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第2-6話 爆穿

 ホロストの爪が迫る。

 爪の先端がロゼの表皮を突き破る。


 肉を抉りながら進み、そして──



 ──爪が内側から爆発して粉々に砕け散った。



「はぁ!?」


 ホロストは目をひん剥いて叫ぶ。

 それほどまでにこの現象は予想外だった。


「理解したぜ、オレの拳」


 死を免れたロゼが拳を構える。


 底知れない気迫にホロストは背筋がゾッとするのを感じた。


(まずい……ッ! 何が起きたのかわからねぇが、一つだけ確かなのは今俺が隙を晒しているということ! 防御態勢は取れない!)


 とっさに亀の甲羅を生成する。

 さらにバフスキルで防御力を強化する。


(〖竜甲装〗だけじゃ突破されちまったが〖防御力上昇〗がありゃ話は変わる! ダメージを最小限に抑えてすぐに反撃を──)


 することは敵わなかった。



爆穿(インパクト)



 ロゼの拳を受け止める。

 甲羅の装甲が割れなかったのにもかかわらず、心臓が爆発したかのような途轍もない衝撃がホロストの身体を襲った。


「ガッ……! 何が……起きた……!?」

「もう防御は無駄だぜ」


 予想以上のダメージを喰らい態勢を大きく崩したホロストにロゼは追撃を放つ。


 防御不能の連撃を叩き込んだ。


(なんなんだよ! 何が起きた! ヤバい……! このままじゃ殴られ続けて死ぬ……!?)



 魔力を使う上で重要になる要素は、「量と質」「出力」「操作精度」の三つ。


 量と質はリヒトたちの行っている魔力を増やす特訓で強化できる。

 出力は高ければ高いほどスキルや魔法の威力を上げることができる。

 操作精度は上記二要素の根幹となる要素で、操作精度が高いほど量と質を上げる特訓で有利になり、出力においてはより少ない魔力でより高い効果を得ることができる。



 ロゼはその中でも、魔力を使う上で一番重要な要素である操作精度が突出していた。

 それこそリヒトより遥かに上の……間違いなく人類最強と呼べるほどに。



 魔力の使い道は大まかに分けて、身体や武器の強化、スキルや魔法の使用、権能の使用に大別される。

 それ以外に難易度が高く行える者が限られる使い道として、「魔力の譲渡」という技術が存在する。


 譲渡の仕方は、受け取り手と触れ合った状態で魔力を受け取り手の体内に流し込むだけだ。

 この説明だと簡単そうに思えるが、実際はかなり難しい。

 身体強化やスキル・魔法・権能の使用は自分自身の範囲内で完結するのに対して、魔力の譲渡は自分自身の範囲外……つまり体外での魔力操作という高度な技術が必要になる。


 ロゼの編み出した“爆穿(インパクト)”は、魔力譲渡の体外での魔力操作を発展させたものだ。



 原理は、『攻撃や防御で相手と触れた瞬間に、魔力を譲渡する要領で自身のマナを相手の体内に流し込み内側から爆発させる』。

 内側からの攻撃なので防御貫通効果を持ち、さらに魔力による攻撃なので本来物理が効きづらいスライム系の魔物や〖物理無効〗スキルを持つゴースト系の魔物にも問答無用でダメージを与えることができる。

 当然威力も普通に攻撃するより高い。



 それを戦闘中の刹那の瞬間に無意識下で行う。

 人類トップの操作精度を誇るロゼだからこそたどり着けた技術だ。




(──このまま押し切る! ここで倒しきる!)


 ロゼは爆穿(インパクト)を用いた体術でホロストを追い詰めていく。


 一気に形勢は逆転し、勝ち目が見えてきた。


(……だからこそ油断するわけにはいかねぇ。テメーが大人しく死んでくれるわけねぇよなァ!)

(どうにかして態勢を立て直す必要がある!)

(そのためにテメーが打つ手は読めてるぜ!)


 一瞬の駆け引き。

 ロゼは攻撃を中断してバックステップ。


 直後、ホロストの身体が赤く光って爆発した。


 〖カウンターバースト〗だ。

 退いていなかったら確実に直撃を受けて死んでいた。


(防ぐ手段のねぇロゼは距離を取るしかねぇ。必然的に体勢を立て直す時間ができる。そして反撃の一手は準備できている!)

(反撃してくるなら読みづらい手を使ってくるはずだ。〖先読み〗!)


 ロゼはその場から飛び退く。


 一泊遅れて複数体のホロストがロゼのいた場所に剣を突き立てていた。


「分身スキルか!」

「お前はよく頑張ったよ、ロゼェ!」


 斬りかかってくる分身たちの攻撃を往なして反撃で消し飛ばしていく。


「まさかここまで追い込まれるとは思わなかったぜ! 特に爆穿(インパクト)っつたか? 謎の衝撃はヤバかった!」


 分身の蹴りを腕で受け止める。


 爆穿(インパクト)で足を弾かれた分身はバランスを崩す。


 そこに蹴りを叩き込む。

 残る分身は三体。


「認めてやるよ、何かが一つでも違ったら俺が死んでいた! ……だが残念だったな」

「もう勝った気かよ?」


 両サイドからの挟撃をしゃがんで躱す。


 ローキックで分身二体をまとめて宙に浮かす。


 片割れを掴んでその場で一回転。

 残りの分身体を弾き飛ばしてから地面に叩きつける。


(これで全ての分身を倒した。すぐに本体を──)


「俺はまだ終わるわけにはいかねぇんだよ!」


 ホロストの悪意が膨らむ。


 それと同時にロゼの頭上に現れたホロストの分身たちが液状化して広がった。


「多重〖液状化〗、〖流動粘体〗、〖金属変異〗、〖鋼鉄化〗、〖硬度上昇〗!」


 躱しようのない波状攻撃で無理やりロゼを捕縛し、粘体を金属化させて拘束する。


「まだまだ殺し足りねぇんだ! お前の次はお前が守ろうとしたあのガキを殺す! その次はこの都市の人間を滅ぼす!」


 ロゼは拘束から抜け出ようと試みる。


 分身に魔力を流して内側から爆発させるが、いかんせん分身が複数体いるせいで拘束を破るには至らない。


「新しい力の慣らしが済んだら、次は王都だ! この国を堕として血と暴力の国に変えてやるよ!」

「させるかよそんなこと!」

「お前はもう何もできねぇ! 喚きながら死んでゆけロゼェッ!!!」


 複数のバフスキルで強化されたホロストの拳がロゼに迫った。


(対応できねぇ……! だとしても諦めてたまるか!)


 ロゼは度重なる被弾で限界に近いダメージを負っている。

 さらに毒で身体が思うように動かなくなってきている。


(今度こそ……今度こそ本当に終わりだ、ロゼ!)


 致命の一撃がロゼに迫る。


 ロゼは負けを確信してしまってもなお、他者を守るために絶対に諦めようとしない。

 不屈の精神で最後の最後まで泥臭くあがく。


「無駄だ! ……あ?」


 ホロストの拳がロゼの眼前で止まった。


 結界が貼られていた。


「こんなところで死なせてたまるかよ」


 ロゼを守るように、リヒトがロゼの前に立った。


「誰だおま──」


 ホロストを殴り飛ばす。

 それからリヒトはロゼに向き直った。



「強くなるために誰の力も借りることなく自ら地獄に踏み込んでいく覚悟は立派だが、死にそうな時くらいバディ()を頼れ。死んで誰も救えないよりはマシだろ?」



 リヒトは屈託ない笑みで告げた。




「一緒にみんなを守ろうぜ!」




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いつも読んでくださりありがとうございます!
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また、peepにて拙作『不知火の炎鳥転生』がリリースされました!!!

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超絶面白く仕上げているので、ぜひ読んでみてください! 青文字をタップするとすぐに読めます!
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