第2-13話 俺だけ知ってる世界の真実
討伐局内、会議室にて。
円卓に上官たちが集まっていた。
リヒトの要請を受けたグレイの命令で緊急会議が開かれる。
上官たちは突然の会議に何か重大なことがあったのか? と真剣な表情をしていた。
「緊急会議の内容についてだが、リヒトから重要な話があるそうだ。私もまだ詳細は聞いていないが、間違いなく常識が覆ると確信している。心して聞いてほしい」
グレイはそう前置きしてからリヒトに発言権を渡す。
(ここでミスれば討伐局の協力を得るのは難しくなる。絶対に成功させないといけない……!)
リヒトは少し緊張した様子で話し始めた。
「この度はお集まりいただきありがとうございます。
グレイ様以外は知らないでしょうが、俺はスキルも魔法も持っていません。魔力量も常人の平均よりはるかに低く、ほとんどないと言っても過言ではありませんでした」
「「「「「ッ!?」」」」」
衝撃のカミングアウトに上官たちの誰もが驚く。
無理もない。
皆が少なからずともリヒトの強さを見ていたのだから。
「スキルも魔法も持っていない!? じゃあずっと使ってたあの結界はなんなんだよ!?」
「何らかの魔道具によるものでしょうか……?」
「うちと戦ってた時のパワーアップ具合は明らかに何かのスキルみたいな感じだったよ!」
「魔力量が少ないってのもホントなのか!? それでオレらと戦い続けてたなんてありえねぇ……!」
告げられた事実が予想外過ぎて困惑している上官たちに、グレイは補足情報を告げる。
「学園での記録を見たが、確かにリヒトの言った通りだった」
「それを裏付けるために、計測器の魔道具をすでに用意してもらっています」
リヒトは魔道具を使用する。
「スキルなし」「魔法適正なし」という結果が出た。
それを目の当たりにした誰もが愕然とする。
「…………マジか……」
「わーお……」
「……魔力量はどうなんだ?」
おずおずとロゼが尋ねる。
リヒトは答えた。
「先ほどの手合わせで、俺のほうが魔力の操作精度が甘いのにロゼに押し勝てた理由。その答えでもありますが、この世界には魔力の質と量を増強させる方法が存在します」
「……お前の魔力の質と量がオレより上だったから負けたってことか?」
リヒトは頷く。
増強方法を開示してから、魔力測定器の魔道具を用いて実際に示して見せた。
「まずはこれが今の数値です。次にこれが魔力増強法を行った後の数値です」
「スゲェ……! ほんのちょっとだけど確かに増えてる……! 魔力って増やせんだな……」
「精霊にも確認しましたが、リヒトさんは噓を言っていないそうです」
「それ以前に魔力の量すごくない? うちより上じゃん!」
「ずっと増強トレーニングを続けていたのか。そりゃ強ぇわけだ」
そこでこれまで静かに聞いていたグレイが口を開く。
「魔力を増やす方法が確かに存在することはわかった。だが、これほどの情報がなぜ誰にも知られていないんだ? 難易度が高いとはいえ、魔力譲渡ができるレベルで行えるのなら誰かしらはたどり着きそうなものだが……」
「それにまだ結界やフレアさんとの戦いで見せたパワーアップ現象の正体は不明なままです」
ウィルも疑問を口にする。
(皆、鋭いな。第一線で戦ってきただけある)
リヒトは満を持して伝えた。
「ここからが本題です。内容は“この世界の真実”について。この世界から魔力の増強方法を忘れさせ、世界中で戦争が起こるように仕向けた犯人を教えます。
ただし、この先は他言無用でお願いします。“敵”は〖洗脳支配〗という強力なスキルや諜報に特化したスキルを所持しています。A級以下では〖洗脳支配〗を防げないので、情報共有は上官内だけに留めておきたい」
リヒトの言葉に皆は身構える。
”世界の真実”、そして“敵”……話のスケールが大きすぎてついていくのがやっとだ。
皆一様にそんな表情をしていた。
「まずこの世界の暦についてですが、皆さんご存じの通りこの世界を創った創造神デミウルゴスの名前を冠してデミウルゴス暦となっております。この国の公的資料にもデミウルゴスとの接触記録が残っており、神は空想上の存在ではなく実在することが確定しています」
「ってことは……この世界を管理できる立場にいるデミウルゴスが犯人ってことか……?」
ダイナーが尋ねる。
意外と的を得た質問だった。
「ある意味一部正しいといったところでしょうか。創造神デミウルゴスはすでに殺されて傀儡になっています」
告げられた衝撃の事実に全員が絶句する。
その中でグレイだけはすぐに平静を取り戻して思考し始めた。
それを尻目に、リヒトはデミウルゴスを殺した神の名を告げる。
「──邪神アンラ・マンユ。異世界からの侵略者で、現在この世界を裏から操っている存在です」
仰々しい名前に皆が黙る中、いち早くグレイが口を開いた。
「ウィル、精霊はなんと言っている?」
「……変わらず嘘はついていないと言っています」
「そうか。なら二択に絞られた。リヒトの言っていることは真実か、妄想を真実だと心の底から信じているだけか。
一旦前者が真と仮定して話を進めよう。リヒト、君はなぜ世界の真実について知っている? その情報をどうやって知り得た?」
相変わらずグレイは話が早くて頼りになる。
だからこそ味方になってくれればこれ以上ないほどにありがたい。
「神は“権能”というスキルや魔法の完全上位互換にあたる能力を有しています。そして人間などの場合は、神に相当する存在まで格が上がった際に権能を取得します。
俺が邪神のことを知っている理由は、権能を持っていてすでに一度邪神と戦っているからです」
リヒトはかいつまんで説明した。
一週目のこと、デミウルゴスを殺して権能を得たこと、邪神に負けて権能の力で回帰したこと、回帰してから今に至るまでのこと、覚醒薬のこと、邪神討伐の目標等々。
すべてを聞き終えた一同は皆一様に押し黙る。
重苦しい雰囲気が会議室を支配していた。
今まで培ってきた常識を覆しかねない新事実だ。
そう簡単には信じられないだろう。
「ウィルさんに頼みがあります。今の話を精霊王に伝えていただけませんか?」
「精霊王様に……!? いくらエルフが精霊と交信できるとはいえ、精霊王様との交信は前例がほぼ存在しません。申し訳ありませんが力にはなれないかと」
「いえ、ウィルさんの精霊に伝えていただければ精霊ネットワークを介して精霊王に届くはずです」
「……わかりました。やれるだけやってみます」
精霊王は文字通り精霊たちの王、そしてデミウルゴスの補佐だった者。
リヒトは一週目で精霊王に協力してもらったことがあるから、彼の性格や目的は知っている。
自分たちの存在と目的が伝われば、必ず協力してもらえるはずだ。
そこまでまとめたところで、グレイが口を開いた。
「精霊王からの協力があれば、リヒトの話を信じるには充分な根拠となる。が、私個人の考えで言えばすでにリヒトの話は正しいと確信しているというのが正直なところだ」
その言葉にリヒトは目を見開いた。
まさかこんなにあっさり信じてもらえるとは思ってもいなかった、そんな表情だ。
目的が早くも達成できそうな気配にリヒトの心はざわめき立つ。
「……おかしいと、思っていたんだ」
グレイはそう前置きしてから語り始めた。
ずっと昔から抱いていた疑問を。
「この世界はいくらなんでも悪意に満ちあふれすぎている。
どれだけ犯罪者を捕まえても王国の治安が一向に良くならず、新しい犯罪者がどこからともなく現れ続けているのはなぜだ?
覚醒薬についても謎が多い。討伐局を含めた国の重要機関数ヶ所で研究しているにもかかわらず一向に正体がわからない。流通に関わっている犯罪組織を潰しても潰してもどこかから新しく流される。覚醒薬を作っている存在は誰なのか? その目的はなんだ?
極めつけは魔族との戦争だ。正式な始まりはわかっていないが、最低でも千年以上前から戦争しているのは間違いない。お互いがお互いを本気で滅ぼそうとしているのに、なぜ千年以上も戦争が続いている? なぜお互いに滅んでいない?
王国と魔国が争い続けるように裏で糸を引いている存在が……途轍もなく邪悪な“何か”がこの世界にいるんじゃないか?
……これがずっと私が感じていた疑問だ。リヒトの話が本当なら、私の疑問にすべて説明がつく」
グレイはそこまで話してから、リヒトに問いかけた。
「討伐局に加入した上で私たちにこの話をしたということは、私たちに協力してほしいことがあるのだろう? 何が望みなんだ?」
「本当に話が早いですね。邪神討伐メンバーとして、魔王を仲間に引き入れたい。そのためには討伐局の協力が必要不可欠です」
「待てよオイ」
リヒトがそう告げた、その時だった。
これまでずっと黙っていたジャックが割って入ってきた。
「魔王を仲間に引き入れるだと? 黙って聞いてりゃふざけたことぬかしやがって!」
……とても強力的とは思えない態度だった。