第3話 落ちこぼれの学園時代
「さて、リヒト。俺は今気分がいい。だから特別に問題を出してやる。
正解出来たら今回の私語は不問とし、さらに加点する。いいよな? 教授」
「ダグラス君の申し出ならば快く受けよう。それに加点することになるとは思わんからな」
ダグラスも担任もリヒトなんかに解けるはずがないと高をくくり、嫌がらせのためだけに与えるつもりのないご褒美をぶら下げる。
ダグラスは勝ち誇った笑みで告げた。
「暗黒魔法の特徴について答えろ。
解いてみろよ、落ちこぼれのゴミ野郎」
リヒトはうんざりした様子で溜息を吐く。
(ダグラス・ジェスター。学園時代に俺を虐げてきた奴らの主犯格だ)
リヒトが何を言ったところでダグラスは聞く耳を持たない。
周りの人間たちも取り合わない。
それは嫌というほど知っていたので、リヒトは大人しく答えることにした。
(魔法の基本属性は炎、水、風、土、氷、雷、光、闇の八つ。暗黒魔法は、基本属性である闇魔法の上位魔法だ)
魔法の種類は他にもいくつかあるが、基本属性という名の通りこの八つの系統が魔法種別の割合のほとんどを占めている。
(ジェスター侯爵家は代々闇魔法系統の使い手で、暗黒魔法に対する造詣はこの国でも随一と言っていいほど深い。
魔法を使えない平民の俺が詳しく知っているはずがないとでも思っているのだろう)
リヒトのその予想を裏付けるかのように、ダグラスはニヤニヤと笑った。
「答えられねぇみたいだなァ?」
「前までの俺だったらな」
リヒトは怯むことなくいたって冷静に返す。
「は?」
いつもと違うリヒトの態度にダグラスは面食らう。
一気に畳みかけるようにリヒトは回答を述べた。
「暗黒魔法は不定形の魔法だ。使用者の想像力と技術次第でがらりと姿を変える。攻防共に使い勝手がよく、さらにデバフを付与することも可能だ」
淡々と事実を並べる。
「そ、その程度の一般的な情報だけで正答した気になるなよ!」
予想外の展開にダグラスが焦った様子で苦し紛れの反論をするが、リヒトは止まらない。
一週目の知識を存分に発揮する。
「デバフの内容は攻撃力低下、魔法力低下、防御力低下、各種属性耐性低下のみ。一度に発動できるデバフは一種類まで。デバフは相手が格下であればあるほど効果的だ。
低下割合は使用者の技術によるが、最大で五割低下。つまり半減させることができる」
「…………」
尚もリヒトが続けると、ダグラスは驚愕のあまり言葉を失ってしまった。
「回答は以上だ。簡単すぎて拍子抜けだな」
驚いたのは何もダグラスだけではない。
「……おい、これって正解……なのか?」
「ま、まさか……。だってあのリヒトだぞ……?」
「そ、そうだよな……。正解できるわけがないよな、落ちこぼれなんだから」
これまでリヒトを蔑んできた周囲の人間たちも、今までとは違うリヒトの態度に目を見開く。
助け舟を出そうとしていたルミナもまた驚きを隠せないでいた。
周囲の人間たちが驚きを隠せずひそひそ喋っていると、ダグラスが突破口を見つけたように叫んだ。
「……っ、不正解だ!」
負けを認めない子供のようにダグラスは喚く。
「デバフで半減だと!? そのような情報は我が侯爵家の書物にも記されていない! だから不正解だ!」
その言葉に担任すらも乗っかる。
「ダグラス君が正しい! 教科書にもデバフで半減などという情報は記載されていない。出鱈目を言うのは良くないぞ、リヒト君!」
担任の援護を受けてダグラスは勢いを取り戻す。
「堂々と言えば騙せるとでも思ったのか!? 見下げた根性だな! 出来損ないのクズ野郎が!」
「やはりな。俺は最初からリヒトが間違っていると思っていた」
「答えがわからないからって騙そうとするとはなんて卑怯な」
「ホント救いようがないわね」
ダグラスの罵詈雑言に周囲の人間たちも同調する。
「こんな卑怯者に加点などできるはずがない! そうだよな!? 教授!」
「ああ、さすがにこれは見逃せん。リヒト君は減点処分だ」
どうあってもリヒトを下げようとする彼らに、リヒトは改めてため息をついた。
(……教科書には載っていない、か。魔王の暗黒魔法のデバフは半減だったけどな)
◇◇◇◇
「リヒト」
休憩時間になるなりルミナが話しかけてくる。
「さっきは凄かったわよ。やるじゃない」
ルミナは開口一番、屈託のない笑みで褒めてくれた。
「ありがとう、ルミナ」
リヒトは心の底から嬉しそうな表情で礼を言う。
「ダグラスも馬鹿ね、子供みたいに喚いて。あれじゃあ正解ですって認めてるようなもんじゃない」
「──本当に、良かった」
ルミナの言葉を噛みしめたリヒトはしみじみと呟いた。
ルミナは不思議そうな表情を浮かべる。
「どうしたのよ?」
「褒められたのが嬉しくて」
リヒトは照れながら答える。
「ふ~ん」
まんざらでもなさそうにそっぽを向くルミナ。
彼女の横顔を眺めながら、リヒトは決意を胸にした。
(幼馴染との何気ない会話。一週目では失ってしまったこの幸せを守りたい)
そのために回帰したのだ。
差し当たってまずは確認をする。
「今日って何年何月何日だ?」
「はぁ?」
「すまん。ド忘れした」
突拍子のない質問をされたルミナは呆れながら答える。
「ド忘れって。まだそんな年じゃないでしょあんた。……今日はデミウルゴス暦1472年6月10日よ」
(二週間後か……。時間が少ないな)
リヒトは歯がみする。
魔族による学園襲撃事件。
魔族との戦争が本格的に始まるきっかけとなる事件が、一週目でルミナが死んだ事件が二週間後に起こる。
このままでは二週間後にルミナが死ぬ。
(もうあのような悲劇は起こさせない。俺が未来を変えるんだ)
リヒトは手元にプレートを浮かべる。
そこには邪神の権能の効果が表示されていた。
────────
【世界渡り】(使用済)
一度だけ使用可能。自身が今いる世界とは別の世界に転移することができる。
転移先は任意で選択可能。
注意点として、転移先の世界では干渉権限を持たないため低次元世界に直接干渉することはできない。
────────
(邪神アンラ・マンユは異世界からの侵略者だ。すでにこの権能を使用している以上、どうあっても対立は避けられない。討ち倒すしかない)
リヒトは拳を握り締める。
(俺は強くならないといけない! 一週目よりも、もっと! もっと……ッ!)
決意を固めたリヒトは口を開いた。
「ところで次の授業はなんだ?」
「実技訓練よ。何もかも忘れすぎでしょあんた」
ルミナはジト目でリヒトを睨む。
リヒトは申し訳なそうに謝り、それから意識を切り替えた。
(……実技訓練か。ちょうどいい。
俺の権能【守護神】を調べるにはもってこいだ)
次回リヒトの能力に触れます。
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