちらかが敵を引き付けている間、残りの誰かがトラップに飛び込めれば時間のロスは少なくて済む。まあ、ほとんどの場合は僕が触手で誰かを投げて突き進んだけれどね。
仲間を投げるという無茶苦茶な攻略方法を続け、たぶん二十三回目辺りで出口を引き当てたと思う。まあこんな階層があるので、複数チームでの攻略には向いていなかったりする。
ここを抜ければ後は普通のダンジョン攻略とさほど変わりはなく、頑張って敵をなぎ倒して行けばまだ見ぬ十階層に行けるだろう。
六階層目はまだ上級の中でも真ん中辺りの強さなので、囲まれなければ問題なく進んで行ける。注意点は立ち止まっていると無限沸きが始まる為に、なるべく移動狩りか一体にかかる戦闘時間を考えながらの戦闘を、心がけて行かなければいけないくらいかな。これは僕達にとってそこまで気にすることではない。一体相手にそんなに時間をかけないからね。
七階層からは絶対に通過しなければ行けない通過点に、中ボスが配置されている。ここでも多少の運が絡んで来て、出て来る中ボス次第では厄介かもしれないな。そして今までソロで突破して来た戦闘とは違い、連携して行かなければ素早い討伐ができなくなって来るのが、ここからだ。
中ボスもそうなのだが、途中で出て来るモンスターは物理耐性や魔法耐性に特化している敵が出て来るようになったり、敵自体が連携して襲って来るようになるのである。となれば、こちらもそれなりに連携して行かなければ、各個撃破されてしまう。
『バグは右を頼むわ!』
『了解』
『じゃあ私は二人のサポートに入るから、ラデラ女王は魔法支援よろしく!』
『任せるがよい!』
ビゼル姫が敵前衛の足止めをしている間に、敵後衛の物理耐性が無いモンスターを早々に潰して行く。そして後ろに抜けようとするモンスターに対してレイシアが、弱点を付くように物理か魔法による攻撃を仕掛け、ラデラ女王はビゼル姫が足止めしている敵に魔法を撃ち込んで行くって感じで戦っていた。
以前と比べれば見違えるように連携できている。
中ボスも順調に撃破して八階層に辿り着いたのは、ゲームにログインしてから三時間程経過した頃だった。
八階層の厄介なところは、ダンジョン構造が変わる為に地図を用意できないところだ。そして襲って来るモンスターの数も、比較的増える為にどうしても時間を消費させられるという嫌な階層でもある。だからとにかく僕達は走り回ることにした。
今の僕達にとっての敵はモンスターではなく、時間である。十階層に到達するのがギリギリでは、ボスとの戦闘時間が足りないから、最低でも三十分は前に辿り着いていたいところだ。ボスによっては三十分なんてあっさり過ぎるやつもいるのでできたら一時間は欲しいのだが、現段階で残り二時間となればちょっと厳しいかもしれないな。
そこで手加減はやめて、モンスターを瞬殺して進むことにした。
本当はみんなの経験値を奪っちゃうことにもなるので、僕だけで敵を倒して行く状況は避けたいところなのだが致し方ない。気功法による衝撃波と、酸を流し込むことによる窒息攻撃を繰り出して戦闘時間を短縮して行く。おかげで、三十分そこそこで九階層へと辿り着けた。
この階層はそこまで複雑な地形はしていない代わりに、中ボスが五体待ち構えている。そしてそのどれもがランダムで何が出て来るのかは、不明というなかなか厳しい場所になっていた。まあ単純な戦闘ならば、そこまできつくはないだろう。
『物理特化、足止めする!』
『わらわがサポートするわ!』
最初の中ボスは物理系の攻撃がほとんど効かないタイプだったので、後衛が襲われないよう足止め役を買って出る。こちらの攻撃自体はたいして効かないものの、中ボスの動きを阻害する効果までは無効化できない。だからスライムの特性を生かして相手の足にへばり付き、中ボスの下半身の動きを阻害することに集中する。
さすがに下半身にへばり付かれて振り解かないほど中ボスもバカではない為、殴りかかって来たりブレス攻撃を仕掛けて来ようとするものの、適宜ビゼル姫が殴って攻撃の方向を変えてくれるので、こちらにダメージが来るのは稀であった。
まあその攻撃も殴りなどの打撃系ならば、たいして効かない体なので問題はない。ちょっと痛いだろうというブレスは確実に阻止してくれているので、仕事は完璧といっていいだろう。おかげで後衛のレイシアとラデラ女王が完全にフリーとなって、魔法攻撃し放題になっていたので、一方的な攻撃で一体目の中ボスを倒すことに成功した。所要時間は五分かからなかったくらいだろう。
なかなかいい滑り出しだって感じで二体目の中ボスまで急ぐと、そこは先程と反対で魔法特化の中ボスが待ち受けていた。思わずビゼル姫と一緒にニヤリとしてしまったよ。魔法には強いのかもしれないが、それは物理に弱いということでもある。まああくまでもリアルではなくゲームだからこそなのだけれどね。そんな訳でものの一分程でぼこぼこに殴り倒して三体目に向かった。
次の中ボスは飛行タイプのドラゴンで、僕はレイシアに乗っての空中戦が展開される。外野として見るならば、ドラゴン同士の喧嘩って感じだな~。まあ時間が限られているので、そこまで余裕をもって見ていられないから、隙を付いて中ボスドラゴンへと飛び移り、無理やり拘束すると地上へと叩き落してみんなでぼこぼこにしたけれどね。
さすがに素早く飛び回って逃げていたから、ドックファイトに時間がかかって倒すまでに十分くらいかかってしまった。まあだからこそ無理やり拘束したのだけれどね。
さて九階層最後の中ボスは、いろいろなモンスターが混じり合った感じのキメラだった。こいつだけは出て来るモンスターがキメラだということはわかっていたのだけれど、混じり合っているモンスターはランダムになっている。何を取り込んでキメラ化したかで、強さはさまざまに変わって来るのだ。
このキメラの厄介なところは、見た目で強さが判断できないというところだろう。つまり取り込んだモンスターの特徴が、見える所だけに現れる訳ではないので、凶悪なスキルなどを隠し持っている可能性があるのだ。戦ってみないと判断が付かないということだね。だからといって、慎重に確かめている時間もないところが、こいつのやらしいところだったりもする。
時間制限という精神攻撃まで仕掛けて来ているようなものだな。
『フォロー、よろしく』
ある程度魔法にすら耐性を持っている僕が攻撃を仕掛けて行くことで、ある程度相手の特性を見る作戦だった。物理攻撃ばかりなら怖くないのだけれどね。
そう考えていたら、さっそく取り込んだと思われるモンスターの肋骨を使った突き刺し攻撃が迫って来た。これは無効化スキルがあるので完全に気にする必要性がない攻撃だな。そう考えるとさらに踏み込んで気功法による衝撃波を繰り出して少しでも体力を削って行く。
『いっくよー、ファイアボール』
『ふむ。ならば私は、アイスボールで行かせてもらうかのう~』
レイシアとラデラ女王が放った魔法攻撃が僕から離れた場所へと命中する。あまりに近いと魔法の影響下に入ってしまい、こっちにもダメージが来るから離れた場所に攻撃したのと、どの程度効果が出るかをわかりやすくする為でもある。そして炸裂した魔法の内、炎の攻撃が相手に吸収されたのが見て取れた。
『炎吸収スキルあり、氷は有効!』
こうやって地道に通用する攻撃を探したり、弱点を調べて行って攻略するのだ。こうしている間も、敵からの攻撃を引き出してはかわしたり防御しながら、物理系の弱点がないかをこちらでも調べる。または逆転となる攻撃個所などもあれば探って行く。
どうもこのキメラには弱点が存在していないかな。吸収があるのは炎属性らしい。後はどの攻撃も普通に効くということ以外は、特に特徴といえる特徴がなさそうだった。
そうなるとおそらく、体力が異様に高いタイプの敵である可能性があるな。どうせキメラの攻撃はたいして効かないので、ガンガン攻撃を仕掛けて行く。みんなもそれに倣ってそれぞれに可能な攻撃叩き込んで行った。
五分程、キメラからの攻撃を引き付けつつ攻撃して行くと、突然キメラの行動パターンに変化が現れる。今まで物理攻撃ばかりしていたキメラが、魔法を使って攻撃し始めたのだ。
このランクの敵になって来ると、僕の属性吸収能力ではダメージをゼロにすることはできない。だからキメラの足元から離脱しつつポーションを飲んでダメージの回復をしつつ、ある程度間合いを取って攻撃を仕掛けて行く方針に切り替えた。
このゲームの魔法は秘中攻撃ではないから、上手く避ければダメージを貰わないですむ可能性がある。距離を取ったのは、投擲タイプの魔法を使って来たので、それを回避しやすくする為だった。ただ距離を離すことで、キメラからの攻撃がみんなにばらけてしまう可能性もあるのが、気にしないと駄目なところかな。
そこで、挑発したり触手によって距離を離しつつも拘束することで、キメラのヘイトをこちらへと向けさせる。まあ多少回避行動がしにくくなって来るけれど、直撃を貰わないのならダメージは軽減できるだろう。
その後は結局攻撃パターンが度々変わるくらいで、厄介なスキルなどは使って来なかったからそのまま倒せた。体力は予想通り高めだった為、削りきるのに時間を取られはしたけれど、何とか一時間の時間を残して十階層へと進めそうだよ。
辿り着いたその場所は、ボスの間と呼ぶのに相応しい神聖な雰囲気を持つ広い空間であった。しかしそれに反してそこに佇んでいたボスはドラゴンゾンビのような外見を持つ異形のドラゴンで、こんな神聖な空気の中にいたらダメージを食らうのではって言いたくなるボスであった。
正確にはドラゴンっぽいムカデといったらいいのだろうか? 複数の足、複数の手を持ちこちらに向けて鎌首をもたげているように見える。
『前に出るぞ』
『支援するわ』
レイシアによって敵の前へと投げらえるとボスも動き出し、ボス戦が開始された。
ボスからの攻撃は、見た目から予想していた通り物理攻撃だったので、そのまま攻撃を引き付けるよう攻撃を繰り出して行く。ビゼル姫は直ぐ後ろで何かあった時の為に待機しつつ、可能なら攻撃を仕掛けていた。
レイシア達は弱点属性を探す為、いろいろな魔法を唱えているぽい。
そんな感じで攻撃を仕掛けていると、ほんの軽く溜めを作るように身を引いたような気がするとともに、危険を察知した。
『緊急回避!!!』
絶叫するように全員に危険を伝えた時、スライムならではの視界の中で全員の位置関係が把握できた。このまま真っ直ぐ敵が進むとしたら、ラデラ女王が巻き込まれる可能性が高い。おそらく敵はあのわずかな溜でチャージ攻撃を仕掛けて来ているのだろう。後衛職のラデラ女王がそんな攻撃を食らえば、運が悪ければ一撃でやられるか、運が良くて瀕死って感じかもしれない。
とっさにそう判断するとスキル肉体強化を発動し、触手五本で体を地面に固定した。でもおそらくこんなものではボスを止めるどころか、進路をそらすこともできないだろう。ふむ、反らすか・・・・・・
一か八かで試してみようとリアルの体を支配していた分の意識も、ボス攻略へと回そうと考えつるはしを取り出すと、リアル本体はそのまま支配するまでもなく自動で動いて行くのが感じ取れた。ひょっとしたらしばらくステータスの更新をしていない間に何かしらのスキルを、習得していたのかもしれない。
まあでも、今はそんなことを考えている余裕もなかったので、つるはしを横殴りに振り回して採掘スキルによって掘るようにボスにつるはしを叩き付けて行った。遠心力を加味されたつるはしによる採掘攻撃によって、本当に微妙に突進攻撃が進路を変更させられたようで、僕の体にぶつかったボスが右方向へと受け流されて通過して行ったのがわかる。
そこまでが限界だったようで、僕は跳ね飛ばされたのだけれど、おかげでぎりぎりラデラ女王も回避に成功して、負傷を免れたようだった。こっちも跳ね飛ばされた後で壁に叩き付けらえれはしたけれど、突進によるダメージが一点と、壁に叩き付けられたダメージの一点で、合計二点分体力を削られただけで済む。やっぱスライムは最高だなって感じたよ!
今のボスの突進攻撃を受けて、生半可な事では僕以外のメンバーはやられてしまうということに思い至った。だとしたらもう少し自身の能力をきちんと把握して、やれる手段は正確に把握しておかなければいけないだろう。僕一人になってしまえば、死なないまでもボスを倒すことは不可能になってしまう可能性も出て来るからな~
そんな訳で、何かしら打開できないかステータスチェックをして、攻略に使えるスキルがなかったか確認してみることにした。採掘スキルも利用次第では、戦闘に役に立つこともあった訳だしね。
名前:バグ 種族:メタルスライム 体力 6194/7816 精神 1134/1563 スタミナ 43/100
所持スキル:刺突無効∞ 打撃耐性51 状態耐性48 酸73 触手鞭78 危険感知37 斬撃耐性59 物理耐性70 魔法抵抗46 罠探知28 生命探知44 熱探知42 音探知39 発見75 自動回復81 魔法の才能64 回復魔法13 火属性攻撃魔法11 水属性攻撃魔法9 風属性攻撃魔法8 土属性攻撃魔法12 光属性攻撃魔法13 闇属性攻撃魔法11 強化魔法23 支援魔法25 召喚魔法34 収穫77 採掘72 錬金術50 収納47 移動補助48 伐採64 大地の加護13 土ダメージ吸収45 炎の加護12 火ダメージ吸収52 空の加護9 風ダメージ吸収42 海の加護10 水ダメージ吸収47 深淵の加護13 闇ダメージ吸収54 金属の加護59 金属ダメージ吸収63 太陽の加護15 光ダメージ吸収46 魔力向上26 消費MP減少24 肉体強化37 瞑想28 活性化45 鞭技術69 射撃技術64 打撃向上65 攻撃速度向上62 強撃43 気功法34 鍵開け25 潜伏21 奇襲19 共鳴53 気循環48 腐敗の風33 千の加護16 追跡18 鍛冶1 木工1 裁縫1 細工1 料理1 生産の加護22 道化65 ポイント81
所持アイテム:テコラの採取ナイフ テコラのつるはし テコラの採取斧 チョルコのメダリオ(攻撃) ハイポーション ハイMPポーション STポーション 劣化蘇生ポーション 携帯用錬金壷 素材
やっぱ確実に行くのなら腐敗の風っていうスキルが一番有効だろうな。使いどころはかなり難しくて、周りだけでなく自分すら巻き込む可能性のある癒せない破壊の霧・・・・・・これならばいくらボスでもかなりのダメージを与えることができるだろう。
問題は霧がはれるまではこちらも手が出せなくなるし、ボスがこちらに向かって来たら腐敗の風の影響が、こちらにも及ぶ可能性を秘めているので、諸刃の剣だということだ。
その他で使えそうなのは何のひねりもなく奇襲攻撃くらいか? 防御方面に特化している為、これといった攻撃手段がない感じだよな~。まあその代わりにビゼル姫が攻撃に特化しているキャラになっているけれどね。
まだ時間には余裕があるので、もう少し正攻法で戦ってみようとボスを挑発しつつみんなとは逆方向へと移動して行く。僕なら敵の物理攻撃は全て受け切れると判断したからね。
グギャーーーッ
スライムに挑発されたのが余程腹が立ったのか、面白いようにこちらに反応してみんなに背を向けてくれる。見た感じこのボスはゾンビ系のモンスター、つまりアンデットであろうと考えられるのだけれど、一応怒ったりもするのだな。少しは知能が残っているってことだろう。
その後三十分程かけてボスの体力を削り続けたのだが、残りどれくらいの体力が残っているのかわからず、倒せるのかどうかわからなくなって来た。見た目で判断するのなら沢山ある手足のほとんどを破壊したり斬り飛ばしたりして、全身にもかなりの負傷を負って満身創痍といった感じなのだが、今だ倒れる様子もなく暴れ続けている。
『残り体力がどれ程あるのかわからないから、そろそろ腐敗の風を使うぞ!』
『わかったわ!』
ビゼル姫がそう言ってボスから距離を取る。彼女は敵から離れてしまうと大して攻撃方法がない為、これから先霧がはれるまでは戦力外になるだろう。リアルのように、物理も魔法もって強くなれないからな~。ビゼル姫の強さは、その長く生きて来た生い立ちによるところが大きいのだが、ゲームは全員同じだけの時間を消費して育っている。つまり両方を育てるとレイシアのように特化した力は得られなくなるのだ。
『風魔法の準備はいいよ!』
『私も、問題ないのじゃ』
レイシアとラデラ女王は霧が広がらないようにというのと、少しでも敵へのダメージとする為に風魔法の準備に入る。風で囲って霧を的確に誘導することで、味方の被害を防ぎつつ敵には完全な破壊の効果とする。まあ、ボスが風の結界の外に飛び出して来たら破られちゃうお粗末なものなのだけれどね。
だがおそらく足を破壊して回った為に突進攻撃が止んでいたから、ボスはまともに動けないだろうと予測できた。今なら風の結界内で確実な滅びを迎えることだろう。
『行くぞ! 腐敗の風!』
スライムのどこに口があるのか不明だけれど、ブレスのように腐敗の風が目の前に広がって行く。
『ウィンドストームじゃ!』
『ウィンドアロー』
ラデラ女王の風の嵐が腐敗の風と敵を包み込むように吹き荒れる中、範囲から漏れた霧をレイシアがかき集めるように嵐の中へと追いやる。よし! とりあえずは完ぺきな形でスキルが発動して、上手く連携して敵を霧で包み込むことに成功した。
風の嵐で視界が塞がれた為ボスの様子はわからないものの、意識を集中することでボスがまだ生きているのかどうかは判断することができる。それによるとボスの位置は変わらず嵐の大体中心にいると思われる。あれを食らってまだ死なないところはさすがボスって感じだが、そこでフッとボスの存在が消えたことが確認できた。名前がない空白の名前の者がいなくなったというのが理解できた。まあ、まだ霧の影響が残っているから死体を確認したり、素材を集めたりはできないのだけれどね。
やりきったって感じでみんなが集まり、攻略成功を祝おうとしていたその時・・・・・・おそらくは隠し部屋だろう扉の向こうから、マッドな格好をした研究者っぽい男が出て来た。ひょっとしてこの展開って・・・・・・
「お主らよくもわしのキメラを倒してくれたな。まあよい、それだけ強い冒険者だというのなら、こいつの相手にはちょうどいいかもしれんからな。せいぜい頑張るがいい」
いきなり出て来たと思ったら勝手なことをほざいて、おそらくラボと思われる隠し部屋らか新たなキメラを呼び出して来た。見た目は先程のボスとは比べ物にならない程小型で、確かレイミーとかいう小型恐竜のゾンビのような奴だった。
そいつは男の命令を受けて少し首をかしげて男の方を窺う。
「何をしておる、奴らを倒してこんか」
そう言ってレイミーキメラを足蹴にした瞬間、まあ予想していたけれどバクリと噛み殺されていた・・・・・・この手のマッドな創造主にはありがちな展開、ありがちな結末と言っていいだろうな~
まあそれはいいとして、男を殺したレイミーキメラはまだエサが足りないとでもいいたげにこちらへと顔を向ける。その瞬間危険感知のスキルが激しく反応したのだが・・・・・・
速い!
以前戦ったことのあるレイミーなどより遥かに機動力があり、あっさりとそのアギトに噛み付かれた僕は、びっくりした。まあダメージらしいダメージはなかったのだけれど、そしゃくのつもりなのか、その度にダメージが一ポイント来るのが何となく不愉快だ。まあでも、僕がかじられているおかげで、みんなが噛まれることがないのだけはラッキーだったかもしれないな。
それにしても・・・・・・あーそうかい・・・・・・おまえを倒して初めて完全なダンジョン攻略っていいたいのだな。だったらやってやろうじゃないか! そう改めて気合を入れ直すと、さっそく口の中に酸を流し込んでついでにい気功法の衝撃波を叩き込んで行く。
それを見たレイシア達も、慌てて戦闘に参加して攻撃を始めるのだけれど・・・・・・こいつの鱗は金属以上の防御力があるらしく、ダメージがなかなかな通らない。
硬いだけならまだしも、魔法の通りまでよくなかった。
これはさっきのボスなんかよりよっぽどきつい戦いになりそうだ。
これだけ動きが素早いと、レイシア達の攻撃もほとんど追い付いておらず、かといって空中へと逃げて距離をとっても、天井を支える為に乱立している支柱を足場に駆け上がって爪を振り下ろして来るので、反撃もままならないようだった。というか、逆にダメージを貰うことが怖い。
ならばと触手を伸ばし、支柱にこいつを固定することでその機動力を削いで行こう。
作戦としては結構いい線いっていたと思われるのだけれど、鱗が硬過ぎて僕しかまともにダメージを与えられていないようで、もたついているうちにみんなの時間が尽きてしまった・・・・・・
あー、みんなが攻略できていないダンジョンを、僕だけがクリアするっていうのもまた無粋になるよな~。そう考えると名残惜しくはあるものの、そのまま僕も強制ログアウトで帰還することにする。おそらくあれを倒せばクリアだと思われただけに、非常に惜しい冒険だったよ。
実際ゲームセンターから帰って来たレイシア達も、余程悔しかったのかかなり地団駄踏んでいた。
「あーもうあーもう! あれ絶対あの敵を倒していたらクリアだったんじゃないかな!」
「まさか、あのような場面で時間切れなど、なぜあんなチビの一匹くらいサクッと倒せなかったのかと思うと、辺り一面焼き尽くしてやりたいわ!」
「やめい!」
ビゼル姫がいうと冗談ですまないから怖い。それに僕もかなり悔しかったからな!
「落ち着け、今度美味いものでも食わせてやるから・・・・・・」
「ほんとだろうな! 絶対美味いものとやらを味合わせてもらうわ!」
悔しさを食欲にでも切り替えたのか、食い気味でそういい寄って来た。まあ実際何かしら対策でも立てなければ、何度でも同じような目に合いそうだからな~。明日再戦って訳にもいくまい。
「私も食べたい!」
レイシアもこう言っていることだし、まあ残念会って感じでちょっとしたお疲れ様のお茶会でも開けばいいだろう。ラデラ女王も呼んでね・・・・・・
「ああ、今度対策会議でも兼ねて、残念会にお茶の場を作ろう」
「ラデラ女王も呼んで、お茶会か~。いいかもね!」
「ふむ、まーあのダンジョンならそうそう誰かに先を越されることもないわ。わらわもそのお茶会に参加させてもらうわ」
「ああ、美味しいおやつでも用意しよう」
そう言うと二人そろってキラキラした目をこちらに向けて来た。どうやら悔しい気持ちは食欲に負けて、完全に収まったようだな。ならば期待に応えるべく、新作おやつでも用意しておこう。そう考えるのだった・・・・・・




