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04:こんな婚約者で大丈夫か……?

この作品には、一部下品な表現が含まれています。


免疫のある方のみ、お進みください▼▼▼







⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

 アヴェロン第二王子は、公爵と話していた時の大人口調を控えて、優しく問いかけてきた。

「レネは、僕と結婚することについてどう思う?」


 レネはいつもの口調で言ってのける。

「責任を取るって話でしょ? でもね、木から落ちたっていっても、たいした怪我じゃなかったんだし、責任なんて取ってもらう必要はないよ?」


「……たいした怪我だと、僕は思う。腕にも、傷が残ってしまっているじゃないか」


 アヴェロン王子が哀しげな表情になって、彼女の腕をさし示す。


 枝が掠った時にできた、少し抉れたような傷痕が、レネの腕にはあった。

 怪我が治って瘡蓋が取れた後は、ピンク色になっている。そんな痕を、公爵令嬢であるレネにつけてしまったと、アヴェロン王子は後悔しているようだ。


「同じような傷痕が他にもいくつかあると、診察した医師から報告を受けている。嫁入り前の君を『傷もの』にしたのは僕だから、責任を取るのは当たり前だ」


 傷もの、という言葉を、アヴェロン王子は誤解しているようだ。

(いくら優秀でも、まだ十歳の子どもだから、意味を分かっていないんだな。オレは、前世では高校生だったから知ってるぞ)

 レネはほんの少し、優越感に浸る。


「オレは傷なんて気にしないし、嫁になんて行かない」

 男との結婚なんて絶対に嫌だと思っていたレネは、勢いづいて思わず言った。

「オレは本当は男なんだ。間違えて女に生まれてきただけで、いつかは、女神様に頼んで、男に戻してもらうんだ」


 アヴェロン王子はソファにもたれかかっていた身体を起こし、呆気にとられたような表情で、しばらくレネの顔を見ていた。

 後ろに控えた側役は、ほぼ無表情だったが、ほんの少しだけ口元が動いた。彼は内心、王子に向かってこう問い質したのだろう。


 こんな婚約者で大丈夫か……?

 と。


 笑いたけりゃ笑え、とレネは思った。


(王子様だって、チンチンがなくなったりしたら絶対にオレと同じ気持ちになるはずだ。笑い事じゃないぞ!)


 もしアヴェロン王子がここで、適当な言葉を口にしたり、笑ったりしたら、相手が王族でも婚約話なんて絶対に受けなかったはずだ。


「そういうことだったのか」

 と、アヴェロン王子は、真顔になって言った。

「僕はあの時、木から落ちたせいなのかと、心配していたんだ」


「え……?」


 確かに木から落ちた後、『チンチンがない』と言って泣いているところを見たら、あの時に取れたんじゃないかという誤解もあり得るだろう。

 どこかに落としたのではないかと思わず探してしまったレネには、そんな馬鹿な、と突っ込むことなどできない。


「違うんだ。生まれつき無かったんだ。多分女神様のうっかりミスだと思う。怪我のせいじゃないので、責任とか考えなくてもいいよ」


 レネは申し訳ない気持ちになっていた。

(木から落ちたせいで女の子になってしまったと思ったから、婚約するって言い出したのか……? まだ十歳だものな。心配させて、悪い事をした)


「ということで、婚約の話は無しだよね?」


 そう言って、ニッコリと笑いかけたレネの顔を、アヴェロン王子はマジマジと見つめた。


 アヴェロン王子がほんのりと赤くなったのは、勘違いが恥ずかしかったからだろうとレネは考えた。

 アヴェロン王子に対して、自分が今初めて笑って見せたことに、彼女は思い至らなかった。


「そういうわけにはいかない」

 と、アヴェロン王子は優しげな笑みを浮かべて言った。


「え……でも」

「木に登るという危険行為を、僕は止めるべきだった。なのに、一緒になって登るという過ちを犯した。君の身体の傷全てに、僕は責任を持ちたい」

「ええぇ……?」


(責任感のかたまりだな、アヴェロン……)


 そんな風に思ったせいで、これまで競争相手だとしか捉えていなかったアヴェロン王子に対し、レネの好感度が上がったのは確かだ。


「だから僕は、一生君のそばで償うことにするよ……君の下僕として」

「下僕って……!? ちょっとそれは……大げさ過ぎない?」

 王子が下僕になるなんて、と、さすがのレネも慌てる。

 アヴェロン王子の真摯な瞳が、レネを捉えていた。

「嫌かな?」


 その真剣さにレネは、勝手に競争相手に見立てて、一方的に挑んでいた自分が子どもっぽく思えて恥ずかしくなる。


「嫌なわけじゃ……」

 と口にしたレネは、言葉の選択を誤ったことに気づいた。


「嫌じゃない……つまり、いいってことだね。ありがとう」

 アヴェロン王子がそう言って嬉しそうに笑った。


「えっ……」


(そういう意味じゃない……!)

 と慌てるレネに、アヴェロン王子は反論の余地を与えなかった。

 彼は側役を振り返る。

「公爵を呼んでくれる? レネ嬢の承諾を得た、と伝えてくれ」


「は……?」


 その後は、発言を撤回する間もなく、王家と公爵家の間で婚約の話が進んだのだった。











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

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