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謎の名指し指名と煩い姉達

「……私の脳で理解しかねる言葉が聞こえた気がしたんですが…」


 疲れで幻聴を聞いたのか。


「ふふ、信じられないのも無理もありませんわね。ですがこの書状には間違いなく、キルシュブリューテ・イリアを今代の帝王陛下の妃候補の一人として一度ヴォール帝国まで来て欲しいと。しかも我が国の習慣に則った名指しでその旨が書き記されているのですから」


 どうやら現実らしい。あまりに突然の話に訝しくなるのも当然だ。


「……何故私に……? 言っては何ですが、私の事などよりも姉上二人のどちらかに来た縁談の様にしか思えないのですが?」


「知っている者は貴方の優秀さに目を付けても可笑しくない事よ。帝国が貴方を指名してると言う事は帝国のしかも陛下の側近の中で貴方を知っている方がいらっしゃったと言うのが一番考えられる事ですが」


「…私は12歳で国に戻ってから近隣諸国に仕事のみでしか外には出た覚えはありませんよ? それにお祖父様に付いていた頃も祖父共々髪と目の色は隠していましたし。それ以降国に戻ってからも変わらず外に出る時は必ず目と髪の色は隠していました。隠密で動いていたので、印象に残る様な事をした覚えもありませんが」


「けれどそんな貴方にしかも名指しで要請が来た。髪と目を隠していても相手の方にはそれが貴方だと言う事が解ったのだと思うわ。国を離れてもお義父様の顔を知っていらっしゃった方がおられたのでしょう。その方がお義父様に付いて回っていた頃の貴方を知っていらっしゃったのならば尚更」


 お義父は他国との交流に変化の術も用いず、良く顔を出していらっしゃったし、とコロコロと鈴を転がした様な声で優雅に笑う母上。


 確かにそんな祖父の元に着いて世界各国を回っていれば覚えている人が居ても可笑しくは無い。今思い出せば懐かしい。


 その頃はやんちゃもした。


 まあ、そのやんちゃは元をただせば祖父曰くの修行の一環。リディア、エミー共々幼少の頃から本物の戦場に傭兵として放り込まれただけなのだが。


「しかしよりによって私に…ですか」


「あら? 何か不満があって?」


「不満と言いますか…」


 面倒事が押し寄せてくる話でしか無い。


 次の瞬間、謁見の間の扉が思いっきり開く。面倒と同義語の姉二人、長女ファーニエ、次女ノーラのご登場だ。瞬く間に静まり返っていた筈の謁見の間が騒々しくなる。


 しかも姉二人はどうやら激怒して興奮しまくっているらしく、いつもの礼儀さを欠いていた。余程余裕が無いらしい。


「お父様! お母様!! 一体どう言う事ですの?」


「ヴォール国から書状が届いたのでしょう?! 何故私共では無くイリアが呼び出されているのですか?!!」


 キッときつい視線で持って二人は私を睨み付ける。


 私を睨まれても困るのだが。


 父上は可愛がっている娘に睨まれてびくびくしている。本当に我が父ながら情けない。母上、面白がって無いでそろそろ咎めて下さいよ。私がこの二人に何か言った所で火に油を注ぐ様な事にしかならないのを知っているでしょうに。


 そんな私の心の声が届いたのか母上はふうとため息を吐くと開いていた扇をパチンと音を立てて閉める。その音にビクッとしたのが姉二人だ。母上のこの行動はこれから怒りますよと言っている合図の様なものだ。


「ファーニエ、ノーラ。此処を何処とお思いですが。王と妃の謁見の間ですよ。幾ら娘だからと言って礼儀を欠くとは何とはしたない事ですか」


「も、申し訳ありません!!」


「失礼致しました!」


 おお。刷り込まれたパブロフの犬の様な見事な反射で、その場に片膝を着く。まあ、その時私の方を二人同時にシンクロしたかの様にもの凄い形相で睨んでいた事に関してはスルーだ。


 二人は慌てて私と同じ口上を述べる。


「キルシュブリューテ・ファーニエ、並びにキルシュブリューテ・ノーラ。国王様と王妃様に至急お話がしたく乱入した事を深くお詫び申し上げます」


「……まあ、良いでしょう。今回の話…あなた方にまで既に行ったのですね?」


 母上の許しが出てファーニエ姉上とノーラ姉上は立ち上がると、先程の怒りを思い出したのか口々に文句を言い出す。


「勿論で御座いますわ!! 私共が何故他国に嫁がなかったのかお母様も理由をご存じでしょう??!」


「そうですわっ! この日を今か今かと待っておりましたのに…!! それなのに…っ」


 またもや二人揃って私の方を睨み付ける。


 成る程、今の少ない会話で何故姉二人が結婚を遅らせていたのか理由が判明した。


「確かに、貴方達が今までの縁談話を断り続けていたか知っていてよ? それでも今回はあちらの国よりの指名なのですよ?」


「そんなの関係ありませんわ! 私やノーラなら兎も角、こんな噂にもならないイリアが何故大国の指名を受けるのですかっ?!」


「他の国ならまだ良かったのです!! それなのによりにもよって他国とは一線を越すヴォールの指名をイリアが受けるなんて!!」


「お母様もご存じでしょう?! あの国の妃になった者にも神龍族の祝福が与えられるのを!!」


 そう。彼女達がヴォールの名に拘るのは何も大帝国だからと言う訳では無い。


 あの国は他の国と違い確かに一線を越している。


 神龍族とは太古の昔よりこの世界を守護する役目を担っているとても尊い存在だ。


 個々の能力だけでも凄まじく、それ以上に世界でも一番長生きをしているとされている。死があると言ってもそれは気が遠くなる程の年月の先にあるのだ。


 そんな神龍族と直々に契約と盟約を結んでいるのはヴォールの皇帝陛下の一族直系のみで、しかも恩恵を受け、不老とされている。実際に先代の皇帝陛下とその妃と周辺の数名は未だに若々しいと言われている。


 そのヴォールは数年前に代替わりしたのだ。代替わりに有した期間はおよそ千年ぶりだったと記憶に新しく、確かに一時期その話題でこの国も持ち切りだった。


 それと言うのも今のヴォールの皇帝陛下の年代も私達と変わらず今年で19歳になる年齢の上に大層な美形だそうな。それでは大国及び周辺諸国の年頃の姫君達は色めき立って仕方がなかった。外交に赴けばそんな話ばかりだったのも良く覚えている。


 何せ皇帝陛下の妃に選ばれれば大帝国の後ろ盾を得るだけでは無く、永遠に近い不老を約束されるのだから。


 年若く大層な美形の皇帝陛下の寵愛を受ければ永遠の若さを約束された様な物だ。それがまた美に執着を見せる姫達の間で熾烈な争いとなりこぞって各国は縁談話や贈り物の貢ぎ物の嵐をヴォールに送った。


 我が国からも姉達が気が付けば勝手に貢ぎ物を送り付けて居た。


 その後、それに使った金額を見てやりくりに頭を痛めたのにも覚えがある。まあ、大帝国なのでその金額は当たり前なのだが、姉達が大量に浪費した直後だったせいで大変苦労させられた。


 だが、大帝国側は縁談をすべてけちらしたと聞き、貢ぎ物の類はそれ相応の返礼と共にお返しが返って来ただけ。それに各国はかなりがっかりした事だろう。


 大国からのお返しはそれ相応の物だったが、売る訳にも行かず、そこに私はがっかりした。


 それが此処に来て妃候補の話。


 相手の事情は良く解らないが、その後もかなりの催促の話が行っていたに違いない。


 そしてそれに痺れを切らして、今回の候補話が持ち上がったのだ。


 これはいわばお見合いパーティである。


 私はその候補者の一人に持ち上がったのだ。何故か。


 これでは姉達が憤怒するのも解る。解るが、私に当たらないで欲しい。


「代わりに私達が行ってはならないのですか?」


「そうですわ! こんな妹が行けば私達の沽券に掛かりますわっ!!」


 キーキーと喚き立てる二人。そしてその剣幕に父に至っては母の後ろに姿を隠し、耳を塞いでぷるぷると震えている。


 何処までヘタレなんですか父上。っつーか、謁見の間に入ってから今まで一言もしゃべっていませんね。


 私は貶されているが、そんな事では傷付きはしない。だが、喧しい声に耳を塞ぐ。頭に響くのだ。


 リディアやエミーは可哀想に立場上それが出来ない。二人共顰めっ面を伏せて耐えている。こう言う時鍛え上げられた聴覚は厄介な物だ。勿論私も耳を塞いでいるが、気休め程度にしかならない。


 徐々に周りの家臣達もその喧しさに顔を歪ませて来た。


 そしてそんな二人の怒りを止めた者がいた。


 勿論、それは壮絶な笑みを浮かべた母上である。


 手に持っていた扇子を掌にパシリッと音を立てただけで二人の喧しい苦情は形を潜めた。代わりに恐怖に引きつっているが、此方が気にする事では無い。


「お黙りなさい。二人共。先程も言いましたが此処は王と妃の謁見の間。貴方達の方が見苦しいですよ」


「…ですがっ!」


「ファーニエ姉様!!」


 母上の言葉に怯えながらも尚も言い募ろうとするファーニエ姉上をノーラ姉上がそっと止めていた。此処までするのだから余程悔しいのだろう。


 それを解っているからこそ母上は今の言葉を無い物として淡々と事実を述べる。


「二人の気持ちも分かりますが、今回はあちらからの名指し。諦めなさい。これ以上騒ぎ立てる様であれば容赦はしませんよ?」


 その言葉に二人は引き下がるしか今は無い。


 そして母上は私の方を見た。


「そう言う事ですのでイリア、貴方にはヴォールに赴いて貰います。招待日は凡そ二ヶ月程先の話。それまでに今の仕事を一段落させ、日程を調整しなさい」


「畏まりました」


 言われたらその通りにしなければならない。私も母上には逆らいたく無いし。


 私は頭を垂た。それを私からの返答と受け取って満足そうに母上は頷いた。


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