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仮想と現実

ご覧いただきありがとうございます。

通話アプリで出会った可愛い『織姫』さんに恋をした、14歳の中学生・達也。

なんとか話を合わせてLINEをゲットし、半年間必死に嘘を重ねてきたけれど……ついにリアルで会うことに!?

嘘つきな僕と、21歳の彼女の、最悪で最高なネット恋愛が始まります。

楽しんでいただけたら嬉しいです!

誰でも通話アプリ『wywワイワイ』で、俺は『織姫』さんと出会った。ただただ声が可愛くてアニメやゲームの趣味が合わない彼女と、話を合わせてLINEまで入手した。毎晩深夜まで通話して、本気で好きになった彼女の正体は、21歳の女子大生・山田凛。対する俺は、平凡な男子中学生・吉田達也。

「明日一緒に会お?」

と言われ、俺は今最大のピンチを迎えている。


スマホの画面に表示された「明日会お?」の5文字を見つめながら、俺はガタガタと震えていた。

少しの焦りと高揚感に包まれたが女の子の扱い方なんてわかんない。

そもそも、半年前のあの日、wywの通話枠で彼女が

「私、いまじょじょにハマってるんだよね」

と言った時、知ったかぶりをして

「あ、俺もそれ大好き!」

と言ったのが功を奏したのか。


ぶっちゃけ、ジョジョなんてろくに読んだことはない。

だけど、イヤホンから聞こえる『織姫』さんの声があまりにも可愛すぎて、中二の俺の脳は一瞬でバグった。


「えっ、とめ君もジョジョ好きなの!? 嬉しい! 何部が一番好き?」


弾んだ声で尋ねられ、俺は背中にドッと冷や汗をかいた。ヤバい、何部まであるかも知らねえ。

脳細胞をフル回転させ、ネットのまとめサイトか何かで見たおぼろげな記憶を必死に手繰り寄せる。確か、一番有名な、時間を止めるやつがあった気がする

「……さ、3部かな。やっぱり承太郎が格好よくてさ」


「あー、3部ね! 承太郎もいいよね! でも私、実は2部が一番大好きなんだよねー! ジョセフがめちゃくちゃ格好よくて!」


に、2部……!? じょ、じょせふ……!?

承太郎しか知らない俺の脳内に、全く知らないアメリカ人みたいな名前が飛び込んできてパニックになる。


「とめ君は2部だと誰が好き? やっぱりシーザー? それともカーズ?」


シーザー? サラダか? カーズ? 車か?

完全に未知の領域に足を踏み入れた俺は、

「あ、うん……カーズ、いいよね。……なんか、」

と、ネットの日本語としてギリギリ成立しているだけの引きつった声で相槌を打つしかなかった。


普通ならここでボロが出てブロックされて終わりだ。

だけど、その日の俺は命がけだった。織姫さんの話を遮らず、とにかく

「へえ、そうなんだ!」

「それ分かる!」

と、聞き上手に徹して話を合わせまくった。

結局、アニメの話からお互いの学校(俺は高校生と嘘をついた)の愚痴になり、気づけば深夜の3時。


「あちゃー、もうこんな時間! とめ君と話すの楽しすぎて時間忘れてた。……ねえ、もしよかったら、LINEいかない?」


奇跡が起きた。

wywのチャット欄に送られてきた、彼女のLINEのQRコード。

それが、俺と彼女の半年に及ぶ「偽りの関係」の始まりだった。

そして今に至る。


あの夜から半年間、俺は2部のアニメを貪るように見漁り、ネットの考察サイトを予習して、必死に『織姫』さんとLINEを続けてきた。

嘘に嘘を重ねて繋いできた、偽りの半年間。

な念、ついに明日、生身の彼女に会うことになってしまった。

「やばいよおおおおおおお」

女の子の扱いなんて分からない。

それ以前に、俺はまだ14歳の、ただの中学生だ。


俺はパニックになりながらクローゼットを開け、頭を抱えた。

持っている私服は、どれもこれも中学生丸出しのロゴが入ったパーカーやジーンズばかり。21歳の女子大生の隣に並んで歩けるような、お洒落な服なんて一着も持っていなかった。


「……制服で行くしかない」


悩みに悩んだ末、俺は学ランを引っ張り出した。

「今日は高校の部活の帰りなんだ」

と言い張れば、ギリギリ言い訳が立つはずだ。


翌日、俺は人生で初めて、お洒落な街の行ったこともない美容院に飛び込んだ。

緊張で心臓をバクバクさせながら

「男らしく、大人っぽくしてください」

と注文し、ワックスで髪をバチバチにセットしてもらう。鏡の中にいるのは、髪型だけ色気づいた、見慣れない学ラン姿の少年だった。


貯金箱をひっくり返し、財布には中学生にとっては大金である数万円をこれでもかと詰め込んだ。女の子の扱い方は分からない。なら、せめて会計の時くらいは、男を見せて全額奢るつもりだった。


カタカタと震える手をポケットに突っ込み、俺は約束の場所へと向かう。


ガタゴトと揺れる電車の窓ガラスに、学ラン姿の自分が映っている。

周りの乗客は、俺のことを

「土曜日なのに部活がある、どこにでもいる中学生」

としか見ていないだろう。

だが、俺の財布には数万円が入っているし、頭はさっき美容院でセットしてもらったばかりだ。


いける絶対に落とせる。


そう自分に言い聞かせないと、緊張で心臓が口から飛び出しそうだった。


車内アナウンスが流れた瞬間、俺の心臓がドクンと跳ね上がった。

電車を降り、改札を抜けると、土曜日なのに人がいなく感じた。


人混みをかき分け、俺は約束の場所である『駅の時計台』へと向かった。

遠くに見える巨大な時計の針が、約束の時間を刻もうとしている。


その時、ポケットの中でスマホが激しく震えた。

跳び上がるようにして画面を開くと、そこには『織姫』さんからのLINEが表示されていた。


【いま、時計台の前にいるよ。スーツ着てるからすぐ分かるかも。とめ君はどこ?】


「スーツ……?」


俺は息を呑み、顔を上げた。

時計台の真下。そこに、リクルートスーツをバシッと着こなした、大人っぽくてめちゃくちゃ綺麗な黒髪の女性が、キョロキョロと周りを見渡していた。

間違いない。ネットのアイコンと同じ、凛とした雰囲気。彼女が『織姫』さん本名、山田凛さんだ(21歳)。


脳が一瞬でフリーズする。

「落とせる」なんて意気込んでいた自分が、急激に惨めで小さな子供に思えてくる。

だが、もう逃げられない。達也はガタガタと震える足で、一歩前に踏み出した。


「あの……『織姫』、さん……?」


声をかけると、彼女がハッとして振り返った。

綺麗な瞳が泳ぎ、声のした方を見下ろす。

彼女の視線の先にいるのは、髪型だけ必死にキメた、自分の腰くらいまでしか背がない、学ラン姿の男子中学生。


「え……? とめ、くん……?」

「はい……」


あまりの現実リアルのギャップに、二人の時間が完全に停止した。


君と僕は、現実世界じゃ絶対に惹かれ合わない。

俺たちの、最悪で最高なネット恋愛の幕が上がった。


第1話『仮想と現実』を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!

髪型だけキメた学ラン姿の14歳と、スーツ姿の21歳女子大生。

身の丈に合わないことする達也が、これからどんな風に会話を交わしていくのか……気になる第2話も絶賛準備中です!

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