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そして彼女は彼女になった

積極的には動かずとも、正明に自分を嫌う下地をつくることが、婚約者という立場にある彼女には可能だった。


そう、不和の種はすでに蒔かれていたのだった。


あの運命の日に…


~過去編~彼との別れ~


真っ青な顔をして五家の会議から帰ってきた父は、親友である佐々木家の当主を呼びつけて、長く書斎で話し込んでいた。


響子と良樹は父達の普段と違う様子に不安になりながらも仲良く庭で遊んで待っていた。


父親達に応接室に呼ばれた時には響子の母となぜか良樹の母も同席していた。


そのいつもと違う空気に余計に不安感をあおられたが、彼らはおとなしく響子の父が話すのを待った。


「響子、良樹君、お前達の気持ちはわかっている。だが、諦めてくれ。響子、お前は高神家の婚約者候補に選ばれた。これからあの家の条件をクリアした後に正式に婚約者となる。頑張ってくれ、もうお前しかいないんだ…」


「あなた、宮城のお嬢様は一体どうなさったの?あの方が候補だったじゃない」


普段のたおやかさを捨てて、響子の母はそう夫に詰め寄った。


「彼女は挫折した。12歳になってから3年かけて挑んだが、半分もクリア出来なかったらしい。それを恥じた宮城は候補を辞退して彼女を除籍した。彼女の未来は暗いだろう。響子、私たちはお前にそんな思いをさせたくないんだ。同じ五家の宮城がこんなことをしなければ…わざと失敗すればどうにかなったかもしれない。だが、もう無理だ。お前が婚約者にならなければ私たちはお前を失うことになってしまう…。響子、そんな選択をさせないでくれ…」


そういって泣く父に、響子はもう何も言えなかった。


普段は精悍で頼りがいのある良樹の父も力なくうなだれている。


穏やかな良樹の母も真っ青になって今にも倒れそうだった。


そして良樹も彼らの普段とは違う姿に言葉を失っていた。


そんな悲哀に包まれた加賀美家に、高神の実質の当主である真規子夫人が来訪した。


「私から二人に話をさせてください」


そういって幼い彼女たちに正明の母、真規子は語り始めた。


高神家の暗部を。


なぜ、妻になる者を選ぶ条件が厳しいのか、勇者の子孫ということの弊害を彼女は包み隠さず教えた。


高神は本来上位の家なのだから、加賀美に命令するだけで終わったはずだった。


それを他の家には知られたくない事までも、彼女は隠さず話した。


愛する人と引き離した上に、幼い響子に重荷を背負わせることになることに、引け目を感じていたからだ。


自分はライバルを蹴り落としてでも、高神家に嫁ぎたかった。


後妻達が幅を利かせる居心地の悪い実家を早く出たかった。


何よりも、彼女達の鼻を明かしたかったから、死ぬ気で頑張って5年かけてすべての条件をクリアした。


でも響子は違う。


高神の妻は条件の厳しさから、基本的には真規子や宮城の娘のように年上の少女が選ばれる。


他の候補者が続々と落ちる中、宮城の娘はなかなか優秀で、もう決定だろうと噂されていたのだ。だが、脱落者の証言で彼女の結果が水増しされていたことが分かった。それを表ざたにされることを嫌った宮城が娘に全てを押し付け、除籍したというのが真相だった。


だが、公には出来ない理由のために、実力不足だから除籍したと宮城の当主が発表してしまった。


その為、五家筆頭の加賀美の娘が実力不足で候補から落ちれば、除籍せざるをえなくなってしまった。


高神家のほかに加賀美家の名誉までその幼い両肩にかかってしまった。


響子は絶対に辞退できないし、脱落できなくなってしまった…。


それを、真規子は申し訳なく思っていたために響子たちに全てを語り、許しを願った。


令嬢たちの憧れの的である凛々しく美しい女性が11歳になったばかりの少女と少年に頭を下げる様子は滑稽だったかもしれない。


でも、彼女は自分のプライドを捨てて、そうした。


良樹はもう何も言えなかった…。

歯を食いしばり涙をこらえ、荒れ狂う感情をこぶしを強く握ってこらえていた。


そしてそんな良樹の姿を横目で見ながら、彼女は決断した。


彼との別れを…。


自分が除籍されたなら、追ってくるだろう彼を思って…自分の気持ちを覆い隠すことを。


そして彼女は今の彼女になった。


たった3年で100以上もの条件をクリアして高神正明の正式な婚約者となったのだ。








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