バーンドン国《オーグルの街》・2
---それは暗い暗い闇の中。
冷たくて、固くて、窮屈で。
もう身体は動かす事が出来なくて。
何かが、ただただ身体から抜け出していく。
酷く重い、黒い、何か。
駄目だ。
とても悪いモノだと分かる。あれは周りに悪影響を与えてしまう。
それでも、どうする事も出来なくて。
呼んだ。
ずっと、呼んでいた。
---やっと、応えてくれた。
………。
………?
不思議な夢だった。
目を覚ますと、何故かレッドさんの髪の毛に埋もれてた。流石は鳥の巣ヘア。
卵になった気分です。
にしても、夢を見たのは久しぶ………あれ?
……もしかしなくても、生まれて初めてでない?
夢見たの。
何てこった。
これぞ正に初夢(違う)!
一富士二鷹三なすび。
どれも出てこなかったよ!
残念!!
レッドさんの髪からスルリと抜け出して、ポヨンとベッドから飛び下りる。
あ、ウノさん起きてた。おはよう!
ポヨポヨと近くに行くと、撫でてくれた。いい人。
大きな街では宿に泊まった時に、馬車の見張りはしないらしい。
よくウノさんが見張り番してるんだよね。昨夜は部屋で眠れて良かったね!
ウノさんは既に身支度を整えていた。早起きだ。
次に起きたのはトレスさん。間を置かずティーさんも起床。
レッドさんはティーさんに頭をはたかれて、やっと起きていた。
支度をしてから食堂へ。
その際、鍵付きロッカーに入れてあった荷物はそのままだった。
ほほう。やはり、すぐには街を出ないんだな。
いつもなら、荷物も持って部屋を出るからね!
自分の予想、大当たり!
朝食を取る。みんなパンをスープに浸して食べている。そのままだと固いみたい。
そういやフワフワパンはまだ見た事ないな。
平べったいかガチガチか、どっちか。
多分、自分もパンは食べれるとは思うケド、できればフワフワが良いです。贅沢?
ちなみに、自分はサラダを単品注文。勿論ドスさんが。サンキュー☆
最初に席を立ったのはトレスさんだった。商人さんに何か言う。
頷き返されると、食堂を出て行った。二階の宿泊部屋に続く階段を上がった様子はない。
支度をしてる時に、サイフを懐にしまってるの見たから、そのまま買い出しに行ったんだろう。
サイフは流石にみんな、身に付けていた。泥棒怖いもんね。
次にティーさん、レッドさんが席を立つ。手を軽く挙げ、商人さんに声を掛けてから、食堂を出て行っ………。
戻って来た。
「---!」
慌てたように、自分を拾い上げた。ティーさんの肩に乗る。
……今、忘れてたよね?
街は朝から活気に充ちていた。
宿屋を出る前に、二人は店員さんに何かを尋ねてるみたいだった。
迷う様子もなく歩いてるから、道を訊いてたのか。
街の人達の格好は、フリジア国と大差なく、国が違うからと言って、文化まで物凄く変わるモノでもなさそうだ。
思えば言葉も一緒なのか。ティーさん達が普通に喋ってるんだし。
もっとずっと遠くでないと、言葉や文化の違いってモノは出てこないのかな?
やっぱり大陸は、広い。
見覚えのある看板が目に入った。
猛禽と剣。冒険者ギルドのマークだ。
二人はその扉を開けた。
もの凄い視線が集中した。怖っ!
大半はすぐに逸らされる。この街の冒険者達か。
一旦は目を逸らしたのに、何故か二度見してくる人がいる。しかもその視線は自分に向かってた。
コンニチハ! スライムです。
プルプルと震えてみた。
ギルドの中は、以前の所と大体似た造りで、カウンター、テーブル席、依頼の掲示板があった。
ちょっと違うのが、テーブル席が飲食店、つまり食堂になっていた。奥を見れば、食堂用のカウンターと厨房がある。
朝食をそこで取る冒険者は多いらしく、席は埋まっていた。さっきの視線も、半分はここからだ。
残り半分は掲示板周辺から。今はもう、視線は感じない。
カウンターに向かう。………ん?
書類を整えてる受付のおねーさん? が………うん?
頭に、何かが付いてる?
おねーさんが顔を上げた。
可愛い系の顔立ち。肌は白い。……不自然なほど、白い。
よく見たらそれは白い産毛で………コメカミから額にかけてが特にびっしりと生えていて。
更に視線を上げると。
おねーさんの頭には、二つの獣耳が生えていた。
ケモ耳キターーーーーーーーー!!!
凄い! やっと来た! 獣人! ケモ耳!!!
自分、大興奮。
ポヨンとカウンターに飛び下りる。
初めまして!
獣人さん、会いたかったです!
ファンタジー代表、夢とロマンに満ち溢れたそのケモ耳、是非触らせて下さい(失礼)!!
ポヨポヨとアピール!
一瞬だけ目を丸くした獣人さんは、そんな自分を見てクスリと笑った。
やだ、この人カワイイ。
「---?」
獣人さんがティーさんとレッドさんに声を掛けた。フリーズしてた二人が、ハッとしたように再起動。
さては二人共、ケモ耳は初めてだな?
フリジア国には全然いなかったもんね!
軽く頭を下げてから、二人は獣人さんと話し始めた。
またも視線が集中してるような?
自分が周りを見ると、チラチラとこっちを気にしてる男性冒険者が複数名。
あー、これはアレだな。
獣人さん、モテるんだな。
この視線は、きっとそうだ。だってカワイイもんね。
しかもケモ耳。
せっかく近くにいるので、じっくりケモ耳を観察。
形は三角形で猫耳っぽい。もしくは日本犬のピンと立ったヤツ。
真っ白い毛に覆われていて、薄く地肌が透けて見える。
触り心地は抜群に良さそう。
耳と産毛は白いケド、髪の毛は濃い茶色だった。
まあ縞模様とかブチとか三毛とかあるし(それ猫)、髪色と耳色が違っててもおかしくはないのか。
獣人さんが引き出しから紙を取り出した。地図のようだ。
ティーさんがお金を払って、それを受け取る。
カウンターに広げた地図を指差しながら、何かを確認してるみたいだった。
ここには情報収集に来たのかな?
しばらく話した後、地図をティーさんが懐にしまう。自分も持ち上げられて、肩の上へ。
「---」
ヒラヒラ手を振り、獣人さんが笑顔で別れを告げていた。自分もプルプル震える。
じゃあね! カワイイ獣人さん!
ふとレッドさんを見ると、ぼーっと獣人さんに見とれていた。……わ、分かりやすいな。
ギルドを出てすぐその頭をティーさんがはたき、正気に返ったレッドさんと今度はお店を見て回った。
食料、薬、あと鍛冶屋に寄って武器を見たり。ティーさんが投げナイフを五本購入。
戦闘後は拾ってるケド、やっぱり痛んだり無くなったりするんだろう。
それから宿屋に戻った。
トレスさんはまだ戻って来てなくて、ウノさんだけが部屋にいた。
荷物を置いて、二人がウノさんに話し掛ける。
ウノさんは何かが面白かったのか、いきなり笑い出した。レッドさんの顔が赤いから、ギルドでの事を話したのかもしれない。
しばらく三人と自分は、部屋でワイワイやっていた。
扉をノックする音。
ウノさんが開けると、ドスさんが恨みがましそうに立っていた。
もしかして、商人さん達の部屋でお留守番だった?
乱入してきたドスさんも加わり、みんなでお喋り。
あー、自分も話せたらなぁ。
ちょっぴり残念。まあ、十分楽しいけどね!
その日は夜までのんびりと過ごしたのだった。
獣人さんが初登場。
この国辺りから偏見や差別は少なくなってるので、ギルドが後見として獣人さんの雇用を試してたりします。




