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5.

 酒場であった人たちが滞在している1週間の間、シーエルはネーヴェとよく遊びました。シーエルは友達にネーヴェを紹介して、先生に頼んで一緒に学校に行ったりもしました。


たった一週間でしたが、ネーヴェと別れるのはシーエルにとってとても悲しいことでした。


「また、すぐに会えるよ」


 そう言ってくれるネーヴェにたいして、


「そうね、まってるわ」


 と、あっさりいってみましたが、シーエルはとっても悲しかったのです。


 旅は大変な危険を伴うので会えるのはいつになるかわかりません。山が白一色に染まる冬は歩けなくなってしまうので、今度会えるのは春以降です。


 シーエルは泣きそうになるのをぐっとこらえて、ツンとしていました。


「シーエル」


「なによ」


「なんで怒ってるの?」


「おこってないわ」


「ふーん」

 ネーヴェが「そうなんだ」と言うと、なぜだか腹が立ちます。慰めたり、かまってくれてりして欲しいわけではないけど、興味なさそうに言われると、なんだかイライラしました。


 悲しくて、どうしようもないから、感情が変な形で小さな爆発を起こしていました。


「ねえ、シーエル」


「なによ!」


 シーエルの大声に、ネーヴェはびっくりしたようですが、シーエルをしっかり見て言いました。


「あのね、一週間とっても楽しかったよ」


「…」


「僕らは山の向こうから一週間くらいかけてここまで来るんだ。でも、見てわかってくれたとおり、一緒に来た人たちの中には僕と同じくらいのこどもはいないでしょ?だから、とってもつまらなかった。この国に来てからも、きっとつまらない一週間が続いて、帰りの一週間も全然楽しくないんだろうなって思ってた。でもね、この国に来てすぐにシーエルにあって、 」


「うん」


「シーエルはキミの友達のみんなに僕のことを紹介してくれて、一緒に遊んでくれたよね。シーエルの先生に、『一緒に学校にいってもいい?』って頼んだ時は、僕すごく驚いたよ」


 私は特別なことをしたつもりはないのに。


 そう思いましたが、声には出せませんでした。


「僕らの国は、雪が多くて、曇りの日も多いっていったよね。だから、こんな綺麗な青空の下で、はしりまわれるのはすごく楽しかったよ」


「…、…うん」


「ひとりで走り回るんじゃ楽しくない。シーエルたちと遊べたからたのしかったんだ」

 シーエルは、自分がなにか偉いことをしたみたいに言われているようで、照れくさくなります。それだけではありません。こらえていた涙が今にも溢れ出しそうで、さっきとは違う意味で感情が不安定になってしまいました。


「だから、ありがとう。また、遊ぼうね」


「うん」


 シーエルは奥歯をぐっと噛み締めて涙をこらえました。鼻の奥がツンと痛くなって、喉が熱くなりました。


 下を向いた拍子に目の端からこぼれてしまった涙を隠すので必死で、シーエルはうつむいたままネーヴェの手を握って、


「またね!絶対また遊ぶのよ。じゃあ、今日は忙しいから、ばいばい」

 といって走り出しました。


 ネーヴェはシーエルに手をブンブンと振られて「うわわ」と驚いていましたが、言いたいことが伝わったと思うと満足に「うん。またね」といいました。


 シーエルは忙しい予定なんてありませんでした。ここに居るのが耐えられなくて、逃げ出してしまったのでした。


 シーエルは走って家に帰るとお母さんから、


「あら、今日はネーヴェくんと一緒にいるんじゃないの?」

 と言われました。

 シーエルは応えることができず、ベッドに潜り込んで思い切り泣きました。




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