第6話 俺の目標
放課後。
裏庭のベンチに並んで座るリヒトとルミナ。
リヒトはしばし考え込んでから、観念したように口を開いた。
「……やっぱりバレるか」
「さすがに昨日までのあんたと違いすぎるわよ。気づかないわけないじゃない。
……だから教えてくれないかしら?」
ルミナを危険に巻き込みたくないからバレたくはなかったが、バレたのはそれだけルミナがリヒトのことをよく見ていることの証明でもあり。
喜んでいいのか悩んだ方がいいのか複雑な気持ちを抱いたリヒトは、少し渋ったのちに口を開いた。
「……わかったよ。全部話す。俺に何があったのか──」
そして、伝えた。
自身に何があったのか。
リヒトしか知らないこの世界の真実を。
「──ってなわけだ」
「……そう。世界は邪神に支配されていて、負けたあんたは回帰してきた……ね。信じるわ」
ルミナは信じたくないけど信じるしかないといった表情で呟いた。
「えらくあっさり信じるんだな」
「あんたが大事な話をする時にふざけて嘘をつくような奴じゃないって知ってるもの」
リヒトは少し驚くが、理由を聞いて納得した。
「それであんたはこれからどうするのよ?」
「邪神討伐に向けて修行しながら仲間を集める」
「そう」
リヒトもルミナも、二人とも考え込む。
沈黙が場を制す中、リヒトは邪神の権能を解析した。
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【禍神】
自身に対して負の感情を抱いている者にダメージを与える。
負の感情が一定値を超えた者は問答無用で確殺できる。
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邪神の権能【禍神】、【悪神の加護】。
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【悪神の加護】
自身に対して負の感情を抱いている者からの攻撃を自動防御する。負の感情が一定値を超えた者からの攻撃は完全に無効化される。
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(負の感情で動く限り、この二つの権能を突破する術がない。邪神に勝つことは絶対に不可能だ)
一週目で一緒に戦った仲間たち。
彼らは『復讐』という強いきっかけがあったから神殺しを成せるまで強くなれた。
逆に言えば、『復讐』というきっかけがないと強くなれないということだ。
(彼らは大事な仲間だ。だからこそ大切な人を失ってまで強くなってほしくない。今度こそ幸せに暮らしてほしい)
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【悪意の権化】
自身に負属性を追加し、ステータスを大幅に引き上げる。負属性以外の相手に特攻を得る。
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加えて【悪意の権化】。
負の感情で動けば【禍神】と【悪神の加護】で完封され、負の感情を抱かなくても【悪意の権化】で不利になる。
(だから、負の感情と対を成す強い正の感情──どんな悪意にも負けない勇気や正義感で動く人間を仲間にしなければならない)
そう結論を導き出した時、リヒトの前に立ったルミナが意を決した表情で話しを切り出した。
「邪神という強大な敵を相手に仲間が欲しいんでしょ? だったらあたしがなってやるわ」
「ルミナ!?」
ルミナから告げられた予想外の提案にリヒトは取り乱す。
「俺はルミナを守りたくて回帰してきたんだ! 危険な目に合わせるわけには──」
「見くびんじゃないわよ」
ルミナの凛とした声が響く。
覚悟を決めた、強い決意のこもった声だった。
リヒトは思わず押し黙ってしまう。
「あたしは妹を殺された。それで──あたしみたいに誰かを失う悲しみを味わう人が出てほしくないから討伐者を目指した」
ルミナは端的に語る。
彼女の原点を。
「あんたが止めても、あたしの目標は変わらない。討伐局に入って人を助ける。邪神がいる限りこの世から混沌が消えないなら、あたしが邪神を倒すまでよ」
「……」
リヒトは目を見開いて驚いてから。
──ハッとしたように自身の頬を叩いた。
(馬鹿なことを言うなよ俺! ルミナが心優しい真っすぐな人間だってのは、俺が一ッ番! 誰よりも知ってんだろうが!!!)
リヒトは真剣な表情でルミナに向きなおると。
「すまなかった、ルミナ。邪神を討伐するために力を貸してくれ」
リヒトは精一杯頭を下げてから、ルミナに手を差し出す。
「もちろんよ。……力になれて嬉しいわ」
ルミナは少し恥ずかしそうにそっぽを向きながら、リヒトの手を取った。
◇◇◇◇
日が沈みかけた夕刻。
王都の外れ、とある民家の前。
リヒトは緊張した様子で立っていた。
(……再び会えることになるとは思わなかった。父さん、母さん──)
リヒトはごくりとつばを飲み込んでから、実家の扉を開いた。
「た、ただいま」
声をかけると奥から音がし、すぐにこちらへ向かってくる。
二人の姿が視界に映った。
「おかえりなさい、リヒト」
「おかえり。珍しいね、長期休暇でもないのに帰ってくるなんて」
「父さん、母さん……!」
リヒトは思わず涙が出そうになるのをこらえて告げる。
「……二人の顔が見たくて」
「私もリヒトの顔を見れて嬉しいよ」
「ちょうど夕飯だったんだ。リヒトも食べていきなさい」
優しそうに微笑む両親。
リヒトは連れられるままに食卓へ移動した。
どうやら夕食はシチューのようだ。
食欲をそそるおいしそうな匂いが部屋中に漂っている。
母が皿に盛って出すと、リヒトはすぐに食べ始めた。
「うまい……! 最高だよ、母さん」
「ありがとうね」
懐かしいおふくろの味にリヒトが感動していると、父が申し訳なさそうに口を開いた。
「リヒト。どうにかスキルや魔法、魔力を後天的に手に入れる方法がないか探しているんだけど、まだ何も手掛かりを掴めていないんだ。すまない……」
「力になってあげられなくてごめんなさいね……」
食べ終わったリヒトはフォークを置く。
「俺のために奔走してくれて本当にありがとう。とても嬉しいよ。もう大丈夫だから二人とも気を落とさないで」
最大限の感謝を伝えながら両親を励ました。
「強くなり方は知ってるから。……だから本当に大丈夫だよ」
両親はリヒトの様子にびっくりしてから、安心したように笑った。
「……うん、何があったのかは知らないけど大丈夫そうなのは間違いないね。覚悟を決めた男の顔だ」
「私たちは何があってもあなたを応援してる。リヒトなら絶対に立派な討伐者になれるって信じてるよ!」
「ありがとう、父さん、母さん。それじゃ、俺は学園に戻るよ」
リヒトは満足げに笑ってから別れを告げ、家を後にする。
その帰り道。
「本当に……本当によかった」
リヒトは笑って嬉し涙をぬぐう。
それから改めて決意を宿した。
(待ってろよ、邪神アンラ・マンユ!)
もう絶対に大切な人たちは殺させない。
邪神の思い通りに歴史を進ませない。
(どんな苦境だろうが全部乗り越えて、必ず俺がお前を討ち倒す。今度こそ幸せな未来をつかみ取ってやる!)
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