マルカの街《モンスター密売所》・5
もうだめだ。
小人さんがガシッと自分を捕まえた。
え。
力結構つよっ。何すん………のっ!?
ダブルハンドでシェイクされた!
ぐぇっ、なん、ちょっ、おぶっ、待っ。
な、何でだ小人さん!? 自分に恨みでもあんの!?
ピタリと上下運動が止まる。
ホッとしたのも束の間。
今度はグリグリと指を押し付けられた。
あ、駄目! そこは! ……いや痛くないけど。つい。
何がしたいの小人さん。
「---!」
檻の外から強面が何か叫んでいる。でも小人さんは必死の形相でその声を無視、自分のスライムボディをグリグリしている。
うむ、状況が分からない。
小人さんは真剣そのものだ。ふざけてるようには見えない。
まるで抉るように指を押し付けてくる。
抉る……?
もしかして。
石?
小人さんの指先が力無く落ちる。
意気消沈。
自分は試しに、ぺっ、と石を吐き出してみた。
あれ?
久しぶりに体の外に出た石……本来、仄かな青白い光を放つはずが。
何故か、ただの石ころみたいに光を失っていた。
え、つい今さっき、光ってたよね?
もう一度取り込もうとして---それより先に、小人さんが石を掴んだ。
あ、やっぱソレ?
石を握り込む小人さんの指先が、よほど力を入れてるのか、白い。
いや………?
なんだ? 震えてる?
じっと目を凝らす。
見上げた小人さんの吐く息が……白く見える?
やっと周囲の異常に気が付いた。檻の鉄柵の表面が白い。
---室内なのに、霜が降りている。
「---!」
「---!!」
悲鳴。そして怒声。
隠し扉---虎さんの檻の方か!
自分が視線を向けた先には………!
冷気漂う檻の中。立ち上がり、四肢を踏ん張る虎さんの前に、氷の塊が形成されつつあった!
宙に浮かんだ氷の砲弾。
辺りの冷気が凝縮し、氷粒が生まれると同時に砲弾へ吸着。それによって段々大きくなっていく。
虎さん、檻を破壊するつもり!?
呪術師が檻に駆け寄った。いくつもの身に付けた首飾りの中から、黒いチェーン状になってるものを腕に巻き付け直す。
そして、呪文らしき言葉を唱えた。
途端に、虎さんが苦し気にもがき始めた。
よく見ると虎さんの首の鎖に、黒い靄が纏わりついていた。
氷の制御が乱れ始める。砲弾に、ぱきりとヒビが入った。
---やばい! 虎さんがピンチだ!
どうする!?
ここは自分がジャンピングスライムアタックを---。
するよりも先に。
素早く反応した小人さんが、何かを放り投げた。
とても小さな、何か。
……石? もしかして、自分の元・光る石!?
呪術師の真ん前へと放物線を描いて落ちる---。
「……○○○!」
小人さんが、叫んだ! 人間の言葉とは違う響きだった。
-----カッ!!
石が、瞬間的に凄まじい光を放った!!
閃光弾!?
もろに光を直視した呪術師が、悲鳴を上げた。呪文の詠唱は止まり、かきむしるように両手で目を覆う。
目を潰されたのは他の強面連中もだった。皆、おっさんも含めて、身動き出来なくなっている。
何で石が光ったのか分かんないけど、小人さんグッジョブ! 状態異常・目潰し攻撃!
これは、チャンス!?
あ、虎さんは!?
一瞬、虎さんも目をやられたかと思ったけど、大丈夫のようだ。
かしこいな!
呪術師の攻撃が止まった事で、すぐさま氷弾が完成する。
そして。
「グルァアアアア!!」
虎さんが、吠えた。
氷の砲弾が発射される!
ドゴォォォォン!!
まるで小さな大砲のようだった。
爆発音。
金属が軋む。
虎さんの檻の鉄柵をへし折り、それでも勢いは止まらず、なんと、小人さんの檻にまで直撃!
とっさに身を伏せ、小人さんは檻の底にしがみつく。スライムの自分を庇うように覆い被さった。
こ、小人さん!?
衝撃が檻を揺らす。金属のかん高い音、引きちぎられるような音と同時に、檻の扉がはじけ飛んだ。
---檻が破壊された!
「----!」
おっさんが何かわめいている。視力は回復しつつあるのか。
構わずに小人さんは檻から脱出。自分を抱え上げた。
一方、虎さんも檻から飛び出て、一直線に呪術師へと向かっていた。
怒りそのままに飛びかかる!
太い前脚を振り、鋭い爪で引き裂いた!!
呆気なくも崩れ落ちる呪術師。
し、死んだ?
虎さんに巻き付いてた黒い鎖が、粒子となって解けて消えた。
おお。
あの鎖、もしかして呪い的なヤツだったの?
「ガルルルル!」
とうとう自由の身となった虎さん。
やっと視力が完全に回復した強面連中へ、牽制のように唸る。
ちら、と虎さんがこちらを見た。なんとなく、呼ばれているような?
小人さんもそう感じたのか、虎さんへと走り寄った。
虎さんは現状をしっかり認識しているらしく、小人さんを味方認定しているようだった。
もの凄く賢い。
やっぱただのモンスターじゃないのか。
小人さんに、乗れ、とばかりに身体を伏せてみせる。ちょっと躊躇ったけど、小人さんはその背中によじ登った。
その間、虎さんは周りに小さな氷弾を浮かばせて、騒ぐ強面達を抑えていた。
小人さんが虎さんの背中にしっかりとしがみつく。
自分もぴったりとへばり付いた。
おお、白い虎に跨がったフリルドレスの少女(?)。
なんか凄くファンタジーな場面でなかろーか!
ついどうでも良い事を考えてしまった。
虎さんが一声吠える。
浮かんでいた氷弾を四方へと発射!
悲鳴が起こる部屋の中。
それを尻目に身を翻し、虎さん、小人さん、そして自分は、隠し扉からの逃走路へと飛び込んだ。
元・光る石(月白石)が閃光弾と化したのは、小人族の特殊スキルで、石の効力を瞬間的に増幅させるもの。ただし使用後、石は砕けます。




