第23話 S級 ヨルムンガンド
学園の校舎、その屋上で。
ルミナと悪魔の戦いが始まる。
両者共に武器を構え、即座に動いた。
「ダークショット!」
悪魔は暗黒魔法を使用。
発動速度の速い闇の魔弾で牽制しようとする。
「闇は効かないわよ!」
ルミナは槍に光属性を付与して突破。
肉弾戦に持ち込む。
が、対応された。
悪魔は双剣でルミナの攻撃を的確に受け流す。
「光属性持ち……!」
暗黒魔法はもう使えないと悪魔はすぐに判断し、スキルを発動した。
「〖魔法剣士〗──暴風魔法!」
魔法と剣術を一体化させて威力を引き上げる〖魔法剣士〗に、風属性の上位属性である暴風魔法をセットする。
速度を増した双剣でルミナを狙うが──
それを読んでいたかのようにルミナは側面に躱し、槍のリーチを生かして悪魔の羽を斬り飛ばす。
悪魔から飛行能力を奪った。
「背中の意識が疎かになってるわよ」
「生意気! キミ嫌いかも!」
アドバンテージを一つ奪われた悪魔は、振り向きざまに剣を振る。
「圧縮爆裂剣!」
圧縮した空気を解き放つことで爆発させる暴風魔法。
それを〖魔法剣士〗で剣に乗せたのが圧縮爆裂剣だ。
ルミナは槍の柄で剣を受け止める。
剣が槍の柄に触れた瞬間爆発が起き、ルミナは吹き飛ばされた。
続けて悪魔は剣を引き絞る。
「竜巻螺旋突き!」
「ッ!」
悪魔が突きを放つ。
風の刃が竜巻のように螺旋を描きながら一直線に飛んできた。
ルミナはかろうじて躱すが、浅く斬られた頬から血が滲む。
突きは校舎の屋上出入口に直撃し、型で切り抜いたかのように真ん丸な風穴を開けた。
「どうかな、ボクの剣の威力は? ビビったっしょ?」
「確かにすごいけど直撃しなければどうってことないわよ! あんたこそビビってんじゃないの?」
突きを躱して距離を詰めたルミナが槍を振る。
「やっぱキミ生意気!」
悪魔はルミナの連撃を捌き、躱しながら反撃を入れる。
ルミナも捌き、躱しながら応戦するが──
「もうわかったよ、キミの動き」
浅くだが悪魔の剣が入る。
ルミナにダメージを与えることに成功する。
「確かにキミは強いけど、動きはまだまだだね!」
「あんたも充分生意気よ……!」
純粋な身体能力はルミナが一歩リードしている。
が、戦闘技術は悪魔のほうが頭一つ抜けている。
最初に羽を斬られて以降、一度も遅れはとっていない。
どころか現状は悪魔のほうが押していた。
「ボクの未来は邪魔させないよ」
その時、校庭から異様な気配が発せられた
ルミナは反射的に振り向く。
校庭に現れた化け物を見ながら、悪魔は嬉しそうに笑った。
「やっと本気出したんだね! 相棒」
◇◇◇◇
「なゼここにって決まっテんだろ。テメェという悪ヲ殺しに来た。
──俺が正義だリヒトォ!」
ダグラスは意気揚々と宣言しながら、リヒトに向かって歩く。
とっさに魔力で強化してダメージを抑えたリヒトは、立ち上がりながら状況をまとめた。
(ダグラスはもう敵だ)
これまではことあるごとに妨害してこようとするだけの、ただの邪魔者でしかなかった。
だが、今は違う。
明確な敵だ、明確な脅威だ。
(先ほどの結界出力なら、決闘で違法薬物を使用した時のダグラス程度を止めるには問題なかった。それが簡単に防がれたってことは…)
A級最上位の攻撃でも防げる出力の結界があっさり破られたということは──
(──ダグラスはすでにS級に片足を踏み込んでいる)
決闘が終わってから今日までの数日で何があったのかは知らない。
が、ダグラスの未来を大きく変えるような何かが起こったことだけは確かだった。
「どうだリヒト! これが俺ノ新たな力! 正義の結晶だ!」
「決闘の時お前言ったよな? 人類を裏切った俺は悪って。今起きてる学園襲撃事件の犯人は魔族だ。今お前がやってんのは、魔族に与する行為だぞ! お前にとっては悪なんだろ?」
「悪だぁ? 違ウな。俺は正義だ。ツマり、俺は何をしテも正義ということだ! 俺に歯向かう奴は一人残らズ悪。あいツラと同じように正義ヲ執行するまでだ」
殺気を隠すことのない攻撃から薄々察してはいた。
(ダグラスは正義の名のもとに俺を殺そうとしている。正義のためなら殺して当然と思っている。あいつらと同じように正義を執行……)
「ダグラス。一つ聞くが…………お前はどうやってここに来た? お前の父はお前のことを退学処分にしたそうだな。そんなまともな父親がお前に外出許可を下すとは思えない。
……なぁ、こっそり抜け出してきたんだよな?」
「殺した。一人残らず殺シタ。あんナ屑以下の悪に生きる価値などない」
「……」
「何を悲しんでいル。心優しい聖人のふりデもしてんのカ? 気色悪ィんだよ、悪のクセに!」
確定してしまった。
ダグラスはもう、救いようがないところまで堕ちてしまった。
「最後にもう一つだけ聞くが、お前は魔族と協力しているのか?」
「冥土ノ土産として教えてやる。その通りだ。テメェといウ悪を倒すためナラば、これも正義だ。ダカラ俺は正シイ!」
ダグラスは狂笑しながら突っ込んでくる。
〖魔拳士〗と〖修羅〗による強化。
それに加えて謎のパワーアップ。
いくらリヒトでもまともに喰らわけにはいかない。
最小限の動きで確実にすべての攻撃を受け流していく。
「ォォオオオ!」
ダグラスのかかと落としで地面が割れる。
躱したリヒトはダグラスに蹴りを入れた。
「ぐぅ……ッ!」
ダグラスはダメージを受けた様子で腹を押さえるが──
「……ククク。クハハハハハハハハッ!」
それを気にすることなく嗤った。
「善戦できてイル! あの時より確実に強くナッテいる! これなラ勝てる!」
「何をそんなに喜んでいる? 善戦できてるだけじゃ勝てないだろ」
「思い上ガルなよ、リヒト。いツ俺が本気ヲ出したト言っタ?」
リヒトは思わず息をのんだ。
強がりでもハッタリでもない。
絶対に何かがある。
そう思わせるだけの威圧感をダグラスは発していた。
「悪がのさばってイラレるのも今ノウちダ。正義の化身となっタ俺の姿を目に焼きつケテ死ネ!」
ダグラスから大量の闇があふれ出し、ダグラスの姿をかき消す。
闇の中からとても人とは思えない咆哮が響く。
毒々しい黒紫の体色をした、全長十五メートルを超える巨大な蛇竜が姿を現した。
「その姿……まさか覚醒薬を飲んだのか!?」
リヒトは即座に解析する。
そこには最悪な情報が記されていた。
────────
ダグラス・ジェスター
種族:ヨルムンガンド
ランク:S級
────────
「テメェ偉ソウニ言ッテタよナァ!? バーサーカーが強ェノハ純粋ナ能力が自分より上ダカらダッテ!
今ノ俺ヲ見てモ、マダ同じコトガ言エンノか!?」