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6.

 それから冬が来て、シーエルの国では雪が降りませんでしたが、山は真っ白に雪化粧しました。


 今日も、お父さんのお手伝いを終えるとシーエルは荷馬車の後ろに乗って山の向こうに思いを馳せます。


 今度は雪に対する憧れとは別に、大切な友達への思いも一緒に。


 そして、空を見上げます。


 少し前までは飽き飽きしていた晴天の空も、今となっては特別な色をしていました。

あのとき、自分の国の空を褒めてくれて嬉しかったんだ。


 シーエルは思います。自分が気がつかなかった美しさを認めてくれる人がいて、それがこんなにも嬉しい。


 すぅと息を吸うと、ネーヴェの言うとおり、水よりも澄んだ大気が喉を洗っていきました。


 この想いをネーヴェも共有している。


 そう思うとなんだか誇らしくて、胸がドキドキします。


 まだかしら、まだかしら。


 そう思っているうちに、春がやってきました。



 

 だいぶ暖かくはなりましたが、山の雪は消えていません。

 ネーヴェたちが来るには、山はまだ危ないのです。

 

 早くても夏頃になるかしらね。


 シーエルはそう思いました。



 ある日の寒い春のこと。汲み置きの水も、表面が凍るほど寒かった日のことです。


 その日、シーエルは疲れていつもより早く眠ってしまいました。学校に行ったあとに、お父さんから、急にお手伝いを頼まれてクタクタだったのです。


 だからご飯を食べて直ぐに眠くなってしまったのでした。


 

 カチン、カチン



 なにかが窓を叩く音が聞こえます。シーエルは夢もみないほど深く眠っていましたが、その音で目覚めてしまいました。


 外はまだ暗く、深夜の時間帯でした。それは小石が窓を叩く音でした。


「…なに?」


 いたずらかしら。


 と、不審に思い窓の外を覗くと、視界の隅にチラリと白い綿が写りました


「え?」


 シーエルは目の前の光景が信じられずに目をこすりました。急いで窓を開けます。外の空気はキンと張りつめ、冬のようでした。窓をあけた外には白くてキラキラした結晶がちらちらと降って、地面にうすく積もります。



 でも、不思議です。



 雪はシーエルの部屋の前にしか降っていません。


「シーエル」


 ずっと待ちわびた声が聞こえます。シーエルは夢かと思いましたが、もし夢の中だったとしてもすることは決まっていました。


 シーエルは一瞬で胸が踊り、外に駆け出していきました。


「ネーヴェ!」


 シーエルは飛びかからんとするほど勢いよく家を飛び出し、ネーヴェの手をギュッと握りました。


「約束まもってくれたのね!会えて嬉しいわ」


 いつになくシーエルははしゃいでいます。


「僕もだよ」


 ネーヴェはそれが礼儀だというみたいに、前に別れたときシーエルがしたみたいに、ぶんぶんとつないだ手を振りました。


「でも、こんなに早く来るとは思わなかった。まだ山は雪が降っているでしょ」


「ふふ、あれがしたくてさ」


 ネーヴェはしたりといった顔でパチンとウィンクします。その顔は月明かりの下で優しく、夜にあって太陽のようでした。


「雪がふってたよね」


「あっ!」


 シーエルは今思い出したように後ろを振り向きました。部屋の外でみた雪にはびっくりしましたが、シーエルはネーヴェのことで胸がいっぱいだったのでした。


 そこでは、まだ雪がチラチラ降っています。でも、やっぱり不思議です。家の前には降ってるのに、シーエルとネーヴェの周りは全く降っていません。


 夜の暗闇の中、家の屋根をじっとみると、そこにはシーエルとネーヴェのお父さんが雪の塊をふるいにかけて下に落としていました。


「このあたりに雪は降らないけど、この季節とっても寒いよね。この季節はギリギリ雪が溶けないから、僕のソリに山の雪をいっぱいに積んで運んできたんだ。まえに見たいっていってたよね?」


 シーエルは言葉を失ってしまいました。山から一体いくらあるのでしょう。ここからずっとソリを運んできたというのです。


「寒といえど、太陽が照っているからね。溶けてしまわないように夜に急いで来たんだ。あとは君のお父さんと僕のお父さんに頼んで雪をふらせてもらったわけさ」


 ネーヴェは胸をはって誇らしげです。でも、そのうちちょっとだけ申し訳なさそうにして、言いました。


「ごめんね。こんな偽物の雪で。でもシーエルにプレゼントしたくて」


 シーエルはドキドキして、泣き出しそうでした。それは雪に触ることができたからかもしれません。あした、ネーヴェとみんなで雪で遊べるからかもしれません。


 でも一番シーエルをドキドキさせたのは、ネーヴェが自分のいったことを覚えていてくれたことでした。


 シーエルはいじっぱりなので、自分が泣くのを見られたくありません。だから、顔が見えないように思い切ってネーヴェの首に手を回し、抱きしめました。


「ありがとう」


「うん、どういたしましいて」


 ネーヴェはそう満足にいいました。


 遠くの屋根の上でヒューとか冷やかす声が聞こえてきました。




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