世話焼きツンデレ幽霊と一海君の日常
一話 出会い
<登場人物>
黎子(22)
性格の捻くれた幽霊。
一海(8)
寂しがりやな男の子。
夜12時。
幽霊になってしまった黎子は、腹いせに誰かを驚かせてやろうと、適当に部屋に上がり込んだ。
と言っても壁から透けて中へ入っただけなのだが。
「ゲホゲホ・・・。」
最初に入った部屋の住人は風邪を引いているようだ。
小さな男の子だった。
くまのぬいぐるみを抱いて寝ていた。
「・・・」
仕方がないから驚かすのは風邪が治ってからにしてあげるわ!
黎子はビシッと眠っている男の子を指を刺す。
しばらくして、男の子が目を覚ました。
「だぁれ?」
「私は幽霊よ、ほら、足がないでしょう?」
「ほんとだぁ・・・。」
もうちょっと驚きなさいよ。子どものくせに面白くないわね。
「お腹空いた・・・。」
「お母さんは?」
「お母さんはいつも夜仕事でいないから。
お父さんは寝てる。でも、起こすと怒られるから。」
は?てことは、この子の両親はこんな小さい子をほったらかしにしてるの?
「仕方ないわね。」
黎子は男の子が放っておけず、せっせとお粥を作り始めた。
「ケホケホ、お姉ちゃん、何作ってるの?」
「お粥よ。」
「わぁ、ありがとう〜!」
「別に、これはあなたの為じゃないわ。」
そうよ、あなたの風邪をさっさと治して驚かせたいだけなんだから。
決してあなたの為なんかじゃないわ。
コトコトコト。
少ししてたまご粥が出来上がった。
ホカホカと美味しそうな湯気が漂っている。
ふんわりとだしの香りがする。
「できたわ。熱いから気を付けなさい。」
「はーい、頂きます。ふーふー、はふはふ。
ん、美味しい。」
「そう、良かったわね。」
「ケホケホ・・・。」
「焦らなくていいからゆっくり食べなさい。」
こくこくと一海が頷く。
食べ終わり、黎子が食器を洗って拭くと棚へと仕舞った。
一緒に部屋に戻り、自己紹介を始めた。
「お姉ちゃん、名前なんて言うの?」
ベッドに入り、ベッドヘッドに頭を預け一海が聞く。
「黎子よ。」
「分かった、黎子お姉ちゃんだね。」
黎子お姉ちゃん・・・フッ、悪くないわ。
ニタっと不気味に笑う黎子を一海は気にも止めていないようだ。
「あなたは?」
「僕は一海って言うの。」
「一海君ね。食べた後すぐに横になるのはまずいわ。
枕を少し高くして寝るの。」
「どうして?」
「食べ物が逆流してしまうのよ。えーと、戻ってくるって意味ね。」
「え!それは困る!ケホケホ・・・せっかく黎子お姉ちゃんが作ってくれたのに。」
「この部屋、タオルはあるかしら?」
「うん、タンスの中にあるよ。」
「分かったわ。」
黎子は一海に指差されたタンスからタオルを重ねて渡した。
「こう?」
一海が渡されたタオルをそのまま枕の下に敷いた。
「そうそう。首が痛くなるようなら外していいわ。」
「分かった。黎子お姉ちゃんおやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
二話 一海の母親
昼14時。
母親がキッチンに向かうとシンクが濡れていることに気付いた。
「一海、昨日何か食べた?」
「うん、お粥食べた。」
「え、まさか一海が作ったの?」
「ううん、お姉ちゃんが作った。」
「お姉ちゃん・・・?」
「うん。ほら、僕の後ろにいるでしょ?」
この子はなんとまぁ素直に!
「はぁ・・・誰もいないじゃない。母さん疲れてるから部屋へ行くわ。」
「知らない女がお粥作ったって言ってるのになんで心配しないのよ。かまぼこにするわよ。」
ズゴゴゴ。
まがまがしい妖気を放ちながら黎子が言う。
しかし、母親には何も見えないし聞こえない。
「えぇ!?ぜったい美味しくないよ!」
母親が振り返る。
「なに?」
「ううん、何でもない!」
ガチャンと母親の部屋の扉が閉まる。
「一海君、可愛い顔して結構言うわね。」
「なにがー?」
なるほど。
この家には一海君の他には母親と父親しかいないのね。
そして、母親は子供に興味はなく、父親は厳しい人。
甘えたい年頃のこの子の気持ちなんてお構いなし、そういうわけね。
部屋に戻り、一海が質問をする。
「黎子お姉ちゃんって他の人には見えないの?」
「そうみたいね。」
「不思議。」
「世の中には不思議なことが沢山あるのよ。」
「僕、恐竜のおもちゃで遊びたい。」
「このおもちゃ箱の中かしら?」
部屋の片隅にある箱を見る。
「うん、恐竜が二匹いるよ。」
ティラノサウルスとプテラノドンのフィギュアだ。
二人はしばらくの間、大きな音を立てないように恐竜のおもちゃで遊んだ。
一海君は恐竜が好きなのね。
一海の部屋は絵本や布団も恐竜でいっぱいだった。
欲しいものは買ってくれる、か。
でも、きっと一海君が一番欲しいものは・・・。
「どーん!ティラノサウルスの勝ち〜!」
軽くアタックされ、黎子の持っていたプテラノドンがよろけたフリをする。
「や、やられた・・・。」
「ぷっ、黎子お姉ちゃん、声かすかすだよ!」
「だって可愛い声なんて知らないんだもの。」
「こんな感じだよ。わぁ、やられた〜!」
一海がティラノサウルスを持ったまま倒れるフリをする。
「わ、わぁ、やられた。」
「あはは、黎子お姉ちゃん面白い〜!」
「そ、そうかしら?そんなこと言われたの初めてよ。」
「そう?一緒にいると楽しいよ!」
「そう、良かったわ。」
楽しそうにしている一海を見て黎子は微笑むのだった。
三話 割れた皿
ガシャーン!!!
休みの日の昼。飲み物を飲み終わった一海が手を滑らせグラスを割ってしまった。
「わっ、やっちゃった!」
「一海、何してるのよ!」
「ごめんなさい!!」
「もう!この忙しい時に!!
私は今から仕事に行かなきゃいけないのよ!」
「ごめんなさいって謝ってるじゃない。器の狭い人ね。」
ズゴゴゴ。
再び黎子から妖気が漏れ出す。長い黒髪と黒髪の隙間からギロリと母親を睨む。
「とにかく、片付けておきなさいよ。」
「う、うん。」
ガチャン。
母親が出て行き、
片付けようとする一海を黎子が止めた。
「危ないから私がやるわ。」
「え、でも・・・。」
「大丈夫、一海君は風邪がまだ治ってないんだから部屋でゆっくりしてなさい。」
「うん。」
黎子はガラスの破片を全て拾い、掃除機をかけた。
そして雑巾で床を拭いた。
スッと一海の部屋の扉をすり抜ける。
一海はベッドで絵本を読んでいた。
「あ、黎子お姉ちゃん、さっきはごめんなさい。ありがと。」
黎子はベッドサイドに座り、一海の頭を撫でた。
「いいのよ。ちゃんとごめんなさいが言えて偉かったわね。」
その言葉に一海の目からぽとぽと涙が落ちた。
「うっ、うっ・・・。」
「どうしたの、さっき怒られたことなら気にしなくていいのよ?」
「ううん、違う。褒めてもらったの初めてだったから嬉しくて。」
はあ?褒めてもらったの初めてですって?
あの二人今のいままで一体何してたのよ。腹立つわね。
「黎子お姉ちゃん怖いよ。」
「私は元から目付きが悪くてこんな顔よ。」
「えー、そんなことないよ、長い髪で見えづらいけど、
美人さんだよ。」
びじんさん、びじんさん・・・。(エコー)
「あなた、侮れないわね。」
「?あなど??」
「いえ、こちらの話よ。」
危うくそちら側(?)に行くところだったわ。
四話 一海の父
朝。一海がパンと牛乳を用意して食べようとした時のこと。
風邪がだいぶ良くなり、そろそろ小学校に行けそうだ。
「一海、風邪は治ったのか?」
ネクタイを締めながら父親が聞く。
「うん、治ったよ。」
「頼むから面倒を起こさないでくれよ。
母さんを困らせるな。じゃあ、俺は行ってくるからな。」
「腹立つ男ね。ちょっとイケメンだからって調子に乗ってんじゃないわよ。末代までハゲる呪いかけてやろうかしら。」
ズゴゴゴっと黎子から怒りの妖気が出始め、
一海が慌てて止める。
そのヘンテコな様子に父親が眉間に皺を寄せる。
「なんだ?」
「ううん、なんでもないよ。分かったよお父さん、行ってらっしゃい。」
「あ、ああ。」
一海の勢いに負けたのか父親は家を出た。
ガチャン。
扉が閉まると不服そうに黎子が聞く。
「どうして止めるのよ。」
「だって、早くお姉ちゃんと遊びたかったんだもん。」
(しょも)
可愛いわね、全く。けしからんわ。
まぁ、両親に関しては暴力振るわないのが唯一の救いね。
五話 ずっと一緒に
「絵本読んで欲しい。」
「分かったわ。」
一海が選んだ絵本を黎子が読み聞かせする。
「そうして恐竜はお空を飛んでいきました。おしまい。」
パチパチパチ。
一海が拍手をする。
「ありがとう、黎子お姉ちゃん。」
黎子が一海の頭をなでなでする。
「ぎゅってしていい?」
「いいわよ。」
一海は黎子に抱き付いた。
「僕、いい子?」
「いい子じゃなくてもいい子よ。」
「そっかぁ・・・ねぇ、黎子お姉ちゃん、ここにずっと一緒にいてくれる?」
「それはむりよ。」
「どうして?」
「私、幽霊だもの、幽霊はね、いつか成仏するのよ。」
「でも、黎子お姉ちゃん成仏してないよ。」
・・・。
核心を突かれ、黎子の思考が一瞬止まる。
「そうね。」
体を離し、一海が言う。
「じゃあ、黎子お姉ちゃんが成仏しなかったらずーっと一緒にいられるね!」
にぱー!
眩しい!眩しいわ!!!
「そ、そうね・・・。」
六話 幽霊になった理由
「ねぇ、黎子お姉ちゃんはなんで幽霊になったの?」
「彼氏に生き埋めにされたのよ。」
あ、これ聞いちゃダメなやつだ。
「そ、そっか・・・。」
「もういいのよ。過ぎたことだから。」
「うーん、じゃあさ、これからは僕と楽しい思い出いっぱい作ろうよ!」
なんていい子なのかしら・・・。
「そうね・・・一海君と一緒なら楽しいかもしれないわね。」
「うんうん、僕もそう思う!」
休みの日、一海は黎子と公園へ向かった。
途中、男性とぶつかり、イチャモンを付けてきた。
「いてーな、ガキ。」
「ごめんなさい!」
「足折れたんだけど、慰謝料よこせ慰謝料!」
「い、いしゃりょ??」
「金だよかーね、ママに頼んで早く持ってき・・・。」
すると、一海の背後からドス黒い妖気が漂ってきた。
姿は見えないが何かを感じ取ったらしい男はガタガタと震え始めた。
「?」
一海がキョトンとしている。
「な、何故だか分からんがこれ以上この子に関わっちゃいかん気がする・・・ちっ、次からは気を付けろよガキ!」
そそくさと去っていく男の後ろ姿を、
黒髪と黒髪の隙間から睨み、ドスの効いた声を放ったのは黎子だった。
「何なのよあの男、自分からぶつかっておいて・・・一生勃たなくなる呪いをかけてやるわ。」
ビビビッと何やら人差し指からビームを男に向かって放った。
見たところ何も変化はないが、確実に呪いの効果は今後発揮されることとなる。
「何がたたなくなるの?」
「一海君にはまだ早いわ。」
「??」
一海が首を傾げる。
「それより、公園に行きましょう。砂遊び?ブランコ?」
「僕、ブランコ乗りたい!」
「分かったわ。」
ブランコに乗る二人。
片方は側から見たら誰も乗っていないのに揺れているだけだ。
しかし、大抵の人は風で揺れてると勘違いしてくれた。
「僕、これから友達作りたいな。」
「できるわよ一海君なら。」
「ほんとに?」
「だって、こんなに優しくて可愛いんだもの。
すぐに人気者になるわ。」
「ありがと。でも、人気者になりたいわけじゃないんだ。」
「あら、そうなの?」
「うん、僕のこと分かってくれる友達ができたらそれだけでいい。」
本当に擦れていないいい子ね。
あの両親に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだわ。
そんな怒りをなんとか収めると黎子が微笑んだ。
「大丈夫、できるわ。」
「うん!ありがと!でも、黎子お姉ちゃんも友達だからね!」
か、わ、い、い・・・。(じ〜ん)
「私の方こそありがとう。私なんかを友達って言ってくれて。」
「だって黎子お姉ちゃん優しいし心強い味方だもん。」
と、う、と、い・・・。(じ〜ん)
「さっきから黎子お姉ちゃん、太陽に向かってなんでお祈りしてるの?」
「気にしないで。クセみたいなものよ。」
「ふーん、じゃあ僕もする!」
青空の下。
なぜか太陽に向かって手を合わせる黎子と一海。
風が止み、雲の流れが止まった。
それはまるで、ここにいていいと言ってくれているかのようだった。




