閑話① 世界事変
リヒトたちが住む世界とは別の世界。
その高次元世界にて。
邪神アンラ・マンユは無数の神に追い詰められていた。
「貴様の悪事もこれまでだ! アンラ・マンユ!」
「……チッ。どこまでもどこまでもしつこく邪魔してきやがって」
ほとんどの手駒を失ったアンラ・マンユは苛立たしそうに舌打ちしてから権能を使用した。
「発動。【世界渡り】」
高次元世界からアンラ・マンユの姿が消える。
残された神たちがざわめき立つ中、アンラ・マンユは別の世界へ移動した。
(今回みてェに神の野郎どもに邪魔されても面倒だ。転移先は神が一柱しか存在しねェ世界にするか)
そうしてアンラ・マンユは、リヒトたちの住む世界に降り立った。
約二千年前の出来事だ。
「何者だ、主は!?」
「この世界の新しい管理者ってトコだ」
「ッ!」
創造神デミウルゴスはアンラ・マンユを侵略者だと判断し、即座に攻勢に出る。
が、下位神のデミウルゴスが上位神のアンラ・マンユに勝てるはずもなく……。
あっという間に殺されてしまった。
「【隷属】」
アンラ・マンユは権能を使う。
効果は「殺した神を自身の支配下に置くことができる」というもの。
こうしてアンラ・マンユは世界の乗っ取りを成功させ、さらに創造神デミウルゴスを手駒に加えた。
(この世界を醜く塗り替えてェところだが、干渉権限を持たない俺じゃ何もできねェ。この創造神も死んで俺の支配下に置かれた影響で干渉権限が消失している…………ああ、そうか)
何かに気づいたアンラ・マンユは、デミウルゴスを呼び出して命令した。
「テメェの【創造】で手下を創れ。下位次元で活動できる強さに抑えろよ?」
「承知いたします、アンラ・マンユ様」
デミウルゴスの権能によって、呪福、サディス、ガブリエルの三名が誕生した。
アンラ・マンユは彼らをハイエンドと任命する。
ちなみにランクとしては、
A級以下<S級<ハイエンド<下位神(創造神デミウルゴスが相当)<上位神(二千年前、世界侵略当時の邪神アンラ・マンユが相当)<最上位神
の通りだ。
特にハイエンドクラスからは、そのランク内の下限と上限で大きく差が開くようになっている。
デミウルゴスからこの世界について聞き出したアンラ・マンユは、ハイエンドたちに命令を出した。
「呪福、テメェは裏工作に特化している。手駒を集めてファルガン王国と魔国を争わせろ」
魔国は魔王率いる魔族の国、ファルガン王国は後にリヒトたちが所属することになる人族の王国だ。
種族についてだが、この世界は大きく分けて人族と魔族の二種類に大別される。
人族には、リヒトなどのヒューマン、身体能力に特化した個体が多い獣人、魔法とスピードに優れたエルフ、パワーと器用さに優れたドワーフなどが存在する。
魔族には、夜の支配者とも呼ばれている吸血鬼、〖契約〗が特徴的な悪魔、全体的に高スペックな竜人などが存在している。
「それから魔力を増やす方法を人類から奪え。これが一番大きな課題だ。人類から強くなる方法を奪えば反逆者は現れねェ」
「仰せのままに、アンラ・マンユ様。人族と魔族が互いに呪い合う不浄の世界を作ってみせます」
呪福はかしずく。
「サディス、テメェは変身能力を活かして人族間の対立を激化させろ。ファルガン王国と魔国の大国を除けば、残りは小国の集まりだ。テメェなら容易だろ?」
「当然よ。弱者共が醜く殺し合う血の世界に変えてやるわ」
サディスは舌なめずりしながら不敵に笑った。
そこで呪福が質問をはさむ。
「アンラ・マンユ様。ファルガン王国は多種族共生国家とのことですが、人族同士でも争わせますか?」
「人間同士を争わせるのは、負の感情を集めて俺が強くなるためだ。故にどちらかが滅んでしまえば困る。いい具合にお互い生き残って遺恨を残してもらわねェと」
「魔族は数こそ少ないものの個々人の戦力は高く平均値が高い。対して、人族は数こそ多いものの個々人の戦力は低く平均値が低い。パワーバランス的にファルガン王国は人族同士で結託させた方がいいということでしょうか?」
「そういうことだ。それに人間は馬鹿だからな。敵を一つに絞れば簡単に扇動できちまう」
そう告げたアンラ・マンユは、最後のハイエンドに向きなおる。
「ガブリエル、テメェには覚醒薬の製造と呪福、サディスの指揮、それから俺の守護者の役割を与える」
「ありがたき幸せ。アンラ・マンユ様をどのような脅威からも護れるよう精進いたします」
ハイエンドたちはすぐに行動を開始した。