ルー高原・7
今日も遅くなりました。
鉄槌の衝撃波が高原を駆け抜ける。
吹き飛ぶ草混じりの土砂。
地面に亀裂が走った。
まじですか。
……あ、ここって、すぐそこ谷だ。
………だ、ダイジョウブ?
本気を出した青さんにドン引き。
やり過ぎだ!
青さんが戦う理由、は何となく分かった。
戦闘脳だよ間違いない。
こうして離れてみると、自分が戦場の空気に当てられていたのだと気付く。
双子の満月は天頂近くまで昇っていた。
右さんの特攻が気付かれたのは、地面に落ちた影を見られたのかも。
土煙がなかなか収まらない。
五人組は……? これで、戦闘不能になっていれば。
戦闘不能--もし死んでいたら。
た、食べ、ないよね?
流石に止める。それは絶対止める。
……岩の周りには、人骨とか落ちてなかったし。食べないよね?
!!
まだ晴れない土煙の中から、一筋の光線が走った。レーザービーム!
生きてたか! 黒ローブ!
青さんが避ける。でも大きくバランスを崩した。やっぱり、足のダメージが!!
片手を地面に着けた!
---風を纏い、土煙をかき乱し、弾丸のごとく走る人間。
青さんと比べてあまりにも小さい。
構えるは盾--重鎧!
今、このタイミングで?
嫌な予感を覚えた。
青さんがもう片方の腕で薙払う!
重鎧は身を低くして回避する---突進を止めない。もはや原っぱの跡形も無い、巨大なクレーターを踏破し、青さんの足元へと辿り着いた。
盾が、輝いている。
不思議な紋様を思い出した……確か、蔦のようだった。それが光っている?
ただの「盾」じゃない?
重鎧は---青さんの足の怪我目掛けて、盾をぶん投げた!!
盾が傷口に触れたかどうか、その瞬間、光の奔流が起きる!
ぶわり、と盾から発生した、たくさんの輝く蔦が青さんの足に巻き付いた!!
蔦の成長は止まらない。爆発的に伸び続け、あっという間に青さんの全身に絡み付く。
やばい、何か分かんないけどヤバい。
左さんも何かを感じたのか、慌てたように飛び立つ。
右さんはそこにいて!
自分と左さんは青さんの元へ向かった。
青さんが魔法の蔦に拘束され、身動きが取れなくなった---五人組の猛攻が始まる。
仄かに光を帯びた武器、双剣使い、槍持ち、弓手………彼等はアタッカーであり、遊撃でもあったのだ。
彼等が青さんの気を引き付け、重鎧が盾の魔法を発動させる。
それが、彼等の切り札だった。
実際には青さんの隙を突いて、重鎧のみで魔法を発動させた訳だが---発動の条件として、怪我を負わせる必要があったのかも。
執拗に同じ箇所を狙ったのは、ある程度傷が大きくなければいけなかったのか。
矢が放たれる。
双剣が舞う。
剣から槍に持ち替えた軽鎧が、突撃を繰り返す。
矢はごっそりと青さんの肉を削った。剣は凄まじい切れ味で肉を断ち切る。槍はその手元までが肉に突き刺さった。
明らかに、先程までとは威力が違う---強くなっている。
彼等はみな、ボロボロだった。余裕があるようには見えない。
力を残していたとは考えられなかった。
……蔦の効果?
青さんの防御力が下がっている!?
赤い粒子が飛び散る。しばらく漂ったあとは空気に溶けるように消えてしまう--奇妙な光景だった。
現実味の乏しいまま、青さんの身体がガンガン削られていく。
青さんは蔦を引きちぎろうとしていた。
かろうじて拘束を免れた左手で、足に貼り付いた魔法の盾を握り込む。
あれさえ砕ければ………!!
願いも虚しく。
巨大な魔法陣が出現した。
黒ローブは酷い有り様だった。肩が砕けたのか、外れただけなのか、右半身はだらりとして動いていない。
立ち上がるのもやっとだろうに、--恐らくは全力を込めた、魔法陣を制御している。
まずい……マズイ!
自分と左さんは、青さんの近くまで来過ぎていた。今から黒ローブの元に行っても、間に合わない!
魔法陣が輝く。光が収束する---。
青さん、避けてーー!
特大の光線が発射される。
音も無く。
青さんの右腕と脇腹の一部が消失した。
直撃は何とか回避--だがかつてない大ダメージ。
青さん、青さん!!
呼び掛ける事しか、見ている事しか出来ない。
もうどうすればいいのか。分からない。
混乱する視界の中。
「---」
何故か、その声が、はっきりと聞こえた。
輝く大剣。
盾をぶん投げたあと、一人距離を取り、タイミングを見計らっていた重鎧---。
今。
光線を受けた直後の青さんでは。
蔦の効果で弱っている今は。
駄目だ。
『……ほぼ現世に於ける危険はお主に通じぬ』
魔神様の言葉が、唐突に蘇った。
そう。
自分なら。
あの剣閃なら。
「おおおおおおお!!!!」
重鎧が吠えた。
駆け出す。勢いのままに-----大剣を振り抜く!!
ス~ラ~イ~ム~………………アターーーーーーック!!!!
怖かった。
でも。
『物理攻撃無効、魔法攻撃無効……』
魔神様は、そう言った。
それを、信じた。
今まさに大剣を振り抜いた、重鎧の剣閃の軌道の真ん前へ、自分は飛び降りた!!
衝撃。
崖から落ちた時の比じゃない。
スライムボディが跳ね返せる威力なはずもなく。
吹っ飛んだのは自分の方。
全ての風景が一瞬で通り過ぎていく。
風圧。風切り音。
グルグルと回る視界。
自分の体がどうなっているのかも分からない。
青色が見えた。
青さん。
峡谷が、見えた。
ああ。
これ、落ちるわ。
放物線を描き、引力に従い始めたスライムボディ。
地面が見えない……てか遥か下に空間が。
峡谷ですね、分かります。
……認めるまでに時間がかかった。
諦めるまでにも更に時間がかかり。
やっと戦いはどうなったのかとの考えに至る。
そして見つけた青さんの姿は。
蔦の拘束を解いて、立ち上がる巨人の姿---よかった!
重鎧の攻撃を逸らせた!
そして落下しながら最後に思った事は。
例え片腕が無くても---青さんなら勝てる!!
やっちまえーー!!
自分も大概戦闘脳だな、とちょっぴりだけ思ってしまった。
--きっと、青さんの影響だ!
スライム、退場。
次回は別視点の予定です。




