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第26話 最後の切り札

「フレイムショット!」


 炎の魔弾が炸裂する。

 スライムを倒したオリビアは、汗を流しながら校庭で暴れるヨルムンガンドを見上げた。


「……何あの化け物。ダグラス……よね……?」


 リヒトによるとヨルムンガンド、S級の魔物らしい。

 実際、ヨルムンガンドの攻撃はS級だと一目でわかる威力だった。


「S級の戦いに私がついていけるわけない。……けど、私にもまだ何かできることがあるはず……!」


 オリビアは結界内から機をうかがう。

 彼女の目の前で、リヒトたちの戦いは激化していった。






◇◇◇◇



(やられた、最悪のシナジーを発揮されてしまった……!)


 校庭にて、リヒトは唇を噛む。


(未来を変えるとは言っても、まだ大したことはしていない。討伐演習で成果を出した以外は、邪魔してきたダグラスを振り払っていただけだ。ただそれだけで、たったそれだけで未来はこうも大きく変わるものなのか……)


 リヒトは解析する。


(〖自動再生〗で常時回復しているのか。神化の消耗は激しい。長期戦になれば勝ち目はない)


 リヒトとルミナは駆けだす。

 それと同時に悪魔とヨルムンガンドが魔法を放った。


「斬撃雨!」

「ダークウェーブ!」


 〖魔法剣士〗で威力の上がった風の刃が無数に迫る。

 遅れて闇の津波が迫ってきた。


「闇はあたしに任せなさい!」

「頼んだ! 守護結界」


 結界で風の斬撃を防ぐ。

 ルミナが光を纏った槍で闇を切り開いた。


「圧縮爆裂け──」

「させるかよ」


 リヒトはルミナを狙った悪魔の攻撃を往なし、魔剣の柄で鳩尾を殴る。


 悪魔が〖カウンターバースト〗を発動する前に弾き飛ばす。


「喰らいなさい、ダグラス!」

「生意気ナクソ女ガ出シャばルナァ!」


 ルミナがヨルムンガンドに突きを放つが、牙で止められる。

 弱点属性の攻撃ではあるが、元の能力差がありすぎて通用しない。


「ルミナァ! テメェモ当然悪ダ! 死ネェ!」


 槍を噛み砕いたヨルムンガンドがルミナに襲いかかる。


 その横っ面にリヒトが渾身の蹴りを入れるが……。


「スキルヲ共有シタッテ言ッタヨナァ!」


 リヒトの蹴りは鱗で止められた。

 砕けた鱗の破片が落ちる。


(〖竜鱗〗! 唯一低かった防御力を補われた……!)


「邪魔ダ! 〖カウンターバースト〗ォ!」

「ぐ……ッ!」


 爆発に呑まれたリヒトが吹き飛ばされる。


「今度こそ……!」


 新たに槍を生み出したルミナが突きを放つ。


 リヒトの蹴りで鱗が砕けて露出した体表を攻撃したが、それでも通じなかった。

 穂先が肉に突き刺さるがそこで止まってしまう。


「威力が低すぎるんじゃないかな?」

「!?」


 ルミナの背後に現れた悪魔が爪を構え、抜刀術の動きで斬りかかる。


 ルミナは槍を手放して回避行動に移るが、腕を浅く斬られてしまった。

 付着した毒液が傷口から染みこむ。


「ッ……!」


 続く斬撃に対処するルミナに、ヨルムンガンドの牙が迫る。


「正義執行ダ!」

「だからお前は正義じゃない!」


 そこにリヒトがもう一度攻撃。

 鱗が砕けた部分に蹴りを放ち、ヨルムンガンドの巨体を吹き飛ばした。


(神化の出力を限界まで上げたからか、今の一撃だけでごっそり魔力を持っていかれた! だが、その分ダメージは大きいはずだ……!)


「守護結界!」


 ヨルムンガンドを蹴り飛ばしたリヒトは、結界でルミナを包んで守る。

 攻撃を中断させられた悪魔は、舌打ちをしながらリヒトに斬りかかった。


「キミも生意気な奴! ボクだって技術には自信あるのに、そんな簡単に対応されたら悲しくなっちゃうじゃん」


 悪魔は全力でリヒトに挑むが、身体能力も技術も負けている。


 秒で往なされて弾き飛ばされた。


「……でもまあ、キミの相棒はもう脅威じゃないね」


 悪魔は傷を負いながらもニヤニヤと笑う。


「何?」


 ちらりと後ろに目を向ければ、自らの片腕を斬り落としたルミナの姿があった。


 リヒトは一瞬驚きながらもすぐに結界を発動。

 傷口を塞いだ。


「止血した! 大丈夫か?」

「……ええ。少しだけ毒が回っちゃったけど、この程度の量なら平気よ。問題ないわ……!」


 〖呪毒〗には傷口を中心に身体組織の壊死が広がっていく効果もあるため、止めるためにはこうするしかなかった。

 ルミナは荒い息を吐きながら悪魔を睨む。


(腕を失うのってこんなにも痛かったのね……。討伐演習で腕を失っても平然としていたリヒトはすごいわ、本当に)


 手元に槍を生み出して構えた。


(慣れ親しんだ槍なら片手でも充分扱える……!)


「ギュァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 その時、特大の咆哮が響いた。


 魔力の高まりを感じ、リヒトとルミナは警戒心を高める。


「悪ヲ滅ボス裁キの一撃ヲ喰ラウガイイ!」


 傷を負ったヨルムンガンドが校舎の壁にへばりつく。

 頭を大きく持ち上げ、最大出力で闇の光線を放った。


 軽く直径十メートルを超える極太のレーザーが地面を削りながら迫りくる。


(あれを喰らえばただでは済まない!)

(あたし一人じゃ対処できないわね……!)


 瞬時にそう判断したリヒトとルミナは同時に踏み込む。


 それだけで地面が砕ける。


「いくぞ、ルミナ」

「ええ、リヒト」


 寸分の狂いもなく息を合わせて。

 お互いがお互いの力を最大限に発揮できるタイミングで攻撃を放った。


 神化状態で超強化された拳と、光属性を付与した槍がレーザーを貫く。


 二人の横を走り抜けた闇の残滓が遠くで爆発を起こした。


 瞬間──



「──あいにく魔族は闇属性にめっぽう強いんでね!」



 闇の中から悪魔が現れた。


「腕一本で対処できるなんて思わないでよね!」


 ルミナは奇襲攻撃に咄嗟に対処するが、最初の一振りで槍が破壊されてしまった。


 原因は明確だ。

 今の悪魔との能力差がありすぎる。

 〖属性付与〗が爆炎だったならもう少しは食らいつけたが、上位属性でもないただの光属性では厳しい。


「その武器じゃもうこの次元にはついてこれないよ!」


 ルミナの眼前に再び爪が迫る。


(死──がなんだ! もう恐怖に負けてたまるもんか! 今度こそ乗り越えるのよ!)


 死を悟ってもなお諦めない。

 どこまで逆境でも勝つことを捨てない。

 屍黒馬の時の、弱い自分はもういない。


 だからルミナは原点を思い出す。




 ……大切なネマ()が殺されたあの日、悪意に押し潰されたあの日。

 ルミナは、一度は泥沼の底の底まで沈んだ。

 あと一歩で立ち直れなくなるほど深い傷を負った。


(あいつは……)


 事件当時ネマと二人でいたリヒトは、殺人犯に殺されかけて重傷を負った。

 にもかかわらず、自身の痛みや苦しみを意に介さず泣いていた。


「俺がっ、俺がもっと強ければネマを救えたのに……ッ! 絶対に俺はぁ、強くなるっ!!!」


 声を震わせながらも、強い意志を宿した瞳でリヒトは叫んだ。


(悪意に殺されかけたのに微塵も折れないあいつの姿に、あたしは勇気づけられた。あいつがいたからあたしも立ち上がれた)


 世界が止まったのかと錯覚するほど遅い時間の中で、ルミナはリヒトを見る。


 ヨルムンガンドの闇と尾で拘束されたリヒトの姿があった。

 そこにヨルムンガンドが噛みつこうとしている。


 結界はすでに拘束でダメージを受けている。

 噛みつかれれば、結界を破られて食い殺されるのは確実だ。


「あの時助けてもらったから、今度はあたしが助ける番よ、ルミナ!」


 自分自身に喝を入れてから、自身のスキルに意識を集中させる。


(何度でも土壇場で成長してやるわよ!)



「〖魔装展開〗──魔槍ウルスラグナ」



 生み出すは“魔槍”。

 リヒトの持つ魔剣アロンダイトと同格の強力な武器。

 この土壇場でルミナはスキルを進化させた。


「〖属性付与〗──光。穿光閃撃」

「ッ!?」


 今までよりも高威力の光を纏った槍で、豪速の突きを放つ。


 危険を感じてとっさに飛びのいた悪魔の片腕を消し飛ばし、勢いのままに進む。



 リヒトに喰らいつこうとしていたヨルムンガンドの首に風穴を開けた。


「片腕だから脅威じゃないって、舐めんじゃないわよ!」

「ガ……!? 何ガ起コッた!?」


 ヨルムンガンドは驚愕する。


(危ナカッタ! トッサニ魔核ノ位置ヲずらシテナケリャ死ンデイタ……!)


 成長を遂げ、ルミナも明確にS級へ到達した。


 その事実に気を取られたヨルムンガンドは当然隙を晒す。

 拘束から抜け出したリヒトが、もう一度全力でヨルムンガンドを殴り抜いた。


「グガァァァアアアアアアアアッ!?」


 ヨルムンガンドは絶叫を上げながら吹き飛んでいく。


(首の風穴に俺が与えたダメージ。確実にダグラスを追い詰めている。お互い満身創痍が近い。ここが正念場だ)

(今のあたしならダグラスにも攻撃を通せる。もっかい覆したわよ、生意気な悪魔)


 リヒトとルミナは背中合わせで構える。


 その光景に驚きを隠せないでいた悪魔は、決心した様子で叫んだ。



「……よく、わかったよ。キミたち二人は絶対に魔王様の障害となる。そんな確信を持ててしまった。だからここで倒さないきゃいけない。



 ──()()()()()()()()()()()。ボクは命を差し出す。だから……この二人を、魔族の未来を阻む者たちを討ち倒せるだけの力をよこせ」



 〖契約〗の真価は自分自身との契約。

 回帰直後の授業でダグラスが言っていたことだ。


 悪魔の存在圧が爆発的に大きくなる。

 今のヨルムンガンドにも引けを取らないほど強くなる。

 命を代償にしたことで、現在負っている傷やダメージが完全回復した。


 ……一方、ヨルムンガンドもその存在圧が大きくなっていく。


 最強の力を手に入れたはずなのに、自分はこの世の正義の代弁者となったのに……。

 それでも殺せず追い詰められている状況に、ヨルムンガンドは怒りと憎悪と殺意を燃やす。


 思考がグチャグチャになって理性を失っていく中、何かがカチッとハマる感覚がした。


「使エソウナ気ガスルノニ何故カコレマデ使エナカッタスキル。ヤッとソノ正体ガワカッタ。

 ……理性ナンテ必要ナカッタンダ。アッテモ弱クナルダケダ。俺ハ正義ナノダカラ、理性ガナクテモ正義ノ為に動ケテ当然ダ」


 ヨルムンガンドはそのスキルを躊躇なく発動した。



「〖バーサーク〗」




 正真正銘の最後の切り札を使った悪魔とヨルムンガンドが襲いかかる。

 学園襲撃事件、最後の激突が始まった。




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いつも読んでくださりありがとうございます!
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また、peepにて拙作『不知火の炎鳥転生』がリリースされました!!!

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超絶面白く仕上げているので、ぜひ読んでみてください! 青文字をタップするとすぐに読めます!
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