ギルド《フリジア国マルカ支部》・5
夜中の二時頃までは、前日にカウントしてもよいと思う(またか)。
次の日の事。
いつもの様にカウンターで招きスライムをしていたら、奥の階段から誰かが降りて来るのが見えた。
二階の、多分お偉いさんを見るのは、これで二度目だ。
降りて来たのは、眼鏡をかけた黒髪のおっちゃん。
中肉中背で管理職っぽいその姿は、ギルド初日に見掛けたのと同じヒトだった。
真っ直ぐカウンターまで来ると、まずは自分をナデナデ。毎度ありがとうゴザイマス。
それから受付のおねーさんに何事か話した。
おねーさんが書類の一束をおっちゃんに手渡す。
……おねーさんも黒髪なんだよなそー言えば。もしかして親子?
じっと見る。
似てるような……似てないような?
分からん。
でも、おっちゃんはギルド二階に住み込んでるけど、おねーさんは仕事が終わると自宅に帰ってるみたいなんだよね。
親子だったら一緒に住んでそうなもんだけど。
そんな事を考えていると、カウンター席からおねーさんが立ち上がり、入れ代わりにおっちゃんが座った。
あれ?
おっちゃんが自分へと視線を向ける。こっちを指差しながら、何か言った。
おねーさんも何故か自分を見た。
……おう。
………見ちゃいやん?
「---……」
「---、----」
短い会話の後、おねーさんは手を伸ばして自分を持ち上げる。
え。
右肩に乗せられた。
「---?」
おっちゃんが面白そうに何か言う。
それには答えず、書類が入った手提げ鞄をおねーさんは手に取る。
両開きの、ギルドの扉へと足を向けた。
………え?
扉の前で一度立ち止まり、おねーさんは自分を撫でた。
え、まさか、お出かけ? 自分も?
内心驚いている間に---。
扉が開けられた。
こうして街並みを眺めるのは随分と久しぶりだ。
……大丈夫なのかな?
何か、道行く人がこっちをチラ見してんですが。
肩乗りスライムは目立つ?
小人さんの時は、いつも抱っこされてたんだけど。つまり手乗り。
あ、おばあちゃん発見。
いつも野菜をくれるおばあちゃんだ。
「---?」
にこやかに話し掛けられる。おねーさんが返事をし、小さく頭を下げた。
残念そうにおばあちゃんが手を振った。
うーん。
これは、用事があって、自分を連れ出してるって事かな?
雑踏の中を進む。
時間的にはまだ朝の内ぐらい、かな?
ギルドが一番混雑する、早朝を過ぎてからの出発だったし。
程なくして大通りに出た。
この道は少し見覚えがあるかも。騎士さん達に保護されて、馬車で通った所?
二方向の人の流れがある。おねーさんが歩いている流れと、それよりは緩やかな逆の流れ。
進む先を見れば街を取り囲む防壁と、大きな扉。
あれにも見覚えがあった。
街の通行門だ。え、街の外まで行くの?
門の手前で、二人組が自分達を待っていた。
なんと、昨日ギルドを訪れた学者さんとゴブさんだ。
軽く互いに挨拶らしきものを交わし、再び人の流れに乗る。
門では騎士さんが立っていたけど、街を出る分には難しい手続きは無いらしく、すんなりと外に出れた。
ただ、おねーさんが書類の一枚を騎士さんに見せていた。
何だろ?
街の外にて。
防壁から少し離れて、人もいくらかまばらになった所で、おねーさん達は足を止めた。
「---」
「--、---」
おねーさんと学者さんが話し合い、頷く。
……何が始まるの?
自分が見ている前で、まず学者さんは、ゴブさんを自身の正面に立たせた。
「----」
どこか厳格な声で、おねーさんが何かを告げる。
……まるで見届け人みたいだけど。そーなの?
でも、一体何の?
学者さんが右手を上げた。
今気付いたけど、銀色の指輪をしている。その指輪に触れた。
「---、---、---、」
まるで呪文の様に……いや、呪文なの? 学者さんが唱える。
「---、---、」
おお? 指輪が光った?
今度は学者さんの口からゴブリン語が飛び出た。
「キュピー?」
返事をするゴブさん。
「キュー」
その途端、ゴブさんのコートの内側から、光が溢れた!
え!?
ゴブさんがコートから何かを引っ張り出す。
あのシルバーチェーンだ。指輪と同じ光を放っていた。
その光を確認し、学者さんは手を伸ばして、ゴブさんの首からチェーンを取り外す。すると、フッと光が消えた。
「キュー」
「キュー」
学者さんとゴブさんが頷き合った。
え、終了?
こちらへと振り向く。おねーさんも頷きを返した。
やっぱりコレで終わり?
おねーさんが書類を取り出し、学者さんに渡す。サインを貰い、次にゴブさんへ。
ゴブさんは指にインクを浸けて、拇印を押した。
………よく分からん。
取り敢えず、おねーさんの肩から飛び降りた。ポヨン、と跳ねて、ゴブさんの前へ。
よく分からんかったけど。このゴブさんとは、ここでお別れって事だよね?
別れの挨拶としてポヨポヨ跳ねた。ゴブさんもジャンプした。
うん。
言葉は無くとも、通じ合えるのです。
指輪とチェーンはおねーさんが受け取った。貸し出してたの? てかそれ結局何?
学者さんとゴブさんはそのまま旅立った。
自分はそれを地面から見送る。
武装はしてないみたいだった。大丈夫なのだろうか。
おねーさんが自分をまた肩に乗せる。
ふと疑問が湧いた。
今回、何で自分も連れ出したんだろ?
心なしか撫でる手つきが優しい気がする。
……ゴブさんを見て自分が興奮してたから、知り合いと思って気を使ったのだろーか。
ありがとう?
その後、門をまた通って---街に入る人達の列には並ばず、騎士さんに書類を見せたらすぐに中に入れた。
通行許可証?
ちょっとだけ街中を散策。
おねーさんはお菓子を買い込んでた。クッキーとか飴玉とか、日持ちのするやつ。
ギルドにお土産かな? と思ってたけど。
ギルドに戻っても手提げ鞄からはすぐに出さず、おねーさんがいない間、受付を代わっていたらしいおっちゃんが二階に行ってから、こっそり引き出しにしまっているのを目撃した。
それを誰にも分けずに一人で食べてたのを、自分だけが知っている。
………も、貰ってなんかないよ?
ゴブさんと学者さんの件は次回にて詳しく説明。の予定。




