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そして彼は今日も胃薬を飲む

腹黒な良樹さんに日々、胃薬の消費量が増える不憫な風紀委員長加賀さんの登場です。

「どうだった?どんな子?」


由香里の案内を終え、風紀室に戻ってきた良樹に風紀委員長である加賀正輝は待ってましたとばかりに聞いた。


「ありえない…あれが庶民育ちだと普通なのか?勝手に名前を呼ぶし、なれなれしく腕を組もうとしたぞ。狭山では一体何を教育したんだ?」


淑女教育を受けた令嬢を見慣れた良樹にとって彼女の行動は不快を通り越して不可解だった。


「さぁ、長男たちは普通だよな。あんまり義理の娘には興味なかったからなぁ。」


実際にはあったこともなく、噂にもならない由香里のことは同じ五家の彼も知らなかった。


「だが、言う前から僕のことを知っていた」


「おや…狭山に候補者として選ばれているってことか…。はぁ、俺もだろうな」


「たぶんな。だが、なぜあの状態の娘を狭山を名乗らせこの学園に入れたのか思惑がわからない。あれならふさわしくないからとどこの家も断ると思うぞ」


「えっ?それほどなの?見たいけど、俺まで接触すると目立つからなぁ」


興味をそそられたが、生徒会長と双璧をなす彼が用もなく普通科の生徒と関わるのは、彼女に興味がありますというアピールになってしまうので片思いの女性がいる正輝には望ましくなかった。


「狭山があの娘を隔離しなかったのは何故だ?確か、どこかの女子高に通っていたとあったよな。

すぐにここに入れなかったのには問題があったが、それがなくなったからここに入れたのか?狭山の当主は人のこと道具としか思っていないような人だけど後妻は気に入っているってうわさだったけどな。

なんで義理とはいえその後妻の娘があんな馬鹿っぽいんだ?普通科に入ったってことも本人知らなかったぞ。僕と同じクラスだって思い込んでいた」


彼女と狭山の思惑が読めずに困惑する良樹は自分の幼馴染であり親友の正輝に頭を整理するために事態の説明をした。


「うそー、だって試験してないのに?どうして勘違いできたんだろ?見学に来たならわかるよね。ここの普通科は花嫁修業みたいなものだから女の子しかいないし。特進科にいるのなんてあの子ぐらいじゃん。

まったく、ここって共学なのに男女比すごいよね。3学年あって、普通科の女の子100人に対して俺ら特進なんて45人しかいないし」


「特進のテストは難しいからな。幼いころからここを目指し勉強していなくては入れない。だからこそ将来有望な男に見初められるために彼女たちは普通科に入っているんだからな。しかし、狭山はそんなことも教えていないとは…見学にも来ていないようだったしな」


資産家や有力者など限られた家にしか入学を許さないこの華咲学園は普通の学校とはかなり違った。


厚みのある教育を受けさせるために特進科は少数精鋭主義なのだ。普通科が家の名で入学可能なことと違い特進科所属は家の名だけでなく難関試験を突破したエリートの証である。


「えー、狭山の考えがわかんないな。確かに俺らは将来有望だから女の子から狙われているけど、ほかの子は親の意向の中から自分の好みの男にすり寄るじゃん。でも良樹狙いにしては彼女の手管がずさんすぎる。男の落とし方も何も教える気がないなら、なんで落とす相手の俺らのことを今、教えたの?教育されていない状態で男落とせって言われても難しいでしょ。普通科で勉強させた後にさせればいいのに、逆効果になってるし」


普通科は夫を支え夫に愛される女性になりましょうという良妻賢母を目的とした教育がメインとなっている。家で教育する気がないのなら、その教育を受けさせてから婚約者候補の情報を教え接触させるほうがいいだろうにと正輝は考えたからだ。


「生徒会にも興味を持っていた。まさか…高神狙いか?たしかにあの男は婚約者の彼女とは正反対の馬鹿っぽそうな女が好きだ。しかし、ほかの人間にはありえないな。あの手管で男を落とせるとは思えん」


「じゃあ、狭山と娘の狙いが違うんじゃない?」


実際、狭山の家は彼女に普通科での教育を受けさせてから彼らに接触させる気だったために、彼らの情報を教えてはいなかった。


高神狙いなど思ってもいなかった。


彼女が転生者としてのゲーム知識を狭山の義娘になってからは語ることもなく、おとなしくしていた為に、狭山の当主は毒にも薬にもならぬ娘という認識だった。


期待もかけなかったが、問題を起こす危機感も持っていなかった。興味を持っていなかったというのが実情である。


また、由香里も良樹にしか興味がなかった為に彼と関わらないところでは、私はヒロインという思いの為に、少し自己中心的な所はあるが、おとなしい娘だった。


令嬢のほとんどは多少甘やかされてわがままなことが多いために、彼女が癇癪を起してもあまり周囲の大人は気にしなかった。


ただ、同世代の子供達は彼女が自分達を見下しているのを言動の端々に敏感に感じ取っていた。


狭山の名があるからいじめなどは起きなかったが狭山の血も引いていないのに偉そうにと反感をかった為に彼女に友人はいなかった。


大人達は同格の家が多い華咲学園に行けば自然と友人は出来るだろうと考えていた。ただ、それだけだった。


彼女が転入早々に良樹にあんな行動をとるとはまったく予想していなかった。


また、外部への情報流失を嫌うセキュリテイの厳しいこの学園の寮に入ったことにより狭山家が彼女の異変を知るのは、騒動が終結する頃だった。


そうとも知らぬ彼らは彼女の行動に裏があるとしか考えられなかった。


「狙いが違うって、どういうことだ?」


「一般人に戻りたいからわざと馬鹿な女を演じているとかは?」


「なるほど、ここに来るまでにおとなしい令嬢を演じて狭山をだまし、ここで馬鹿女として問題を起こし除籍を狙っているか。あり得るな。彼女の過去を調べてみよう。幼少期まで遡ればどんな性格かわかるだろう」


「じゃあ、俺がそれは調べさせておくからお前は彼女から少しでも情報を引き出せ。ほころびを見つけろ、風紀委員長として命令する」


先程までの親しい人間にしか見せないどこか軽いしゃべり方を一変させて、彼は副委員長で腹心の良樹に命じた。


「承りました」


先程までの雰囲気を一変させていつもの優しげな雰囲気に戻った彼はそう答えて去って行った。


気心の知れた正輝の前でしか見せぬぶっきらぼうな姿は仮面をかぶったかのように変わった、そんな彼を想って正輝はつぶやく


「鬼が出るか蛇が出るか」


まぁ、きっと何が出ても自分の思い通りにするんだろうけどねと初恋のあの子を取り戻すためにこの5年間、陰で暗躍している親友の姿を思い出したらキリキリと痛み出した胃を抑えながら胃薬を探す正輝だった。


かっこよさが持続しない男、正輝。


良樹の本当の姿を知る唯一の男は今日も胃薬を飲む。


そんな彼が生徒会と由香里の接触を聞いて黒い笑みを見せた良樹におびえるのは、もうすぐのだった。






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