第9話 討伐演習② 妨害
「どういうつもりだ、お前ら」
二人に武器を向ける学園の生徒たち。
その数、八名。
敵意を隠すことなく現れた彼らに、リヒトは静かに剣を構えた。
一応問いかけてみたものの、彼らの目的はおおむね推察できている。
それを肯定するように彼らのリーダー格……ダグラスの取り巻きの生徒たちが口火を切った。
「悪ぃがリヒト。テメーにはここでダウンしてもらうぞ」
「お前に活躍されるわけにはいかねーんだよ」
「おいおい二人とも。ルミナも対象に入っているのを忘れるな」
彼らの言葉でリヒトの推察が正しかったことは確定した。
が、一点だけ気になる点があった。
(一週目の今日では、俺とルミナはダグラスに直接ボコされて演習で成果を上げることができなかった。それに対して二週目は、ダグラスではなく取り巻きたちが出てきた)
一週目と二週目の違い。
考えられる要因としては、やはり昨日の決闘だろう。
プライドが肥大化しすぎたダグラスのことだから敗北を認めて受け入れるわけないが、気絶させられるという理解できない現象が起きたことで慎重になっていると思われる。
着実に、確実に一週目とは違う未来を歩み始めていた。
「まあどちらにせよ……邪魔してくるなら倒すだけだ。容赦はしない」
「泣いて逃げるなら今の内よ」
警告する二人に向かって、生徒たちが一斉に仕掛けた。
まずは複数の魔法攻撃が飛んでくる。
それに合わせて土魔法による妨害が行われる。
それをリヒトは往なしながら、肉弾戦を仕掛けてきた生徒二人を相手する。
「なんだよコイツ!? 俺たちの攻撃が当たらねぇだと!?」
「クソ! お前らも手伝え!」
取り巻き二人の要請を受け……いや、受ける前からさらに二人の生徒がリヒトに襲いかかろうとして。
「あんたたちの相手は私よ」
炎の槍で魔法攻撃を無力化したルミナが間に入った。
「なんで邪魔するんだ、ルミナさん!」
「俺たちは貴方のためビッ──」
生徒二人を槍の柄で殴り飛ばす。
「ちょうどいいからハッキリ教えたげるわよ」
生徒二人に向かって、ルミナは自分の獲物だと宣言する。
こうして、リヒトもルミナも四人ずつ相手することになった。
◇◇◇◇
「くたばれリヒトォ!」
スキルを発動したレイピアによる突き。
その速度は討伐者として即戦力になるレベルの速さと威力を誇るが──
「狙いが甘いぞ」
「ゴッ」
リヒトは躱しながら距離を詰め、剣の柄で顎を小突く。
最小限の動きでノックダウンさせた。
「よくも!」
そこへ殴りかかるもう一人の取り巻き。
リヒトは徒手空拳で流しながら誘い込む。
「クソが! 澄ました顔してんじゃあああああ!?」
取り巻きの背中に魔法が直撃する。
後ろの生徒二人が放ったものだった。
「テメェ! なにしてくれとんじゃゴラァッ」
激昂して後ろを振り向く取り巻き。
その隙だらけの行動をリヒトが見逃してくれるはずがない。
取り巻きはすみやかに気絶させられた。
「残りはお前たちだけだ。どうする?」
「「ッ……!」」
生徒二人がしり込みする。
速さもなく精度も悪い魔法で援護し、味方に直撃させたのにもかかわらず大したダメージを与えられなかった……言い換えればその程度の魔法しか使えない二人は。
「……お、お前は……っ」
震える声で喋り出す。
「なんなんだよっ、お前……! なんで……なんで何も持っていないのに強くなれるんだよ……ッ!」
「おかしいだろ! 落ちこぼれのはずだろ! 強くなるなよ!」
そして本心を叫んだ。
「俺たちよりも強くなるなよ! じゃないと……」
「……今度は俺たちがいじめられるじゃないか!」
二人のカーストはほぼ最下位と言える程度には低い。
リヒトの学園ランキングが上がって自分たちがカースト最下位になれば、今度は自分たちがダグラスのいじめのターゲットにされるかもしれない。
「俺には最下位のままでいてほしいから成果を出されないように潰そうと?」
リヒトは二人の目的を端的に要約してから。
「俺の知ったことじゃない」
容赦なく二人をダウンさせた。
「他人の足を引っ張ってる暇があるなら強くなる努力をしろよ。お前らにはスキルも魔法の適性も魔力もあるんだから……。
──何もなかった俺よりは簡単だろ」
こうしてリヒトは無事に勝利した。
一方ルミナは。
「ちょうどいいからハッキリ教えたげるわよ」
リヒトを害そうとした生徒二人を吹き飛ばしたルミナ。
そこへ強力な魔法攻撃が飛んでくる。
リヒトが戦ったカースト下位の生徒とは比べ物にならない。
C級程度の魔物なら瞬殺できるレベルの威力を持っている。
この魔法の使用者は間違いなく学園ランキング上位者だ。
それをさらっと躱したルミナに向かって女子生徒が悪態をつく。
「なんで躱せるのよ!? 平民のくせに!」
「あたしへの嫉妬かしら?」
「ええそうよ! アンタのことがムカついてムカついてたまらないのよ!」
女子生徒はさらに魔法を乱射する。
怒りのせいかコントロールが少し甘くなっているが、それを補うように最後の取り巻きが衝撃波を飛ばしてきた。
「防御貫通攻撃を喰らえ!」
ルミナは正面から堂々と衝撃波を受け止める。
その上で──
「防御貫通したところで威力なさ過ぎて意味ないわよ」
「ハァ!?」
大してダメージを喰らった様子もなく、取り巻きを叩き倒した。
「私だって努力してるのに! いっつも頑張ってるのに……! なんでアンタに届かないのよ!」
女子生徒はなおも魔法を撃ってくる。
ルミナはそれらをすべて対処する。
斬って無力化する。
「クソがぁぁぁ! 全魔力を込めた一撃を喰らわせてあげるわよ!」
女子生徒が生成したのは巨大火球。
それが放たれる。
草木を焼き消しながら進んでくる巨大火球を、ルミナはあっさりと斬った。
無力化した。
「なんで……」
「その必殺技、最初から使ってたらもう少しマシになってたわよ」
ルミナのスキル〖連撃〗。
連続で攻撃すればするほど威力が上昇していくというものだ。
さらにルミナはパッシブスキルとして〖物理特化〗を所持している。
魔法を使えなくなる代わりに常時身体能力に上昇補正がかかるという効果のスキルだ。
武器や装備を自由自在に生み出せる〖武装展開〗。
武装に魔法を付与して威力を引き上げ、相手によっては弱点をつけるようになる〖属性付与〗。
そして今回使った〖連撃〗とパッシブの〖物理特化〗。
魔法が使えない代わりに物理に特化していて、さらに攻撃すればするほど強くなっていく近接特化型アタッカー。
それがルミナだ。
「勝てない……」
魔力を使い切って完全に勝ち目がなくなって。
項垂れる女子生徒に対してルミナは静かに告げた。
「他人の邪魔をしたところであんたが強くなるわけじゃないわよ」
「……」
「でもまあ……あんたが本当に強くなりたくて正面からあたしに教えを頼んでくるんだったら。
その時はちゃんと教えてあげるわよ、強くなり方」
そう告げてから、ルミナは背後を見る。
先ほど吹き飛ばした二人がよろめきながら復帰してきたところだった。
「ルミナさん、聞いてくれっ……!」
「俺たちは貴方のためを思って動いているんです!」
「あ?」
ルミナは額に青筋を浮かべそうになるが必死にこらえる。
「リヒトはルミナさんに相応しくない! 不釣り合いなんですよ!」
「だってリヒトは落ちこぼれで、それに対して貴方は学園ランキング2位だ!」
「ルミナさんはリヒトなんかと同じステージに立つ必要は──」
「──あたしとリヒトが同じステージ? ざけんじゃないわよ!」
ルミナが口をはさむ。
「気づいてくれてよかった! そうです、ルミナさんはこんな低みに自ら降りてはいけないのです!」
生徒たちは希望に目を輝かせ……その希望はすぐに打ち砕かれた。
「リヒトのほうがあたしなんかより何倍も何十倍も何百倍も上にいるわよ! だからあたしは少しでも追いつきたくて、あいつの役に立ちたくて今ここに立ってんのよ」
「「は?」」
生徒たちは呆ける。
何を言っているのか全く理解できない彼らに向かって、ルミナはハッキリと告げた。
「知ってるわよ、あんたたちあたしのことが好きなんでしょ? それであたしと仲のいいリヒトに嫉妬してそれっぽい理屈並べ立ててあたしから引きはがそうとして……そういうところが気に食わないのよ。
人のことをスペックだけで見て上っ面で判断して全く中身を見ようとしない。大事な友達を傷つけようとしてくる人にあたしが振り向くと本気で思ってるのが腹立たしいわ」
それは「あんたたちを好きになることは絶対にありえない」という意思表示の表れで。
心を粉々に砕かれた二人は、ルミナが何かするまでもなく戦意喪失してその場にへたり込んだ。
こうしてルミナも無事に勝利した。
「いきましょ、リヒト」
「ああ、魔物狩り再開だ」
リヒトとルミナは一息つく間もなく魔物討伐を再開する。
邪魔をしてくる者は倒した。
これで思う存分演習に集中できる。
……と言うにはもう一障害ありそうだった。
数刻後。
意識を取り戻したダグラスの取り巻きたちが焦ったような表情で話し込む。
「やっべぇぞ、どうする……?」
「ただでやられたなんてダグラス様に知られたら……俺たちがどうなるかわかったもんじゃねぇ」
「このままで終わるわけにはいかない……! 何か何か──」
三人は考え込む。
自分たちの失態を帳消しにできてかつダグラスに都合がいい打開策を。
そして思いついた。