~Prologue~
不思議、と聞くとどういうものを想像するだろうか?
空を自由に飛ぶ魔法。
突然鳴り出す夜の音楽室のピアノ。
血を吸う吸血鬼。
そう言った類のものは俺のいるこの世界ではもう語りつくされて、一周回って時代遅れになっている言葉である。
しかし、その不思議なんてものは実際本州に住んでいる人間にはまったくなじみのない存在だ。なぜこんなことを話しているかと言われると、俺のいるこの世界には実はこっそりその『不思議』が存在しているというものだ。
……いや、こっそりなんてものじゃない、俺が幼稚園の年少の頃、母さんが見ている朝のテレビに四国が丸ごと全部青々とした木々に埋め尽くされて、悪魔たちに支配されました。なんてニュースを聞いた時は子供の俺は胸をときめかせたもんだ。小学校の時には今度は九州が丸ごと天使たちの島になりましたなんて聞いた時なんて、親に九州に連れてってくれとせがんだりもした。結局、危ないからと連れてってくれなかったけどな。
そうして、岡山の山と山の間にある小さな街に住んでいる俺はいつか出会える『不思議』に胸を膨らましながら中学生になった。結局その三年間一度も不思議らしい不思議に出会えず、強いて言えば、夜に親友の一ノ瀬と忍び込んだ音楽室で見たベートーベンの目がわずかに光ったぐらいだ。
結局『不思議』なことに髪の毛の先ほども出会わなかった俺は、そういうものとは一生関わらないのだと割り切り中学を卒業し、友達たちがみんなは町を出て岡山の県庁所在地のある高校に行くのを尻目にこの小さな町、赤凪町に一個だけあるさびれた高校、赤凪高校にひとり寂しく通うことになった。俺だってみんなと一緒に町を出たかったさ、でも落ちてしまったものはしょうがないだろ、な?
そんな悲しみを胸に秘めていたのは3月いっぱい、期待と少しの不安で満ちてきたのが4月の頭。親の意向で寮から通うことになった俺は、寮から学校へと続く緩やかにカーブを描く長い桜が咲き誇る道を歩き、『新入生はこちら』といういやに手作り感溢れる看板に沿って体育館に向かった。
中には既にたくさんの生徒が集まっていた。訂正しよう、30人程度なのだが、とにかく俺は一年生と書いてあるプラカードを持った生徒の後ろへ並んだ。
少し緊張したので一度深呼吸をして辺りを眺めてみると、おかしなことに気付いた。教師を除いて俺以外みんな女の子だった。俺は不安を感じ隣にいる。あくびをかみころしていた活発そうなポニーテールの女の子に尋ねてみた。
「なあ、ここ女子高じゃないよな」
その女の子は振り向いて、
「ん? 違うよ、キミ、もしかして何も知らずに来たの?」
眠そうな目をこちらに向けながら不思議そうに答える。
よくよく見るとその女の子はけっこう可愛い、黒い絹のようなポニーテールにはまるで魂が宿っているように綺麗で、藍色の大きな目と釣り合わないような色が薄いが太い眉は、俺より少し低い身長なのに胸が大きい体にはよく似合っていた。
少女は眠そうな目をこすり少し何かを考えると、
「まあいいや、うちはリズペットっていうの、君の名前は?」
「リズペット?」
外国人か? それにしては日本語が流暢だな。
「一応、名字とか名前も付けたけど、まあ、細かいことは気にしたら負け、この学校そういう人ばかりだよ」
リズペットはそんなことを話してまたあくびをした。
「俺の名前は斑鳩啓二、どうせ小さな町の学校だ、この人数なら一クラスしかないだろうし、よろしくな」
「よろしくね」
リズペットはニッコリ笑って答えたが、その目はあくびのしすぎで涙がにじんでいる。
「で、どうして女の子ばかりなんだよ、それに俺の知ってる奴が一人もいないし」
確かに俺の同じ中学の奴らはみんな県外に出て行ったが、この町にはもう一つ中学があったはずだ。そこの奴らがみんな女の子な訳がない。
「だから、細かいこと気にしたら負けだって、説明するのは面倒くさいし」
リズペットはあくびで出た涙を拭っていた。
まあ、困ることも、ない、のか?
「それではみなさん始業式を始めます」
体育館に凛とした声が響いて俺はリズペットとの会話を中断したのだった。
始業式はホントに中学の時とほとんど変わらず、隣でリズペットが立ったまま爆睡しているくらい暇なものだった。
気になった点と言えば、校長が80歳くらいのじーさんに対して、理事長がどうみても20歳くらいのキャバ女がスーツを着ているようなグラマラスな女性だったことだ。こんなド田舎で理事長なんてエリートなのかはてさてまた別の理由なのか……。
そんなこんなで、若い眼鏡をかけた新人オーラを出した先生が我らの担任のようだ。その担任に連れられて、一年一組に(一組しかない)に連れてこられ、全員の数を数えたところ、俺を含めて七人、俺以外はみんな女の子というハーレム構成になっていた。
担任の自己紹介が終わり、名前が星見という事が分かり、出席番号順に自己紹介をすることになった。
緊張の瞬間である。俺は斑鳩だから一番かと思いきや、前に一人生徒が居たので自己紹介はそいつからになるようだ。一番は緊張するし、前の自己紹介を聞いてこれからの学園生活を左右するであろう大事な自己紹介を無難に済まそうと思う。
前の席の女の子は立ち上がる。けっこう高めの身長にソバージュの髪形が良く似合っている。
「音無・ポミア・朱理です。ポミアって呼んでください。趣味はお茶です。みんな、よろしくお願いします!」
まばらな拍手が起こる。俺もつられて拍手をする、少し間を置いて違和感に気付いた。
ポミア?
また外国人かハーフなのか? 珍しいこともあるもんだ。
そして、ポミアさんが席に着くと今度は俺の番だ。ゆっくりと自然な感じを演出しながら立ち上がり、無難な自己紹介を終える。
同じようにまばらな拍手、しかし今度はみんな俺にすごく注目していて恥ずかしい。やはり男の子ってことでみんな気になるのだろうか?
でも、可もなく不可もなく行けたと思う。ゆっくりと腰を下ろす。
まあこれでいきなりクラスから浮くってこともないだろう。
そして、みんなはどんな人なのだろうかと思い浮かべていたら後ろの席の人が立ち上がった。
「伊吹フウカ。あたしは妖怪や魔法使い、天使や悪魔とかが大嫌い。だから、この中で妖怪や魔法使い、天使や悪魔がいたら、絶対に私に近づかないでください」
沈黙する教室。
開けっ放しにしている窓から風が吹き抜ける。
えっと、つまり、どういうことだ?
俺は思わず後ろを振りかえった。そこには毅然と立つ美人さんがいた。
ボブカットに中心に赤いメッシュでアクセントをつけた綺麗な黒髪、切れ長の眉に縁どられる大きな黒い瞳、腰に手を当て強調される胸はリズペットよりやや小さいくらい。
そいつはクラス全員を見渡すようにして、やがて座った。そして、俺と目があった。
「何見てんのよ」
つっけんどんな態度で言う伊吹に対して、
「すまん」
と言って、すぐ前に向くのだった。
その時、次の人の自己紹介が始まっていた。
「私、白音・スピカ・奈緒。スピカでいいわ」
淡々とした自己紹介を終える。
また、外国人なのかよ……。
結局、伊吹以外はみんなミドルネーム持ちだった。どうなってんだ、このクラス……。
赤凪学園に続く緩やかなカーブ。その道に咲き誇る桜を何気なく見ながら昨日のことを考えていた。
ポミア、リズペット、スピカ。
それに他のミドルネームを持つクラスメイトのことをだ。
確かに外国人っぽい顔つきにも見えるし日本人のようにも見える。ハーフをと言われれば確かに頷けるが、6人もいるか普通。
その時、肩をばすんと叩かれた。
「やっほ~斑鳩」
そのだるそうな声に振り返る。
リズペットが学生鞄を片手に俺を呼ぶその姿はかなり眠そうである。自慢のポニーテールにも少し寝癖が残っているのが気になる。
「ああ、リズペット、おはよう」
「ふあああぁぁ、もう朝なんて一日は早いね」
リズペットは大欠伸を隠そうともしなかった。
「昨日の夜、何やってたんだ。最近はやりのドラパズとかか?」
俺は流行物とかはチェックしているので、大流行のあのゲームを夜遅くまでやっているのかと思った。
しかし、リズペットは首を振って、
「いんや、FPSだよ、銃でバババーンって撃つゲーム」
「FPS?」
俺は訊いたこともない単語に首を捻る。
「そ、なんてったっけな……フリーパーソン……ま、ともかく一人称視点の銃の打ち合いのゲームだよ」
「へぇ……」
なんだか、おもしろそうなゲームである。
「いやあ、この世界のゲームっておもしろいね、朝5時までやってたよ」
「5時!?」
俺は腕時計句を慌てて確認して今の時刻が7時45分であることを確かめる。こいつ二時間くらいしか寝てないのかよ……。
「斑鳩もやってみるかい?」
「いや、俺はいいよ」
そんな朝までかかるゲームはごめんだった。
しかし、リズペットは妙なことを言っていた。この世界のゲームはおもしろい、と。
「なあ、リズペット」
「んー?」
眠そうな返事をこちらによこした。
「この世界ってどういうことなんだ?」
「ん、そうか……えーとね、こちらの世界ってのはネットの住人の事なのさ」
リズペットは何気ないように言う。
その時、俺とリズペットの隣を少し早足気味で、ナイスバディのツーサイドアップの髪形のクラスメイトの女の子が通り過ぎた。チラリとこちらを見た気がするがおそらく気のせいだろう。
俺はその女の子から視線をリズペットに戻すと、リズペットがにやにやしていた。
「どうした?」
「いんや、なんにもー」
リズペットの視線は通り過ぎたクラスメイトの女の子に向いていた。
「ネットの住人か、そう人もいるんだな」
「そうだねー」
そう適当に返事をしたリズペットはまた大きな欠伸をするのだった。
教室にリズペットと一緒に入る。リズペットの名字は橘なので離れているのでそこで分かれる。リズペットは席に着いた途端、鞄を枕に眠ってしまった。
俺は手持無沙汰になり、仕方なく席に着く。後ろには昨日妙な自己紹介をした。伊吹が仏頂面で座っていた。
ホントに何気なく昨日の自己紹介の理由を聞くために後ろを向き、営業スマイルで伊吹に問いかける。
「昨日の自己紹介って、あれ、どういう意味なんだ?」
「どういう意味ってどういうこと?」
「いや、天使や悪魔がってやつ」
「言葉通りの意味よ」
「いや、でも普通そんなのごろごろ転がってる訳じゃないだろ」
「……」
伊吹は黙り込んで、
「あたしは異能の存在が嫌いなの!!!」
一瞬間置いて伊吹が叫んだ。
クラスメイト全員の注目が俺たち二人に集まる。
「もういいかしら、前を向いてちょうだい」
そう言ったきり、伊吹はまだ春だと言うのに梅雨が訪れたような不機嫌そうな顔をして黙り込んだ。
俺は訳が分からず、でも伊吹にこれ以上聞けないので前を向いた。
チラリとリズペットの方を見ると今の騒ぎで起きたようだ。だがその顔は会ってから見たこともないくらくいに真剣だった。
昼休憩、リズペットは朝の授業からぶっ通しで眠り続けていた。
俺は、ほかの奴らが一緒に食べている中一人で食べるのもアレなので、後ろで相変わらず不機嫌そうな伊吹の方に振り向いて昨日買って来たパンを広げた。
「ちょっと、何勝手に人の机にパン置いてんの」
当然のごとく怒る伊吹。
「いいじゃないか、お前も一人なんだろ、今朝の続き教えてくれよ」
「……ふぅ、まあ、いいわ」
しぶしぶと言った表情で自分のお弁当を広げるフウカ。
「あのね、あたしが妖怪や魔法使い、天使や悪魔なんかを見たらね、消えちゃうの」
「消える?」
「そう、星が煌めくみたいにキラキラと、透明になってね」
そういう伊吹の顔はどこか寂しそうである。
「嘘みたいな話だな」
「ホントよ、だって、あたし、神様の娘なんだもん」
「なんだそれ」
俺はあんパンをかじりながら怪訝な表情を浮かべた。
「まあ、信じるのも信じないのも自由よ」
「どっちでもいいだろそんなこと、伊吹は伊吹なんだろ」
俺が何気なくそう言った言葉に伊吹はまるで狐につままれたような顔をしていた。
「あんたあたしが神様の娘だから怖いとか敬うとかそんなことしないの?」
「なぜそんなことせにゃならん」
俺はさも当然のように答える。
伊吹派おかしそうに笑って。
「ふふっ……そうね」
そう言うと、伊吹は、
「あんた、あたしの友達になりなさい」
「いきなりなんだよ」
「あんたとは仲良くやれそうな気がするわ」
「まあ、いいけどよ」
「決まりね、これからはあたしのことフウカと呼びなさい、いい、これは命令よ」
有無を言わさぬ口調にたじろぐ、
「分かったよ」
「決定ね、さて、啓二、仲良しの印に、そのチョコクロワッサンよこしなさい」
呼び捨てにされたことはおいとくとして聞き捨てならん!
「はっ!? これは俺が一番楽しみにしていたやつだ、お前なんかにやらん」
「ケチ! じゃあ、そのクリームパンを全部いただくわ」
そう言って机の脇に置いてあったクリームパンを奪って、一口で食べた。
「くそ、俺のクリームパンが……」
俺はフウカの口に消えて行ったクリームパンの戦死を惜しむ。
「しょうがないわね、あたしのお手製たこさんウインナーあげるわ」
「!?」
たこさんウインナーだと!?
それもフウカの手作り……。
クリームパンお前の死は決して無駄じゃない。
そうして、フウカからたこさんウインナーをもらった。
その味はとても市販のものとは思えない。
そして、その姿をクラスメイトがなぜか異様に注目していたというのをあとから明日リズペットから聞くまで知らなかった。
放課後、部活もほとんどないことを知った赤凪高校に何のとりえもない俺はやはりと言っていいのか帰宅部に所属した。
同じ帰宅部であろう、リズペットに声をかけようと、席を立つ前に向こうの方からこちらにやって来た。なぜかその顔は朝チラリと見た時と同じく真剣そのものである。
「少し話があるんだ。今から体育館裏に一緒に来てほしいな」
「え?」
俺は呆気にとられ戸惑いの声をあげる。
告白?
まだ会って二日しかたっていないのに?
自然と速くなる心臓を押さえつけ、俺は肯定の意を伝える。
「じゃあ行くよ」
リズペットは学生鞄を持ってない手の方で、俺の手を握り引っ張る。
女の子の手ってこんなに柔らかいんだ……。
そんな初めてのことだらけに驚きつつ体育館裏に連れてこられる。その間会話はない。
リズペットと向かい合うような形になった。その表情は今から告白しますよオーラがにじみ出ている。
そして俺は心臓がドキドキと跳ねていてそれどころではない。心の準備もまだ不完全だ。
と、不意にリズペットは目を瞑った。まるで瞑想しているように見えた。
「――神様の盲点の標(BLindExistence)」
そのとき、リン、と鈴の音のような音が響く。
俺は自身とリズペットに感覚のズレを急に感じた。まるで俺とリズペットの存在がこの世からなくなったような、そんな感じを。
「ふぅ、これで、周囲からうちと斑鳩の認識を有から無にした」
リズペットがそう言った瞬間、リズペットの姿が光に包まれた。
長いポニーテールは深緑色に変わり、大きく丸い瞳は藍色、白いウィンプルと修道服に首から金のロザリオをかけている姿に変わった。
俺は先ほどまでのドキドキが雲のように消え去り、驚きと別の期待が胸を駆け抜ける。
「リズペットその姿……」
「うちはね、悪魔なのだ」
悪魔? 天使じゃなくて?
着ている服とその種別の差にギャップを感じながらも初めて見る異能の存在に俺は胸をときめかせていた。
「さっきの鈴の音もお前の力か?」
「ああ、あれは、うちの認識を操る能力で、うちと斑鳩の認識を周囲から消したの、万が一見られたら困るからね」
俺は初めて見る異能の存在に感動する。
「すげぇよ……すげぇよ、リズペット!」
心の底から褒める言葉が自然と出てきた。
すると、リズペットは顔を赤く染めて、
「いや、まあ……ありがとね」
しかし、なんでリズペットは正体を明かしたのだろうか。
悪魔と言うから、命を狙うのが目的だろう。
命を狙う?
そこでやっと思考がそのことまでたどり着く。
俺はだんだん怖くなっていく。
「なあ、リズペット、まさか、俺の命を取ろうとか、そういうのじゃないよ、な?」
恐る恐る尋ねる。
「それだったらこんな面倒な真似はしないさ」
リズペットはふふっと笑い、
「それともあれかい、魂を奪ってほしいのかい」
「そんなわけあるかよ!?」
俺は思わず叫んでいた。
「まあまあ、そう怒るなよ。ここに呼んだのはね、この学園の事を斑鳩にも知っていた欲しいからと思ったからかな」
真面目な表情にもどったリズペットはゆっくりと語る。
「この学園、赤凪学園は、次の神様を決める戦いの場なんだ」
「次の神様?」
フウカも言っていた神様と言う単語に首を捻る。
「そう、一〇〇〇年に一度行われる。この世界の神様を決める戦いのね」
そう言い終わったリズペットの言葉に疑問が湧く。
「でも、戦いなんて起こってないじゃないか、どこでそんな――」
リズペットは、手で俺の言葉を制して、
「戦いは武力じゃないんだ」
「じゃあ、なんなんだよ?」
リズペットは一拍置いて。
「伊吹フウカが神様の娘だって知ってるよね?」
「確か、そんなことは言っていたような気がする」
「それなら話は早いよ、次の神様は伊吹フウカが赤凪高校を卒業した時に選んだ、存在が次の神様だ。それが妖怪でも魔法使いでも、悪魔や天使、そして、斑鳩啓二。キミみたいな人間でもね」
「それじゃ……」
「そう、今もっとも次の神様に近いのは斑鳩、キミだ」
俺が次の神様……。
「そして、この戦いが知られているのは現在天界と魔界の極一部、だから、クラスメイトは斑鳩とフウカ以外は全員天使と悪魔だと思う」
「じゃあ、橘っていう名字は?」
「偽名、ここは日本、外国人ばかりだと目立つけど、ミドルネームだともしかしたらがあるじゃない」
俺が思っていたifは間違っていたようだ。
「それで、わざわざ俺をここまで呼んだ理由はなんなんだよ?」
「忠告かな、さっき武力じゃないっていったけど影で誰が殺されるかなんてわかったもんじゃないんだ、だから知っておいてほしかったのと」
そこで言葉を区切って、
「それとなんか、うちね、キミを気に入っちゃってね、どうせキミは神様になる気なんてないんでしょ?」
そう問われて改めて考えてみた……………うん、ないな。
「だから、これからも仲良くしていきたいっていうのが本音で、できればキミがもし神様になったら譲ってもらえたらいいなとか思ってるしね」
「なるほどな、結構考えてるんだな」
リズペットははにかみ、
「まあ、ね」
「でもなんで、俺は人間なのにこの学園に来ているんだ?」
俺の当然の疑問にリズペットも分からないようで、
「うーん、たまたまは絶対ありえないし、なんでだろうね」
リズペットは首を傾げてあははと苦笑い。
「理事長が今の神様だから理事長に聞いてみたら?」
リズペットはにっこりと笑った。
そうして、話はそれだけ、と言って初めにしたみたいに目を閉じるとまたリン、とした音が聞こえた。
「さあ、帰ろうよ」
と言って、沈みだした夕日に向かうリズペットの後を追う。
緩やかなカーブを描く桜の道は夕焼けに染まり燦然と輝いていた。
「なあ、リズペット?」
「ん、なんだい?」
少し先を歩くリズペットは振り返らずに答える。
「ほんとに俺なんかに正体を明かしてよかったのか? もしかしたらフウカに言うかもしれないし、それに俺と仲良くするよりも始末する方がお前にとって楽なんじゃないか?」
俺はそんな意地の悪いことを聞いてみた
すると、リズペットは立ち止り振り返る。
「初めてできた人間の友達を犠牲にしてなった神様なんてうれしくなんかないよ」
そして、周りに咲く桜に負けないくらい綺麗な笑顔で、
「啓二を信じているからね」
振り返る時ポニーテールが静かに揺れ、夕日に輝いて美しかった。