カラント平原・6
ピッツァ・マルガリータを通り越して、ボロネーゼな現場からお届けしております。
スンドゥブとトムヤムクンでも可。よーするに赤くてゴッチャリしてる。
赤い料理って他に何あったっけ?
これ、ホントにどーすんのかなぁと眺めていた所、右さん左さんがいつの間にか居なくなってる事に気が付いた。
んで、しばらくして。
右さん左さん、戻って来ました。
彼等を引き連れて……。
優雅に飛空する--右……左……どっちだ!? まあどっちでもいーや。とにかく怪鳥が一羽こちらへと向かって来るのが見えた。
青さんの頭上ポジションなためよく見渡せるのだ。
それは勿論、お空だけでなく地上もまた同じく。だからすぐに気が付いた。怪鳥を追いかけるように、平原の遥か向こう、地平線からの草の緑色が濃くなっていく事に。
え、ナニコレ怖い。
何か沢山こっちに来るなー、心なしかドドドドドドドドって聞こえてきたなー、え、何この振動。
青さんは座り込んでぼけっとしている。
貧乏ゆすり、はしてない。
つまり、地面が揺れてて、青さんから頭に鎮座する自分に振動が伝わってると。
……ヌーの大群?
いや、やっぱ緑色しか見えないよ? 何が来るの?
ヒィッ! 緑色がゾワゾワ動いてる!?
それは、人型をした緑色の魔物だった。
小さい体。大きめの尖った耳。濃い緑の肌の色。青さんと同じく腰巻きファッション……それも緑色。
頭には申し訳ほどの緑髪。……そして、つぶらな瞳。
二度見した。……つぶらな瞳。
あれ?
何か可愛くね?
「「「キュピー」」」
声まで可愛い!?
ソイツらは綺麗に青さんの前に整列すると、「キュー」だの「クピー」だのと暫くざわついていた。
その数………分からん。四百は越えてる?
先導していた怪鳥と、集団の後から付いて来てた怪鳥が合流。右さん左さんの帰還だ。
うーん、この集団の護衛してたって事? 先導しつつ?
緑小鬼……ゴブリン? 何か可愛いし、イメージと違うけど。
青さんが立ち上がる。ピタリ、とざわめきが止まった。
手近な闇狼を一体、青さんが持ち上げた。ゴブリン集団へと差し出す。
それを見たゴブリンの一匹……一体? が前に進み出た。
恭しくお辞儀をする。
「キュピー!」
ゴブリン語分からんし。
だが青さんには通じたらしい。
「ん」
頷いた……って声初めて聞いたよ!?
声出たの!?
そっと青さんが闇狼を下ろす。最初に前に出たゴブリンと、更に九体のゴブリンが出て来てそれを受け取った。
「キュー!」
すると残りのゴブリン達が一斉に散らばった。辺りの闇狼の死体にわらわらと集り始める。
およそ狼一体にゴブリン八~十体が取り付くと、せいのっとばかりに持ち上げた。手が余ったゴブリンはその周りを取り囲む。
ちなみにボス狼はゴブリン三十体程で、どうにか持ち上げていた。
んで、移動開始。
青さんもゴブリン集団の後を追って歩き始める。右さん左さんが肩に舞い降りた。
……どこ行くんだろね?
野を越え丘を越えやって来ましたジャングル地帯。
いかにも『Danger!』、『入るべからず』なヤバげな森が自分の目の前に広がっている。
どんなふうにヤバいのかって?
入り口に食人植物生えてました。
食虫じゃないよ!
サイズでけぇ!
ゴブリンさん四、五匹……体……もうちっこいので匹でよくね? くらいは入るウツボカズラがすぐそこに。
中は……何も入って無いな、よし。
骨とか残ってたら怖い。すると青さんが無造作にウツボカズラを掴む。
ぶちっと引っこ抜いた。
え。
すでにゴブリン集団は森の中へと入っている。安全のためにむしった訳ではなさそう。何故に?
と思ったら。
ビールジョッキばりに青さん、ウツボカズラをあおった!
ぷはー、と満足げに息を吐く。
え。
お酒なの?
青さん、更に数本のウツボカズラを引っこ抜き、小脇に抱える。
何やら上機嫌だ。
やっぱお酒?
この世界って、お酒が自生してるの?
そんな自分の疑問を置き去りに、青さんは森へと踏み込む。
どこもかしこも、青さんよりデカい木ばっかりだ。
青さんの頭に乗っかっていて尚、見上げるばかりの森が広がっている。
なんとなーく、熱帯植物っぽいものが多い。
自分、暑さ寒さって感じないから、今まで気付かなかったんだけど。
青さん、腰巻き一丁です。
寒くはねーよな、そりゃ。多分暑い方?
ゴブさん達も腰巻き姿だし。
初めて知った新事実。もしかしたら雪が降らない地域なのかも。
まー、ファンタジー世界だから分からんが。
前を行くゴブリンさん達は、平原と森を往復しているはずなのに、あまり疲れた様子は見えない。
体力あるな、ちっこいのに。
闇狼の運搬は、それを見越してなのか交代要員がいっぱいいたし。実は頭いーのか?
……いや、慣れてる?
ひょっとして、よくあるコトなのか?
ゴブリンさん達の青さんへの態度を思い出してみる。
うん、超尊敬してるカンジ。
これは………親分子分の関係か?
強い奴が弱い奴を守るぜ! みたいな?
青さん………清水の次郎長だったのか!
ヒモになってて良かった!
今後は安泰だな! 流石は自分、見る目がある!
おぅふっ。
枝に引っ掛かって落っこちました。
ふっ……油断してたぜ。
この見る目あるある超ぷりちー天才マスコットスライムな自分、これしきの事でダメージなんて無いけどな!
青さん気付かずに先行っちゃってるけどな!
そこへそっと手が差し伸べられた。
緑のちっちゃな手が。
「キュー?」
ゴ、ゴブリンさん!
後光が……見える、見えるよ!
ええ子や、ホンマええ子や!!
ってな訳でゴブリンさんに運んでもらう事になった。
そして。
二本の木と緑の蔦が絡むようにして出来たアーチをくぐると……。
そこはゴブリン村だった。
川端康成の「雪国」風で次回へ続く。