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第2-7話 あたしの信念

氷の城壁(アイスランパート)


 ルミナとジェラスの戦いを見守りながら、グレイは氷結魔法を使う。

 破壊された城壁を分厚い氷で塞いだ。


 そのタイミングで討伐局バッチから情報通信部長の声が届いた。


「こちらアネモア。報告いたします」


 討伐局バッチの中には、アネモアが通信できるように極小サイズの魔物が入っているのだ。


「クロムディア襲撃事件の主犯格ですが、現在確認できているのは二名です。一名は現在ルミナさんが戦っているジェラス、もう一名は過去に何度か集団虐殺事件を起こして指名手配になっているホロスト。こちらは現在ロゼとリヒトさんが交戦中です」

「他にも仲間はいそうか?」

「可能性は否定しきれませんが、少なくともクロムディア周辺に知性のある正体不明の人物は確認できませんでした」

「この都市の住人の中に共犯者がいる可能性は?」

「ないとは言い切れませんね。ですので、すでにジャック様が避難所を中心として警戒と見張りをしておられます」


 主犯格への対応は問題ない。


「残る魔物たちは民間討伐者の方々と討伐局員で充分に対応可能です。すでに現時点で魔物の半数を殲滅できています」

「そうか。では、討伐局員への現状連絡と引き続き監視を頼む」

「承知いたしました。」


 報告を受け指示を出したグレイは、ルミナに問いかけた。



「なぜそこまでして強くなろうとするのか、なんのために戦っているのか? ルミナ、君の信念はなんだ?」




 ルミナは苦境に立たされても諦めようとはしない。

 冷静に現状を分析する。


(あんたのスキルはわかった。抜け道も思いついた)


 ルミナはもう一度〖魔装展開〗を使用する。

 手元にナイフが現れた。


「やっぱりね」


 それを投擲する。

 あっさり躱されたが、予想は確信に変わった。


 それだけで成果は充分だ。


(〖ゼロ・ワールド〗は一度見たスキルや魔法を使用不能にする。逆に言えば、スキルも魔法も一度は使えるってわけね。

 ……そして〖魔装展開〗や〖属性付与〗の場合、一度使用不能にされても別の種類なら問題なく使えるみたい)


 〖魔装展開〗で魔槍ウルスラグナは生み出せなかったのに、ナイフなら生み出せた。

 つまり〖魔装展開〗なら剣や斧など、〖属性付与〗なら爆炎などまだ見られていないものであれば使用できるということだ。


(それからもう一つ。〖ゼロ・ワールド〗であたしの〖物理特化〗が使用不能になった結果、魔法が使えるようになった)


 〖物理特化〗は魔法が使えなくなる代わりに身体能力を強化するパッシブスキルだ。

 それが効果を失った今、ルミナは魔法を使えるようになった。


(……とはいえ)


 ルミナはジェラスの攻撃を捌きながら思考を続ける。


 その様子にジェラスの攻撃は荒くなる。


「生意気な目をすんじゃねぇ! いい加減諦めろよ! 持たざる苦しみに絶望しろよ! 俺はその顔が見てぇんだっ!」

「うっさいわね。負ける気なんてさらさらないわよ!」

「クソ生意気なァ……! さっさと理解しろ、テメェが積み上げてきたもんは無駄だったんだよ!」


 ジェラスの攻撃を躱し、ルミナは勝ち筋を組み立てていく。


(今まで一度も魔法を使ったことのないあたしが、ぶっつけ本番であんたを倒せるほどの魔法を放てるとは思わない。それに中途半端に魔法を使えば〖魔法コピー〗されて不利になる。〖魔装展開〗や〖属性付与〗もなあなあで使えば〖ゼロ・ワールド〗で封じられるだけ。

 ……そこから導き出される結論は一つ。〖魔法コピー〗や〖ゼロ・ワールド〗を使われる前の、最初の一撃の連続で一気に畳みかける。それしかないわ)


 ジェラスの攻撃を往なしながらルミナは思考をまとめた。


 一方で、ジェラスはなぜか攻めあぐねている現状に怒りを感じていた。


「〖ゼロ・ワールド〗のデバフでテメェの身体能力は俺以下になった! はずなのになぜ倒せない!? 俺のほうが圧倒的有利だろうが!」

「あんたが有利よ。身体能力だけはね」


 これまでずっと修行してきたルミナにはわかる。

 ジェラスの動きはとても鍛錬を積んだとは思えないお粗末なものだった。


 学園襲撃事件の時の悪魔のほうがよっぽど強敵だったくらいだ。


 ルミナは攻撃の合間に軽く聞いてみる。


「もしもこの世界に魔力を増やす方法があったとしたらあんたはどうする?」

「ハッ、馬鹿馬鹿しい」


 ジェラスは鼻で笑う。


「そんな方法があるわけない。だから俺は弱者だったんだ。だから俺が強くなれなかったのは仕方のないことだったんだ」

「それでも強くなろうと努力を──」

「努力なんて無駄だ! この世界は生まれつきの才能で全てが決まる! 俺が弱かったのはこんな世界だったからだ! すべて世界が悪い! 俺は悪くないんだッ!」


 ジェラスはルミナの言葉を遮って叫ぶ。

 動きがさらに雑になっていく。


 もしもこの世界に魔力を増やす方法があったとしたら?

 その可能性をありえないと斬って捨てた……というよりは、その可能性を考えたくない認めたくない絶対にあってほしくないといった様相だった。



「よくわかったわ、あんたの本質がね」

「あ?」

「あんたは才能だとか能力だとか以前に、強くなりたいくせに努力しようとはせずそれでいて誰よりも凄い存在になれると信じて疑わない怠惰な人間。

 それがあんたよ」



 認めたくない図星をつかれたジェラスは一瞬動きを止める。


 ルミナは容赦なくジェラスを殴り抜いた。



「素晴らしい才能を持っているわけでもないのに……才能だけで言えばあんたよりも不遇だったのに、信念と努力だけで人類最強まで登り詰めた人間をあたしは知ってる。だからこそ断言できるわ。

 何も積み上げようとしなかったあんたに先はない。本当に頑張っている人は凄いのよ!」



 瓦礫の山の中から殺意が膨れ上がる。


 黒いオーラを放ちながらジェラスが現れる。


「うぜぇご高説どうもありがとう、クソ女。持たざる苦しみなんてもうどうでもいい。生まれてきたことを後悔するぐらい残酷に残虐にテメェをいたぶって殺してやる。その次はテメェの家族、その次はテメェの大事な仲間や友達。全員仲良く地獄に送ってやるよ」


 ジェラスの身体に怨念がまとわりつく。


「俺は覚醒薬によって“生霊”という種族になったんだ」


 黒い闇で覆われていく。

 すべての手札を使い切ったジェラスは高らかに叫んだ。



「味合わせてやるよ! 生きる怨念となった俺の素晴らしい力を!!!」



 ジェラスは腕を引き絞る。


 パンチを放ち、怨念の衝撃波を飛ばしてきた。


(弱点をつける〖属性付与〗──光はトドメの決定打として残しておきたい)


 ルミナは〖魔装展開〗を発動。

 レイピアを生み出す。


 さらに火力特化の〖属性付与〗──爆炎を発動。


 炎を纏ったレイピアで突きを放つ。


 衝撃波を相殺した。

 爆風が吹き荒れ、砂埃が舞う。


「〖ゼロ・ワールド〗!」

「〖魔装展開〗!」


 ジェラスがレイピアと〖属性付与〗──爆炎を封じている間に、ルミナは斧を生み出して投擲した。


「チッ」


 ジェラスが斧に対応している隙にルミナは雷魔法を発動する。


 魔法を使うのは人生初めてだったが、日々の魔力増強特訓で鍛えられた操作精度のおかげで暴発することはなかった。

 後はオリビアとの特訓で魔法を見ていたのも大きい。


 足全体に電流を流して速度を強化し、ジェラスの元へ突撃する。


「〖魔装展開〗──魔剣アロンダイト!」


 ルミナの手元にアロンダイトが現れる。

 実物を間近で見ていたからか、リヒトの使っている本物のアロンダイトと遜色ないものができた。


 そのタイミングで雷魔法が消失する。


「〖ゼロ・ワ──」

「甘いわよ!」


 ジェラスに肉薄し、アロンダイトを振るう。


 連撃を叩き込むことに成功した。


「ぐぅ……!」


 ダメージにはなったようだが、ジェラスを包む怨念の防御は突破できていない。


(一手で破れないのは想定済み。だからここから畳みかける!)


 脳裏に浮かぶのはオリビアの魔法。

 学園襲撃事件で彼女が放った巨大火球をイメージしながら爆炎魔法を使用する。


 規模も威力もオリビアには遠く及ばないが、それでもなんとか形にできた。


「喰らいなさい!」


 火球を掴んでジェラスに叩きつける。


 ジェラスは腕をクロスして防いだ。

 それがルミナの狙いだとも気づかず。


(今の魔法はダメージソースであると同時に次の手のためのデコイよ)


 爆炎魔法はなまじ見た目が派手なだけに注意を引きやすい。

 戦闘経験の浅いジェラスはまんまとルミナの思惑に乗せられてしまった。


(光属性に適性がある人間は極わずか。学園にも高度な光魔法を扱う者はいなかったから、見よう見まねで強力な魔法を再現するのは不可能)


 だから使うのは簡単に扱える初歩的な魔法だ。


「フラッシュ!」

「ッ!? 目がッ」


 ジェラスの眼前で閃光を発生させる。


 爆炎魔法に意識を向けていたジェラスの視界を潰すことに成功した。


 ジェラスは隙を晒している。

 ルミナは決定打となりえる〖属性付与〗──光を温存している。


(ここで決める!)


 〖魔装展開〗で棒を生み出す。


 長さも太さも重量も魔槍ウルスラグナとほぼ同等。

 威力がありなおかつ扱いやすい武器としてこの上ない。


 さらに〖属性付与〗──光を発動。

 ジェラスの弱点となる属性を棒に付与する。


(アロンダイトの攻撃も爆炎魔法もすべて同じ場所に命中させた。すべてはこの時のために!)


 ほんのわずかに……ジェラスが気づかないほど小さな亀裂が怨念装甲に入っている。


 そこを光属性の棒で殴りまくる。


 一点突破だ。

 亀裂を広げて怨念の鎧を突破し、本体に致命の一撃を与える。


「ぐギギッ! 〖ゼロ・ワールド〗……〖ゼロ・ワールド〗……! 〖ゼロ・ワールド〗ォォォオオオオオ!!!」

「間に合えッ!!!」


 怨念のヒビが広がっていく。


 ほんのわずかに穴が開く。

 そこから連鎖的に穴は広がっていく。


(これで砕き切る!)


 最後の一撃が届く寸前。


 あと少しのところで棒が消えた。



「間に合ったッ!!! 俺の負の感情のほうが強かったってことだ!」



 ジェラスは怨念の拳でルミナを殴る。


 殴られたルミナは、それでも歯を食いしばって反撃に出る。


 両者の拳が激突した。


「馬鹿かよ? 正面からの力比べでデバフありのテメェが勝てる訳ねぇだろ!」

「それでも負けるわけにはいかないのよ!」


 戦いの中で成長した魔力操作技術で限界まで身体能力を強化する。


 それでも届かず押し返されていく。


「もう手札は残ってねぇみたいだなクソ女ァ!」


(負の感情のほうが強かった? ふざけんじゃないわよ! あたしにだってあるわよ、強い想いが!)


 本当に頑張っている人は凄い。

 心から尊敬できる。


 それと同時に……。


(リヒトはあたしの知らないところでたくさん苦しんできた。あたしじゃ想像できないくらい。きっと、誰かを助けられなかったことも、見捨てる選択を迫られたこともあったんだと思う)


 だからリヒトに追いつきたい。

 隣に立ちたい。


 少しでも一緒に背負って力になってあげたい。



 もう一周目の時と同じ思いはしてほしくない。



(光が足んないのよ、まだまだ! こんなんじゃ何も照らせない! 意味がない……ッ! アイツが思わず目を瞑っちゃうくらい(まばゆ)い光を放て、あたし!)


 強い正の感情は力になり──



 ──光属性が上位属性の聖属性へと進化した。



「隣に並び立つってのはそういうことでしょうが!!!」



 聖魔法を拳に纏い、ジェラスの拳を押し返す。


 聖魔法がジェラスの身体を貫き、その怨念をひとかけらも残すことなく消し飛ばした。

 さらに聖属性の効果でルミナにかかっていたデバフが解除される。


「このタイミングで強くなるとか都合よすぎだ! ズルい!」


 現実を受け入れられずに喚くジェラスの前で。


 〖ゼロ・ワールド〗の効果が消え、ルミナはすべての力を取り戻す。

 〖物理特化〗が復活したことで聖魔法が消える。


「才能だけでなんとかなるほど世界が優しいわけないでしょ。これが積み上げ続けてきたあたしとこれまで何もつかみ取ろうとしなかったあんたの違いよ」


 ルミナは〖魔装展開〗で魔槍ウルスラグナを生み出す。


 〖属性付与〗で聖属性を付与する。




「奪われたなら新しく手に入れるまで。土壇場で成長の一つもできないで、どうやって世界を救えるってんのよ!」




 突きを放つ。

 聖なる光がすべてを穿つ。


 ジェラスの胴体に風穴を開けた。


「……あり、えねぇ。こんな……」


 ジェラスは黒い眼差しを向けながら崩れ落ちる。



 こうしてクロムディア襲撃事件の首謀者の片割れであるジェラスとの戦いは、ルミナの勝利で終わった。

 その一方で、リヒトとロゼの戦いも佳境に入った。



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いつも読んでくださりありがとうございます!
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また、peepにて拙作『不知火の炎鳥転生』がリリースされました!!!

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超絶面白く仕上げているので、ぜひ読んでみてください! 青文字をタップするとすぐに読めます!
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