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第2-14話 反発、そして

「魔王を仲間に引き入れるだと? 黙って聞いてりゃふざけたことぬかしやがって!」


 ……とても強力的とは思えない態度だった。

 ジャックの様相にリヒトは警戒を強める。


「……ジャック、話はまだ途中だ」

「グレイ様! こんな世迷言に惑わされないでください!」


 宥めようとするグレイをジャックは制す。

 激情に囚われた様子でリヒトに食って掛かった。


「魔族と和解して協力する!? ふざけるのも大概にしろよ! そんなことできるわけねぇだろうが!」


 ジャックの表情と声音は、できるわけがないというより「したくない」と叫んでいるようだった。

 その理由はすぐに明らかとなる。


「ジャック、お前が家族を魔族に殺されたことは知っている。これは絶対的な事実で、変えられない過去だ。怒りと復讐心も理解できる。

 ……だが、もしリヒトの話が本当なら…………邪神という世界の敵が存在するのなら、私たちは争っているわけにはいかないんだ。それこそ邪神たちの狙いなのだから」


 人族と魔族の戦争は根深い。

 元をたどれば約二千年もの歴史を遡ることになる。


(想定はできていた。人魔戦争が千年以上続いている今、魔族との協力を拒まれる可能性が高いなんてことは容易に想像できた)


 魔国の平穏のために人類を滅ぼすしかない魔族。

 恨み、怒り、恐怖、悲しみ。様々な感情を抱き、自国の安全と平和のために魔族を滅ぼすしかない人族。

 お互いがそう認識している現状では、人族と魔族の協力などお互いに受け入れがたいだろう。

 特に魔族によって大切な人を殺されたジャックのようなケースではそれが顕著に表れる。


「……残念です、グレイ様」


 グレイの言葉を呑み込めなかったジャックが、握った拳を震わせながら口を開く。

 もはや協力は限りなく絶望に近い気配が漂っていた。


「グレイ様は常に冷静で観察眼と判断力に長けた御方、だった」


 ジャックは怒りを隠すことなくリヒトを睨みつける。



「俺だけ知ってる世界の真実だァ? ハッ、んな都合のいい話があるわけねぇ! この陰謀論者が!!!

 ……よくもグレイ様をたぶらかしやがったな。覚悟しとけよ、リヒト。テメェの目的は達成させねぇし、グレイ様は俺が正気に戻してやる!」

「おい、ジャック!」



 敵意と殺意を隠そうとしないジャックの態度をグレイは咎めようとするが、ジャックはその言葉を受け入れることなく忽然とその場から姿を消した。


「リヒト……」

「心配していただかなくても大丈夫です、グレイ様。俺の話が受け入れられないことは覚悟できていましたから。

 まずは精霊王と接触し協力を得る。元デミウルゴスの補佐で世界の管理を担っている精霊王からの説明という客観的で反論のしようがない証拠を出してから……そこから話し合って信頼関係を築いて認めてもらいます」


 リヒトはジャックを味方につけることを諦めない。


 だって──



「──だってジャックさんは討伐局(ここ)にいる。彼がこの国の民を思う気持ちと優しさは本物なのでしょう?」



 リヒトが問うと、グレイは強い意志を宿した瞳で即答した。


「ああ、その通りだ。だからこそリヒト、彼の協力を得てくれ。そのための手伝いなら私たちは惜しまない」


 グレイの言葉に他の上官たちも続く。


「ええ、当然です。国の、民の未来を明るいものにするのが我々の務めですから。全うするつもりこそあれど、放棄するつもりはありませんよ」


 ウィルが。


「……世界の敵だとか邪神だとか話のスケールが大きすぎて正直ついていけてねぇけどよ、友達(ダチ)を助けたい。この気持ちに嘘偽りはねぇ!」


 ダイナーが。


「ん。困ってる友達を助けるのも、殴り合うの(バトル)(おんな)じくらい大事なの!」


 フレアが。


「この話を私にも聞かせたということは、私の情報通信で人魔戦争を有利に進めつつ映像保存・出力能力でハイエンドたちの存在を物理的証拠として記録したいのでしょう? 精霊王の証言と組み合わせると絶対的な事実を示す証拠となりますから。

 当然協力させていただきます。お任せください」


 アネモアが。


「邪神とその手下のハイエンド。そんな存在と戦うとなれば、ただでは済まないのは日の目を見るより明らかでしょう。

 だからこそ僕たち医師がいるのです。絶対に死なせませんのでご安心ください!」


 Dr.カトゥーが。


 皆がリヒトに協力を申し出る。

 リヒトは最後にロゼに向き合った。



「改めて頼む。邪神を討つために協力してくれ」

「いいぜ! 一緒にやっか、神殺し」



 ロゼは迷うことなく差し出されたリヒトの手を取った。



「言っただろ、オレは神になるって。世界の敵が邪神ってんなら、なおさら都合がいい。成ってやるよ、正真正銘本当の神にな」



 邪神討伐のために、魔王を仲間に引き入れる。

 そのために討伐局の協力を得る。


 リヒトの目標は概ね達成できた。

 後はジャックを味方にするだけだ。

 こちらは精霊王と接触するまではひとまず保留にしておく。


 リヒトは真剣な表情で上官たちに告げた。


「これから邪神討伐に向けた具体的な今後の流れを説明します」


 邪神、そしてハイエンド。

 彼らの性格や能力、手札を詳細に説明する。

 そこから考えられる今後の向こうの出方、それに対するこちらの対応を伝えた。


「人魔戦争で戦うことになるであろうハイエンドの一人、呪福(ジョウフー)。彼女は冷静で狡猾、そして慎重な性格です。魔王城の結界を見て、今回のイレギュラーはこれまでとは比べ物にならない特異的な存在……そしてイレギュラーの正体は人族側だと判断するでしょう。

 だから下手に攻めず、入念に準備を進めながら俺たちが仕掛けるまで待つはずです」


 準備内容は一週目知識で推測できる。

 その中でも最も厄介なのが──


「先ほどお伝えした通り、呪福(ジョウフー)はとても用心深い性格です。本来は西方の小国群の管理を担当しているサディスを念のため呼び戻す可能性が非常に高いでしょう。

 サディスは呪福(ジョウフー)よりもはるかに強いです。今の俺たちが束になってかかっても、十秒もてばいい方といったところでしょうか。以上を踏まえて、魔族領に攻め込むのは今から二週間後です」


 その期間は奇しくも回帰から学園襲撃事件までと同じ期間だった。



「二週間でみっちり修行し、サディスが来る前に呪福(ジョウフー)を倒す。そして、魔王を味方に引き入れる。それが人魔戦争における俺たちの勝利条件です」






◇◇◇◇



 世界の真実とこれからの行動方針を伝えている間に、すっかり日差しは沈んで夜の闇が訪れていた。

 そんな中、リヒトとルミナは帰路につく。


 討伐局にも局員用の寮はあるが、ここ最近は忙しくて中々家に帰れていなかった。

 これからさらに忙しくなるから、今のうちに家族の顔を見ておきたい。

 それが理由で二人はこうして家まで帰っているというわけだ。


 ちなみにリヒトとルミナは幼馴染。

 故に家も近所だ。

 久しぶりの二人きりの時間に、二人とも内心でどぎまぎしながら歩く。


「……ジャックが味方についてくれるといいわね」

「だな。証拠(精霊王)は大丈夫だろうが、問題なのはジャックがそれを受け入れられるかだ」

「あの様子じゃ受け入れて飲み込むまで時間かかりそうね」


 情報管理を徹底するために「邪神」「ハイエンド」といった直接的な表現を避けながら当たり障りのない会話をする。

 しばらくして、ルミナはふと尋ねた。


「リヒトってさ、目標を達成したその“後”はどうするの?」


 目標を達成、すなわち邪神を倒した後の話だ。

 リヒトは少し考えてから、はぐらかすように答えた。


「元凶を倒しても、すぐに世の中の治安が良くなるわけじゃない。討伐者を続けるのは変わらないだろうな」


 リヒトのこの発言は紛れもない本心だ。

 だが、すべてを話したわけではない。


(もう一つの目標は──“夢”は、……もうしばらく内緒だな)


「逆にルミナは何かあるのか? したいこととか、夢とか」

「あたしも討伐者を続けるのはリヒトと一緒ね。やりたいこと……夢か……」


 ルミナはしばらく考え込んでから。

 恥ずかしそうにおずおずと口を開いた。


「……その……お嫁さんになりたい………………トの……それが夢……」


 ルミナは真っ赤になった顔を隠すように両手で覆ってそっぽを向く。

 最後のほうは尻すぼみになってよく聞こえなかったが、それも含めてルミナは可愛らしすぎた。


 思わずリヒトまでドキドキしてしまう。

 恥ずかしくて目を逸らしたいのに、釘付けになってしまってルミナから離せない。

 それほどまでに魅力的だった。


 普段はツンの部分が強くてデレるのが苦手なルミナ。

 一週目ではずっと戦いに身を置いて恋愛経験なんてしてる暇がなかったリヒト。

 二人ともそれはそれは初心だった。


 突如訪れた甘酸っぱいひと時の時間。

 が、それは長くは続かなかった。




「──ぁ、ぇ……?」


 ──ルミナの胸から銀の刃が生えていた。


 ルミナはわけがわからないといった表情のまま口から血を零す。

 リヒトは遅れてルミナが刀で刺されたのだと気づいた。


「シッ」


 即座に犯人を蹴り飛ばす。

 ルミナの身体に刺さっていた刀ごと犯人の姿が消えた。


「ルミナ! 大丈夫か!?」

「奇跡的に身体が反射で動いて……心臓に直撃するのは避けれたけど……」


 ルミナは苦しそうに吐血する。

 即死じゃなく、放置できないほどの重体であるもののすぐに死ぬほどではなかったのが不幸中の幸いだ。

 Dr.カトゥーの技術ならばまだ治せる。


「……守護結界。少しだけ待っててくれ、ルミナ。すぐに決着をつける」


 ルミナを地面に寝かし、結界で囲って安全を確保する。

 傷口を結界で押さえて出血を抑えるのも忘れない。


 立ち上がったリヒトはアロンダイトを引き抜き、背後から迫っていた刃を弾いた。


「何のつもりだ? ジャック」


 リヒトは静かに、されど怒気を隠すことなく告げる。

 犯人は──ジャックはその姿をあらわにした。



「世界の真実などとくだらない陰謀論をのたまい挙句の果てに魔族との協力を提案したテメェを、俺は人類の裏切り者と判断した。この非国民め!

 王国の平和のために人族の敵を討伐する。それが俺たち討伐局の責務だ。リヒト、テメェ()を排除する。この国の未来のために!」

「ルミナを殺そうとしたこと覚悟はできてるんだろうな? 容赦してもらえると思うなよ、ジャック」



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いつも読んでくださりありがとうございます!
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また、peepにて拙作『不知火の炎鳥転生』がリリースされました!!!

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超絶面白く仕上げているので、ぜひ読んでみてください! 青文字をタップするとすぐに読めます!
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