月白石の洞窟・2
暗闇の中を、歩くリズムに合わせてブラブラと揺れる自分。
わずかな光源は、オークが持つランプだけ。
よく見れば、ランプの中には火ではなく、輝く石が入っている。
淡い、青白い光。
こんな状況でなければ見とれてた。
漁業網で担がれた状態でなければ。
豚さん豚さん、どこ行くの?
勿論、返事はナシ。
自分、喋れないしね!
つかオーク語も知らないしね!
超ピンチです。
ああ、きっとスライムステーキにされちゃったり。
刻んで溶かしてジュースと混ぜて、冷やし固めてプルプルゼリーにされちゃったり!
スライムの核は取り出されて、首飾りとかにされちゃったり!!
ぎゃー!!!
恐ろしい想像が止まらない。青さん……。もう会えないかも。
うう……。
スライムの事、忘れないでね………。
勇敢なスライムは、川に落ちた後オークに拾われ、食べられてしまったとさ。
めでたくなしめでたくなし。
…………。
ぐう……。
ふんぐはぁ!?
……はっ、寝てた!
ついうっかり!
疲れてたから、つい。あと思いのほか、網の中での揺れ心地が良かった。
これがハンモック効果(違う)。
なんか明るい? ふと辺りを見回す。
豚さんに担がれた状態なのは変わらないけど、寝てる間に周囲が一変してた。
多分、ここは洞窟の中だと思う。
滝から落ちたから、地下洞窟?
どこまでも続く岩肌………それが、青白い光を放っていた。
ランプの石と、同じ?
すっげー。
ナニコレ、超きれい。
洞窟の壁全部が光ってるんじゃなくて、所々に光る石が埋まっている。
それぞれ光には強弱があった。なので壁までの距離感が掴みにくい。
それが一層、不思議な、幻想的な光景に見せていた。
しばらく進むと、ちらほらと妙なモノが目に付き始めた。
あー、あれって。
工事現場とか採掘場とかでよくある。
……ツルハシ?
あ、スコップだ。
ハンマーもある。
うん。
まんま採掘現場だ。
地面に置かれた木箱には、光る石だけが山と積まれている。
んで、その木箱のすぐ横に扉があった。
豚さんは扉をくぐる。
扉の先は坑道になってた。残念ながら、壁に光る石は見つからない。
あー……、幻想的な場所が遠ざかる。
もうちょっと見てたかったな……。
また暗闇に戻った。ランプが豚さんの足元だけを照らし出す。
結構川から離れたような気がするケド、一体どこに向かってるんだろ?
オークの村? 洞窟の中に?
それとも隠れ家的な何か?
もしくは洞窟の外に向かってる?
自分、どうなるんだろ……。
まあ、さっきは怖がってみたけども、自分はちゃんと覚えてるのだ。
そう。
自分は物理攻撃無効だ!!
よって、たとえまな板の上に乗せられたとしても、自分をさばける包丁は無い!
だから命の心配はあんましてない。
重鎧の攻撃だって効かなかったしね!
……不安なのは別の事。
……豚さんの目つきが怖い。
なんか話が通じなさそう。
青さんとは違う!
…………。
そうだよ! 心細いんだよ!
悪いか!
いきなりの環境の変化に気持ちが追い付かないんだよ!
青さん! 右さん! 左さん! 助けて!
会いたいよ!
ぼっちはイヤン。
どうしたら、みんなの所に帰れる?
ああ、どうやって逃げよう。
前方に青白い光が見えた。同時に物音も聞こえてくる。っていうか……鳴き声?
「ブヒ、ブヒン」
「ブー」
「ブヒー」
え、家畜小屋?
養豚場?
やや狭めの坑道を抜けると、随分と開けた場所に出た。
あちこちにあの石が設置され、そこそこ明るい。
その中で複数のオーク達が……くつろいでいた。
地面に敷かれた毛皮の上に寝転がる、オーク。
トランプみたいなので遊んでいる、オーク。
壁際には大きな樽が置かれてて、そこから水? をカップで汲んで飲んでいる、オーク。
何か食べている、オーク。
わあ。
豚さんだらけだ☆
なんじゃこりゃ。
この豚さん達……武装してる?
そう言えば自分を水揚げした豚さんも、やたら年期の入った皮鎧を装備している。下はズボンを履いてるけど、上半身は裸の上からの装備だ。
武器は……安っぽい短剣。
他のオークも似たり寄ったりの格好だ。
武器も防具も意匠はバラバラ。
その印象を一言で説明すると。
ならず者。
雰囲気もこう……やる気なさげな、生産性の無いカンジ?
うーん、この豚さん達って……。
まさか、山賊だとか。
まさかね?
水を飲んでいた豚さんが、気が付いたようにこっちを見た。
「ブー?」
ブー〇郎か。
「ブゥー」
こっちもブー太〇だった!
オーク同士の会話に突っ込んでると、コレが戦利品だ! みたいに自分が掲げられた。
「ブヒヒヒヒヒ!」
なんか指差されて笑われた。
失礼でないかい?
おうコラ、豚さんよ。
自分をただのスライムと思うなよ!
出るとこ出てもいーんだぞ! 例えば青さんの寝床の前だとか。
きっと青さんが自分の代わりにギッタギタのケチョンケ………のぉ!?
ぐるん、と視界が回った!
ビッターン!!
「ブヒィ!?」
自分の体が網ごとぶん回されて、オークの顔面にヒット!
ギャー!!
は、鼻水付いた!
キモッ! なにすんじゃー!!
自分を顔面に叩きつけた豚さんを見上げると……なんか怒ってた。
「ブヒー!」
そんで笑った豚さんに殴り掛かった!
ポイッと地面に捨てられる自分。
「ブー!」
「ブギィ!」
け、ケンカが始まってしまった。
ハッ! ひょっとしてチャンスかも?
今なら逃げられるんじゃ………。
そう甘くはなかった。
ヒョイと体が宙に浮く。
別の豚さんが自分を持ち上げていた。
え。ちょっと?
ぶらりぶらりと揺れながら、隅っこまで連れて行かれた。
地面に敷かれた小汚い布を捲る。そこには穴があった。
……ゴブリンさんサイズなら入れそうな幅。深さは……不明。
え。
ちょ。
あの、……まさか?
網を逆さに振られる。
ほんの一瞬だけの自由。
万有引力はファンタジー世界でもちゃんとお仕事してました。
あっという間に自分は穴に吸い込まれる。
なんか、こんなんばっかり………。
あーれーーー………………。
スライムの受難は続く。




