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~Episode3~

 次の日、舞い落ちる桜の花びらの中登校していた。

 俺はポミアがいない現実を桜と重ねあわせ、今にクラスの全員が消えてしまうのではないかと思ってしまう。

 そうなると俺はとても悲しくて辛い。

 フウカはどう思っているんだろうか。

 ふとそんなことを考えていた。

 あの時、泣きやんで何かを決意したフウカは一体何を思っていたのだろうか。

 フウカ……。

 そんなに思いつめないでくれ、お前が悪いわけじゃないんだ。

 いつの間にか校門までたどり着いてしまっていた。

 おかしいな、いつもならリズペットが声をかけてくれるはずなんだが。

 俺は違和感を胸に校門をくぐった。


 教室に来ると、フウカは入学式初日のように仏頂面で座っていた。

 俺は心配になり、

「よお、フウカ、大丈夫か?」

 と声をかけるが、反応がない。

「おい、フウカ、どうしたんだ」

「話しかけないでよね、馴れ馴れしいわ」

 と、ふんと、顔を背けると、赤いメッシュの入ったボブが大きく揺らぐ。

 それ以上話しかけることも出来ず、俺は席に着いた。


 担任の星見がポミアから転校したことを身振り手振りで大げさに話しているのを聞いていたが、俺は朝から感じていた違和感の正体に気付けずにいた。

 なんだ?

 リズペットは休みみたいだし、来ていないのは当たり前なのだが、それが原因なのか?

 頭の中をまるで巧妙な贋作の絵に書き換えられたような。そんな感覚。

 星見教諭が出席を取り始めた。

「……はい」

 フウカの不機嫌を隠そうともしない返事。

 淡々と進む出席確認。

「―――」

 そのとき、俺には聞き取れない単語が呼ばれた。

 なんて呼ばれたのかは分からなかった。

 俺はあたりを見回すが、変わった様子はない。

「寺田・ミュリエル・千秋」

 次の人が呼ばれた。

 寺田。確か。リズペットの偽名は橘だったよな。

 もしかして、俺リズペットが見えていない。

 ―――いや、認識できていない?

『さてさて、これはうちもそろそろ動き出さないといけないかな』

 昨日のリズペットの言葉が脳裏をよぎる。

 これはどういうことなのか。

 つまり、俺からリズペットと言う認識を消した。

 なぜ? どうして?

 直接確認しないと分からない。

 俺は胸に取り返しのつかないようなことが進行しつつあるのを感じた。

 今すぐ行動したいが。どう行動していいかわからない。

 出席確認が終わり授業開始の休み時間が来ても俺は悩み続けるのだった。


 不機嫌なフウカ、いないリズペット。それらをどうにもすることができないまま昼休憩を終え、悶々としたまま放課後を迎える。

 授業が終わったと言う疲れ、何もできないと言う虚無感。授業道具を机にしまっていると机の中に何か入っている。

 ――ラファミーだ。屋上にこい、今日の今すぐにだ――

 という、丁寧に切り取られたノートの切れ端が机の中に入っていた。

 こんなもの授業の最中にはなかった。

 つまり、異能の力を使ったという事だ。

 リズペットから聞いていたがやはりラファミーも……。

 しかしなんでラファミーが。

 ――いや、俺は分かっているのに逃げている。

 ポミアがラファミーの部下だったことなんてリズペットから聞いた時から胸が締め付けられそうだったからだ。

 当のラファミーの気持ちを考えると……。

 俺は想定しえる事態を考え、帰り支度をしている葛城に声をかける。

「すまん、お前を頼っていいか」

 葛城はにこやかに笑って、

「いいですよ、あなただけではどうしようもないのでしょう?」

「ああ、すまんが頼らせてくれ」

「かまいませんよ」

 葛城は快く承諾してくれた。

 手紙のことを話し、一緒に屋上に向かう。

 空は今にも雨が降りそうな程黒い雲、しかしまったくの無風。

 そこにラファミーは凛然と立っていた。

「よく逃げずに来たな、このくそ野郎が」

 ラファミーは俺に吐き捨てるように言った。

「まあ、葛城がいるのも想定内だ。どうせ人間。私には勝てない」

「悪魔風情がいきがるのは自由ですが。負けた後から人間を見直しても意味はないですよ」

 葛城が不敵に笑う。

「ふ、お前は呼んだ覚えはないんだが、もう勝った後のことを考えるとは貴様は案外弱者だな」

 ラファミー二房の横髪が揺れる。

「口ではなんとでも言って結構です」

「人間口しか能がないからな」

 ラファミーと葛城の間に静寂が訪れる。

 すっとラファミーが手を葛城に向ける。

 次の瞬間、数えきれない光の線が葛城に襲い掛かっていたが、葛城の目の前に何か目に見えない空間でバチバチと火花を散らして止まっている。

 ラファミーの姿はまるで返り血を浴びたジャンヌ・ダルクのように赤いツーサイドアップ、銀色の三日月をかたどったアクセサリーが付いている闇を具現化したような黒い軍帽を斜めに被り、そして同じく黒い軍服。

 瞬きをした瞬間だった。

 ラファミーの目の前には無数の魔方陣、切れ長の大きな瞳は怒りと憎しみに染まっている。

 葛城は小さく呟いた。

「かごめかごめ、正面の敵に跳ね返せ」

 すると、透明な顔のない幼子が出てきたと思ったら、空中でバチバチと音を立てていた光の線が音を消し、ラファミーに襲い掛かるが、すでにラファミーの姿はその場になかった。

 葛城は瞬時に上を向く。

 そこには既に真中に大きな魔方陣を据えて、たくさんの魔方陣を携えたラファミーの姿。

「これで終わりだ! 光冥一閃フレアライトメア

 その瞬間、葛城に大きな光、周りの小さな光も含めて照射。数秒遅れて轟音が鳴り響く。

 光の線が消えた時、葛城はその場に倒れていた。

「ふん、他愛もない」

 残念な物を見る目で言うラファミー。

 俺は目の前の状況、そしてあまりにもラファミーが非情なので俺は声を荒げる。

「なんで……なんで、こんなことするんだよ!!!」

 屋上にこだまする俺の叫び声、

「なんで、だと……」

 ラファミーの眉がピクリと動く。

「貴様がポミアを消したからに決まっているだろう!!!」

 どこまでも、どこまでも悲しみに染まった叫び。

 自分の部下を失った。

 それがどれだけ悲しいか。俺には想像もつかない、だが大切な人を失う気持ちというものは俺もポミアを失ったことで同じ気持ちでいた。

 分かっていたつもりだった。

 しかし、ラファミーは俺が思っていた以上に、想像できないくらいに悲しみの渦の中にいるのだという事に気付けなかった。

 ラファミーにはポミアしかいなかったと言う事実。

 俺達は友達として見られていなかったのだ。

 だからポミアは大切な友達、いやそれ以上だったのだろう。

 だが俺は、それでも俺は言う。

「ポミアはいい奴だった。神様に相応しい奴だった。それは俺が一番知っていると断言できる」

 ポミアの最後の笑顔が脳裏に浮かぶ。

「あいつは最後に笑った。それは悲しみなんかじゃない希望を託したという事を」

 そして、神様を目指したことを後悔していないことを。

「最後にまた俺と友達だって言った」

 ――また会おうね――と。

「だから、俺は悲しいが後悔はしていない。あいつが誇り高く消えて行ったことに」

 ラファミーは俺の言葉を噛みしめるように聞いていた。

 その表情は複雑な表情。

「そうか、ポミアが……だが、私は……お前が、ポミアを消したお前がどうしても許せない!」

「ポミアは最後に俺に夢を託していった!」

「黙れえええ!!!」

 ラファミーの悲痛な叫び、目の前に魔方陣が展開され、俺は瞬間的に目を閉じてしまった。

 しかし、いつまでも俺を貫く感触は現れない。

 目を開けてみると、光の線は俺のすぐ横をえぐっていた。

「リズペット……お前まで、私の敵になるのか……?」

「……、ポミアが消えてからうちもいろいろ考えたけど、やっぱり一人で戦うんじゃなくていままで通り啓二を信じることにしたのよね、やっぱ」

 すーっと、俺の近くにリズペットの姿が現れる。

 今まで認識できなかっただけでずっと近くにいたようだ。

「それに、今の話を聞いて、ますます啓二に味方したくなったからね」

 ねっ、とウインクしながらこちらを見る。

 ラファミーは茫然として、そして俺を見る。

「ポミアが最後に言っていた。最後まで仕えることが出来なくてすみません、と」

 その言葉にラファミーが辛そうな顔になる。

「ポミアの件は謝っても謝れないかもしれない。でも俺はもう一度、いやまだ友達になっていないかもしれない……でも、俺はラファミーと友達になりたい、どうだ?」

 そうだろ、ポミア。

 これでいいんだろ?

 ラファミーは唖然として、そしてため息を吐いて。

「そうだな、私はポミアが本当に誰を信じていたかを確かめていなかった」

 ラファミーは俺に歩み寄って来た。

「まだ完全に信じたわけじゃないが、啓二」

 コツコツと歩み寄って来て。

「私もお前を信じてみようと思う」

「ああ」

 握手でもするのかと俺は手を差し出すと、その手は空を切った。

 俺はやりきれない気持ち、そして、ふっと笑うラファミーを見て。狙ってやったことを理解する。

 ラファミーはリズペットに何気なく、

「しかし、リズペットよ、貴様がこの男を信じる気持ちが少しわかった気がするよ」

「そう? ならよかったよ」

 そう言ってお互い笑いあうのだった。

 いつの間にか空を覆っていた雲からは一筋の光が見えていた。

 

 朝の通学路。

 すっかり散ってしまった桜の並木通りを歩きながら、フウカの事をふと思い出す。

 俺やラファミーでさえこんなに傷ついているのだから、ポミアを消した本人のフウカはどれだけの悲しみを抱いているのだろうか。

 俺に分かってやれるのだろうか。

 ―――それとも、もう永遠にフウカとは分かり合えないのだろうか。

「辛気臭い顔してるな、啓二」

 大人っぽい声に顔を上げると、そこにはラファミーが俺の隣に並んで歩いていた。

「どうした?……と、聞かないでも分かるがフウカのことじゃないのか、違うか?」

「なぜそれが……」

「貴様は顔に出やすいからな」

 カッカッと靴を鳴らして歩き、長い艶のある黒髪が揺れる。昨日はあんなに赤く荒々しかったのに今の黒髪はとても静かに綺麗に見える。

「貴様の事だ、フウカのことを理解してやるとか思っているのだろう」

 ラファミーは腰に手を当て俺に端正に整った顔を目と鼻の先にまで近づけ、

「思い上がりも甚だしい、人間風情が」

 と、断言した。

 俺は呆気にとられて、そして言い返そうとしたときに、

「他人の事は半分以上も理解できない。これが世の常だ。だがな、そうやって全部知ろうとして、結局分かったフリに妥協して貴様はそれでいいのか?」

 俺は無言で首を振った。

「なら、フウカの事を理解してやる。なんか上から目線じゃなくて一緒に悩め、人間よ」

 と、ラファミーは右の髪をふさぁっとやって決めた。

「また、何かラファミーが高閲をしてる……」

 後ろから、じとめでやって来たのはリズペット。

「高閲とは何だ。説教と言え説教と」

「説教ならいいのかよ……」

 俺はラファミーの微妙な判断基準に笑っていたらラファミーがこっそりっと。

「まあでも、そういう考え、嫌いじゃあないがな」

「え?」

 俺が聞き取れず聞き返すと。

「なんでもない、さ、今日から期末テストだな、啓二は準備出来ているのか?」

 話を逸らされ田植えに嫌なことを思い出した。

「うーん、順調とは言えないけど、やることはやった感じかな。授業もちゃんと受けてるし」

「うちもうちも」

「お前はちゃんと授業受けてないだろ!」

 俺がリズペットにつっこむとラファミーは、

「リズペットは我らノワールローズの中でも頭のいい方だからな」

 ラファミーが感慨深そうに頷いている。

 俺はふと思い、

「ノワールローズってもうないのか?」

「ああ、魔王軍ノワールローズは崩壊、いや解散というべきか。したのだ」

 ちらっとリズペットを見る。

「魔王様と神様が和睦しちゃってね、もう争う理由がほとんどなくなっちゃったって言うのが理由なんだけどね、覚えてないかな、10年前東京で起こった。大震災」

 覚えている。俺が6歳のころの話だ。母が慌てふためいていたがあまり詳細には覚えていない。

「あれ、ニュースで報道されなかったのは、うちともう一人の力で押さえてたからなんだよね、本当は天使と悪魔の最終戦争が勃発してたんだよね」

 楽しそうに笑うリズペット、

「あのときは楽しかったな、宰相である私が戦略を立てて、魔王様が指揮を執る。遊撃するリズペット達。突撃するペトルーシュ達。もう少しで勝てたところをね……」

「うん、あいつが居なければよかったのにね」

 リズペットとラファミーは顔を見合わせため息。

「結局、泥沼になった戦いを終わらせるために神様から双方に停戦命令を出して、それを魔王様が飲んだ形になった。ほかの勢力はだんまりでなにもしなかった」

「ふーん、それで解散か、でも、まだほかの勢力は残ってるんでしょなんで解散したんだ?」

「相手にならないから、葛城と私の戦いを見たろう」

 確かに、葛城には悪いけどコテンパンにやられていた。

「それにこの世界を支配することにしか興味うちらにはないからねー」

 リズペットが髪を弄びながら言う。

「いままでは魔王様を中心にやって来たが、今は個人個人でやってるから今一ピンとこないんだよね、なんかこう、たっせいかん? っていうのがないのかな」

 リズペットが首を捻る。

「そうだ、いいことを思いついた。啓二が魔王でいいんじゃない」

 リズペットの悪い提案に

「それは面白いな、魔王様、いや様づけは好かんな、魔王、啓二」

 ラファミーにばしっと肩を叩かれる。

「これからも、よろしく」

 にやりと不敵に笑うラファミーはどこかいたずらっぽく見えた。

 魔王は嫌だなと思いながら、でもどこか悪くない自分がいて。

「ああ、こんな魔王でよければな」

 と言っておいた。


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