20 告白
「ちょうど良かったですわ。グレイ様!わたくし、幼い頃からあなたのことをお慕いしていましたの。
わたくし、これからあなたを手に入れるために頑張りますので、取り敢えず本日のエスコートをお願いしてもよろしくて?」
「もちろん。私で良ければ喜んで」
スカーレットが差し出した手を、そう言ってグレイがすくいとった。
流石王太子とでも言うべきか、若干顔には出ているものの突然の告白にも動じることがない。頼もしい限りだ。
壁際に控える侍女や護衛が心底安心した様に、そして嬉しそうにほほ笑んでいることにスカーレットたちは気付かない。
使用人とはいえ王族に仕えているのだ。皆シルバー王国の貴族に名を連ねる者だろう。これだけの人目があるところでのこの宣言が有耶無耶にされることはないはずだ。
キャナリィは「ほっ」と息を吐き、いつの間にか隣に立っていたシアンを見て微笑んだ。
★
サマーパーティーが行われる会場に徐々に平民、男爵──と、一般クラスの生徒が集まりだした。
そして彼らが見守る中、高位貴族の生徒の入場が始まり、婚約者にエスコートされたキャナリィが入場した。
身に纏うドレスにはシアンの色が使われており、はじめからシアンのエスコートが決められていたかのようだった。
その事に、一同驚きが隠せないでいた。
やはりあれはただの噂だったのだ。早まらなくてよかったと、皆そっと胸をなでおろした。
そこに学園長に紹介された来賓であるグレイがスカーレットを伴って入場して来た。そのドレスには王太子殿下の色が使われており、会場内が騒然とした。
婚約をしておらずともエスコートする相手の色を差し色に使う程度であればマナーの範囲内であり問題はない。
しかし留学してきた当時はグレイの婚約者候補ではないかと言われていたものの、それを否定するようなスカーレットのこれまでの言動もあったため、皆の戸惑いも仕方の無いものだと言えよう。
あの後スカーレットは、グレイに渡せていなかった歓迎パーティーのお礼の品を渡した。
その場で開封したグレイは自分の好みにぴったりだと、とても喜んでくれた。
しかしその余韻に浸ることなくグレイとシアン、護衛騎士は部屋から追い出されることとなった。
数十分後許可が出て二人が部屋に戻ると、ドレスに手を加えられたスカーレットとキャナリィが待っていた。
そのドレスにはグレイとシアンそれぞれの色が差してあり、まるではじめからエスコート役が決まっていたかのような出で立ちだった。
スカーレットの表情からその気持ちを疑っていなかったクラレットは、二人のドレスを取り扱うこととなり、あらかじめ指示を出し後から取り付け可能なパーツを作成していた。そして先ほど服飾部門の商会員を含めそのパーツを前室に持ち込んでいたのだ。
グレイとシアンも同時に入室していたがドレスにひと手間加えたいというクラレットに応と答え、前室で待ってもらっていたのだ。
「え、フロスティ公爵令息を見ておられたのですか?」
当の昔に初恋に終止符を打っていたグレイは、スカーレットに歓迎パーティーでのことを正直に話した。
在学中、令嬢をエスコートする機会がほとんどなかったグレイは、王女に失礼がないようにキャナリィのエスコートに定評のあるシアンを参考にしていたらしいのだ。
「すまない」
「ふふっ」
申し訳なさそうに言うグレイにスカーレットは声を上げて笑う。
公の場で王族が声を上げて笑うなど褒められた行為ではないが、ここは学園。仲の良い二人だと好意的に映るだろう。
グレイがはじめて──実際は再会であったらしいが──会った時のスカーレットの第一印象は「少し気が強そうな、自分より年下だとは思えないほどの凛とした佇まいの王女」で、少し話してグレイはその王族としての考え方やシルバー王国での行いに好感を持った。
自分は王族だ。元より好き嫌いで伴侶を選ぶつもりはなかった。
しかし、自身で決めるのであれば、必要な条件は国にとって有益か否か。王妃に相応しい考え方や目線を持っているのか。王族にたる気概の持ち主であるのか──そうで無ければ次期国王である自分には必要ない。
自分と共に国を治めると言ってくれる人、この国を愛してくれる人。
そのような人に出会えたのであれば、その人を愛すると決めていた。
ジェードやシアンたちのように執着に似た──恋とはいかないけれど、スカーレットとなら問題なく、お互い尊重し合い国のために生きていけるだろう。
──そんな昔から自身に好意を持ってくれていたというのは、その、意外、ではあったが。
今回キャナリィのエスコートをせずにすみ、グレイは心の底から安堵した。
キャナリィの幸せを壊すことを望んでいなかったからだ。
ふと、グレイはスカーレットを見た。
幼い頃、グレイが長い間キャナリィに向けていた淡い感情を──いや、それ以上の想いを、スカーレットが自身に向けてくれていたのかと思うと、胸が温かくなった。
グレイはその心地良い感覚にしばらく浸っていた。




