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一通の招待状

 セレッソ国第三姫、キルシュブリューテ・イリア。


 それが私の名前だ。


 他国ではまず名前が先に来るのだが、我が国では皆、家名が先に来て名は後に来る。昔からそう言う習わしなのだ。


 キルシュブリューテは小国ながらに一国であるセレッソを治める家柄。


 他に類を見ない独特の気候を持ち、小さい国ながらに資源は豊富でもある。そんな国故に大国に攻められれば一夜にして無くなってしまう様な本当に小さな国。


 だと言うのにこの国は数百年と長い間、それこそ建国してから戦争と言う物を体験していないと言うのだから驚きだ。


 まず第一に資源が豊富だと言ってもセレッソは並み居る大国には劣る。


 世界最大領地を誇る大帝国ヴォールのある大陸シュトラール。


 灼熱の砂漠を有する熱帯の国グルートのある大陸ヒッツェ。


 高い山々がそびえ立ち、その地形によって膨大な風が発生する国ヴィンディヒのある大陸ブラーゼン。


 豊かな土壌を有する森と土の国のザントのある大陸ボーデン。


 豊富で清らかな水が幾重にも川となって流れる国トロプフェンのある大陸フルス。


 それら五大陸を基本として後はその周辺に小国が散らばる。


 その周辺諸国に散らばる小国に分類され、尚かつ世界の片隅にポツリと存在するセレッソは豊富な資源はあるが、岸壁にそびえ立つ城に、周囲を海に囲まれていると言う様な何とも攻め入り辛い立地条件。尚かつ歴代のセレッソの王達は国の性質上争いを好まず、周辺諸国に対しても友好的な国柄な為、今の代まで来たと言う事だ。


 確かに世界の片隅に存在して、資源は豊富だが、セレッソは他国に対して友好的だし、別段驚異となる様な国でもない。


 そう認識されているから今の代までこれたのだ。


 だが、それはあくまでも国外から見たセレッソの状況。


 国内から見れば……。


 何処を突いても大国同様にある様な汚職も当たり前にある様な国だった。


 故にそれらに関しての大国が関知しない内紛とも言えない様な家同士のぶつかりは日常茶飯事。狭い国ながらに諜報活動に長けた集団まで存在しているのだから目も当てられない状態にまで陥っていた。


 歴代の王達がのんびりした質だったのも敗因に違いない。


 だが、そんな汚職が蔓延る国内を私の祖父であり、前国王であり、師をも兼ねていたイェンスはどんどんと叩きだし、埃を三分の一にまで減らしてくれた。


 とても有能な王だった。民からとっても尊敬を集める人柄。故に支持率は圧倒的に高かった。


 しかし、そんな彼はある日突然何を思ったのか年を理由に王位を引退し、座を息子に譲ると残りの埃出しは私がいるから安心だと私に任せ、長年の側近二人を連れていつの間にか姿を消して居たのだ。


 それに関しては何となく何時かはそうなるのでは無いかと私は思っていたし、その兆候も見て取れていたので、私は祖父にいきなり任された様な埃出しだったが以外と楽しく勤しむ事が出来ている。


 だが、問題は王座を引き継いだ我が父上にして現国王のメルヒオル。口を開けばいいえだの検討しますだののらりくらりと交わす事に長けた情けない返答しか出来ない気の弱い男なのだ。


 私の母上であるフィロメーナが嫁いでくれなければ今頃その地位はどん底にまで落ちてただのお飾り国王になっていたと間違いなくと断言できる程なのが悲しい。


 だが父上の事は多少心配だがその心配も無用だろう。


 何故なら父上の側には華やかで何であの駄目な父上に嫁いで来たのか解らない程の美女だがその腹の内はとんでもなく黒く、世間とそして国王を出し抜こうとする輩とも十分に渡っていけるだけの力があるそんな母上が側にい居るのだから。


 だから埃出しに私は何の憂いもなく専念出来るのだ。


 しかし、問題はそれだけでは無い。


 私には上に姉が二人いる。


 どちらも母上の遺伝子を引き継ぎ世間一般的に言う美女だ。


 そんな美女だが常に私に対しての嫌がらせを忘れない。勝手に向こう側が敵対意識を燃やしているだけなのだが。


 何せ生まれ持った容姿が傾国の美人姉妹等と呼ばれているのだ。そんな姉二人を周りの人間達はちやほやと囃し立てた。


 結果、出来上がったのはプライドと出費癖が高い女が二人。


 私は姉達とは違い、極々平凡で、あんた本当に姫? と聞かれる様な地味な容姿をしている。ただその容姿はセレッソ建国の主である初代に性別こそ違うがそっくりと言われているのだ。


 それに別段不満は無い。


 一族の中でも持って生まれる者が珍しい水色と言う色を髪と目の両方に宿してしまっていると言う事だろうか。


 これが嫌がらせの源と言っても良い。


 他国には色とりどりの人種が溢れかえっているが、水色と言う色を宿した人間種族は未だにお目にした事が無い。


 持っているのは人間では無い。精霊種族の一つ、水の精霊であるオンディーヌとそれに属する精霊達位だ。


 しかも彼女達は普通の人間の前に滅多に姿を現す事はない。あっても魔術を持つ人間にしか普通は姿を見る事が出来ない。


 なので人間で水色を宿すと言う事は我が国のしいかも王族にしかおらず、一種の身分証明の様に隠しようが無いのだ。


 今セレッソに私と同じ水色を宿す人間は祖父のイェンスと甥で行く行くはセレッソの国王となる予定のシュティッツの三人。


 直系の王である父上からは女ばかり三人しか生まれず、今後父上と母上の間に息子が生まれると言う可能性は限りなく低い。


 よって現段階で王位を継ぐのに候補として王弟の子息であるシュティッツが第一位で、女ではあるが私は初代と似た容姿に水色の髪と目を持つので第二位の位となっていた。


 それが更に厄介事を生むのだ。


 セレッソ国初代国王キルシュブリューテ・フェーブスと同じ目と髪の色、そして似た容姿は人々にとって偶像の様な象徴的で崇拝の的になる。それが傾国の美女と言われている姉二人にとっては面白くない。だからこの色を持って生まれた私は例え平凡な容姿をしていても彼女達のプライドを刺激している。


 何故傾国の美女と呼ばれる自分達を差し置いて国民達は私の方ばかり支持をするのかと。


 周辺他国と近場の者達にはちやほやとその容姿を褒め称えられてはいるが、国民からの支持が得られていない理由は一目瞭然の事だ。


 彼女達が国民の為にした事等何も無いに等しい。


 おまけにプライドが高く、浪費癖が激しいのを国民に知られているから支持は得られていないのも当たり前なのだが。


 私が国民に支持されているのは決して初代とそっくりだけだからと言う訳では無い。姉達とは違って地道に埃出しに精を出した結果に付随して来た物が過分にある。


 それに私は己の容姿や色に関して興味無いし、姉達の様にちやほやされたいとも思わない。


 時々水色の髪と目、そして初代に似た容姿のお陰でご老体に拝まれる事があるが、私にして見ればこの色は何か行動をするにしても目立ち過ぎて仕事に支障が出やすい物にしか思えない。


 そう思っていても姉達にして見ればやっかみの対象でしか無い。


 だがそうは言ってもそんな姉達の相手をしてばかりはいられないのが現状。


 今私がしなければならないのは祖父の仕事を引き継ぎ残っている埃をすべて叩きだし、シュティッツにしろ可能性は低いがもしかして生まれるしれない弟には何の後ろめたさも無く、次代国王の座に就く者には就いて欲しい為だ。


 そうすれば私も安心して国をシュティッツ達に任せる事が可能となり、祖父の様に国を出て各地を好きな様に旅する事が出来る様になる。


 私は昔、祖父に付いて世界を旅した事がある。その時の光景が今でも忘れられない。だからこそ祖父が旅に出た理由も解るのだ。私は気性も考えも祖父に似ているのだから。


 三女で国内の貴族達からは今進めている仕事の関係でかなり煙たがられている。だから国内での政治利用の結婚話も無さそうだ。


 それに美人姉妹と世界に名だたる姉二人が居るお陰で私の噂はそれ程までに出回って居ない。それに姉がそれぞれ大きな国に嫁げば国も安泰するだろう。そうすれば埃出しが終わった私はこの国にとって邪魔者でしか無い。


 三女と言う立場も手伝って仕事が終わった後は自由にしても良いのでは無いかと考えている。


 だから今の私は他にかまけている時間は無い…だと言うのに。


「何なんだ母上は。今の時間は執務中と分かっている筈なのに…」


 足取りが早足になるのは勘弁して貰いたい。今やっている仕事は後ちょっとで埃出しの一部が出来る所まで持って行っている物なのだ。早く片付けてスッキリさせたい。


 私の心情を最も理解している、幼なじみにして私専属の侍女たるリディアとエミーはそんな私の考えを読み、それぞれ苦笑していた。


 侍女と言う身分に属しているがその外見から実力を侮る事なかれ。


 彼女達はセレッソ独特の職業である忍びと言う世界の中でもその実力を1,2位を争う程なのだ。


 今、私がしている仕事と、嫉妬深く執念深い姉二人のちょっかいをいなすにはそれ程の人材が揃っていなければ困難を極めていただろう。


「まあまあ。あんたの母上様のお呼び出しだから無視も出来ないでしょう?」


「私やリーちゃんだって王妃様のお呼びじゃなければ応じないよ~」


「確かにそうだが……。何故だか今回の呼び出しに関しては嫌な予感しかしないんだ」


「ん~。そうよね~。あ、そう言えば…」


 何処か嫌な予感のする呼び出しに私がそう答えるとリディアが何か思い出した様だ。


「昨日の夕刻頃に伝書鳩が届いてたのよねぇ」


「伝書鳩?」


 伝書鳩はその名の通り、手紙を運ぶ鳩だ。伝書鳩は実に優秀で目的地まできっちりと手紙を相手を間違う事無く運んでくれる。…途中で人の手によって害が無ければだが。


 だが、伝書鳩を使っている当たり、それ程重要な伝達でも無い筈だ。重要な文章だと幾重にも重ねた封印の魔術を用いたハヤブサが使われる。もしくは高価な費用が掛かる転送術による手紙の空間移動だ。この術は操れる者が極端に少ない為、セレッソの様な小国にはいないが。


「そう言えば~。あの伝書鳩さん、この辺りじゃ見ないような超武装鳩だったね」


 超武装鳩? どんな鳩だ、それは。


「エミー、あんたはもうちょっと言葉を選びなさいよ。あの鳩、見掛けは普通の伝書鳩みたいだったけど、掛けられていた魔術は一級品でちょっとやそっとの人間の魔術じゃ傷も与えられない感じだったのよ」


 成る程、確かにエミーの言葉通り超武装鳩だ。


 人間が何かしらの害を持って攻撃しようものならばそれ以上の倍返しが返って来ても間違いない魔術が施されているに違いない。その様な厳重な鳩を扱うのは大国のそれも私なんかは遠く及ばないハイセレブな方々御用達の筈。


「話はそれに関する事…か」


 間違いない。私的にすごく面倒くさい話が来たのだ。


 そんな超武装鳩、以前にも何回か見た事がる。それは姉達二人への婚姻の話関係ばかりだった筈だ。


 だが、姉達二人は未だにその婚姻の話すら出ていない。


 あの容姿だから性格さえ目を瞑ってしまえば幾らで引く手数多の筈なのに。


 何故か嫁かず後家になりそうな年齢になっても未だ国にいるのだ。何か企みがあるのは間違いないだろうけど。


「それだったらあの二人のどちらかにの筈なんだがなぁ…」


 言っては何だが、周辺諸国や大国には姉達はその容姿が人伝に伝わっている。だが、第三姫である私がいる事等、殆どが認識していないと言っても良いだろう。自国と周辺諸国以外には。


 エミーがこの辺では見た事無い様な超武装鳩ならばもっと遠くの国からの伝書鳩に違いない。何故そえが私に話があると知らせが来るのか。そこがいまいち納得しかねるが、とにかく謁見の間に行けば事情は解るだろう。


「とにかく行ってみましょう」


「そうだね、王妃様怒らせると不味いしね~」


「そうだな………」


 ますます嫌な予感がするだけだった。




 母に呼び付けられた謁見の間に入った瞬間、嫌な予感が的中したと思った。


 何せ謁見の間の雰囲気が何時もと違う。


 何が違うって、父上は何処か惚けた様子だし(いつもの事か)、大臣やら家臣の中には落胆した様に肩を落としている者や、逆に目をランランと輝かせている者に分かれている。母上は華やかな笑みをより一層深めた感じで椅子に座っていた。


 国王より女王様。


 どちらが上か下か上下関係がはっきりと見て取れる。


「…キルシュブリューテ・イリア、お呼びとの事で参上致しました」


 取り敢えずその場で片膝を着いて礼を尽くす。後ろの二人も同様だ。この風習は我が国のみの独特な物で、例え娘と言えど、これは必須事項。勿論、あのプライドの高い姉二人もだ。端から見ていると可笑しい光景だが。


 その可笑しい光景を終えると、私はすぐに立ち上がる。後ろの二人はそのまま片膝を着いて頭を垂れたままだが。


「イリア、仕事中に済まないわね」


「いえ、至急との事でしたので」


「ふふ…。何時も勤勉で賢い子ね。ただ殿方の様な服装ばかりで、たまには女らしい格好で来て欲しい物だわ」


「何れ機会があればその様な事も可能でしょう。それで? 母上、その様な話がしたくて私を呼び出した訳では無いでしょう?」


 これも事ある事に言われ慣れているのでさらりと交わす。


「勿論よ。貴方の忙しさは私が一番良く分かっていてよ? 今回呼んだのは貴方にとってもそしてこの国にとってもとても良い話になるものでしょうから」


「はあ。昨日鳩が来たと聞き及んでおります。それと関係が?」

「そうよ」

 言いながら母上は扇を優雅にハラリと開く。それと同時に優雅な仕草で白い封筒を私に見える様に掲げる。


「此処に一通の招待状があります。喜びなさい、イリア。貴方に大帝国ヴォールの今代皇帝陛下の妃候補の一人としてお呼びが掛かったの」


「はっ?」


 一瞬母上の言葉が私の想像の範疇理解を超えた気がした。今、母上は何と言ったのだろうか。




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