ルー高原・6
すみません、遅れました……。
固唾を呑んで見つめる中---スライムだから涎なんて垂れないよ? 黒ローブが詠唱を始める。
「-、-、-、……」
言葉は分からないのだが、一音一音ごとに韻が踏まれ、同時に宙に光の線が走り、魔法陣が浮かび上がった。
やっぱり魔法使いだった!
それに合わせ、再度の突進を図る重鎧。
青さんの動きを止めた所に魔法を叩き込むつもりか。いや……?
違った。
先に魔法陣が完成する。
中央に炎が生み出された---渦が起こって塊を成す。
火焔の鳥。
まるで意志を持つかのように飛び立つ!
ふぁ、ファンタジー!! ゲームか!!
火の粉を散らして青さんへと向かう。瞬く間にその眼前へ。
マジか。青さんが手で払おうとしたら、避けた!?
右さん左さんの半分サイズだが、簡単には消えなさそうだ。怪鳥が相手をするのはマズイ。火力が強い!
ハッとする。陽動はこちら、本命の攻撃は………。
既に光を宿した大剣を、重鎧が今まさに、振り抜こうとしている!
させじと青さんが踏み出す---蹴りだ!
剣閃が放たれる! 軌道は蹴りの真正面。直撃する。
小さな爆発が起き、赤い色が弾けた。
青さんの脛の肉が抉れている。---まさか!
青さんが傷付けられた。
愕然とする。
そんな自分を待つ事もなく、戦況は推移する。
肉を切らせて骨を断つ--とばかりに、青さんの蹴りは止まらない。重鎧に命中。
直前でギリギリ、相手は盾を滑り込ませた。だが踏ん張れない。押し負けて吹っ飛んだ。
交差して放たれる矢があった。
黒ローブと同じ後衛にいた軽鎧が、前に出ている。続けざまに矢を放つ。更に放つ。三連射。
全てが、剣閃が直撃した場所へと吸い込まれた。
仄かに光を帯びた矢--何らかの魔法効果があるのか。ただの矢なら青さんには通じない、はず。
その矢は深々と突き刺さった!
青さん!! ……青さん?
痛みに顔を歪めるでもなく。
自分が見た青さんの表情は………。
ようやく目に見えてダメージを与えられたその場所へ、追撃の為に肉迫する二人の戦士。彼等の剣もまた、さっきの矢のように光を帯びていた。
重鎧の大剣よりは威力の弱い、しかし青さんに確実にダメージの通る攻撃……それを、五人全員が持ち得ている事が、はっきり分かった。
もしくは。
傷ができた事で、他の攻撃も通りやすくなった……?
双剣使いと槍持ち、それぞれが青さんの足の両側へ。剣を薙ぐ。浅い、だが確かに攻撃が入る。
またも飛び散る赤。
……あれは、何だ。
初めは青さんの血だと思った。
覗く傷口は赤く、内側の肉を晒してるように、見える。でも。
違う。
血じゃない。赤い……霧? 煙、いや粒子?
「ギィ!」
怪鳥の鳴き声に我に返る。
何事!?
鳴いたのは自分が乗っている怪鳥---ええい、多分左さんだ! 区別つかんけど、勘!
まるで警戒音、と思って辺りを見回せば。
魔法陣---あんの黒ローブ!!
また魔法を放つ気か!?
ふざけんな!!
何が出るか分かんないから怖いんだよ!
出すならショボいのにしろーーー!!
なんて願いが通じるハズもなく。
明らかに炎の鳥を出したものよりも大きな魔法陣が完成する。
中央に収束する光……え、まさかのレーザービーム?
溜めが長い………威力を高めている?
その時、黒ローブへと急降下する影があった---右さん!? いつの間に!?
そうか、弓手が前に出たから、飛行の高度を下げていた……?
驚く自分の眼前で、右さんは黒ローブを襲撃する!
本当に直前まで、黒ローブは気付いてなかったのだと思う。ほぼ真上から、墜落するかのような右さんの体当たり。
でも寸前で察知された。魔法陣から手を離し、その場を飛び退く!
地面に突っ込む怪鳥!!
右さーーん!!
地面が抉れて土煙が上がった。
……良かった、無事だ。
右さんの捨て身に近い特攻のおかげで、レーザー魔法陣は消えていた。
翼がややボロくなった右さんが、離脱のために羽ばたく---そこへ。
「-、」
短い詠唱。小さめの魔法陣。
発動は早かった。
---火球!
黒ローブが間近から魔法を放つ!
異常な速度で、それは右さんの翼を打ち抜いた!
そんな。
嘘。
右さんは……それでも、翼を動かした。傷口が焼けたからか、出血は少なく見える。羽ばたく。
巻き起こる風に煽られて、後退する黒ローブ。
どうにか右さんは飛び立った。
気が付いたら、自分が乗る左さんが、右さんを支えて一緒に飛んでいた。
逃げるようにして、黒ローブのいる後方から離れる。
戦闘区域から十分に遠ざかった場所で、右さんを下ろした。
右さん……。
「ギィ」
大丈夫だ、とばかりの鳴き声が、痛い。
火球が小さかったのが幸いした。命に関わる怪我ではなかった。
なんで。
今更ながらに思う。
なんで戦うの?
青さん。
振り返った。
そして飛び込んできた光景。
---隕石のごとく飛来する、青さんの棍棒。
それが、黒ローブのいた辺りに炸裂していた。
……はい?
ズガァァァン!
右さんの特攻とは比べるべくもない、凄まじい土煙。
え。黒ローブ、死んでない?
思わずポカンとする。だって、アリか? あれ。
バシィィィン!
続けて響き渡った音に驚愕。スライムボディがびくりと跳ねる。
こ、今度は何?
青さんは---足から赤い粒子を撒き散らしながらも、未だしっかりと立っていた。
素手になった両の手が合掌している--さっきのは、手を打ち鳴らした音?
合わさった手の平から、チロチロと火の粉が吹いていた。火焔の鳥を、手で挟んだ?
青さん!
それ、蚊じゃない!
自分のツッコミは当然青さんには届かない。
青さんが合わせた両手を振りかぶる。火焔の鳥を握り締め、拳を形作る。
慌てたように退避を始める戦士達。
全身をバネのようにしならせて---両の拳を地面に叩きつけた!!
--巨人の鉄槌!!
轟音。地を伝う衝撃。
局地的な大地震が発生した。
自分が見た青さんの表情は………。
笑っていた。
そしてまだ戦闘は終わらないという。




