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2 見つけたわ

 温暖な気候であるバーミリオン王国の夏休暇は長い。

 その夏休暇をわずかに残したところで隣国の第一王女スカーレット・シルバーは到着した。


「バーミリオン王国国王陛下、並びに王妃殿下にご挨拶申し上げますわ」


 一国の王を目前に、堂々とした挨拶。

 自信に満ち溢れたスカーレットはその美しい(かんばせ)に不敵な笑みを浮かべた。

 留学とはいえ友好国の王女の長期滞在である。王女一行は警備の関係から王宮の敷地内にある客人の長期滞在用の離宮に住まうことになり、急ではあるが学園の再開に合わせて歓迎パーティーを催すと伝えられた。

 王国のマナーではスカーレットには婚約者がいないためパーティーのエスコートは主催者側でスカーレットに見合う身分の男性がすることになる。

 そしてエスコートをする男性が相手の女性にドレスを贈るのは普通のこと──部屋のトルソーにはこの国の王太子であるグレイから送られたドレスが飾られていた。

 美しい光沢、肌触りの良い生地で作られている。色合いも良く、スカーレットによく似合いそうなドレスだった。


 グレイから贈られたドレスを当たり前のように試着し、最終調整を行いながらスカーレットはつぶやいた。


「歓迎パーティー・・・次期公爵だもの。きっと彼──シアン・フロスティ公爵令息も参加するわね」


 スカーレットの形の良い唇が弧を描いた。






 パーティー当日、スカーレットはグレイに送られたドレスを身に纏いエスコートを受けていた。


「本日は宜しくお願いします。グレイ王太子殿下」

「いえ、とてもお似合いですよ。スカーレット王女殿下」


 社交辞令で褒めてくれるグレイに、スカーレットは笑みを浮かべる。

 エスコート役のグレイにはパーティー前に一度、お茶に誘われ話をしている。

 王族としてパーティーで無様な姿は見せられない。他貴族の前で手を預ける以上、お互いに人となりを知っておく必要があるからだ。

 だからこれで彼と会うのは二度目──ではない。

 実は幼い頃にスカーレットはグレイに会ったことがあった。

 しかしグレイは覚えていないようなのでスカーレットはそのことには触れてはいない。

 再会したグレイは当然であるが記憶の彼よりも成長しており、俗にいう「美しい男」というわけではなかったが繊細な美しさとは違う精悍な器量と品の良さがあった。

 王太子であるグレイ・バーミリオンは政治政策の面では熱心で優秀、体格も良く剣術に長け、人望もあり次代を安心して任せられると貴族をはじめ国民からの信頼も厚い。

 スカーレットはそんな彼になぜこれまで婚約者がいなかったのかと疑問に思っていた。

 巷では『王太子が国のことを思うあまり自身のことを考えることが疎かになってしまっていたのではないか』『人気がありすぎ引く手あまたで、なかなか候補を絞ることが出来なかったのではないか』。また、王太子が女性との個人的な逢瀬をしている所を見かけたことはないため『女性が苦手なのではないか』・・・など好き勝手噂されていた。

 しかしスカーレットはもう一つの可能性を考えていた。


「もしかして、他に心を寄せる令嬢が居るのではないかしら──」と。


 何故そのような可能性を考えるに至ったのか。

 それはスカーレット自身も一国の王女であるにも関わらず心を寄せる男性がいるからだった。

 スカーレットは誰にも気付かれないように自嘲気味に笑った。


 グレイにエスコートされ、国王王妃と共に会場入りしたスカーレットであったが、なかなか目的の人物を見つけられないでいた。

 そんな中自身をエスコートするグレイの視線が先ほどから一点に集中していることに気が付いた。


(あれは──)


 スカーレットがグレイの視線を辿ると、その先にはこの留学の目的の人物であり昨年まで隣国の学園で共に学んでいたシアンが年配の貴族に挨拶をしているところだった。その傍らには婚約者であろう美しい令嬢が寄り添っている。


(──見つけたわ)


 正直こんなに早く見つかるとは思っていなかった。

 しかし今日の目的は「確認」のみ。

 歓迎会がはじまって早々に目的を達成したスカーレットは式次第に沿って、国王に紹介される形で集まった貴族の前に出た。


「スカーレット・シルバーです。この場には学園の生徒も多くいると聞いています。是非仲良くしてくださるとうれしいですわ」


 並みいる貴族に向かってスカーレットが笑みを浮かべ挨拶をする。

「仲良く」──この言葉を真に受けて必要以上に距離を詰めようとしてくる者を見極めるための布石でもある。

 短期間であれば適当にあしらいもする。しかしスカーレットはこの国で婚約婚姻をし、留学後もこのままこの国に留まる予定なのだ。

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