第2話 幼馴染との再会
学園のとある教室内。
午後の座学を受けている生徒たち。
意識を取り戻したリヒトが見たのはそのような光景だった。
「ここは……!?」
リヒトは混乱した様子で自身の手を見る。
回帰前の傷だらけの手と違って、タコなど努力した痕はあるものの若々しい肌をしていた。
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リヒト
平民 学園ランキング283位(最下位)
権能
【守護神】
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「リヒト」
小声で誰かがリヒトを呼ぶが、本人は混乱と謎のプレートなどの情報にリソースが割かれ気づくことはなく。
ぐるぐると目まぐるしく回る思考をなんとか落ち着かせながら現状分析する。
(間違いなく俺は若返っている……。回帰できたのか?)
「リヒト!」
今度は先ほどよりも少し大きな声で呼ばれた。
これにはリヒトもさすがに気づき、声のしたほうを向く。
そこには、心配した表情でリヒトを見る金髪碧眼の少女の姿があった。
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ルミナ
平民 学園ランキング2位
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(ルミナ!?)
リヒトは驚きのあまり言葉を失ってしまう。
だって、それは──
その少女は……リヒトがずっと会いたかった、一週目で失ってしまった大切な人だったのだから。
「ちょっと、大丈夫なの……? さっきから様子が変よあんた」
「……ルミナ、なのか……? 本物……生きてるのか……?」
リヒトは恐る恐る尋ねる。
「はあ? 何言ってんのよ……」
「よかった……。本ッ当に、よかった……!」
ようやくルミナが本物で、回帰できたことを確信し。
リヒトは涙を流して心の底から喜ぶ。
「な、何よ。大丈夫……?」
リヒトの意味不明な様子にルミナが困惑していると、教壇で弁を振るっていた担任教師が注意してきた。
「おい、そこ! 私語は禁止だぞ」
注意対象を確認した担任は鬱陶しそうに舌打ちをする。
「私が授業してやっているというのに私語をするとはな。それだから貴様はいつまで経っても落ちこぼれなのだよ、リヒト君」
その口調はとても生徒を思いやっているようには聞こえないが、リヒトの扱いはこれが普通。
当たり前なのだ。
「罰として問題を出す。この問題に正答できれば私語は特別に不問としてやろう。まぁ貴様に解けるとも思わんがな」
担任はいつものように嫌みったらしい表情と口調で続ける。
「忌まわしき存在、魔族。今回はその中でも悪魔族に注目するとして、その特徴を述べよ!」
(……うるさいな。せっかくの感動の再会だってのに邪魔するなよ)
今は簡単な問題を解いている場合じゃない。
喜びを遮らないでほしい。
「ルミナ」
担任を無視してルミナに話しかけようとした時、無粋な声で邪魔が入った。
「おいおい、答えがわからないからってヒントを求めるんじゃねぇよ」
リヒトは声の主を見る。
絡んできたのは、こちらを馬鹿にしたような笑みを浮かべた筋骨隆々な男だった。
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ダグラス・ジェスター
ジェスター侯爵家 学園ランキング1位
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「スキルを持ってない、魔法も使えない、魔力もほとんどない。なんの才能もないのに学までないときた。相変わらずお前は出来損ないなんだな」
ダグラスは悪意を隠すことなく罵声を放った。
──『討伐者』。
それは魔物や犯罪者、魔族を討ち倒し人々を守るための職業。
そしてここは討伐者を育成するための学園。
学園は実力主義を謳っており、討伐者の才がない者は見下されるのが当たり前。
リヒトはようやく思い出した。
(……そういえば俺は、学園時代は落ちこぼれだからといじめられていたんだったな)
「こんな簡単な問題すら解けないとは情けない」
ダグラスは自身の賢さを誇示するかのように得意気に語り始めた。
「悪魔族の一番の特徴はスキル〖契約〗だ。対象と契約を結ぶことで自身が有利になるように縛りつけることができる
だが、その真価は自分自身との契約だ。自身に制限を設けることで、その代償に見合った対価を得ることができる。使い方次第では超パワーアップも可能ってワケだ」
「完全正解だよ、ダグラス君。さすがは首席だ。〖契約〗の真価まで理解しているとは素晴らしい。リヒト君とは大違いだな」
ダグラスを称賛した担任は、息をするようにリヒトを貶す。
「ダグラス様なら当然ですよ!」
「それに比べてリヒトは」
「学園の面汚しね。こんなのと比べられたくもないわ」
周りの生徒たちも思考停止でダグラスを持ち上げ、落ちこぼれのレッテルが貼られたリヒトを当然のようにこき下ろして嘲笑する。
辟易した表情のリヒトに向かってダグラスは挑発する。
「さて、リヒト。俺は今気分がいい。だから特別に問題を出してやる。
正解出来たら今回の私語は不問とし、さらに加点する。いいよな? 教授」
「ダグラス君の申し出ならば快く受けよう。それに加点することになるとは思わんからな」
ダグラスも担任もリヒトなんかに解けるはずがないと高をくくり、嫌がらせのためだけに与えるつもりのないご褒美をぶら下げる。
ダグラスは勝ち誇った笑みで告げた。
「暗黒魔法の特徴について答えろ。
解いてみろよ、落ちこぼれのゴミ野郎」