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第27話 学園襲撃事件 決着

「グギュァァァァァァアアアアアアアアルァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 〖バーサーク〗を発動して完全に理性を失ったヨルムンガンドが暴れ狂う。

 ただ頭や尾を振り回して叩きつけているだけなのに、とんでもない衝撃が発生して地鳴りのごとく破壊音が響く。


「さすがに巻き込まれるわけにはいかないな」


 ヨルムンガンドの攻撃範囲から非難する悪魔。

 その後をルミナが追う。


「あんたの相手はあたしよ!」

「……キミは強いね。最後の切り札を使わされた時点でボクの負けだよ」


 悪魔は心から称賛するが、ルミナは悔しそうに呟いた。


「弱いわよ。あんたが切り札を使う前に止められなかったもの」

「魔族と手を取り合いたいからボクに死んでほしくないって? どこまで本気かは知らないけど、ボクがその手を握ることはないよ。キミの相棒はボクの相棒が倒すから……ボクはキミを、この命を以って全力で道連れにしてやる!」


 悪魔は容赦なく攻め立てる。


 これまでとは比べ物にならない威力、スピード。

 さらに猛毒の追加効果まで。


 まともに喰らえばただでは済まないが……。


(今までと違って攻撃が大振りになっている! 急激なパワーアップに身体が追いついていないのかしら?)


 ルミナもここまでの戦いで成長している。

 それは精神的な面でもあるし、もちろん技術的な面も含まれる。


 ルミナは大振りの隙をつく形で悪魔の懐に潜り込んだ。


「穿光撃!」

「そう来ると思ったよ!」


 悪魔は右掌で槍を受ける。


 簡単に貫かれるが、強引に軌道を逸らすことに成功した。

 同時に左手でルミナめがけて突きを放つ。


(大振りを利用してわざと誘い込み、被弾覚悟で攻撃してきた……!)


 ルミナはとっさに体を捻るが、躱しきれずに横腹を浅く斬り裂かれた。


(くっ……! このままじゃ押し込まれる! 体勢を立て直さないと……!)


 距離をとろうとするが、その瞬間。


 ドグンッ! と身体に激痛が走った。


(毒……ッ! こんな時に──)


 バランスを崩したルミナに悪魔が迫る。


「今度こそ殺す!」


 悪魔が爪を振りかぶる。


(キミがどんな行動をとっても対応しきって殺す!)


 全意識を次の攻撃に集中させる。


 勢いよく爪を振り下ろし──




 ──巨大な炎球が悪魔にヒットした。


「ガッ……!?」


 ダメージを受けた悪魔は攻撃を中断させられる。


 その間にルミナは距離をとった。


「キミ誰!? 邪魔するならどうなるかわかってるよね!?」


 悪魔は横槍の主を睨む。

 長くはもたない以上、今の邪魔は痛すぎる。



 その視線の先には……冷や汗をかきながら、恐怖に震えながらも必死に立つオリビアの姿があった。



ルミナ(ライバル)を倒すのは私よ! アンタなんかに倒させないからっ……!」

「じゃあ先にキミを殺すから!」


 悪魔は一瞬でオリビアに肉薄する。


(さっきの攻撃は大した威力だったけど、見たとこA級以下。今のボクには障害にすらならない)


 躊躇なく爪を振り下ろし──



 ──紙一重で躱された。


「はぁ!? なんでS級の動きに対応できるの!?」

「近接戦闘なら散々ルミナに叩き込まれたのよ!」


 オリビアが躱せたのは修行の成果も大きいが、一番は彼女の持つスキルだ。


 スキル名は〖オールイン〗。


 本来、魔法やスキルなどは魔力を込められる上限が存在する。

 操作精度能力の上限以上は込められない。

 上限を超える量の魔力を込めれば、魔法などは制御できなくなって不発や暴発するか、もしくは通常より威力が低くなってしまう。


 〖オールイン〗は、その上限を取っ払って際限なく好きなだけ魔力を込められるようになるスキルだ。


(〖オールイン〗を使った状態なら私でもS級の動きについていけるけど、今のでもう魔力切れになった! これ以上は躱せない……!)


 悪魔の爪がオリビアに迫る。


 S級の動きに対応できると言っても、たった一手だけだ。

 一手凌げたところで、それ以降は対応できないし相手を倒すこともできない。


 純粋なタイマンであれば死を少し先送りする程度のことしかできないが、今回ばかりはその一手が大きな意味を持っていた。



「ありがとね、オリビア。おかげで助かったわ」



 オリビアが気を引いている間に呼吸を整えたルミナが復帰してくる。


 悪魔はとっさに攻撃を中断して槍をガードした。


 爪で直撃を防ぐが、威力を殺すことはできず吹き飛ばされる。


 すぐに反撃に出ようとして……悪魔は足を止めた。

 苦しそうに吐血する。


(限界が近くなってきた……!)


 オリビアが離脱する時間を稼いだルミナは、荒い息を吐きながら槍を構える。


(邪神を倒して魔力を増やす方法を公開できるようになったら、オリビアは間違いなく化けるわ。今までとは比べ物にならないほど強くなれる。

 強くなる理由がまた一つできたわね)


 毒とダメージで視界がぼやける。

 ルミナもまた限界が近づいていた。


(魔族の未来のために! ボクはここでキミを止める!)

(魔族と人族の戦争は、絶対にあたしたちが止めるっ!)



 お互い満身創痍だが、それでも信念を宿してぶつかり合う。


「竜巻螺旋突き!」

「穿光撃!」


 お互いの突きが衝突して爆発。

 暴風が吹き荒れる。


「シッ!」


 砂埃を突っ切って、悪魔が横なぎに斬りかかってきた。


 ルミナは槍を地面に突き刺す。

 棒高跳びの要領で跳び、握った柄を起点に回転して蹴りを放つ。


 下段からの爪撃を回避しながら悪魔の頭を蹴り飛ばした。


「うぐっ……!?」

「〖属性付与〗──雷!」


 雷を槍に纏わせ、速度を強化した上で投擲する。


 悪魔が槍を弾いている間に、再び槍を生成して突撃するが。


大気圧縮爆弾(コンプレスボム)!」


 悪魔は蹴り飛ばされた瞬間に設置しておいた爆弾を起爆する。


 爆発に呑まれたルミナはそれでも倒れることなく突っ切ってきた。


「キミなら絶対にゴリ押してくると思ってたよ! だから複数設置しておいたさッ!」


 さらに大気圧縮爆弾(コンプレスボム)が起爆。

 ルミナは直撃を回避してダメージを最小限に抑えながら突き進む。


 肉薄して槍を横なぎに振るうが、悪魔は素早くしゃがんで回避する。


 両手を地面につけ、ルミナの顎目がけて蹴り上げてきた。


 さらに──


「この状態でも使えるんだよ! 〖竜爪撃〗!」


 悪魔の足から竜の爪が伸びた。

 貫通力を持った蹴りがルミナの頭を貫こうと迫る。


「ッ!」


 ルミナは首を捻りかろうじて躱すが、悪魔は続けて回転蹴りを放つ。


 バックステップで回避しようとするが爪によって伸びたリーチから抜けることはできず、ルミナは右腕で斬撃を受け止める。


 魔力で最大まで強化するが、それでも止めきれず爪が腕の半分ほどまで食い込んだ。

 ルミナは痛みをこらえながら腕を突き出し、蹴りを押し返そうとする。


「させるか! このまま押し切ってッ──!?」


 ガクンと悪魔の体勢が崩れる。


 先ほどルミナの突きで貫かれた右手に力が入らなくなったようだ。


(こんな時にぃ……ッ!)

(今攻め時!)


 ルミナは蹴りを押し返し、隙だらけの悪魔の腹を蹴り飛ばす。


 悪魔は何度もバウンドしながら地面を転び、止まった先で這いつくばりながら血を吐いた。


「ガハッ……! 今のはなかなか効いたよ……! けど、キミのほうが限界なんじゃない?」


 悪魔はふらつきながらも立ち上がる。


 ルミナは槍を生成して……掴むことができなかった。

 カランカランと槍が地面に転がる。


「……ボクはもう片腕が使えない。けど、キミは片腕を失い残った腕も動かすことすらできなくなった。そんな状態でどうやって自慢の槍を振るうのかな?」

「……ハ。強がってるのはあんたも一緒でしょ? 限界が近いのが丸わかりよ。動きがお粗末になってるもの」

「つくづく生意気だね、キミ」


 悪魔は腕を引き絞り、竜巻螺旋突きを連発する。


 腕を使えなくなったルミナは、唯一の遠距離攻撃だった武器の投擲ができない。

 この距離なら悪魔が有利だ。

 一方的に攻撃される。


 だからルミナは、必死に突きを躱しながら距離を詰める。


「隙だらけ! 次の竜巻螺旋突きで──」


 悪魔の心臓にドグンッ! と痛みが走る。

 突きを中断され、ルミナの接近を許してしまった。


 だが、依然として悪魔が有利だ。


(キミができるのはせいぜい足技くらい。その足もろとも斬り裂いてやる!)


 悪魔は〖竜爪撃〗を。

 ルミナは蹴りを同時に放つ。


「〖魔装展開〗──大盾!」


 生み出すのは、物理・魔法共に高い耐性を誇る盾。


 その取っ手部分につま先を入れて固定し、悪魔の爪撃を受け止めた。


「わざわざ倒さなくても、時間を稼ぎさえすればあたしが勝てるのよ! 利用しない手はないわ!」

「ッ! まさか逃げる気!?」


(逃げるつもりはないわ。……というより、竜巻螺旋突きや斬撃雨、暴風魔法といった強力な遠距離攻撃のオンパレードに今のあたしが対処できるわけがない)


 故に今の発言はブラフ。

 ここからは読み合いだ。


(あたしを倒したいあんたからすれば、あたしが逃げるのだけは何としてでも止めたいわよね!)


 ルミナは全力で盾を押し出す。


 シールドバッシュで悪魔を弾き飛ばし、瞬時に身を翻した。


(背を見せればあんたは追わざるを得なくなる。使用する攻撃手段が必然的に絞られる)


 これまでの攻防から、悪魔が取る手は見えた。


 悟られにくく威力のある魔法。

 一瞬で仕掛けられるあの魔法なら、ルミナが逃げる可能性に思い至った瞬間に使用していてもおかしくない。


 というより、もしもの時の足止めとして絶対に使用しているとルミナは確信していた。


 思い出すのはこれまでの攻防。

 〖契約〗を駆使して何度もパワーアップを遂げた悪魔の姿。


(自分が追い詰められた時の対策を入念にしてから襲撃してきたほど慎重なあんたなら、この状況で使わないわけがないわよね?)


 ルミナの予想通り、悪魔はその魔法を起動した。


大気圧縮爆弾(コンプレスボム)!」


 爆発に呑まれた瞬間……砂塵で悪魔の視界からルミナが消えた瞬間に。


 ルミナは素早く反転し、最大出力で両足を強化。

 こちらへ駆け出していた悪魔へ突撃した。


「ッ!? 最初から近接戦闘に持ち込むのが狙い……! やられた!」

「決着といこうじゃない!」


 お互いに限界が迫っている。

 この一手で勝負が決まる。


(面食らって反応が遅れたけど、未だ有利なのはボクだ! 今度こそ斬り裂く! 盾を使われたら懐に潜り込んで貫けばいい!)


 爪に暴風を纏い、悪魔は振るう。



「〖魔装展開〗──魔槍ウルスラグナ!」



 ルミナは生み出した魔槍の柄を噛んで掴み、跳躍。


 爪撃を躱しながら空中で側転して、悪魔の肩を深く斬り裂いた。



「がはッ……! ゲホっ……ゼー……ゼー……」


 もはや着地する体力も残っておらず、ルミナは地面の上を転がる。

 傍に転がった槍が霧散する。


「……!? そんな……そん、な……っ!」


 ルミナの視界に、どさりと倒れた悪魔の姿が映った。


(勝った……。けど、あたしがもっと強ければあんたを死なすことはなかった。強くなる理由がまた増えたわね……)






◇◇◇◇



 〖バーサーク〗で理性を失ったヨルムンガンドが暴れ狂う。

 ただ頭や尾を叩きつけているだけなのに、とんでもない衝撃が発生し地面が割れる。


(なんて威力だ……! 結界で防ぐどころの話じゃない! 一発でもまともに喰らって動きを止められれば、そのまま袋叩きにされて肉片すら残らずお陀仏だ……!)


「ヌギャァァァアアアアアアアアアアア!!!」


 距離をとったリヒトめがけて、ヨルムンガンドは闇を乱射する。


(こんなのが校舎に飛んでいったら防ぎきれないな……!)


 そう判断したリヒトは、ヨルムンガンドが校庭側に魔法を放つよう立ち回る。


 移動範囲が制限されてしまったが、幸いにも相手は理性を失っている。

 単調な攻撃を捌くだけなので後れを取ることはなかった。


「神化……最大出力!」


 猛攻をかいくぐって肉薄したリヒトがヨルムンガンドの頭部を殴り抜く。


 牙を何本もへし折って頭をノックバックさせることに成功したが、その瞬間に空から闇の隕石群が降り注いだ。


「ダークメテオォォォ!!!」


(一発一発のデカさが桁違いだ! 躱しようがない!)


 リヒトは魔剣を引き抜き、真上へ振る。


 刹那、無数の斬撃が走り、リヒトに直撃するコースで進んでいた隕石の一つが粉々になった。


 残る隕石群がリヒトの周囲に着弾し、大爆発を起こす。


 直後、眼前の地面を突き破ってヨルムンガンドが現れた。

 リヒトに噛みつこうと無数の牙が迫る。


「守護結界!」


 リヒトは空中に生み出した結界に飛び乗って噛みつきの軌道から逃れる。


 魔剣を突き出し、ヨルムンガンドの勢いを逆に利用して口角から尾まで斬り裂いた。


「グギャァァァァオオオオオオオオオオオオ!!!?」


 体の側面を深く斬られて血を吹き出しながら、ヨルムンガンドは痛みにのたうち回る。

 その衝撃だけで大破壊が引き起こされた。


「ハッ、言っただろ? 理性がないやつは怖くないって」

「ォォォォォォオオオオオオオオァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 ヨルムンガンドは豪速で尾を突き出す。


 リヒトは紙一重で躱しながら尾を掴む。

 〖劇毒〗で手がただれて激痛が走るが信念でねじ伏せる。


 尾をがっちりとホールドし、背負い投げを放つ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「オ? オオ……? オオオ!?」


 ヨルムンガンドの身体が引っ張られる。

 持ち上げられる。

 踏ん張りがきかない。


 十五メートルの巨体が空を駆け、勢いのまま地面に叩きつけられた。


 破壊音が響く。

 衝撃で巨大なクレーターができる。

 砂塵が激しく舞う。


「グォォ……!」


 吐血し苦しむヨルムンガンドの視界に、空高く跳んだリヒトの姿が映った。


「これで俺とお前の因縁も終わりだ! ダグラス!!!」

「マズイ……! ()ラレル!」


 少しだけ理性が戻ったヨルムンガンドは、とっさに闇の光線を放つ。


 〖バーサーク〗で強化されたことで、直径十五メートル近いレーザーになっているが──




「俺の未来を……! こんなところで奪われてたまるかぁぁぁぁあああああああ!!!」




 そのすべてを斬りながらリヒトは進む。


 レーザーを両断し、ヨルムンガンドの首元に。

 魔核に魔剣を突き刺した。


「グルギュゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 ヨルムンガンドは──ダグラスは絶叫しながらその生涯を終えた。




 リヒトはヨルムンガンドの死体からぴょんっと飛び降りる。

 着地したところで神化が解けた。


(……魔力切れ、か。ギリギリの戦いだったな。何かが一つでも違っていたら俺は死んでいた……)



 だが、乗り越えた。

 理不尽を倒してやった。


(……これから先は、ダグラスですら足元にも及ばないような理不尽と戦うことになる。

 ──待ってろよ、ハイエンド。そして邪神アンラ・マンユ! 俺は今よりもっと強くなって今度こそ最高の未来をつかみ取ってやる!)




 こうして未曽有の学園襲撃事件を。

 一週目でルミナが死んだ事件を…………一週目より遥かに激化した事件を、リヒトとルミナは乗り越えたのだった。




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いつも読んでくださりありがとうございます!
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また、peepにて拙作『不知火の炎鳥転生』がリリースされました!!!

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超絶面白く仕上げているので、ぜひ読んでみてください! 青文字をタップするとすぐに読めます!
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