《サイクロプス・ギガント》
青さんについてどう書くか、悩んだ。
---初めに目を開けたのは、冷たく、静かな暗闇の中でだった。
身体を動かせるという思考すら無かった。
ただ暗闇を見つめ、そこに在るだけだった。
そしてまた眠りに落ちた。
次に目を開けると、暗闇に変化が起きていた。
何かが違っているのは分かったが、それが何かは知らなかった。
……光というものを理解したのは、かなり後での事だ。
その次に目を開けた時、--やっと自分を知る。
『……此処はお主には狭すぎるようだの』
『……外に出るか?』
---そして、天地の広さを知ったのだ。
リーダー格の男が宙に跳ね飛ばされるのを見た瞬間、四人の仲間は皆、心が折れた。
Sランク冒険者たる彼等は、今までに多くの魔物を討伐し、また同時に幾たびもの危険と対峙してきた。命の遣り取り--死への覚悟は常にある。
だがトップランカーとして在り続けるには、貪欲なまでに生命に執着する必要もあった。
戦い続けるには生き抜かなくてはいけない。生き抜くためには強くなければならない。
強くなりたいという欲求は、いつしか英雄願望へと変わっていた。
彼等は皆、夢を見た。
SSSクラスのサイクロプス討伐を果たし、英雄の仲間入りをするのだと。
夢は、たった今砕けた。
砕けた衝撃の中、彼等の反応は二つに分かれた。
一方は、死を覚悟した。
もう一方……ただ一人、魔術師だけは、逆の思いを持った。
生き抜くのだ、と。
右腕を失い、足の肉をごっそりと削られ、通常の魔物であれば倒れていても不思議でないダメージを巨人は受けていた。
更に左手の平は大きく抉れている---リーダーが放った奥義は、確かに巨人を傷付けていた。
それでなお、巨人と冒険者の間には、隔絶的なまでの力の差があったのだ。
槍使いは、刃先の折れた槍を、震える腕で巨人に向けた。
弓使いは矢が尽きたため、変わりに短剣を構えた。
双剣使いは決死の覚悟でもって、特攻の体勢を取った。
「……ははっ。最後に酒くらい飲んどきゃ良かったぜ」
「下戸が何言ってんだ」
会話を交わす。
二つの満月が巨人の頭上を越えて輝いていた。この世の見納めにしては悪くは無かった。
「……来るぞ」
巨人が拳を振り上げた。極限まで身体を引き絞り、二度目の鉄槌を放とうとしている。
片手であってもその威力を、耐えれるとは思えなかった。
拳を、振り下ろす---その寸前に。
「待ってくれ! ---降参だ!!」
魔術師の声が、その場を貫いた。
待つはずがない。
通じるはずがない。
誰もがそう思い--しかし。
巨人が動きを止めた。
その一つ目が、窺うように魔術師を見据える。
「もう、勝負はついた。俺達の負けだ」
「おい--」
声を上げかけた仲間を制し、告げる。
「まだ生きてる」
それがリーダー格の男の事だと、気が付いた。
鍛え上げた肉体と、優れた防具によって、かろうじて命を拾ったのだ。しかし危険な状態ではあった。
「急げば間に合う」
巨人は微動だにしない。
魔術師は更に声を張り上げる。
「強き巨人よ。俺達を、見逃してくれないか」
己の矜持をへし折るにも等しい言葉。
魔術師は思う。
ここで、死ぬべきなのかもしれない。戦いの果てでの破滅は甘美だ。しかし。
仲間なのだ。友人なのだ。
英雄の夢は破れたが、別の夢を見ても良いはずだ。
「頼む」
巨人に言葉が通じる事を信じ、懇願した。
巨人がゆっくりと腕を下ろす。殺気は消え失せていた。
男達が息を呑む中、背を向けて峡谷が臨める位置まで歩き、立ち止まる。
巨人の右肩の周りに、赤い靄が集まる---凝固して、腕が再生された。
脇腹、足も同じだった。
一瞬の出来事だ。
高速再生。
男達は、巨人が全力ではなかった事を知った。---完敗だった。
すっかり回復した巨人は、何故か谷を降り始めた。
まさか峡谷を上り下りして高原まで来ているのか?
最後に冒険者達に困惑を与えて---巨人は戦場を去った。
とても小さな生き物だった。
だがそれはとても騒々しかった。
初めに見た時、懐かしい匂いを嗅ぎ取った。
すぐに分かった。
同じだと。
戦うのは好きだ。
冷たい自分の体を、戦闘は温めてくれる。熱を与えてくれる。
戦闘だけだと思っていた。
あの小さな生き物は、ひどく暖かかった。側に置くと、温められた。
賑やかで、楽しかった。
今は、あの小さな生き物の気配はどこにもない。
水が流れている。
早い。長い。
もう遠い。
天地は広い。
小さな生き物も、それを知るだろう。
友が空から降りて来る。肩に止まった。
片方は動きが、ぎこちない。
寝床へと帰る。
賑やかな生き物はもういない。
生きる、また会う。
また、会える。
つまり、青さんも「進化の祠」生まれです。スライムの声も聞こえてた。
今回で一段落ついたので、二週間お休みします。
再開後はまた一日一話で頑張る予定。
次回から、ダンジョン編。




