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【臨終】

 病院の帰り道、智美が武と手を繋ぎ歩きながら「武は大きくなったら何になりたい?」と聞くと、武は「父ちゃんみたいにヒーローになりたい!」と言った。そんな2人の足元を何かが物凄い速さで駆け抜けて行った。次の瞬間黒のスカイラインのタイヤが悲鳴を上げて止まった。スカイラインから降りて来た男が車に傷が無いか確認すると「チェッ! 脅かすなよ!」と舌打ちして吐き捨てる様に言った。


 スカイラインの男は何かを蹴飛ばすと、車に乗り込み走り去って行った。歩行者信号が青に変わると、武は智美の手を離しスカイラインが止まっていた場所へ走った。そこには血を流し微かに息をしている黒猫が倒れていた。


 武は服が汚れる事も気にせず、その黒猫をそっと抱き上げ、横断歩道で待つ智美の元へゆっくりと歩いて行った。それを目で追っていた大人達は、武が智美に叱られると誰もが思っていた。


 智美は武の前でしゃがむと、猫を覗き込み「も〜 駄目かもしれないけど、お医者さんに診てもらおうか」と言った。武は涙を浮かべながら小さく頷いた。智美は武の頭を撫でてから立ち上がると「猫さん気を付けて運んでね」と言って武の背中にそっと手を添えた。


 武は猫を大事そうに抱え病院へ運んでいたが、猫は武の腕の中で痙攣けいれんを起こしたかと思うと「ニャー!」と悲鳴の様な声を上げ動かなくなった。それは一瞬の出来事で、先程まで小さく波打っていたお腹も動かなくなり、徐々に体温を失って行った。


 武は猫の痙攣に驚き立ち止まっていたが、自分の腕の中の小さな命が終わりを告げた事を悟ると、ボロボロと涙をこぼした。智美は武の頭を撫でながら「猫さん残念だったね…… でも最後に武に看取って貰えて良かったんじゃないかな」と言った。俯いたままの武に智美は「帰って猫さんのお墓作ってあげようか?」と言うと、武は小さく頷いた。

 

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