転入までの裏事情
運命の時は来た。
ヒロイン狭山由香里は16歳になり、華咲学園に転入した。
ゲームでは母の再婚のために15歳から上流階級の仲間入りをした彼女は、受験に間に合わなかったために高校1年の2学期から華咲学園に通う設定だった。
だが、10歳の時に母が再婚したために、本来なら彼女は華咲学園の中等部から入学が可能だった。
しかし、狭山の本邸は華咲学園から車で1時間ほどの距離がある上、彼女の母が娘の精神状態を案じたために、中等部入学は見送られ、彼女は家の近くの女子校の中等部に入学した。
友達は少ないが、表面上は問題を起こさなかった娘に母は安心して華咲学園の高等部には寮があることもあり、入学を勧めた。
しかし、ストーリーは編入してきた彼女が迷子になり、中庭で不安げにしていたところを風紀副委員長の佐々木良樹に助けられることから始まる。
だからこそ、彼女は友達と離れたくないと言って、そのまま付属の女子高に行くことを望んだ。
母はそんな娘に感動したが、狭山家としては五家の娘が華咲学園以外で過ごすのはあまり望ましくなかった。なぜなら、彼女の婚姻相手に五家の加賀か、十家の佐々木や神崎などを狙っていたからだ。
十家以上では学生のうちに親しくなっておいて卒業と同時に婚約するのが当たり前のことだったからだ。
女性は、婚約もしていない内から男性の多い社交の場に出るのは、はしたないと考えられていたからだ。もちろん子供の内や、女性の多いお茶会や演奏会などは別のため、そういったところで出会い結ばれる人たちもいるが、10家以上の上流階級の女性にとっては華咲学園が身元が確かな出会いの場であった。
そのため、家の名が重要であり、普通科に入学するなら学力表の提出と簡単な面接で転入が可能だからだ。
加賀美家の娘のように特進科に入学する優秀さはない義娘だが、普通科なら大丈夫だろうという目論見で、狭山の父は高校2年から華咲学園に通うことを条件に女子高に通うことを許した。その女子高なら今まで通りに彼女の成績をかさましするように圧力をかけることが簡単だったからだ。
ちなみに、ゲームでは跡取り候補にもなる優秀な少女だったため、難関な学力テストをパスして特進科に入っている。由香里は自分のスペックのなさにまったく気づいてはいなかったが…。
思いがけずに、彼女の思う以上に上手く事が運んだ。
転入の理由をどうすればいいのかが彼女の悩みでもあったからだ。
母の再婚の差異や義父の思惑や華咲学園の入学事情などはまったく気づいていない彼女は、母の再婚により五家の一員になったこと、そして華咲学園の転入が義父によって決められたことに運命を感じていた。
ヒロインの補正力が働いていると思い込んだ大きな要因である。