異世界にも、だいぶ慣れてきたな~
ブレンダ以外にまだまだ不安が残るパーティーなので、しばらくの間は大物の討伐を控え自分達の実力に似合った相手の討伐をする方針で、ギルドのクエストを進めていくようにパーティーの方針が決った。
その間僕はほぼ見ているだけで、危険がある場合だけ手助けするってことも決まった。まあギルドの受付の人には、微妙な顔をされたけれどね・・・・・・
その後何度かの討伐クエストを繰り返すようになって、メンバー全員の実力もだんだんと付いて来たのか、レイシアは初級の魔法をそれなりといえるくらいには使えるようになり、フェザリオも攻撃魔法を扱えるようにまで成長して、パーティーとして全員がまともに戦えるようになって来た頃、ブレンダが学校の食堂でこういう発言した。
「さて、そろそろみんなの実力も付いて来た頃だから、いよいよミノタウロスなどの大物と戦いたいと思います」
「うん、バグなしで、私達だけで戦って倒したいところだね」
レイシアが直ぐにそれに賛成した。
「そうなると、俺が前衛としてミノタウロスと正面から向き合うことになるのか・・・・・・正直、まだ自信がないかな」
ランドルは正直まだ早いって考えだな。まあわからないでもない。僕が下す評価としてもまだ早い気がするからな。
「ランドルは盾職なのに、正面からぶつかり過ぎなのだよ。相手の攻撃を盾で受け流すようにすれば、真正面から殴られるよりはまだ耐えられると思うのに。ミノタウロスと力比べって、どんなベテラン冒険者目指しているのだよって言いたいな」
僕は少し飽きれ気味にそう言う。
実際こっちも小説などの知識のみの、ド素人だからそこまで偉そうなことも言えない立場だろうけれどね。
「なるほど、確かにあんなのと力比べなんて俺には到底できない話だったな。そうなると技術でそれをカバーする方法を考えなければいけなかったってことか」
ランドルはしきりに頷きながら、頭の中でシュミレーションしている感じかな。
その横でフェザリオがこちらを見て自分にも何か助言してって感じで、視線を送って来ていた・・・・・・
回復系への助言って何だ? そんなにスライムをあてにするなよって言いたいよ・・・・・・
「そうだな、フェザリオの場合は、パーティーメンバーの体力把握と後方の警戒、全体を見てみんなへの指示などやればいいんじゃないか? 正直怪我人が出るまでは出番って程の出番もないし、下手に攻撃魔法を連発されるといざって時の治療が出来ないだろうから、今やっているブレンダの指揮を引き継いだらいいと思うぞ」
「確かにそうですね。では状況判断力を鍛える感じで、少し戦術的なものを先生から学んで行くことにします」
まあ本人が納得したならそれでいいか。
こっちもド素人だから、これ以上の助言もないからな。
「じゃあ悪いけど、少し盾の扱いを練習する時間をもらえないか? 先生からも指導を受けて、もう少し盾を上手く扱えるように努力してみたい」
「そうね、ミノタウロス相手なら万全な準備をしておいた方がいいだろうし、各自スキルアップの時間を設けましょうか」
そうブレンダが締めくくり、今回のミーティングは終了した。
レイシアとブレンダは、翌日から魔法の上達を目指して自主訓練をし始めたので、僕もそれに付いて行って側で見ていることにした。
「なあ、前から思っていたのだけれどLVっていうか、自分の実力を目で見てわかるようにしたものみたいなのって、何かないのか?」
二人が休憩に入った時に、そう切り出してみる。
よく考えたら、ゲームなんかでよくあるステータスみたいな存在があると、これ程便利なこともないように思えるけれど、今のところそういったものは見たことがない。
「そうね、LVっていうのはよくわからないけれど、そういう自分の才能とか今の自分の実力なんかがわかれば便利よね。日々の努力が実っているのがわかるっていう点でも、そういうものがあると気合が入りそうね。
バグはいろいろ物知りだね。私にはそんな発想すら出て来なかったよ」
ふむ、やっぱりそういったものは存在していないのか。
魔法があるのだから、そういう技術みたいなものがあってもいいと思ったのだけれどな~
今まで最弱のスライムの身で、ミノタウロスとかいろいろモンスターを倒して来たので、LVの概念があったらスーパースライムみたいになっていそうだったのだけれど・・・・・・
後、僕と主従関係にあったレイシアも倒した敵の経験とかが伝わったみたいだから、LVに相当する何かがこの世界に存在はしていそうだよな。いっそのことその手の魔法道具的な何かを、作ってみたりするかな?
今の僕なら魔法スライムっぽいので、何かしらの魔道具くらい作れそうな気もする。まあ駄目元でそういう暇つぶし的なことでもしてみよう・・・・・・
はっきりいってみんなやる気で修行していて、僕だけぶっちゃけると暇だし何かしらしたくなる・・・・・・じっとしていられないよね~
まずぱっと出て来る発想では水晶玉にデータが浮かぶってのと、冒険者カードみたいな物に能力値が浮かび上がるってやつだな。カードの方はさすがに構造がよくわからないけれど、水晶の方なら手をかざして相手の魔力とかから、能力値を分析などしたらいけそうな気がする。
なのでとりあえずは、水晶玉の入手から始めるか。
「ブレンダ、掌位の大きさの水晶玉って手に入らないか?」
「うーん、それなりの値段はするはずだけど、手に入らない事もないわね」
「ちょっと実験したいから、買って来てくれないか?」
「さすがに即答できる程安い買い物でもないから、難しいわね。私に何かしらメリットがあれば、お金を出してもいいけれど」
「上手くいったら、技術とかそういうものをそのままブレンダに譲るっていうのはどうだ?」
「実力を測る技術か。正直、成功率次第って感じね。どれだけのメリットが見込めるのか・・・・・・」
「あー、悪いがそれは予測不能だな。何よりまず、自分の能力を把握したいって感じだ」
そもそもが、僕に魔道具を作る能力があるのかどうかから不明だしな~
「ブレンダ、その水晶玉を買うと、どれくらいの値段になるのか、教えてもらえないかしら?」
唸っていると、レイシアがそう聞いた。
「そうね掌位の水晶玉って話だから、金貨で十枚くらいはすると思う」
レイシアがうわーって顔をしているところを見ると、それなりの値段らしいな。この世界の金貨の価値なんか、わからないけれど・・・・・・
そうすると、直接水晶を取って来るとか、そういう方法も考えなければいけないのかな?
「じゃあブレンダ、ここの近くで水晶が取れる場所ってないか?」
しばらく悩んでいたブレンダは、思い出したように顔を上げる。
「確かツインヘッドスネークの生息する洞窟で、水晶を見かけたって人がいた気がしたけど。結構前の話しだから今もあるかわからないかな。それと敵もそれなりに厄介だから、そんなにお勧めは出来ないと思う」
「一応念の為、ここからだとどれくらいでその洞窟に行ける?」
「そうねー、学校からだと、馬で二日くらい南に行った山脈沿いの中腹辺りにある洞穴かな」
そこまでは遠くなさそうだな。ただ、人間だった場合だけれど・・・・・・
スライムだと、馬を使う事もできないから歩き?
何ヶ月かかるかわからんからこれは無しだな。魔法が使えるのだから、空を飛んで行くっていうのはどうだろう。
「フライ」
試しによくある空を飛ぶ為の魔法を使ってみた。特に問題もなく体が浮くのがわかる。
「ちょっとバグ! 貴方ほんとに何者なのよ。飛行魔法なんて伝説級の魔導師じゃなきゃ、使えないわよ!」
「よくわからん、とりあえず飛べるみたいだからちょっと行って水晶を採って来るよ」
呆然とする二人をそのまま残して、早速南に向かって飛んで行くことにした。
ついでに上空からここら一帯の地形なんかも確認とかできるし、結構やれる事がいろいろとあるものだな~
馬で二日という話だったか、山脈まで飛ぶのにかかった時間は大体六時間くらいだと思う。
そこから洞窟を見付けるのに二時間くらい、それなりの時間がかかってしまった為、辺りはすっかり真っ暗になっていた。まあ洞窟の中は元から真っ暗闇なので、そういう意味ならいつ洞窟に侵入しても問題はないのだけれどね。
「ライト」
この呪文もまあ定番の明かりの魔法だろう。しいていえば、僕自身の体が光っている為に光るスライム? 蛍光スライム? そんな感じになっているのかな。
普通なら何かしらの装備品とかが光るのだろうけれど、何も持っていないからね。
洞窟の中に進入して直ぐわかったのだけれど、この洞窟はあちこちに蛇が潜んでいるみたいで、そこかしこから蛇の気配が漂って来る。
ただこちらに襲いかかって来る蛇は、今のところいそうにないな。ちなみに、地面を歩くと時間がかかりそうだったので、引き続きフライで飛んでいる。
そんな僕をたまに蛇が見上げて来たり、岩の隙間なんかに潜り込んでいる蛇なのか小動物なのか、じっと見て来るのがわかる。
犬猫もそうだけどこういう時って、こいつら何を考えてこっちをじっと見ているのだろうって、よく考えていたな。
どれくらい洞窟の中を飛び回った頃だろう。
シャー
不意に天井付近から大蛇って感じの蛇が襲い掛かって来るのがわかった。
頭は二つ無いので、アナコンダとかそういう普通の蛇だと思う。
「ウィンドカッター」
慌てず魔法を発動して襲って来た蛇を迎撃、そのまま細切れの蛇を空中で体内に納めて、ついでの食事にしてしまった。
結構長い間活動していたので、丁度お腹も空いていたしね。
周りの蛇はその行動で危険と判断したのか、警戒して近寄らなくなった。
結局ツインヘッドスネークとやらには出会うことなく、目的の水晶がある所に辿り着いたのは、洞窟に入ってから大蛇に出会うまでの倍の時間が経ってからだった。
周りへの警戒や地理に詳しくない為に結構な時間がかかってしまったけれど、それなりの大きさの水晶を見付け、周りの岩を溶かす事で状態のいい水晶が手に入ったかもしれない。
傷付けない様に体内にそれを納めて、でかい蛇にだけ注意しながら入り口へと戻った。
学校へと飛んで帰りながら、結局蛇に襲われたのは一度だけだったなって思いつつも、ホクホクと満足しながら帰路に着いた。
「たっだいまー」
水晶の重さの分飛行速度が落ちていた為、ほとんど丸一日かけての冒険だった。
「バグお帰り! 心配したよ~」
レイシアが抱き付いて来た。
どうやら無事に帰って来られるか、そもそも帰って来てくれるのか、かなり心配していたようだ。僕はもうレイシアの下僕じゃないからね。そりゃあ心配にもなるのかもしれないな。それにしてもスキンシップが過剰な気もするのだけれど、そこは異性というよりはペット感覚なのかもしれないな。ちょっとドキッとしてしまったよ。
「結局ツインヘッドスネークとやらには、会わなかったよ。でかい蛇には、一度だけ襲い掛かられたけど返り討ちにしてご飯にしちゃったら、それからはこっちに近付こうとさえしなかったな」
「それは蛇には衝撃的だったでしょうね」
ブレンダが、若干ホッとした表情を苦笑いに変えてそう言った。
「とにかく無事に戻って来てくれて、よかった」
レイシアが改めて、安堵したっていう感じでホッと呟いた。
「そんなに心配することないぞー。それより自主訓練に戻ったらどうだ?」
「そうね、そうしますか~。それはそうとその水晶、玉に加工しないとですわね」
ブレンダがそう言いながら訓練に戻り、どこに頼もうかとかいろいろ考えているみたいだった。
「うーん、それだけれどな。とりあえずはこのまま水晶柱でもいいかなって思ってね。このままで初めは試してみるよ」
「そう? まあ、加工だけならそこまで手間賃もいらないと思うから、必要なら言ってね」
「あいよー」
適当に返事して、二人からちょっと離れた木陰で水晶と向かい合った。
球状に加工した場合、最終的にはカードのようなものにして能力を記録したいと考えているので、すわりが悪い気がしたのだ。作業している間に転がって行ったりしたら嫌だからね。
なので、かえってこのまま柱の状態で試していこうと思ったのだ。
まずは能力値の情報を作るシステムのイメージから始めるかな。これはそこまでは大変じゃないだろう。
なんたって僕は異世界のゲーム世代なので、その手のステータス表示にはよく慣れていた。
まずは基本HPとMPだね、後はゲームによるけれどSTがあるかどうかかな。
HPは体力又は生命力。MPは魔力又は精神力って感じで、STはスタミナだね。
能力値としては、力、敏捷、知力、器用度、魔力こんなところで、防御力とかに関係する体力、魔法抵抗に関係する精神力。まあ簡単にここらへんを数値化したら、大体いいんじゃないかな。
能力値以外だと後はスキル、使える技、魔法なんかだろうね。
職業とか身分、そういうのは多分後付になるので、カードに記入する時に書き込むって感じになるかな。
さて問題はこれらの能力を水晶が引き出してカードに転写するシステムが出来るかどうかだな。
ここからは、段階的に魔法の開発をして行こう。まずステータスを知る魔法の開発、当面は自分かな。それが出来たら他人のステータスを知る魔法に移って行こう。
僕は、二人の横で魔法の開発をしながらみんなが修行を終えるのを待つことにした。
水晶を手に入れた日から六日くらいして、ランドルの修行が終わったみたいだった。
「みんなすまない、結構待たせる事になってしまったな」
そうランドルが謝罪する。
今僕達はギルドでクエストを受ける為、移動しているところだった。その道中軽く近況報告をしながら修行の成果とか何をしていたのか、今日のクエストについてとかいろいろと話していた。
「そういえば、バグの方はその後進展あったのかしら? あれから何も言って来ないけれど」
ブレンダがそう言って、こっちの方を見て来る。みんなはそれぞれクエストの準備をしていたが僕は特にそういうのはなかった為、他の人は何も聞いて来なかった。
レイシアは、進展あれば話してくれるだろうって感じかな。
「まだ前段階の魔法の開発のところだよ。数字化の部分で細かい調整って感じかな」
「おいおい、新魔法の開発とか、どこかのお偉いさんの魔導師みたいな話か?」
ランドルが驚いた声を出した。
「いったい何を開発しているのでしょうか?」
フェザリオも興味があるって顔をしながら、教えてくれるのかなって感じの声を出す。
「うーん単純に言えば、みんなの個人の能力を数字にしてわかりやすい状態で見てみようって感じなのだけれど」
「よくわからないな、それがあると何か便利なのか?」
ランドルには、よくわからなかったようだ。
「要するに私なら魔法の勉強をして、今その勉強がどのくらいの状態か判断できたりするって感じだと思うわ。その状態次第では、一つ上の魔法も覚えられるとかそういう判断ができるものだと思うのですけれど」
ブレンダがそう言って、自分なりの解説をする。確かに、次の魔法を覚える為の指針には出来そうだよね。
「まあ、まだ開発途中だから今はなんとも言えない感じだと思う、実際にできるかどうかもまだわからないし、できたらどんなものか見せるよ」
「ほー、まあ、楽しみに待っているよ」
ランドルは、よくわからないけどそのうちわかるかって感じで話を切り上げた。ちょうどギルドにも到着したしね。




