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第2-3話 クロムディア襲撃事件

 城塞都市クロムディアにて魔物の大群による襲撃事件が発生した。

 すぐに行動を開始したグレイたちに連れられて、リヒトとルミナは巨大な門が設置された部屋にやって来た。


「これは?」


 ルミナが尋ねる。

 門を起動しながらグレイは答えた。


「転移門だ。これを介して別の場所へ転移できる」


 破格の性能を有する貴重な魔道具で、国の重要施設や大きな街くらいにしか設置されていない。

 クロムディアにも転移門が設置されているので、迅速に駆けつけることができるというわけだ。


「起動完了。出動だ!」


 門が開く。

 中に入ると、一瞬で別の部屋に移動していた。


 建物を出ると、眼下に城塞都市と……襲撃による惨状が広がっていた。


「エグすぎるだろ数! 何万いんだよこりゃ……!」


 ダイナーが驚愕の声を上げる。


 都市を囲う壁の向こう側には夥しい数の魔物があふれていた。

 三百六十度、完全に囲まれている。

 逃げ場がない。


 クロムディアはかつて魔族戦争の最前線だったこともあり、かなり強固な城塞都市として作られている。

 にもかかわらず一部の壁が崩壊し、そこから魔物たちがなだれ込んでいた。


 すでに街の約三分の一が陥落している。

 今は街にいた民間討伐者たちが率先して抑えているが、それでも多大な死傷者が出ていた。


 グレイは報告と現状から瞬時に判断を下した。


「異種族の魔物がこれだけの大群で集団行動することは通常ありえない。どこかに必ず統率者がいる!

 統率者の討伐は私とルミナ、ロゼとリヒトの四名で行う。残りの上官たちは、部下たちと魔物の討伐および住民たちの避難誘導・護衛をしてくれ。カトゥーたちは救護活動に専念してほしい。以上だ!」

「「「「「了!!!」」」」」


 行動方針が決まるなり、真っ先にロゼが動いた。


 魔物の大群に突撃し、瞬く間に蹴散らしていく。

 魔物の群れのどこかにいるであろう首謀者と呼ぶべき存在を探して、一人で突っ走ってしまった。


「本当にバディのことはどうでもいいみたいだな」


 リヒトも駆け出す。

 押し負けていた討伐者の前に躍り出ると、彼に襲いかかっていた魔物たちを一振りでまとめて両断した。


 ロゼが切り開いた道を利用し魔物たちの中に飛び込むと、圧倒的な実力差で有無を言わさず瞬殺していく。

 崩れかけていた戦線を一瞬で安定させた。


「俺はロゼのところへ行きます。後は頼みました!」

「うお、やるじゃねーか!? スッゲー実力だな! 俺も負けてらんねーぜ!」


 わずかな時間で劇的な活躍を見せたリヒトに、ダイナーが関心の声を上げる。

 勢いよく飛び出したダイナーに続けて討伐局の面々が動き出した。


「〖射程拡張〗! 〖属性付与〗──爆炎!」


 ダイナーが大剣を空に掲げると、そこから爆炎が噴き上がってリーチが一気に伸びた。


「ぬおりゃぁぁぁあああ!」


 それを振り下ろす!


 炎が軌道を変え、家屋を避けながら魔物たちだけを焼き尽くした。


 その一撃で大量の魔物が死滅する。

 直後、光の矢が大量に空から降り注いだ。


 ウィルの精霊魔法だ。

 その威力はダイナーに引けを取らず、魔物たちはみるみる肉片に変わって消滅していく。


 高台から狙撃するウィル。

 その背後から、飛翔できる魔物たちが襲いかかる。


 牙がウィルに届く寸前で、突如魔物たちの身体に斬撃が走った。

 バラバラになって地面に落ち、魔核だけを残して消える。


「背後には気をつけろよ」

「ありがとうございます、ジャックさん」


 どこからともなく現れたジャックは、それだけ言い残して再び闇に消えていった。


 そこらのシーフや暗殺者とは隔絶した隠密能力だ。

 存在が表に知られないのにも納得がいく。


 上官を始めとした討伐局員たちが参戦し、一気に形勢が逆転する。


 その時、城塞都市の外で爆発が起きた。

 爆音が響き、魔物たちが消し飛ぶ。

 その光景が何度も繰り返される。


「ありゃフレアの仕業か!」

「やりますね、さすがの強さです」


 どうやら事件を聞きつけて爆速で戻ってきたフレアが突撃したらしい。

 討伐局ツートップの実力は本物で、魔物たちの数が一気に減り始めた。

 殲滅効率は間違いなく現状で一番だ。


 こうして戦局は有利に傾いたかと思われていた。






◇◇◇◇



 クロムディアの一角にて。

 都市内に侵入してきた魔物の群れを討伐者たちが抑え込んでいる。


「一匹一匹は大したことない! 遠距離攻撃で一方的に押し返し続けていればそのうち討伐局の方々が駆けつけてきてくださる! 勝ち目は充分にあるぞ!」

「魔力はまだまだあるんだ! 俺たちの勝ちは間違いねぇ!」

「「「うおぉぉぉ!!!」」」


 自分たちを鼓舞しながら攻撃を続ける討伐者たち。

 彼らの現状認識は間違いなく正しかった。


 魔物は数こそ多いものの一匹一匹のランクは大したことない。

 余裕で抑え込めているどころか、押し返せそうな勢いだ。


(討伐局にはすでに救援要請を出してもらっている。この街には転移門が設置されているから、もうすでに到着しているはずだ)


 現場リーダーをしている熟練の討伐者が思考を巡らせたタイミングで、都市の外から爆発音が響いた。

 爆発が連続で起き、魔物たちが木っ端微塵に吹き飛ぶ。


 自分たちとは比べ物にならない規模と威力の攻撃。

 間違いなく討伐局の人たちが駆けつけてきたのだと全員が確信できた。


「見ろ! 魔物たちの数がどんどん減っている! 俺たちの勝ちは盤石なものに──」

「なんでその程度で勝てると思うんだ? 節穴野郎」

「ッ!?」



 突然スキルや魔法が発動しなくなった。



 その事実に討伐者が驚愕する間もなく。

 攻撃の雨から解放された魔物たちが「よくもやってくれたなァ!」と言わんばかりに襲いかかる。


 魔物たちのスキルや魔法が討伐者を一方的に斬り裂く。


「ぐぁぁぁぁあああ!?」

「なんでなんだよッ!? チクショウがぁぁ!」

「ひぁぁぁ……!?」


 重傷を負い悲鳴を上げる討伐者たちに魔物が飛びかかる。


 爪や牙が届く寸前で、氷の壁が魔物たちを阻んだ。

 さらに光の槍が魔物たちの合間を駆け抜ける。


 魔物たちが一斉に絶命して魔核へと変わった。


「助けに来たわよ! 後はあたしたちに任せなさい!」


 戦場に降り立ったルミナは槍の穂先を向ける。


 その先には、フードをかぶった根暗そうな男が立っていた。


(……いや、人間かどうかも怪しいわね)


 放つ気配のソレは、学園襲撃事件の時のダグラスを彷彿とさせる。

 戦況を一瞬で崩壊させた方法も含め謎まみれだが、油断できない相手であることだけは間違いない。


「あんたが今回の首謀者ってわけ?」

「ああ、そうだぜ」


 フードの男は陰湿な笑みを浮かべる。


 大した知能のない魔物たちとは違って、この男からは明確な悪意を感じる。

 発言に嘘はなさそうだ。


(問題は首謀者が複数いるかどうか、ね)


 フード男の横を抜けた魔物がルミナに襲いかかる。

 その身体を氷の柱が貫いた。


 グレイの氷結魔法によるものだ。


「民間討伐者たちの応急処置と周囲の魔物の対処は私一人で充分だ。君にはあの男の討伐を一任する。君の信念を見る機会は少なかったからな。今回でしっかりと見させてもらうよ」

「了解です、グレイ様」

「おいおいおい、俺を相手にタイマンって舐めすぎなんじゃねぇかぁ? 俺をそこらの雑魚と一緒にすんじゃねぇよ。もう誰にも負けねぇ素晴らしい力を持ってんだ!」


 フード男は苛立たし気に叫ぶ。

 ルミナを見る目には暗い感情がこもっていた。


「その若さで討伐局入りなんてたいそうな才能をお持ちなんだろうなぁ! 俺みたいなのを内心で馬鹿にして優越感に浸ってきたんだろうなぁこれまでずっとなァ! 見てるだけで虫唾が走るんだよ!」


 フード男は勝手にルミナの人間像を決めつけ、勝手に被害妄想して憤る。


「俺はジェラス、この世で最も優れている人間だ。脳の髄まで刻み込んで地獄に落ちやがれクソ野郎」


 こうしてルミナとジェラスの戦いが始まった。



「テメェにも教えてやるよ。持たざる者の苦しみってヤツをなァ!」






◇◇◇◇



 クロムディア内、さらに別の場所にて。

 この地点でも討伐者たちが優勢だった。


 民間討伐者の中でも比較的ランクの高い者たちが多く滞在していたのもあって、戦力的にも人員的にも余裕がある。


「この都市の命運は俺たちに懸かっている! 気張っていくぞ!」

「こっからさらに討伐局の人たちが来てくれるんだ! 天は俺たちに味方してくれてるぜ!」

「数は多いっつっても、よく見りゃ一匹一匹のランクはクソ低い。俺たちの敵じゃねぇ!」

「「「うおー!!!」」」


 討伐者たちは士気を高め合いながら魔物に対処する。

 フレアの攻撃による爆発を目の当たりにしてさらに奮い立った時、聞いたことのない男の声が響いた。


「個体で見ればランクは低い? 当然だろ、これはただの演出だ。魔物の強さも推し量れねぇ一般人どもからすりゃ、数が多いってだけで絶望する理由になる」

「なんだお前は!?」


 魔物たちの中にぬっと男が現れる。


 魔物たちは彼に攻撃を加えようとしない。

 それが答えだった。


「……犯人か。何が言いてぇ?」


 今回の襲撃事件の主犯の片割れにして魔物たちを操っている張本人は、無精髭をなでながら無造作に腕を振るった。


「つまり、この都市を堕とすのは俺一人で充分ってことだ」


 一瞬で前衛の討伐者たちが細切れになる。


 次の瞬間には、残った討伐者たちも殴り抜かれていた。


「ただ死ぬよりは絶望しながら死んだ方が面白いだろ? だから俺は、集団を滅ぼす時はいつも魔物を連れてんだ」

「嘘……だろ……間違いなく、S……級……」


 圧倒的な力を前になすすべなく殺された討伐者たち。

 リーダーのA級討伐者が絶望の声を残して息絶えた。


「さーて、進軍を再開する前に……」


 男は近くの家屋を破壊する。

 壁と屋根がきれいに取っ払われ、隠れて震えていた少年の姿があらわになった。


「気づいてないと思った? 残念でしたぁ~」

「う、ぁ……」

「逃げ遅れちゃったのかなぁ、僕ちゃん? 残念だったねぇ~」


 腰を抜かして後ずさる少年に襲いかかろうとした魔物を男は手で制す。

 少年の顔を覗きこむように目の前に立った。


「俺は無抵抗で怯えて震える弱者を一方的に殺すのが一番好きなんだよ。ちょうど君みたいなさぁ!」

「た、助けてっ……!」


 男が腕を振り上げる。


 それを降ろすよりも早く、豪速の蹴りが男を吹き飛ばした。


「チッ……! ナニモンだ?」


 とっさに亀の甲羅を生成して蹴りを防いだ男は、不愉快そうに蹴りの主を睨む。


 少年を守るように前に立ったロゼは、激情を押し殺した声音で吐き捨てた。


「魔物の集団を率いた襲撃。……まさかとは思ったがやっぱりテメーの仕業だったか、ホロスト!」

「もしかしてお前! お前はっ! あん時のやたら強ぇクソガキか!?」


 ロゼの顔を見たホロストは驚愕して攻撃の手を止める。

 その間にロゼは少年の腕を引っ張って無理やり立たせた。


「腰を抜かすのは逃げた後にしろ。行け!」

「う、うん!」


 走り出した少年に魔物が飛びかかる。

 が、ロゼの拳の一振りで爆ぜた。


 魔物を瞬殺したロゼはホロストに向き直る。

 因縁の相手と再び対峙した。


「……ハハ、ハハハハハハ! 久しぶりだなぁロゼ! 会えて嬉しいぜ!」


 ホロストにとってもロゼは因縁の相手だ。

 偶然の再会に思わず笑いだす。


「お前だけはいつか絶対この手で殺すって決めてたんだよ! あん時は屈辱だったぜ。ただの村一つ滅ぼすなんざ楽勝だと思ってたのにィ……! まさか十歳そこらのガキに敗走させられる羽目になるとはなぁッ!」


 両者同時に構える。

 かつての苦渋を胸に叫んだ。



「テメーだけは絶対にここで倒す! もう誰も殺させねぇぞ!!!」

「やってみろよロゼェ! お前が討伐局に入ろうが問題ねぇ! 覚醒薬で花開いた俺の才能で、今度こそお前も殺してやるよ!!!」



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いつも読んでくださりありがとうございます!
↑の【☆☆☆☆☆】を押して評価していただけると作者が喜びます!


また、peepにて拙作『不知火の炎鳥転生』がリリースされました!!!

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作品ページはこちら

超絶面白く仕上げているので、ぜひ読んでみてください! 青文字をタップするとすぐに読めます!
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