第2-11話 三つ巴の戦い
「三つ巴バトルか! いいぜ!」
「信頼を得るには戦って勝つのが手っ取り早い。来るなら容赦しませんよ」
「リヒトくんはめちゃヤバだしロゼちゃんは見違えるほど強くなってる。うん、久々に本気出せるかも!」
リヒトVSロゼの手合わせは、討伐局ツートップのフレアが乱入してきたことで三つ巴の戦いへと変わった。
三者同時に動き出す。
(ポジション的には挟まれてるうちが不利! だからブッ飛ばす!)
フレアは〖爆炎爆裂拳〗を発動する。
効果は、爆炎魔法を自身に纏いさらにその威力を引き上げるというもの。
「ど~ん!」
炎の拳を振り下ろす。
地面を殴りつけた瞬間に爆発が起き、炎と火花が周囲に飛散した。
(目潰し、からの爆裂火球!)
通常の爆炎魔法を使用し、高火力の火球をリヒトに投げつける。
リヒトが結界で防いでいる間に、フレアはロゼへ対処する。
「ぼん!」
ロゼの眼前で火球を爆発させて視界を潰す。
ロゼの蹴りをしゃがんで回避し、地面を爆発させる。
「くッ!」
躱しようのない範囲攻撃でロゼにダメージを与えつつ隙を作り、渾身の拳を叩き込んだ。
爆発で大ダメージを負いながらロゼは吹き飛んでいく。
(まずはワンパンチ! で、後ろ気配!)
フレアは背後から斬りかかってきたリヒトの攻撃を見ずに躱す。
足元を小爆発させ、その推進力を利用して高速移動しリヒトの背後へ回りこんだ。
(〖爆炎爆裂拳〗を応用した移動。元が身体能力の優れた獣人なのもあってかなり速いな)
リヒトは剣の腹でフレアの拳を受ける。
直撃は免れたが、威力を殺すことはできず後ろへ吹き飛ばされる。
その先でロゼが構えていた。
「ロゼちゃん、パス!」
「オーケー。行くぜ、相棒!」
「そう簡単に喰らってやるかよ」
リヒトは魔剣で地面を叩いて反動で空中に跳ぶ。
結界を足場にした空中機動で爆穿を躱し、真上からロゼを攻める。
躱されたが織り込み済みだ。
リヒトは流れるように連撃を仕掛ける。
「チッ!」
素手と剣では剣のほうがリーチが長い。
リヒトは徹底して自分のリーチを押し付ける。
相手の攻撃が届かずこちらの剣だけが届く間合いを維持し続ける。
さらにそれだけではなく、リヒトはロゼの動きを読んで攻撃する。
時に躱し、時にカウンターを放ち、時にロゼの動きを誘導し躱しようのない攻撃を叩き込む。
一週目で培った剣術はロゼの武術を上回り、結果としてロゼは攻めあぐねていた。
何度も打撃を喰らってダメージが蓄積していく。
そこへフレアが攻撃を放つ!
「二人まとめて消し飛べ! 炎拳砲!」
拳から放たれた炎の砲弾が豪速で迫ってきた。
「一時停戦だ、相棒!」
「乗った!」
リヒトは拳に結界をまとってパンチを放つ。
ロゼは壊滅を放つ。
協力攻撃で炎拳砲を破った瞬間、その向こうからフレアが突撃してきた。
「ぼぼんっ!」
リヒトとロゼが同時に爆発に呑まれる。
一泊遅らされた二人の攻撃をフレアはしゃがんで躱し、反撃の回し蹴りでまとめて蹴り飛ばした。
((かなりのダメージだ! 攻撃力が初撃より明らかに上がっている……!))
リヒトとロゼは瞬時に気づいた。
(解析! ……〖爆熱機関〗。体内で炎を燃やし、身体能力を継続的に上昇させる。が、機関を動かし続ければ続けるほど熱が発生して身体に負担がかかるという効果か)
見ればフレアの身体から蒸気が発されていた。
「アツくなってきたー!」
爆発と同時にフレアの姿が消える。
(ッ! 速い!)
リヒトは吹き飛ばされた勢いを利用してバックステップしながらフレアの連続攻撃を往なす。
目の前の空間が、地面が何度も爆発する。
「守護結界!」
「破れるまで殴るね!」
フレアは宣言通り連続パンチを放つ。
結界をブチ破ってリヒトに攻撃しようとしたが、そのタイミングで横からロゼが攻めてきた。
フレアとロゼの拳が激突する。
「〖爆炎爆裂拳〗!」
「爆穿!」
両者同時に爆発で大ダメージを負う。
フレアの攻撃力とスピードはすさまじいが、耐久力はそこまで高いわけではないらしい。
爆穿を喰らって大きく隙を晒していた。
((狙うなら今だ!))
リヒトは結界でフレアを拘束する。
そこへロゼが連撃を叩き込んだ。
「爆穿──十連!」
「ッ」
爆発の連続で結界が砕けてフレアは吹き飛んでいく。
(気絶しねぇのがおかしいくらいダメージを与えた。当分は動きもできねぇはずだ)
ロゼは今度こそリヒトを仕留めるべく走り出す。
(まずは武器の破壊だ。爆穿の届かない間合いを徹底される以上、武器を壊してこっちの間合いを押しつけるしかねぇ!)
拳と魔剣がぶつかった瞬間に、壊滅で魔剣を覆う結界を破壊する。
続けて魔剣に流れているリヒトの魔力に自身の魔力を流し込み、爆穿で魔剣を内側から攻撃する。
が──
「硬ぇな……!」
魔剣にはヒビ一つ入らなかった。
ダメージを与えること自体はできているが、耐久値を大きく削るには至っていないという感じだ。
(体感だと、あの剣を壊すには今のをもう十数回やらないとダメそうだ)
「……なら、壊れるまで粘って粘って殴り続けるだけだ!」
「残念ながら魔剣アロンダイトには自己修復機能が備わっている。そう簡単には壊させないぞ」
リヒトは攻撃の合間に結界による防御を挟み、魔剣の損壊ダメージが回復量を上回らないように立ち回る。
寸分の狂いもない正確な動きで、一方的にダメージを与えていく。
ロゼは持ち前の不屈さで耐え凌ぐ。
〖リベンジャー〗の強化が最大近くまで差しかかった時、大爆発が起きた。
「殴られまくってめっちゃ痛い! だから楽しい! もっと殴り合お!」
傷が全快したフレアが立っていた。
(〖炎属性吸収〗、炎属性のスキルや魔法を受けた際に回復するスキル。自分の爆炎魔法や〖爆炎爆裂拳〗の余波で回復しながら戦えるのか!)
フレアの強さの理由がまた一つ判明する。
リヒトがそれを理解するのと同時に、フレアは拳を引き絞った。
「連続攻撃いっくよー!」
フレアは炎拳砲を放ちまくる。
気の抜けそうなセリフとテンションだが、それとは裏腹に迫ってくる炎の一つ一つがとてつもない熱量を放っていた。
〖爆熱機関〗で強化された影響だろう。
リヒトとロゼは攻撃を中断して両サイドへ走り出した。
二方向から攻めればフレアの攻撃も甘くなる。
「……ってしてくるでしょ、君たちなら。だから仕掛けておいたんだよね、これを」
リヒトとロゼの足元が爆発する。
設置型の爆炎魔法だ。
ダメージを受けたことで行動は中断され、一瞬の遅延が生じた。
その隙にフレアは次の手を放つ。
「灼熱地獄!」
フレアから大量の炎が濁流のようにあふれ出す。
「壊滅!」
灼熱地獄は範囲攻撃故に壊滅ですべて消し去るのは難しい。
ロゼは人一人分のスペースだけ炎を消滅させながら突き進み、フレアに肉薄した。
「〖爆炎爆裂拳〗!」
「火力は高ぇが単調だな、フレア!」
フレアの拳を受け流す。
ロゼの背後で爆発が起き、熱が背中を焼く。
ロゼはくっついた状態から拳を放った。
「寸勁! 爆穿!」
「痛すぎて最高!」
フレアは喜びながらも内心で驚く。
(密着するような至近距離からのパンチなんて普通威力が出るわけない。防御貫通の爆穿ならともかく、寸勁ってやつでもダメージを受けたのは予想外だよ。たぶんこういう状態から高い威力を出すための技術なんだろうね。うん、すごい。
後ろからはリヒト君が来てる。このままじゃ挟撃で今度こそダウンさせられちゃうな~)
「というわけで緊急回避!」
足元で小爆発を起こし、その推進力を用いて宙を走る。
〖爆炎爆裂拳〗を応用した空中機動で二人から大きく距離をとった。
「今のうちに回復させてもらいますよっと!」
「なら決着をつけるか、ロゼ。そろそろ限界だろ?」
「……バレてるか。悔しいが今のオレの実力じゃフレアには勝てない。せめてお前にだけは勝つぜ、相棒!」
リヒトは袈裟斬りを放つ。
ロゼは軌道を読んで躱す。
すぐに反撃に出るが間に合わない。
これまでなら。
(普通に殴り合ってるだけじゃお前の技術には勝てない。だからオレはあえて最高速を見せずにここまで戦ってきた。
──すべてはこの時のために)
魔力による身体強化と〖リベンジャー〗による能力強化を乗せて。
ロゼは過去一番の速度でリヒトに肉薄する!
(緩急つけた一撃! 対応される前に倒す!)
リヒトがとっさに結界を張るより早く、ロゼの拳が鳩尾に直撃する。
「爆穿!」
リヒトは大ダメージで致命的な隙を晒してしまう。
──ことはなく、蹴りをロゼに叩き込んだ。
「ッ!?」
ロゼは驚愕する。
なぜ怯むことなく動けたのか?
その理由をリヒトは笑いながら告げた。
「気合いだよ。殴られながら殴るのはお前から学ばさせてもらった」
「……そうか。次は……負けねぇぞ……」
ロゼは悔しそうに笑い返しながら倒れる。
ウィルの魔法でロゼが場外に運び出されたのを見届けてから、リヒトはフレアに向き直った。
「タイマンといこうか、フレアさん」
「がはっ、ごほっ……ケホケホ……。ん!」
フレアは苦しそうに血反吐を吐いてから、それでも楽しそうに歓喜に満ちた表情で笑う。
全身から戦闘訓練室が高温になるほどの蒸気を発しながら立ち上がった。
「最っ高潮に、燃えてきたぜー!!!」