あなたのハーレム要員にはなりません
「ウルト、何度も言わせないで。どうして戦えない子ばかり仲間にするの」
宿屋の一室で、私は勇者ウルトと向かい合っていた。彼は我がパーティーのリーダーでもある。
「うるさいな。俺には俺の考え方があるんだ」
ベッドに座るウルトの周りには5人の女の子たちが居て、全員ウルトにベタベタしている。あの、その人一応私の婚約者なんですが。もう慣れたけどさ……。
「それに、サポートタイプが多くたって問題無いだろう。俺たちが今までダンジョン攻略やモンスター討伐に失敗したことがあったか?」
確かに、無い。けれど失敗したことが無いのには訳がある。
「そうですそうです。私たちは失敗したことがありませんです」
「ウルト様が正しいですわ」
「リーナは考え過ぎよ!」
周りの女子たちはウルトに同調して何度も頷いている。このパーティーにはイエスマンしか、いや、イエスウーマンしかいない。
しかも全員可愛くてスタイルが抜群だ。
「そういうわけだ、リーナ。つまり俺の方が正しい」
ウルトは隣の女子の肩に手をかけながら言った。あれ、勇者ウルトってこんな話の分からない奴だったっけ? ゲームの中の彼は人一倍正義感の強い男だったのに。まあ性欲も人一倍だったけれどさ。
一体、どうしてこんなことになったんだろう。と、私は彼女たちの、いささか露出の多すぎる服装を見ながら思った。
そう。私はギャルゲーの世界に転生してしまったのだ。
***
私は元々、藤森由紀という名の日本人だった。その記憶を取り戻したのは半年ほど前。同時にここが
「異世界ハーレム無双」というギャルゲーの中であると気付いた。
このゲームは仲間を自由に入れ替えながら、自分好みのハーレムを作りつつ、魔王討伐を目指すという、非常にけしからんゲームだ。
何で女の私がそんなゲームを知っているかというと、端的に言えば兄の影響だ。彼は本棚一つを丸々ギャルゲーで埋め尽くすほどのオタクだった。一体、何がそんなに彼の購買意欲をそそっているのか。実態調査をするためお勧めの一本を貸して貰った。
で、見事にはまってしまったというわけだ。癪な事に戦闘システムも面白かったし、見たいスチルもあったため、つい何周もしてしまったくらいだ。
そして私が転生したのは、ゲームの中の攻略対象の一人、聖女リーナだ。
リーナは幼い頃、ウルトに助けられて片思いするようになる。
そしてウルトが勇者に選ばれると、彼を補助するために聖女としての能力を開花させ、一番最初の仲間になる。その際
「もし魔王討伐が終わったら、結婚しましょう」と死亡フラグビンビンの約束までしていた。
彼女は健気にウルトのことを思い続ける。魔王討伐後に勇者が「全員俺の嫁!」という非常に厚かましい宣言をしても、気持ちは微動だにすることなく、ハーレム要員の一人となる。
前世の記憶を取り戻す前の私もウルトが好きだった。けれど記憶が戻った瞬間、彼への気持ちが一瞬で冷めていった。仮にも婚約者がいる立場でありながら、他の女の子に次々手を出す奴なんかどんなイケメンだろうとお断りだ。
とはいえ、魔王討伐はやらなければならない。このゲームで魔王討伐をしなかった場合は即座にバッドエンドルートに突入。世界は滅ぼされてしまう。
つまりわたしも死ぬ。それは勘弁願いたいので、これまで通り、ウルトたちと魔王討伐を目指すことを決めた。
しかし、このパーティーは一つの致命的な問題を抱えていた。
ウルトが自分の好みでメンバーを選び過ぎているのだ。
本来、パーティーメンバーには戦士などの前衛、魔法使いなどの後衛、そして私のような回復スキルを使うサポートタイプなどをバランスよく配置させる。
しかし何と、我がパーティーにはウルト以外、サポートタイプしかいない。しかもしかも、聖女だけで3人いる。彼の性癖がよく分かる偏りっぷりだが、葬式でもするつもりなのか?
勿論、こんな構成で普通は上手くいくはずがない。ウルトは単体への攻撃力特化タイプの剣士なので、単体ボスにはめっぽう強いが、多くの敵に囲まれた場合は対処出来なくなる。それに、防御面も弱い。
幾ら聖女が3人居るからといっても、彼の受けたダメージをカバーしきれない。
それでも何とかやっていけている理由の一つは、ウルトが比較的簡単なダンジョンにしか潜らないからだ。彼は魔王討伐を任された身でありながら、ストーリー序盤の街周辺でちゃぷちゃぷしているだけだった。お陰で彼らのレベルは殆ど上がっていない。危機感を覚えた私は一人でレベル上げしてたけど。
ゲームだったら幾らでも寄り道していて良いが、現実ではそうもいかない。
この世界は魔王の侵略を受けている。魔王軍と人類軍がバチバチにやり合っているのだ。今は人類軍の反攻が功を奏し、魔王軍は少し大人しくしている。けれど、いつまた暴れ出すか分からない。
私はウルトのハーレム要員になる気はさらさらないが、彼がハーレムを作ること自体は止めようと思わない。多分ギャルゲーの主人公に倫理観を説いても無駄だからだ。
だが魔王討伐を急ぐ必要があるのに、序盤の町でとどまっていることは看過できない。女の子とイチャイチャするなら魔王を倒してからにしてくれ。
これは綺麗事を言ってるのではない。繰り返すが今は人類存亡の瀬戸際。ひいては私個人の生命のピンチでもあるのだ。
早く魔王を片付けなければ、いずれお片付けされるのは私たちの方になる。
せっかくゲームの世界に来たというのに、そんな死に方は嫌だ!
私は、パーティーを入れ替えて魔王討伐を急がねばならない理由を、出来る限り丁寧に述べた。
「そうか、分かった」
言いながらウルトは髪をかきむしった。ふぅ、ようやく分かってくれたのね。これでようやく魔王討伐に――。
「パーティー結成以来の仲だから我慢してきたが、リーナ、お前はクビだ」
分かってくれてなかったよいよい。
「え、クビ? 私が?」
「このパーティーのリーダーは俺だ。俺の指示に従えないのなら去ってもらうのが道理だろう」
あれ、何か急にパーティー追放もの始まった?
「ちょっと待ってよ。魔王討伐はどうするの?」
「魔王討伐はするさ。だが俺のタイミングでやる。今じゃない」
何そのニートの「いつか本気出す」みたいな理論。そういう人に限って夏休み最終日まで宿題をやらずにいて、結局終わらなかったりするのだ。
「それにこのパーティーにはもう聖女が3人もいる。こんなに居なくていい」
「あんたが集めたんや」
「さあ、もう良いだろう。出て行ってくれ」
ウルトはまるで野良犬か野良猫を追い払うように、手で払う仕草をする。流石に私もカチンときた。一応は持っていた、このパーティーへの愛着とかが全て無くなった。
「分かりました。じゃあ出て行かせてもらうわ」
私の反応が意外だったらしい。ウルトは驚いたように目を見開いている。
「……本当に出て行くのか?」
もしかしたら「出て行くのは嫌! 何でもするからこのパーティーに居させて!」という反応を期待していたのかも知れない。
元のリーナは一途だし、ウルトが大好きなのでそういう反応になるかも知れない。だが私は違う。何でも言う事を聞く都合の良い女では無いのだ。
「あなたから言い出したのよ。それとも、やっぱり私は必要だった?」
「ええい、出ていけ出ていけ! お前なんか不要だ!」
私がわざと挑発的な言葉を投げると、ウルトは分かりやすく意地になった。言質は取った。これで心置きなく出ていける。
おっと、大事な事を忘れていた。
「魔王討伐が終わったら結婚しようっていうのも無しで良いかしら」
「ああ構わないさ!」
ウルトは不機嫌そうに背を向けた。
私も彼に背を向け、部屋を出て行った。
*****
私がウルトのパーティーを外れたのは、何も魔王討伐を諦めたからではない。実は勇者は、ウルト一人ではない。この世界では聖剣を引っこ抜けた者が勇者と認定される。魔王を倒す力を宿しているからだ。
聖剣は各地にぶっ刺さっており、日々「我こそは勇者なり」と自信に溢れる人たちが聖剣を引っこ抜こうと試している。
そして定期的に新しい勇者が誕生しているのだった。
私はこのゲームストーリーの中盤で訪れる街、チューバーンに来ていた。
チューバーンはかなり大きな街で、魔王討伐を目指す勇者は必ずここに立ち寄ると言われている。
ここならきっと、新しい勇者に出会える可能性が高いと思ったのだ。
「おい、君はまさか……リーナか?」
冒険者ギルドに向かっていた私は、不意に後ろから声を掛けられた。振り返ると背の高い男が立っている。
黒髪を短く切りそろえ、黒い鎧を着けていた。顔は精悍に引き締まっている。
見たところは騎士のようだが、ゲームをプレイした時の記憶にも、リーナの記憶にも存在しない人物だった。
「えーっと、すみません。どちら様ですか」
彼は苦笑いを浮かべ、頬をかいた。どうやら自分の姿を覚えられていないのがショックだったらしい。
「まあ10年以上会っていないんだから分からないよなぁ。俺だよ、君の幼馴染の……」
「あっ!」
私が出会ったのは、あまりに予想外の人物だった。
*****
新しい勇者パーティーの一員となった私は、チューバーンで路銀を稼いでいた。この町から魔王城までは一気に難易度が上がり、高級な武器やアイテムが必要になる。終盤の町、シューバーンまでは大きな街も無い。
そのためこの町の冒険者ギルドに加入し、依頼を受ける日々を送っていたのだ。
そんなある日のことだ。いつものようにギルドへ向かうと、受付のお姉さんに向かい、一人の男が食い下がっている。
おや、あの背中には何だか既視感が……。
やだなーこわいなーと思っていると、お姉さんがこっちに気付いて、パッと笑顔になった。
「あっ、リーナさん! ちょっとこの人どうにかして下さい!」
まるで孤島に取り残された人が船を見つけたかのように、ぶんぶん手を振り、私に助けを求めている。
お姉さんにつられて、男もこちらを振り返る。
私は思わず顔を逸らしそうになった。そこに居たのは、私をパーティーから追い出した勇者、ウルトだったからだ。
彼は目が合うと、思いがけない一言を発した。
「リーナ、どうして帰ってこないんだ」
「……は?」
何だそれ。何で帰ってこないんだって、あなたが追い出したからよ。私を家出娘か何かだと思っているのだろうか。
私は落ち着こうと、一度深呼吸をした。ここで感情的になっていはいけない。先ずはチューバーンまでやって来た彼の主張を聞いてみようと思ったのだ。
ウルトはずっと、序盤の町である東久留米あたりで止まっていた。東久留米から、セイブイケブクロセーン街道を通って、ここまで来るのはかなり時間を要する。出現する魔物だってそれなりに強い。
何か理由があるはずだ。
「そういえばウルト、他の女の子たちは?」
周りに、彼のお気に入りだった女の子たちが誰も見当たらない。宿に置いてきたのだろうか。
「彼女たちは……そんなことどうでも良いだろ!」
ウルトはお手本のような逆切れをかましてきた。何こいつ。
「彼女たちは一人残らず故郷に戻りました」
横から一人の男がぬるっとフェードインしてきた。眼鏡をかけた、目の細い男だった。
「ま、平たく言うと、勇者ウルトは捨てられたのですよ」
男は細い目を更に細くして笑った。
「お、おい! 言うなよ、グラース」
「言わないと話が進まないでしょう。」
グラースと呼ばれた男は肩をすくめた。
その名を聞いて思い出す。彼もゲームの登場人物の一人だったからだ。職業は鑑定士である。
「……!」
思い出すと同時に、私は大声を出しそうになった。
慌てて口を押さえる。まさか、グラースがここに居るということは……!
「聖女リーナ様、勇者ウルトは今興奮状態にあるようですから、私ことグラースより説明させて頂きます」
彼は慇懃なお辞儀をすると、理路整然と、よどみない口調で語り始めた。
私が抜けてからというもの、ウルトのパーティーは全くうまくいかなかったらしい。
それまで瞬殺出来ていた雑魚モンスターに苦戦するようになり、クエスト失敗を連発する始末。
クエストが達成できなければ当然お金が稼げない。お金を稼げなければ生活が出来ない。私が抜けても彼のパーティーには5人の女の子が居た。出費はかなりの金額になっただろう。
切羽詰まったウルトは一人でダンジョンに入り浸った。お金を稼ぐため、そしてレベル上げのためだった。
彼のパーティーには彼以外戦闘員がいない。このまま女の子たちを連れて行き続ければ、危険に晒すとも思ったようだ。
しかしそこが落とし穴だった。
このゲームには好感度システムが存在する。いつもクエストを一緒にこなしたり、話しかけたりしていれば問題無いのだが、放っておくと、どんどん好感度ゲージが下降していく。
そしてある一定ラインを超えると、彼女たちは自分たちの故郷へ戻ってしまう。つまり、愛想を尽かしてしまうのだ。
こうしてダンジョンで寝起きし、時々モンスターにボコられながら、何とか金を稼いで宿に戻ったウルトを待っていたのは、女の子ではなく一枚の紙きれだった。
「今までお世話になりました」
この書置きと共に全ての女の子が居なくなっていた。その時のウルトの落胆は凄まじいものだっただろう。
が、話はここで終わらない。
勇者はこの世界に複数人いるとはいえ、数は少ない。そのため、パーティーメンバーに捨てられた勇者の噂はたちまち広まった。
それまで羨望の眼差しで見られていた彼が、今や後ろ指をさされる生活。
ウルトは東久留米に居づらいくなり、私を探す旅に出た、というより逃げ出したのだった。
「それは分かったけれど、どうして私のところに来たの? また別のメンバーを探せば良いじゃない」
「ところがそういうわけにもいかなかったんですよ。勇者ウルトの力は、あなたの力があって、初めて真価を発揮できるようです」
「私の力……?」
「あなたは『聖域』のパッシブスキルを持っていますよね」
聖域というのは聖職者だけが使える激レアのパッシブスキル……常時発動しているスキルのことだ。味方の全てのステータスを1.5倍~3倍に高めるという、かなりチートな能力である。
私がこの能力に気付いたのは、ウルトのパーティーを抜け、今のパーティーに所属してからだ。
メンバーたちから「君が居ると力が溢れるようだ」「この溢れる魔力、まるで自分のものじゃないみたい!」など絶賛された。試しにこの町の鑑定士に依頼してみて、初めて自分が聖域を持っていることに気付いたのだ。
ゲームをやっている時は気付かなかった。どうやらこれはリーナの隠しステータスだったようだ。
そう考えると納得のいくことがある。
仲間を好きに入れ替えられるこのゲームにおいて、唯一リーナだけは仲間からは外せない。幼馴染だからだと思っていたのだが、どうやらお助けキャラの側面があったようだ。
しかし私は、ゲームの仕様に反し、勝手にパーティーを抜けてしまった。それによってウルトのパーティーでは極端な弱体化が起こってしまったというわけだ。
「今なら戻って来ても良いぞ。婚約を破棄したことも、無かったことにしてやる」
グラースの後ろからウルトが言う。イラっとした。
「あなた何言ってるの? 私はあなたが他の女の子たちに手を出しまくってた時点で愛想なんかとっくに尽きてるし、婚約し直すなんて死んでも御免だわ」
「なっ!」
私のしおらしい対応でも期待していたらしいウルトは、唇をわなわなと震わせていた。グラースは「こいつやらかしちゃったよ」と言わんばかりに顔を手で覆っていた。
「私、最初からパーティーメンバーを入れ替えた方が良いって言ってたわよね? 人の忠告を無視して、挙句の果てには追い出しておいて、いざ他のメンバーから見捨てられたら『戻ってこい』なんて虫が良すぎるんじゃないの?」
ウルトは顔を真っ赤にして私を睨む。けれど言い返す言葉は見つからないらしい。
「お、お前だって魔王討伐をしたいと言っていただろ! 魔王を放っておいて良いのか!」
やっと言い返した言葉はそれだった。
「魔王討伐を後回しにして、ずっと女の子と遊んでたあなたが言っても説得力が無いわ」
「……っ! 魔王を討伐出来るのは勇者だけだ。つまり俺のような選ばれた存在だけだぞ!」
「私、新しい勇者を見つけたの」
「新し、勇者……?」
ウルトは言葉の意味が分かっていないらしく、呆けたような顔をしていた。聖剣システムは知っているだろう。何がそんなに不思議なのか。
「そう、だからあなたは不要ということ。じゃあね」
「ま、待ってくれ、その勇者と言うのは……!」
「リーナ、何の騒ぎだ?」
後ろから一人の男が近付いてきた。黒い鎧を身に着けた、黒髪の偉丈夫イケメン。チューバーンで最初に声を掛けてくれた男だ。
ウルトは彼の顔を確認して、怪訝そうな顔をした。対照的に、ウルトの顔を確認した黒髪の男は、驚きに目を開いた。
「ウルト、なのか?」
「……なぜ俺を知っている?」
「ほら、俺だ俺。あの悪ガキのハロルドだ」
「ハロルド……えっ、お前が!?」
ここでやっとウルトも相手が何者か把握したようだ。
ハロルドは伯爵家の子息であり、ウルトと同じくリーナの幼馴染だ。
彼は子供の頃とんでもない悪ガキだった。伯爵家の子息であることをかさに着て、街で威張り散らし、好き放題していた。
しかしあるイベントから一方的にウルトを敵認定するようになり、決闘を申し込む。
結果は火を見るより明らかだった。ハロルドはウルトに触れることさえ出来ずに敗北する。
そう、彼は典型的な噛ませ犬キャラだったのだ。
そしてリーナはウルトに付いて行くことを決め、ハロルドは取り残される。
……ここまでが、私が知っているストーリーだ。
しかしリーナの人生がその後も続いているように、ハロルドの人生も続いていた。
ウルトに叩きのめされた彼は、別人のように謙虚になった。迷惑をかけた両親や町の人々に謝罪し、剣の修練を始めた。
ウルトに復讐するためではない。憧れていた。ウルトのように強く、人を守れるようになりたいと思ったそうだ。
立派な更生だと思う。
実際、チューバーンでハロルドと共に幾つか依頼をこなしてみたが、ゲームの印象とは全く異なっていた。非常に誠実で、クエスト中も常に気を配ってくれる。戦場にありながらも常に紳士的。自分大好きで「サポートよろしくぅ!」しか言わないウルトとは大違いである。
ちょっと好きになりそうだった。
***
「ということで、今はハロルドたちと魔王討伐を目指しているの。だからもうあなたのパーティーに戻る必要はないってこと」
ウルトは放心したように口を開けた。
「じゃ、じゃあもしかして、ハロルドが聖剣を抜いたっていうのか!?」
「何で?」
「だって、話の流れ的にそうだろう! 聖剣でしか魔王は倒せないんだから!」
「試したんだけどさ、俺じゃ抜けなかったんだよ。ウルト」
ハロルドは苦笑して首を振る。
「じゃあ誰が!」
「リーナだよ」
「ぬぅえ???」
ウルトは高速で目をぱちぱちさせつつ、私の顔を見る
「ど、どういこうことだ? リーナが、何を抜いたって?」
「だから、私が聖剣を抜いたの。勇者として選ばれたの」
ハロルドは子供の頃、既に聖剣引っこ抜きチャレンジをし終わっていた。結果、失敗。
けれど私は「今なら聖剣に求めてもらえるかも。もう一度試してみたら?」と提案してみた。
そしてチューバーンから最も近くにある聖剣の場所まで赴き、引っこ抜きチャレンジを再度行って貰った。
しかし筋骨隆々のハロルドが、幾ら力を込めても、微動だにしない。まるでセメントでガチガチに固められているかのような安定感だった。
彼が力を入れて引っ張っているのを見ていると、私も力が入って来た。
「んもう、ハロルド、ちょっと退いて! もっと腰を入れるのよ! こう! こうやって引っ張るの!」
すぽっ!
「抜けちゃったァ!」
だいたいこんな感じだった。
「そういうことだから。じゃ、私たち行くね」
「ちょっ! ちょっと待ってくれリーナ! 俺を見捨てないでくれ!」
今まで聞いた事の無い、ウルトの情けない声だった。相当切羽詰まっているらしい。幾ら勇者とはいえ、悪評まみれの剣士だ。パーティーメンバーを再度集めるのは相当難しいだろう。
彼にとっては私が頼みの綱だったに違いない。
だがもう遅い。
「何度も言うようだけれど、先に私をパーティーから外したのはあなたよ」
「そ、それは……」
「ほら、だから謝ったところで許してくれるわけないって言ったじゃないですか」
私は項垂れたウルトから、グラースに目を移した。
「グラースさん。そういうことだから、ウルトの事をよろしくね」
「ええ、それは勿論」
グラースは鷹揚に頷いた。
目線を外す寸前、グラースが舌なめずりをしたのを私は見逃さなかった。
まさか、まさかだ。
グラースを、いや、グラースルートをこの眼で拝む日が来るとは……。
グラースはこのギャルゲーの20人いる攻略対象の中で、唯一の男性キャラだ。どうも制作陣が悪ノリで入れたらしい。
そして何を隠そう、私がこのゲームを何周もしたのは、彼のルートとスチルを片っ端から集めるためだった。
グラースはウルトに執着している。
ヤンデレというやつだ。
私が『聖域』を持っていることを、初対面なのに知っていたかのような口調だったのも、とっくの昔に調べ上げていたからだろう。
グラースは普段出現しないのだが、リーナ以外の女の子全てに帰郷された上、リーナの好感度が最低になると、ようやく仲間になる。チャンスを虎視眈々と狙っていたわけだ。
図らずも、この世界線で彼の発生条件が揃ってしまったのである。
こいつぁ、一つ楽しみが増えましたねぇ。ぐへへ。
私は誰にもバレないようほくそ笑んで、ハロルドとその場を去って行った。
その後、私はハロルドたちと魔王討伐を果たし、その後結婚することになるのだが、それはまた別の機会に話そうと思う。
おわり




