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~Episode3~

 相変わらず、フウカは人を寄せ付けない結界でも張っているかのような顔をしており、俺は怯んで話しかけられなかった。

 そんな中、期末テストは始まっていく。

 最初は英語だ。

 名前を書いて、少し周りを見渡してみるとリズペットは人間では出せないような……いやそもそも人間ではないのだが、超速で問題を解いて、ここまで鉛筆のカツカツカツという音が聞こえてくる。ラファミーは迷うそぶりもなく、すらすらと普通に解いている。

 俺もやらなくてはいけない。

 えーと、rhythm of three were ――

 

 結局、今日の科目はまあまあという出来だった。

 後ろの様子を何気なく伺ってみると、朝の機嫌の悪さがさらにグレードアップしてスーパーフウカ人に今にも変身しそうだった。

 今、フウカに近づくのは得策ではないと踏んだ俺はささっとリズペットに声をかけて帰ることにした。

「おい貴様ら、私を置いていくな」

 廊下を二人で歩いていると、ラファミーが走って追いかけてきた。

 リズペットはにやにやしている。

「あれ、ラファミーも一緒の帰り道なのか?」

「あれ? じゃないだろう。朝一緒に来たことから察せ、この馬鹿者が、それに」

 ラファミーはリズペットをチラリとみて、にやにやしていることから、何かを気づいたようで。

「家はリズペットの隣だ。どうせリズペットが教えていなかったんだろう」

 溜息を吐く、

「聞かれてなかったんだもーん、言う必要もないと思ったし」

「わざとらしい真似を」

 ぐぐぐ、とラファミーの綺麗な切れ長の眉と大きな瞳がわずかな苛立ちがうかがえる。

「それに、PMの時も勝ち逃げして、お前らは卑怯だぞ」

「は? PM」

 俺はどうして今ネットゲームが出てくるのかわからなかった。

「啓二、貴様が倒したRaFmをまさか忘れたとは言わさんぞ」

「まさか……」

「そう、あれは私だ」

 あの最後まで絡んできた、あのゲーマーがラファミーだったとは。

 世の中狭いもんだな。

「それはラファミーとルサルナが下手なだけじゃん」

 リズペットがふふっと笑いながら言う。

「リズペットが強いのは認めるが。啓二に負けたのは断じて認めん」

「じゃあ、もう一回やる?」

「望むところだ、今すぐにだ。首を洗って待っていろよ」

 ラファミーは声高に宣言する。

 俺達今テスト期間中なんですが、それはどうなんでしょうかお二人とも。

 とは、火花を散らす二人に言えず、黙って従うしかなかった。


 ふらふらになりながら通学路を歩く、俺達三人。

 結局、あの後朝5時までの貫徹コースを実行して、そのまま登校だ。もちろんテスト期間中である。

「啓二が抵抗するから、こんな時間まで起きる羽目になったんだぞ」

ラファミーが少し疲れた目をこちらに向けてくる。

「ラファミーいつも夜遅くまで起きてるし人のせいにするの良くないよ」

 リズペットが元気のない声で突っ込む。

「お、なんだ、今度は貴様が私の相手か?」

「56423勝42316敗ですが、それでも挑むんですかね?」

 リズペットも挑発する。

「いいだろう、今夜もぼこぼこにしてやる」

「啓二にはバックアップを任せるよ」

「勘弁してください……」

 さすがに二徹はきついものがある……。

「あらあら、随分なかがよろしいことですね、三人とも」

 突然後ろから、柔らかな女性の声が聞こえた。

 その瞬間、場の空気が張り詰めた。

 振り返ると、さらさらの流れるようなロングヘアに水色のヘアピン、まるで芸術品のような長い眉に大きい瞳、ラファミーに負けず劣らずのナイスバディ、その女性、クラスメイトの、寺田・ミュリエル・千秋は柔らかい表情の中に確かな敵意を露わにしてこちらを向いていた。

 ラファミーとリズペットは瞬間的に、身構える。

「……天使が何の用だ」

 口を開いたのはラファミー、その声はいつもよりも低く威圧している。

「別に、そんな仲良しごっこをしていて楽しそうですわね、というと言いたいだけですわ」

 ふふふ、と口に手を当てるミュリエル。

「別に誰と仲良くしようが、勝手でしょ、相手にならなってもいいよ」

 リズペットも無機質な目をミュリエルに向けている。

 そんなことを意に介さないようなミュリエルは、

「怖いわね、でも、やめとくわ、またね」

 そう言って、前を颯爽と歩いて行った。

 ミュリエルが完全に見えなくなった瞬間、空気が弛緩する。

「ふぅ、何か仕掛けてくるかと思った」

 リズペットが冷や汗を拭っていた。

「まあ、向こう側もスピカがここに居ない状況でしかけてはこないだろう」

「なあ、天使って言ったが、あいつはお前らの仲間じゃないのか?」

 俺は思っていたことを訊いてみた。

 答えたのはラファミー、

「ああ、このクラスにいたのは悪魔の私、ポミア、リズペットの三人、神様の娘のフウカ、イレギュラーの葛城、それと、天使のスピカとミュリエルだ」

「つまり、最初は天使と悪魔の対決の構図だったわけだ」

「そうなるな」

「でも、実質、バトルロワイヤルみたいなものだったから、仲間とかは関係なかったかな、現に先走ってポミアは消えちゃったし……」

 リズペットがラファミーを気遣って思わず目を伏せる。

 それに気付いたらファミーは、

「だが、ポミアのおかげでこうリズペットとまた組めるようになったから私はもう気にしていない。部下であり友の屍を乗り越えていくのもまた試練だ」

「そっか、そうだよね、うん、だからこれからは啓二を中心に頑張っていこうとうちらは思っている、よね」

 ちらっとラファミーを見る。

「うむ、そうなる」

 大きくうなづくラファミー。

「改めて言われると照れる、まあ、出来る範囲で頑張れたらいいと、思う、うん、多分」

 最後が曖昧になってしまった。

 それにくすっと笑ったリズペットは、

「それでいいよ、啓二」

「うむ、それでいい啓二」

 二人とも同意してくれた。


 テストは終わってしまった。

 俺はテストの内容より、徹夜による眠気との格闘戦を繰り広げていたので少しみんなよりハンデがあったと自負している。言い訳なんですけどね。

 俺は回収されるプリントを尻目に限界突破した眠気に任せてそのままインザドリームした。

 ……

 ………

「ねえ、け――起き―――よ、ねぇ」

 眠い、まだ寝かせてくれ、

「啓二、起きなさいよ……」

 あまりにも悲しそうな声に俺は睡魔の誘惑を振り切り頭を上げる。

 そこには、テストの問題用紙を持ったフウカがぽつんと物悲しげに立っていた。

「お前、いきなりどうしたんだ?」

 俺は最近のフウカの様子から話しかけてくるとは思いもしなかった。

 すると、フウカは少し寂しそうな顔をして、すぐ真っ赤な顔をして、

「テストが全く分からなかったとかそんなわけないじゃない!」

「自分から言ってどうするんだよ」

 俺は綺麗に整ったフウカの顔が少し楽しそうになっているのを見て俺も頬が緩んだ。

 今はいないポミアの席に座ったフウカ、今日出た数学の問題がわからないようだった。

 俺は数学が比較的に得意なので結構いろいろと教えることが出来た。そこは2πrを代入するとかいろいろフウカに説明して、フウカもふんふんと頷いている。

 フウカは俺の一人授業を聞いている。その姿は差し込む夕焼けに反射して黒い髪がオレンジに染まり、赤いメッシュは紅蓮に染まっている。もともと整っている顔立ちが強調されて一種の芸術品のようだ。

 俺は必死に勉強しているフウカの顔に見とれてしまった。

 それに気づいたフウカは、

「何見てんのよ」

 不機嫌そうに言うがどこか嬉しそう。

 その表情にフウカはいつものように戻ったのかなと思った。ほんとに思ってしまった。

「でもね、あたしはねこんな風に啓二と仲良くしてたらいけないの、これ以上ポミアみたいに存在を消したくないの」

 その顔は諦めに満ちていた。

「ポミアの夢、遠くからだったけど聞いたよ。神様になりたいんだったよね、なら、リズペットやラファミーも多分同じなんだろうってそれくらいあたしにだって分かる。だから、あたし、仲良くしちゃいけないって思って……でも!」

 フウカは思いつめていた。

 ポロポロと涙を流して、

「みんなといたのが楽しかったの! みんなと仲良くしたいの! またみんなとハイローしたいの! またみんなで! またみんなで……!!!」

「もう、それ以上言うなフウカ」

 俺は机越しにフウカを抱きしめた。

「フウカが悩んだことは分かった。つらかったな」

 しっかりと抱きしめる。

 フウカの温かい体温を感じる。けれども、とても細い体。こんな身でこんな大きなことを抱えている。

 俺は何をしてやれるのだろうか。

 ――そんなの最初から決まっていた。

「なあ、フウカ、またみんなで仲良くやろう」

 俺はフウカを抱きしめたままそう宣言した。

 フウカは涙目のまま顔を上げて、

「え? また消えちゃうよ」

「大丈夫! 俺が消させない! 絶対、絶対にだ!」

 フウカは目を下に向かせる。

「俺にはフウカもいるし、それにラファミーやリズペットもいる、だから心配するな」

「本当に?」

「ああ、本当さ、不詳斑鳩啓二、嘘は吐かないのが主義だからな!」

「ふふっ」

 フウカがやっと笑ってくれた。

 そのとき、フウカがニヤリと笑って、

「ご褒美をあげるわ」

「は?」

 俺は素っ頓狂な声が出た。

 フウカの顔が迫ってくる。

 鼻孔を擽る女の子特有のいい匂い、密着している胸からは心臓が激しく脈動している。

 俺のファーストキスはフウカなのか!?

「あの、そういうのは、教室の外でやってくださると助かるのですが……」

 いきなり声がして、俺はフウカに突き飛ばされ後ろの机に後頭部を激突させ星が飛び出る。

「あ、あら、いたの葛城君」

「はい、最初から」

 フウカは耳まで真っ赤にしている。

「ちょ、ちょうど、い、いいい、わ、また、ハイローするから持ってきなさいよね」

 葛城にそう言うフウカの声はまだ動揺が収まっていないようだった。

 はいと答えて、葛城は勉強に戻った。

「じゃあ、俺達も帰るか」

「そ、そうね」

 教室を見渡すと、葛城のほかにもまだ二名残っている者がいた。いや、正確には二名死んでいる者だ。

「おい。ラファミー、リズペット、放課後だぞ」

「睡魔という悪魔との長きにわたる戦闘がやっと終わったか」

 ラファミーも寝ぼけているのか意味の解らないことを言っている。悪魔はお前だろ……。

「はい、うちの勝ち! ってあれ学校?」

 リズペットは学校でもゲームをしていたようだ。

 俺はこっそりとため息をつきながら、やっと元に戻ったことを感じ嬉しく思った。


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