第2-9話 初事件対応を終えて
信念を示し、嫉妬の怠け者を討伐してみせたルミナ。
それを見届けたグレイの元に報告が入った。
「こちらアネモア。もう一人の首謀者であるホロストとの戦いも決着しました。ロゼとリヒトさんの勝利です」
「そうか」
グレイは嬉しそうに微笑む。
「残党の魔物たちですが、すでにクロムディア内部に侵入していた個体は殲滅済み。クロムディア周辺を取り囲んでいる個体も残り一割を切りました。フレア部隊の皆様に目立った負傷者は出ておらず魔物個体の中に高ランクの種族はいませんので、完全鎮圧まで時間はかからないかと」
「フレアたちにはくれぐれも油断しないようにだけ伝えてくれ。アネモアたち情報通信部隊は引き続きクロムディア周辺の監視と警戒を頼む」
「了!」
連絡を終えたグレイは、肩で息をしているルミナの元へ歩み寄る。
屈託のない表情で彼女を労った。
「よくやったな、ルミナ。君の信念はよく見せてもらった。討伐局に相応しい、素晴らしい信念だ。改めて言わせてもらおう。討伐局へようこそ」
「……ありがとうございます」
そこへ都市内の魔物を倒しきったダイナーとウィルがやって来た。
ウィルは優し気に微笑みながらパチパチと手を叩き、ダイナーは満面の笑みでグッと親指を立てる。
「お疲れ様です、ルミナさん」
「強ぇな、お前! お前みてーなのが入って来てくれて嬉しいぜ! よかったら今度手合わせしてくれよな!」
「ありがとうございます。手合わせはこちらとしても望むところです」
ふと、ルミナは胸の奥から心地いい温かさを感じる。
不思議に思っているとウィルが理由を教えてくれた。
「どうやらルミナさんは光の精霊に好かれたみたいですね」
「マジでか! 光の精霊ってあれだろ? 俺のこと見ても全ッッッく興味を示さねー手厳しい奴だろ? ソイツに認められるとかスゲーなオイ!」
心の底から驚いたダイナーの言う通り、光の精霊は他の精霊に比べてかなり厳しく人を見る。
誰かを好ましいと感じて近寄っていくことなど滅多にないのだ。
「光の精霊に好かれるとどうなるんですか?」
「エルフなら光の精霊魔法を使えるのですが、ヒューマンの場合だと特に恩恵はありません。
ただ、光の精霊は清らかで正しい……まさに“光”と呼ぶに相応しい心を持った人間にしか好意を見せませんから。人を知るという点ではある意味一番わかりやすいのかもしれませんね」
「ん? お、帰って来たぞ!」
ダイナーが指を指す。
気絶したロゼをおぶったリヒトが歩いてきた。
「大丈夫なのか? ロゼ」
「限界を超えまくって気絶しただけです。命に別状はありません」
「そっか。お前たちもスゲーな! さすがグレイ様に認められただけあるぜ!」
「ありがとうございます」
リヒトは端的に感謝を伝えてから、グレイに報告した。
「ホロストの討伐に成功しました。それから……なぜ俺をロゼのバディにしたのかなんとなくわかりましたよ」
「ロゼの表情を見ればわかる。いい影響を与えてくれたみたいだな。君にも改めて伝えよう。討伐局へようこそ」
「改めてこれからよろしくお願いいたします」
リヒトもまた、胸の内から暖かいものを感じる。
「これは……光の精霊か」
「おや、知っているんですか?」
「前にも精霊魔法使いに言われたことがあるんですよ」
一週目で共に邪神と戦った仲間にエルフがいた。
弓の権能を使っていた女性だ。
リヒトは彼女たちとの記憶を思い出して懐かしい気持ちに浸る。
その横で、ウィルもまた感慨深い想いに浸っていた。
(リヒトさんもルミナさんもすごい子だ。こんなにもたくさん光の精霊が集まっている人間は百七十五年の人生で一度も見たことがない。私の周りにいた光の精霊たちまで君たち二人のもとに行ってしまいました。
グレイさん、貴方の目は間違っていなかったみたいですね。この二人ならきっと、輝かしい未来を作れるでしょう)
クロムディア襲撃事件。
その主犯格であるジェラスとホロストを討伐してからは特に問題が起きることもなく、事件は無事に解決した。
リヒトたちしか知らない世界の真実を伝えて協力を得る。
そのためにグレイを始めとした上官たちに認められて信用を得る。
今回の事件対応を通して二人は、グレイ、ウィル、ダイナー、ロゼに認められた。
残る上官はフレアとジャックの二人。
リヒトとルミナは、初事件対応にてこれ以上ない成果を上げることに成功したのだった。
幸先は順調だ。
◇◇◇◇
翌日。
リヒトとルミナは討伐局内の戦闘訓練室にて特訓をしていた。
「うっす! 対戦ありがとうございましたっ!」
「こちらこそありがとうございました」
ダイナーとルミナが互いに感謝を告げる。
二人の手合わせは、かろうじてルミナの勝利で終わった。
「強ぇー! 本気で戦ったのに勝てなかったぜ!」
「〖属性付与〗──爆炎は完全にあたしが負けてた。今度は火力勝負で正面から勝ってやるわよ!」
「また今度リベンジマッチを挑ませてもらうぜ!」
二人はリヒトの予想通りすぐに仲良くなっていた。
お互いガンガン攻めていく戦闘スタイルだから気が合ったのだろう。
それを横目にリヒトは、討伐局の戦闘員……ロゼの部下たちに戦闘指導する。
圧倒的な実力差でバッタバッタとなぎ倒していると、ウォーミングアップの運動を終えたロゼが戻ってきた。
「オレはもっともっと強くなりたい。手合わせしてくれ、相棒」
「受けて立つ。俺もお前とは手合わせしたかったんだ。本気で来い」
リヒトはロゼの提案を快く受ける。
(爆穿を知るいい機会だ)
こうしてリヒトは、ロゼと戦うことになったのだった。