《フィリクス商会後継》
もはや一日休んだようなものですね(開き直った)。
頑張れたらあとから一話投稿予定です。
ラブルホンを仕留めた翌日、商会一行と冒険者達は村長の家の前で出発準備をしていた。
商会の後継者であり、この一行の主人でもある彼は、馬車の荷台に上がり、積み荷の整頓をしていた。荷台には小さな魔物--スライムもいた。
ポヨポヨと跳ねながら、彼が開いた袋の中を覗こうとしている、ように見える。
実際の所スライムが何をやっているのかは分からない。知能は有るようだが、どうやって物を認識しているのかも不明だ。
だが後継は、スライムが中身を見たがっているのだと判断して、頓着無く袋を下に置き、よく見えるようにしてやった。
袋の中には色とりどりの石が詰まっている。大きさは小指の爪から手の平に包み込めるまで。角が無く丸っこいフォルムだが、綺麗な球形ではなく、歪な物が殆どだった。
後継は手に持っていた、親指大の紫紺の石をスライムに見せた。
「これは昨日のラブルホンの魔石だよ。この袋のも、全部そう」
スライムはプルプルと震えている。果たして聞いているのかいないのか。
「魔石は色々と便利だからね。需要が多いんだ。ただピンキリだから、ある程度は選別する」
これは良い石だからこの中だ、と手の平の魔石を袋に落とした。
魔石---魔物が体内で形成する魔力の塊。それを持つ魔物自身には魔石の恩恵は無い。自然に作られる、瘤のような物。
だが他者---人や捕食者からは、その魔石にこそ価値が在った。
弱肉強食の魔物同士の戦いでは、勝者は相手の魔石を食らう。魔石はすなわち、相手の魔力を凝縮させた、最も滋養のある部位なのだ。食らえばその魔力が己の物となる。
人の場合は、魔石を道具として使う。例えば--身近な物では照明具。殆どの店舗や宿で使用されるようになったそれは、魔石の魔力を使って光を放つ。灯りのために火を使わなくなった事で、火事の危険が減った。それ以外にも、発熱や冷却等の道具類に魔石は使われている。
また強力な魔石であれば、魔法の触媒にされたり、武器防具の材料にもなった。
今回のラブルホンの魔石は、品質としては中の上。同種の魔物でも個体によって魔石の質には差がある。恐らくあの魔物は、この辺りのボスに近い存在だったのではないか、と後継は考えていた。
ギニジ・ギリバ国は内乱の絶えない国である。そんな国は商人達も自然と避ける。当然のごとく物流は滞り、国は痩せる。土地は荒れ、人心も荒む。
ここのような辺境の村であれば、村ぐるみで賊行為に走る事も少なくない。
村長宅に泊まった最初の晩、世間話程度に村の話を聞いた。若い男は徴兵や出稼ぎで出払っている、おかげで村の防壁を直す事すら出来ない。
それがどこまでを意図しての言葉だったのか。
後継が多少の危険を承知で、この国を迂回せず、突っ切るルートを選んだのは、単純に輸送費を抑える為である。移動距離が伸びればその分、商品の値を上げざるを得ない。
旅の途中に立ち寄る村が魔物の襲撃によって滅びれば、その分休憩が取れなくなる。危険も増える。
防壁の補修くらいならば、恩を売るにしても軽い方。幸いこちらは男手ばかり、今後も立ち寄る可能性を思えば無報酬でも出来なくはない。
---そう考えるのを見越しての、村長の迂遠な要請だったのではないか。
ただ---後継は更に突っ込んで考えた。本当に、人手が足りないだけなのか、と。
防壁に使う石は、村からそう遠くない山にある。女や年寄りであっても、補修をやろうと思えば出来なくもないのでは?
自分達の村を守る為の防壁である。多少苦しくとも、時間を掛けて直していけば良い。それが出来ない、出来ていないというのは、何か、別の要因が有るのではないか。
真っ先に考えたのは魔物の存在だった。
その予想が正しければ、村長の言葉はかなり悪質なモノへと変貌する。
何も知らずに山へ向かい、魔物と遭遇---無事に倒せたとする。村は魔物の存在を知らなかったのだと言い張ってしまえば、退治して貰った対価を払わずに済む。
逆にこちらが倒されてしまった場合。後継達の荷物は、村が丸ごと手に入れられる。生き残りがいたとしても、村人総出で殺してしまえばよいのだ。
後継はそこまでを考えた上で、全て飲み込んで盛大に恩を売りつける事にしたのだ。
後継の配下である護衛達は、腕利きのハンターでもある。現にフリジア国では、ギルドを通す事なく自分達で魔物を狩り、素材を集めていた。ある素材だけは、希少な物だけにギルドに依頼を出したのだが。
冒険者のレベルとしてはAランクに届くのではないかと後継は思っている。
生半可な魔物であれば、返り討ちなど造作も無い。それだけの信頼があった。
結果として、ラブルホンは討伐成功。村長に対しても、村人の証言によって追及し、非を認めさせた。
対価、もしくは賠償としての金品は貰わず--そもそもこの村にそれだけの値打ち物は存在しないだろうが、代わりに村での安全が保障される事となったのだ。
勿論、完全には信頼出来るものでは無い。だが、こちらが村に益をもたらす存在で在り続ければ、裏切られはしまい。
その程度には信じられた。
魔物素材として、ラブルホンの魔石と大角だけはこちらが貰い受け、残りは村に与えた。その大角をしまうべく木箱の空きを探す。スライムは相変わらず側でプルプルと震えていた。
ラブルホンの討伐に協力して貰った二人の冒険者は、後継が対価を払おうとした所、それを断ってきた。途中までの同行とは言え馬車に乗せて貰っている事、宿泊費等も後継の世話になっている事を挙げ、無償で構わないと言ってきたのだ。
冒険者ならばもっと貪欲でも良いだろうに---後継の顔には自然と笑みが浮かぶ。
お人好しではある。今回の事も、薄々感づいているようだが、村に対して嫌悪は抱いて無いらしい。逆に率先して防壁の補修に精を出していたそうだ。気持ちの良い二人組だ。
ギルドの紹介を受けて正解だったと言えるだろう。今後も付き合っていきたい相手だった。
木箱の中を覗いてはポヨンと跳ねたり震えたりしているスライムを見て、ふと呟いた。
「スライムに魔石は無いんだよねぇ……。変異種の魔石って、結構高価なんだけど」
それを聞いた途端、ビクリとスライムが震え上がった。---言葉が解っているのだろうか?
まるで逃げるようにポヨポヨと移動し、馬車から飛び下りてしまった。思わずクスクスと笑う。
続けて後継自身も荷台から降りて、その場の全員に告げた。
「さあ、出発しよう」
そして村を出た。
結構危険な旅路でした。説明回は難しい。
つまりは狸爺(村長)よりも上の狸(商人さん)だったと言う話でした。




