疲れている暇は無い
「あう~。まだ耳がキーンって耳鳴りしてる~~~」
喧しい姉達を無視して私達はさっさと執務室へと戻って来た。
耳を塞ぐ事が出来なかったエミーとリディアにはさぞ苦行であっただろう。
私の耳にもまだ喧しいきんきん声が残ってる気がする。
「私も。毎度の事だけどあの姫達の甲高い声は流石に堪えるわ」
「それは私とて同じだ」
ため息を吐きながら執務室に入り、取り敢えず三人はソファに座る。
私達以外の優秀な部下達は皆、仕事で出払っていた様で、人目を気にする事をしなくても良い為、こうしていられるのだ。他の部下がいれば私は兎も角、リディアやエミーはこう言った事は出来ない。
これも身分制度の為だ。
だが、私は余りにも民に近く居たいが為に、他の部下達がいない間はただの友人として一時の安らぎを得る為にこうして三人で席を囲む事をする。
人の気配を察知する事が出来るが故の芸当だ。
そこにすかさず三人の前にエミーがいつの間にか煎れたお茶が並んでいた。
その仄かな甘みを含んだ上品な香りに頭痛が収まった気がした。
「取り敢えず緑茶。今日は最高の玉露が手に入ったからね」
「ああ、すまない」
言って一口口に含む。我が国独特にして名産の緑茶の味が口の中に広がり、心なしか頭痛も和らいだ気もする。
そうして三人で暫くお茶を飲んで一息吐いた所で話は先程の呼び出しに関しての事になった。
「全く傍迷惑な事になった」
「そうねぇ~。まさかあんた指名で来るとは思っても見なかったわ」
「昔の事知っている人が本当に居るのかなぁ?」
「そこが不思議だ。師匠の顔を覚える者があの時に居たとは考えられない。私達は帝国領には行った事が無いのだぞ?」
私はそう言いながらため息を吐いた。
帝国領内は前皇帝陛下そして現皇帝陛下の施政によってその領地内で大きな戦をしていた事は私が生まれてからは無かった。
だからそれ以外の土地で傭兵として経験を積んだのだ。
そんな状態で皇帝側と会った覚えもないし、師匠がそれらしき人物と会っていた覚えも無い。
私が知らないだけかも知れないが、それらを考えても今回の人選が不思議に思えてならないのだ。
「まあ、あちらさんにも何か思惑があるんじゃないの?」
「そうだね~。もしかしたらイリアちゃんの事を調べたのかも知れないよ?」
「何故他国にも名が挙がらない様な私を帝国側が調べるのだ?」
「それはあちらさんに聞いて見ない事にはねー」
「そうねぇ~」
「……それもそうだな」
考えても仕方が無い。
取り敢えず今持っている仕事を速攻片付けて、日程調整をして旅立つ手立てを考えねばならない。それにそれ以外の妨害対策も。
それを考えると先程とは別の種類の頭痛に悩まされる。
そんな私を見ていたリディアとエミーの二人は顔を見合わせ何やらコソコソと話合っていた。そしてそれが終わると二人は同時に此方の方を振り向いた。
その表情は悪戯心に満ちていた、が不思議と悪い気は感じない。
「ねえ、イリア」
「物は相談何だけど……」
「………話を聞こう」
そして二人の話を暫し聞き、私は二人の提案を受け入れる事にした。