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004 魔物03

 俺は魔物を抱えて家への道を急ぐ。森を抜けると森と村とを隔てる壁がある。村と比べると不釣り合いにも見える石造りの立派な壁は、村ではなく王都から来た技術者達が作ったものらしい。

 かなり年数は経っているが、重ねられた石の一つ一つに魔法による文字が刻まれていて、それが各々の石に作用しあって強力な結界を作り出している。

 だから、森に侵入した魔物でもこの壁を超える事は難しく、今までに魔物の侵入を許したことは無い。

 だからこそ今日狩りに出た父親や村の人たちはここまで逃げて来て助かったのだろう。

 俺は魔物を抱え直して壁に手をつく。


 ――父さん達を護ってくれてありがとな。


 この壁が無かったなら、もしかしたら父さん達だけでなく他の村人にも被害が及んでいたかも知れない。

 さて、ここまで辿り着いたらあと一息だな。

 俺はなるべく家に近い場所まで行く為に壁に沿って歩く。

 下手に村へ入ってしまうと、誰に見つかるか判らない。まあ、流石に今夜は誰も家から出ないとは思うが。念のためだ。

 しばらく行くと、家に一番近い場所に到着する。

 俺は壁に近付いて、気配を探る。どうやら付近に人はいないようだ。


「よし、行くか」


 壁の高さは大体大人二人分程度だ。

 俺は深く膝を曲げて、力を溜めて、左足で地面を蹴った。一旦右足で壁の縁に着地して、更に跳躍する。

 そうすると、森の一部を抱え込んだ家の裏手に出る。我が家だけが森を一部壁の中に残してあるんだが、何故なんだろうな。お陰で目立たずに家に戻れるから助かっている。

 俺は音を立てないようにしながら、家の裏手に出ると魔物を下ろした。


「血は抜いてきたけど、どうするかな。もっと細かく解体しておいてもいいんだが……」


 何せ普通の鹿の三倍近くの大きさだ。このままでは地下の保管庫に入りきらない。

 他の家は一室分の保管庫があるが、うちはせいぜいが二樽分のサイズしかないのだ。


「……フォルティス?」


 考えに沈んでいたせいで、俺は人の気配に気付かなかった。

 咄嗟に身構えて顔を上げると、そこには渋い顔をした両親が立っている。


「何処に行ったのかと探しに出るところだったのよ?!」


 母親が俺の元まで駆け寄って来て、直前で止まった。足元の魔物を見て目を見開く。


「フォルティス……それは」

「俺たちを襲撃した魔物だな?」


 父親が溜息を付いて言う。実際に襲われた父親に嘘は通じないので、ここは素直に頷くしかない。


「そうか……お前は、これを倒せたか」


 父親が片手で両目を覆って俯く。


「今まで遭遇した魔物の中で一番強かった。父さんの言った通りだったよ」

「そんな危険な魔物に一人で戦うなんて……!」


 母親が俺の目の前まで来る。俺の顔を両手で包んで額を合わせた。


「怪我は無いわね? もう、無茶は止めてちょうだい……。せめて何も言わずに行かないで」

「ごめん。言ったら止められると思った」

「当たり前でしょう! 今回は運よく勝てたかもしれないわ。でも次どうなるか判らないのよ? 一人で行って怪我をしたらどうなっていたか……!」


 俺は黙して母をじっと見てから、目を伏せた。


「勝算があったのか」


 父親の静かな声で俺は視線を上げた。顔を覆った手は下ろされている。


「……魔物を見て判断しようと思った。勝てる相手だと思ったから手を出した」


 正直に答える。そうだ。勝てない相手に手を出す程無謀じゃないつもりだ。行けると思ったから戦った。

 実際に勝てたのは運じゃない。俺に魔物を倒せる力があったからだ。

 別に自分の力を過信してるつもりはない。過信がいかに恐ろしいものか両親か教えられているから。

 ただ、勝てると確信できただけだ。


「あの魔物の実力を測り、勝てると踏んで挑んだ――か。お前はもう、俺たちの遥か上の強さを持っているんだな」

「……」


 それは、判らない。たまたま俺が得意なタイプの魔物だっただけなのかも。魔法しか効かない相手だったら逃げるつもりでいたしな。


「フォルティス。その魔物の強さが読める時点でもう、俺たちはお前に勝てないんだよ」

「……どういうこと」

「人はね、自分より強い者の強さを測る事ができない。ただ、強いと言うことが判るだけだ。強さを測る事が出来るのはお前が、その魔物より上の強さを持っていたからなんだ」

「お父さん……」


 母親がどこか愕然とした顔で父を見る。


「何故魔物を持ち帰った?」

「他の魔物を喚ぶかも知れないから。魔物は、遺された血だけなら避ける。何故かは判らないけど。それにこの魔物は食っても問題が無い」

「そんな事も判るの?」


 母親に訊かれて頷く。


「毒も無いし、人を害するような肉じゃない」

「……」


 父親が長く息を吐く。


「魔法が使えないお前がそれを知る事が出来るのは"気"を操れるからか?」

「多分。澱んだ気配があれば判る」

「そうか。……そろそろ中に入ろうか。疲れているだろう。その魔物はそのままお前に運んでもらってもいいか?」


 俺は頷いて下ろしてあった魔物を両肩に担いで歩き出す。母親が無言で後ろをついて来る。


「あなたにはもう……」


 その先を母親は言わずに、黙した。俺には何を言おうとしたのか判らなかった。

 けれど、寂しそうな声だと思った。

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