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敵を欺くために

 この時期の日が昇る時間帯が一番空気が澄んでいて気持ちが良い。周囲には霧が立ち込めており、人影を認識出来る程の濃さだ。

 だが、今の私達にはこの状況がもっとも適している。


「イリア、準備出来たわよ」

「見張りの交代時間だし、速攻抜ければ大丈夫だよ」

「解った」


 リディアとエミーに言われ私は自分の愛馬に跨る。他の二人もそれぞれの愛馬に乗り上げた。その際、この賢い馬達は私達の意図を理解し、鳴く事も無く私達が手綱を少し引いただけで静かにゆっくりと朝霧の中を歩き出す。そして三人の姿は王城から消えていた。




 私達は目的地である港に着いた。


「無事に着いたな」

「そうだね拍子抜けするほどに」

「まあ、向こうも思わなかったでしょうね~。イリアが共を二人だけにして後はそれぞれの愛馬で出立するなんて暴挙に出るなんて」


 くすくすとリディアとエミーは笑っている。笑っているが…。


「この策を考えたのはお前達だ」


 そう。今日はヴォール帝国へ向けて出立する日だった。

 本来の一国の姫君であれば大国へ向けての出送りは相当派手な物だ。騎士を三十人に世話をするメイドや小間使い。合わせて五十はいるであろう大集団で出立して行く。

 我が国も例によって例の如く、大集団編成が成されていた。

 当然、姉達の放った密偵及び暗殺者も紛れ込んでいて、対処するのも面倒な為にエミー達が立てた予定を行動に移す事にしたのだ。

 …読み易い手を使ってくる姉達も、少しは頭をひねって欲しい物だ。

 ただでさえ、今回の招待主は大帝国側。

 その国に、招待されるべき私が死んで、そちらに行けぬ事態になれば、例え姉達が行く事になっても我が国に混乱が起きても可笑しくないのだ。

 それ程までに相手の方の権力は凄まじい。

 その直接の指名を受け入れ切れ無かった国としてのレッテルを貼られる事になる。

 最悪、戦にまで発展もしくは帝国領になってしまっても可笑しくないのだ。

 その辺りの政治的駆け引きも思い付かない様では、姉上達の教育係は本当に何を教えていたのか。

 まさか、あの外見だけは良いのに騙されて、教育を疎かにしていないだろうな?


 ……して居そうな気がする。しかし、姉上達も既に成人済みで再教育出来るか不明なので放って置くしか無いか。


 そんな考えと、私には大集団の護送等、その様な物は不要。リディアとエミーさえ居れば十分なのだ。

 多く居れば良いと言う物でも無い。

 私はそれでは身動きがし辛くなるし、あの馬鹿な姉上二人が密偵と暗殺以外の何かをしでかすとも限らない。

 私が帝国領に無事に着かなければ意味が無いのだ。今回の招待は。

 それに私は国を危機から守るだけの為に行くのであって、自分が妃候補の一人に選ばえて、はしゃいで行く訳では無いのだ、決して。

 だから私も二人の案に乗ったのだ。一番最善だと思われる方法であるとも思ったからだ。

 本来なら興味もない招きに行くのは面倒だ。しかし、相手が相手だ。無視する訳にも行かない。

 と言う事で此方がかなり譲歩したのだ。行くだけマシと思えと。

 私達が抜け出した後の騒ぎなど知った事で無い。

 大騒ぎしようがちゃんと帝国に行くのだから。

 きっとこの思いは母上には届いているに違いない。

 母上はきっと私達の姿が消えた報告を受けるとその場を直ぐに治める事だろう。

 だから、今回の私の任務はさっさと妃選定を終えて未来の妃となった者を見届けてから速攻戻ってくる。

 それに尽きる。

 私が離れている間の仕事は優秀な部下がやってくれる。

 母上も手伝ってくれるそうなので心配事は無いとは言い切れないが、これで2,3ヶ月離れていても大丈夫だろう。

 それでも溜まるであろう仕事量にため息を吐きたくなるの言うまでも無い。

 エミー達の策で行けば面倒事も大幅に減るので提案を受けた。

 その策と言うのは実に簡単。朝霧に紛れて国を出立する。

 ただそれだけで面倒事が大幅に減るのだ。

 受けない筈が無い。

 それに近年、仕事の忙しさ故に遠出する機会があまり無かったので、今回最大の目論見は帝国訪問に託けて帝国領内を旅しながら首都ヴォール帝国を目指そうと言う目的もちゃんとあのだ。

 息抜きにもなるし、他国の情勢の視察も出来る。

 何より、最近は低レベルの者しか戦闘の相手をしていなかったせいか、エミー達との模擬戦だけでは物足りないと思っていたのも事実だ。

 それは二人も感じていた不満であろう。

 伊達に幼い頃から一緒に過ごして来た訳ではない。

 執務が終わった後の一時間と起きてからの一時間程度しか汗を流せないのでは物足りなさを感じているのも可笑しくは無いのだ。

 故に、この旅は最善の手立てと私達のストレス解消も兼用。

 だから、さっさと側近に置き手紙を預け、城の者達が目を覚ます前に三人だけの出立をする事にしたのだ。

 大規模移動何て金が掛かるだけな上に、馬車に揺られてただ帝国を大人しく目指すだけの物など、ストレスが溜まるだけなのはごめん被る。




「うわ~。海風が気持ち良いねぇ~」

「そうね。太陽が昇り掛けている光景は美しいわね」

「確かに、こうした息抜きは久しぶりだ」


 私達は既に船に乗り込み、その船は港を出港していた。朝一番の出航の船に自国の姫が紛れ込んでいる等彼らも思いも寄らない事だろう。だが、それで良いのだ。

 私は外に出る際は変化の術を使い、瞳と髪の色を極一般に溶け込む茶色へと変えていた。そうすると私は何処にでもいる極々普通の少女になる。だれも一国の姫とは思いもしないだろう。

 だから町に溶け込むには打って付けで情報収集もしやすい。

 領土を出てしまえば私の事を知っている者などほぼ皆無なのだ。しかも変化の魔術を掛けていれば尚更だ。

 これで私達三人はただの旅人と言う事になる。


「あら? この船、大陸フルスに向かって居るんだけど」

「そう言えば」


 そこで船から身を乗り出していた二人は首を傾げている。


「ああ。帝国の招待日までまだ一月近くある。ギリギリまで羽を伸ばそうと思ってな。招待日の一週間前には帝国ヴォールに着く様に日程は組んである。フルスに向かっているのは最近お会いしていない水の精霊族が長オンディーヌ殿とお会いしようと思ってな」

「ああ、成る程ね」

「じゃあ、私達はイリアが会いに行っている間、町とか探索してて良い?」


 エミーの言葉に頷く。


「ああ。お前達が一緒に行ってもオンディーヌ殿は姿を見せて下さるだろうが、そうしたければそれで良い」

「やっったーーーーー!!」

「久々のお買い物凄い楽しみ~~~!!」


 私のその言葉に二人は急に元気を取り戻した。やはりこれが世間一般で言う所の普通の女の子なのだろう。多少彼女達の実力やら経歴は普通とはほど遠いかも知れないが、自分に比べれれば余程女の子らしい趣味を二人は持っているのだから。

 それに比べて私はその女らしい趣味等に興味も無い。昔からそうだった。母上に刺繍が出来る様にと無理矢理やらされたが、別段面白いとも思わなかった。人形遊びもおままごとにも興味が無く、私は小さい頃から難しい書物を読んだり、師匠であるお祖父様やそのお祖父様の側近達との話を聞く方が余程有意義に感じた。あまつさえ師に頼み込んで剣術と魔術を習った。

 その時の感想は今でも思い出せる。楽しかったのだ。今まで女らしい事をしろと強要されて来てしぶしぶやっていた物を忘れさせる程。それ程に私は戦闘技術と魔術を習うのが楽しかった。

 それを見ていたリディアとエミーも見よう見まねで戦闘技術を一緒に習いだした。そうしたら彼女達にもかなり強くなる可能性を秘めていた様で、いつの間にか二人も私と一緒に戦闘技術を習いだした。

 最も能力の違いがあり、二人はこの国で諜報員として活躍出来るその中でも最上級の忍としての才能があった

 それを知った祖父は私達の能力が他と一線を画すのを見抜き、私とリディアとエミーを伴って旅に出る様になった。

 そして私達は暫く基礎と言う基礎を師に叩き込まれ、その後、傭兵として本物の戦場へと放り込まれた。その時7歳。

 実にハードな幼少期だった。しかし、そのお陰で城に戻ってからも役に立った事も数知れず。

 師達に叩き込まれた修行の中には毒に対する耐性を持たせると言うのもあった。一般的な毒薬からそれこそ珍しい毒薬。ありとあらゆる毒草への抗体も持たせて貰った。一番殺されやすい方法はやはり毒殺だ。

 なので食事に極少量の毒を混ぜては徐々に慣らして行き、今では毒薬等効き辛い体質になった。そのお陰で馬鹿姉上達の毒入り料理も平気に食べていたのだが。

 味覚はその味を敏感に感じ取り、料理がとっても不味く感じる。だからリディアとエミーが食事の支度をしてくれる様にもなったのだ。

 他にも幼稚な思い付きの様な事故死に見せ掛ける様な植木鉢が空から降って来たり、暗殺者が深夜にやって来たりと対処に面倒だったが所詮は馬鹿な姉上達が考える作戦だけあって容易にかわす事が出来た。

 こんな事の為に私もリディア達も腕を磨いた訳では無いのだが。

 そんな幼少期を過ごしながらも女らしい趣味を持っているのがリディアとエミーで、やっぱり私はそんな女らしい趣味とは程遠い趣味に興味があった。政治もその一つで、何も埃だしの為だけでは無く、民の為にも何が一番役に立つのかと考えた結果がそれだったのだ。

 お陰で城の古狸達と渡り合える事も出来るが、その代償として少女らしい趣味は無くなっていたが、別段気にする事でも無い。むしろ此方の方がやはり私の趣味に合っていた。

これはキルシュブリューテの血が濃く受け継がれているのもあるだろうが、私が本来持って生まれた物に違いない。

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